【連載】『平成30年度卒業記念特集』第23回 斉川尚之/米式蹴球

米式蹴球

『気魄』で引っ張る闘将

 アメリカンフットボール『未経験』での入学ながら、大学フットボール界で言わずと知れた存在となった2018年度BIG BEARSの主将・斉川尚之(スポ=東京・獨協)がエンジのユニフォームを脱ぐ。今年度は1年間主将としてスタッフ含め200人近い大所帯をまとめ上げ、大学日本代表にも選出されるなど名実共に早稲田の大黒柱としてフィールドに建ち続けた。そのあふれんばかりの闘争心を持って、チームを甲子園ボウル出場へと導いた『未経験の星』のラストイヤーを振り返る。

 斉川の持ち味はなんといっても187㌢116㌔の恵まれた体格から繰り出されるアグレッシブなプレーだ。その姿はまさに獲物を捕らえる熊。BIG BEARSというチーム名を自らのプレーで表現している。今年度の関東大学秋季リーグ戦(リーグ戦)ではどちらもチーム最多の4QBサック、8.5ロスタックルを記録するなど大活躍。ディフェンスの最前にそびえ立つ最強の防御壁として奮闘を見せ、リーグ戦のMVPに輝いた。

リーグ戦のMVPに選ばれた

 そんな斉川だがこれまで多くのケガに悩まされた。敗北を喫した昨年度の日大戦でも出場時間は限られ、満足なプレーはできず。法大、慶大戦は試合への出場もままならなかった。チームも入部して以来の3年間で初めて甲子園への切符を逃した。勝利への闘志が人一倍強い斉川は、その悔しさから今年度の主将に立候補。自らの持つ熱い思いを『気魄』というチームスローガンに乗せ、日本一へ向け始動した。春のオープン戦、夏合宿と下級生の育成に力を入れ、チームの底上げを図った。その結果、DB高橋弘汰(法2=東京・早大学院)やDB大西郁也(法2=東京・早大学院)、OL橋口慶希(創理2=東京・早実)など多くの下級生が台頭。若い芽も育ち始めた。しかし、迎えたリーグ戦では、思うような試合運びができずに苦悩。それでもチームはなんとか勝ち続け、2年ぶりの甲子園ボウル出場を決めた。関東制覇を決めた東北大戦から2週間、万全の準備をして迎えた甲子園ボウルであったが、関学大に完敗を喫した。オフェンス、ディフェンス、キッキングの全てにおいて圧倒された。「悔しい」。試合後のインタビューで何度もこの言葉を口にした。

学生日本一の夢に届かず涙を飲んだ

  斉川には特に気にかけるある1人の後輩がいる。獨協高校出身の後輩であり、同じくアメリカンフットボール未経験で大学からフットボールの世界に足を踏み入れた、DL二村康介(文構3=東京・獨協)だ。「ポテンシャルのある選手」と語るように、ポジションも同じで自身と似た境遇であることから、かける期待も大きい。そんな二村は次期副将への就任が決定。熱き『獨協魂』が来年もBIG BEARSを先導する。

 「振り返ると、楽しいことよりも苦しいことの方が多かった」。主将としてチームを引っ張ってきた1年間を振り返りそう語った斉川。練習量をかなり増やし、学生日本一という1つの目標へ向けチームを先導し続けた1年間。ついに届くことのなかった夢は、信頼する後輩たちに託す。エンジのユニフォームはこれで見納めだが、大学卒業後も競技を続けるという斉川。社会人アメリカンフットボールリーグ・Xリーグの舞台でどのような輝きを放つのか。2020年1月3日(日)、東京ドームのフィールドで早稲田を待ち受けているのは斉川であろう。

(記事 涌井統矢、写真 元田蒼、涌井統矢)