【連載】甲子園ボウル直前特集 『覚悟』【第6回】濱部昇監督

米式蹴球

 連載最終日となる今回は、関東大学秋季リーグ戦(リーグ戦)で優勝し、パナソニック杯第70回毎日甲子園ボウル(甲子園ボウル)へとチームを導いた濱部昇監督(昭62教卒=東京・早大学院)。就任3年目を迎え、『結果を出す』という春先の言葉を見事、有言実行した。来たる甲子園ボウルで学生日本一を勝ち取るべく、希代の名将が描く青写真とは――。リーグ戦の振り返りとともに、その胸中に迫った。

※この取材は12月2日に行われたものです。

「昨年の悔しさがエネルギーになった」

今季を振り返る濱部監督

――いよいよ決戦まで2週間を切りました。チーム状況はいかがですか

 相変わらずといえば相変わらずですね。ことしはケガ人が多くて、東北大戦でも新たなケガ人が出てしまったので良いとは言えないですね。

――ここ二試合はピリッとしていませんが、ここからどのように変えていきたいですか

 慶大の試合も東北大戦も周囲の方々からはふがいない試合をしたので手を抜いているのでは、などといった批判を受けています。ですが、僕らは決して手を抜いたわけではなくて、しっかり準備をしてその時点でのベストメンバーをそろえてやっています。なので、その中でのあの結果は深刻に受け止めています。このような状態で甲子園ボウルを迎えてはとんでもないことになるので、もう一度しっかり立て直して、日大戦や法大戦前のような状態にしたいと思います。

――ケガ人は甲子園ボウルには間に合いそうですか

 そうですね。DL村橋洋祐主将(スポ4=大阪・豊中)は日大戦以来の久しぶりの試合になりますし、不安がないと言えばうそになります。そういう意味では難しい試合になるかなと、満身創痍(そうい)です。

――新チームを立ち上げる際はこの結果(甲子園ボウル出場)は予測していましたか

 その確信はなかったですが、もう3年目になるのでことしは結果にこだわって、結果を出さなければダメだということを言って取り組んできましたのでそういう意味では良かったです。

――ことしの特筆すべき取り組みはありますか

 毎年その年に出た課題を振り返って取り組んできていて、今シーズンの一番はフィジカルとスタミナが圧倒的に劣るということで、それに対して取り組みました。昨年はタックルミスが多かったので、タックル、ブロックのファンダメンタルを見直そうということで、いままでやってきたファンダメンタルを見直してやってきました。終盤走り負けないという点では日大、法大戦は良かったです。タックルも法大戦までは課題としてつぶせていたかなと思います。一定の成果は出たかなと思います。

――夏合宿終了時点での仕上がりはいかがでしたか

 そういった意味では練習の量とか質は近年では一番量で走りましたし、良い練習ができたというのはありました。ことしは年間を通してケガ人が多くて、主力選手でもケガの状況で練習が積めていない選手もいたので不安も抱えながら入ったシーズンでした。

――リーグ戦第4節までを振り返ってはいかがですか

 初戦から中大、明大ということで、決して楽に勝てる相手ではないので、初戦から緊張感を持って取り組んだ試合でした。中盤からが山場とはいえ序盤から落とせる試合はないので、一戦必勝で必死にやってきました。

――日大戦に臨むに当たってはいかがでしたか

 勝てる自信とか確信があったというわけではなかったのですが、負ける気がなぜかしなかったです。日大戦に関してはオフェンスが中盤から機能していなかったのでどこにそんな自信があったんだと言われてしまいますが、ことしは年間のスケジュールを全てこなすことができていました。これで日大に大敗することがあったらこれから何をすれば良いのだろうというところで、自分の中である程度やることはやれていたので、それが良かったんだと思います。

――ディフェンスとキックが機能していましたね

 結果的にはそうなのですが、最後までみんなが一生懸命プレーしてくれたということが一番大きいです。最後はオフェンスのミスから集中力が切れてもおかしくないシーンはありましたが、選手が割り切ってプレーしてくれたと思います。オフェンスも結果的には見ての通りでしたがすごく集中した状態で試合ができたと思います。

――法大戦はオフェンスが結果を出しました

 日大戦はもう少し準備が必要でしたが、その中でも首の皮一枚つながったので、法大戦へはやり残すことなく臨めたかなと思います。集中力も高かったですね。

――日大、法大にはなくて早大にあるものが準備なのでしょうか

 どのチームも準備はしていますからね。昨年の悔しさというものもエネルギーになったと思いますし、日大はどこかで早大には負けないだろと思っていた部分はあったと思います。法大はケガ人が早大と同じように多くて、後半までもつれることは想定していました。

――リーグ戦を統括してオフェンスはやりたいことができましたか

 できていないですね。昨年からずっとQBが課題になっていて、いまだに安定していないというところですね。中盤はQB笹木雄太(法3=東京・早大学院)が非常に安定したプレーをしてくれていたのですが、また終盤にかけて崩れてしまいましたので、振り出しに戻った状況です。プレーに関しては効果的なものはあったのですが、判断であったり、実行力であったり、QBは攻撃の起点なので、というところです。OLもケガ人が多くてなかなか揃わない状態が続いたので苦しかったです。

――バックフィールドは頑張った印象です

 そうですね。WRの球際やリリース、RBのパスプロテクションといった昨年の課題を克服しようと今シーズンは取り組んでいて、その成果が出たかなと思います。法大戦はツキがあったというか、日大戦も最後のインターセプトも早大にツキがあったと思いますし、実力以外の部分でも救われたというのが正直なところですね。

――2DLの守備体型は春先からずっと取り組んでいたものですか

 これも昨年の課題で、良い時は良いのですが、やられ出すと止まらない、止めるためのアジャストやカードがないということが挙げられました。コンセプトとして2DLと4DLでは全く違うので、異なるコンセプトのディフェンスを持つということが一つのテーマでした。しかし、2DLを教えられるコーチが早大にはいないので選手からのボトムアップで取り組んでいて、リーグ戦終盤に向けて使えるように春からずっと取り組んでいました。それが日大戦では頼りになりましたね。

――そういった意味では早大学院出身の選手は頼りになりますか

 早大学院高出身だからということではなくて、経験豊富な選手が多くて特にディフェンスは自分たちがかなり考えてやってくれているので、そういう意味では非常に信頼しています。自分で考えてプレーができています。ディフェンスは本来そうあるべきだと思っていて、オフェンスがどんなカードを切ってくるかなんて分からないじゃないですか。それをなかなかコーチがコールで当てにいくのは難しいと以前から思っていました。以前からコールで当てに行くディフェンスをしていて、その分コールもどんどん複雑になっていました。やられるパターンはアサイメントミスやアジャストミスが多く、実際に攻め込まれてプレッシャーのかかる場面で良い判断ができるのかという部分まで落とし込む必要があると思っていたんです。そういう意味では、新チームを発足する時に僕からディフェンスのコーチにコールをシンプルにしてくれ、そして能力の高い選手がいるので彼らが思い切り動けるシステムをつくってくれとお願いしました。2DLはそちらのイメージに近くて、思い切って動けるので良かったかなと思います。

――特に頑張った選手、ユニットはありますか

 みんな頑張りました。その中でもDL村橋主将は頑張ったなと思います。うまくチームを引っ張ってくれて、おかげでみんなも集中してプレーできたかなと思います。

「必死に、ひたむきに戦う」

見事に就任3年目でリーグ制覇を達成した

――リーグ戦の優勝が決まった時に、立命大の米倉輝HCからメールが来たということですが

 立命大とは春も定期戦をしていて、昨年のイヤーブックなんかも米倉HCと談笑しているのが載ったりしたので、仲が良いというかそういうコミュニケーションの取れる関係です。ことしの春も立命大のトレーニング施設が日本一だと聞いていて、見学をお願いしたら気持ちよく承諾していただいたりお互いチームづくりの悩みを試合前や後に共有したりしているので、先日の記者会見が終わってからもどうなの、大変だよね、といった話を駆け引き抜きにできる間柄ですね。メールのやり取りとしては、米倉HCから「おめでとうございます」こちらも「関学戦頑張ってください」というところですね。定期戦を始めることで、関西の強さを肌で感じることができるようになって、チームの戦力が上がってきたという実感があり、そこで僕らも成長して来られたので感謝していて、立命大の甲子園ボウルが決まった際も「おめでとうございます」と伝えました。

――記者会見の際に、一足先に甲子園に足を踏み入れた時の思いはいかがでしたか

 やっぱり良いところですよね。記者会見では、関西の記者にとっても甲子園は聖地であり、ことしは70回大会の記念大会で相当な思い入れがあることを再認識しました。その後に甲子園のフィールドに立って写真撮影があったのですが、やはり広く感じたのときれいだなということを感じました。それから、やっと来たなということで良い試合をしたいという気持ちが湧いてきました。

――早大は甲子園ボウル出場が3回目ということですが、相手は全て立命大ですね

 そうですね。やはり縁があるのかなと思います。久しぶりに僕らは甲子園ボウルに出場するということで、立命大もちょうど久しぶりということですよね。実は、僕が現役の時の背番号が7番でことしは70回大会、東日本代表校決定戦(東日本決定戦)も第7回ということでご縁を感じますよね。ことしは春先から色んな場面で縁起の良いことがあって、例えば伊勢の宮司に教え子がいて伊勢で結婚式がありました。それが平日だったんですけれども、うまく休みが取れて出席することができたり、伊勢神宮を散歩していたら橋を渡っている時に虹が出ていてしかもそれが横にきれいに映っていました。そしたら、宮司の結婚式の時にあの虹は縁起が良い、めでたいということを言っていて、そういうことをたまたま見られたりと今シーズンは小さい事ですが縁起が良いなと思います。日大戦、法大戦もツキがありましたしね。このツキが最後まで続いてくれればと思います。ただ、それにしてはケガ人が多いのでそこが心配ですが乗り越えていきたいです。

――立命大の攻略ポイントはどのようなところでしょうか

 あのDLをどう止めるかと、あのバックフィールドは素晴らしいので名だたるWR陣、RB陣をいかに止めるかです。僕らはオフェンス力がそんなにないので、ディフェンスが崩されては試合になりません。ディフェンスに頑張ってもらって少ないチャンスを得点に結びつけるしかないので、まずはディフェンスです。立命大も必死にうちの看板選手を止めようとしてくると思うので、何とか打破したいと思います。

――早大はどのような戦略で臨みますか

 ベースはいままで積み上げてきたものです。僕も信念を持ってチームづくりを行ってきていて、付け焼刃で色んなことをやっても初めはうまくいきません。1年目でうまくいかなかったプレーも2年目には機能するというのが毎年あります。そういう意味では終盤2015年用のプレーを使いましたが今一つ機能しませんでした。法大戦も新しいことをやっていこうと思っていたのですが、自分の中で2週間でどう練習をして選手に落とし込むかのイメージを立てられなくて、もう一度ゲームプランを練り直して、いままでやってきたものをベースにしないかということでベーシックなアウトサイド、インサイドを基本に進めることにしました。立命大戦も同じ考え方です。ただ、普通にやっても面白くないので、甲子園がざわめくようなプレーもいくつかやりたいとは思っています。複雑なアサイメント、スキームをやろうとすると完成度を高めるのに時間がかかりますし、立命大ディフェンス相手に自信のないプレーで勝負はできないので、いままでのものを基本にしながら少し見せ方を変えつつやりたいなと思います。QBもその時点で一番調子が良い選手を使うという方針も変わりません。一番ベストなメンバーで臨みたいです。優勝を決めた法大戦もQBのスターターを前日の夜まで悩んでいました。誰って決めていると調子の悪い選手を引っ張ってしまうことにもつながるので、選手のことをもちろん信じていますが自分の感覚を信じていこうと思っているんです。実は、春先にQBの三人を集めて、「競い合いながら、三人で高め合いながらやって欲しい。その中で、一人一人が俺が早大のエースだという気概を持ってやって欲しい」と伝えているんです。QB笹木は昨年悔しい思いをしているので必死に練習して力を付けていますし、QB政本悠紀(創理4=東京都市大付)も最終学年で勉強との両立が大変でしたがしっかり練習に取り組んでいます。QB坂梨陽木(政経2=東京・早大学院)はセンスが良いですし、ノーハドルオフェンスでは特に冷静にプレーできますから期待しています。スターターで試合に出るということはチームの思いを背負うということなのでそこの自覚をしっかり持って挑んでくれればと思います。

――甲子園ボウルで、早大のここを見てという部分はありますか

 個々の能力では劣るチームなので、総合力で戦いたいと思います。フィジカルだけではなくて、戦術も含めて面白いフットボールができればと思っているので、相手の力をいなしながら試合をつくっていきたいと思います。

――最後に甲子園ボウルへの抱負をお願いします

 僕らはずっと日本一を目指して取り組んできています。最後まで集中して持てる力をすべて出して、必死にひたむきにやっていきたいと思います。それから、ちょうどことしで勤続20年、こういう立場で指導に携わってから20年なので、指導者としての集大成としても結果を出していきたいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 和泉智也)

◆濱部昇(はまべ・のぼる)

1963年(昭38)10月7日生まれ。東京・早大学院高出身。1987(昭62)年教育学部体育学専修卒。インタビュー後にも指導者としての信念や今季のチームの特徴などざっくばらんに話して下さいました。甲子園ボウルに向けても、「これまでのプレーをベースにしながら甲子園がざわめくようなプレーをしたい」とのこと。選手一人一人の個性を最大限に生かす采配でチームを頂へと導けるか、その手腕にさらなる期待がかかります!