第2回にお届けするのは、U-19日本代表に選出されたOL松原寛志(法2=東京・早大学院)とOL島崎貴弘(スポ2=神奈川・横浜立野)。7月に行われたU-19世界選手権大会では、惜しくも5位に終わってしまったが、世界とのカベ、灼熱クウェートでのU-19日本代表の戦いぶりなどを伺った。
※この取材は8月3日に行われたものです。
なお、同じくU-19日本代表に選出されたWR鈴木隆貴(法2=東京・早大学院)選手は都合が合わず、取材することができませんでした。この場を借りてお詫びします。
世界に初挑戦
今季の成績を振り返る松原
――U-19代表に選ばれた経緯を教えてください
松原 高校3年生のときに第2回のU-19代表があって、高校の先輩が何人もこれに受かっていました。たまたま早生まれで受ける資格があったので、せっかくならということで受けさせてもらいました。
島崎 前回は高校2年生の終わりに挑戦したんですけど落ちてしまいました。そのときに自分のスキルが足りてなかったり、現状を知ることができたので、また今回再挑戦しました。
――選考会に行ったときと選ばれたときの気持ちに変化はありましたか
松原 まず受けてみて、いつもと違う練習や相手と一緒にプレーする難しさというのを感じました。受かってからも自分のプレーの決まり事や対応力ということが足りているのかは不安がありました。
島崎 前回落ちてしまったので今回は受かることを目標に頑張ってきて、受かったときは素直にうれしかったです。
――選考会の様子を教えてください
松原 それぞれのポジションに別れて1対1で競い合うメニューが多くて、その中で自分の得意な部分を出していかないといけないと思っていました。
――ご自身がアピールしたストロングポイントはどこでしたか
松原 僕は個人というよりも周りに合わせる協調の部分や、いろいろなポジションもやっていた部分です。
島崎 どうなんだろう…。体格が大きいこともありますし、ポジションで求められた役割ができるということがあったと思います。
――山嵜隆夫監督(大産大付属高校監督)の印象やどのような方針でやられていたのかを教えてください
松原 試合前に言われたのは、目標と目的の違いで、目標は絶対に挑まないと到達できないもので、今回だったらアメリカとカナダに勝って世界一になることでした。目的は必ずクリアしなければいけないことで、今回はフットボールを通して人間的に成長することでした。そういう意味では東伏見で濱部監督(昇監督、昭62教卒=東京・早大学院)からそういう指導を受けているので近いかなとは思いました。
島崎 監督がおっしゃっていたのが、今回初めてアメリカと対戦できるので、とにかくアメリカを倒したいということでした。それ以外はどうでも良いくらいの勢いでした。U-19の大会からNFLのドラフトに選ばれたりとかがあって相手も本気のフットボールをしてくれるので、そのアメリカに挑戦するように一歩踏み出してほしいと言われました。
――そのためのアプローチとして、やっていたことはありますか
松原 練習する前にはオフェンス、ディフェンス、キックと全体で集まってミーティングをしていたのと、クウェートでは気温の関係で屋外ではそれほど練習ができなかったので、ホテルの中で時間を見つけてミーティングをしていました。
島崎 聞いた話だと全8チームの中で、日本がミーティングを含めて練習を一番しているんじゃないかということでした。
――クウェートはやはり暑かったですか
松原 公表されている温度だと48度でした。最初着いたときに少し動いただけでも汗が止まらなかったです。
島崎 日本の暑さのじめじめという感じではなくて、カラカラしているんですけどただ温度が高いので、風が吹いたら直接ドライヤーを浴びているような感じでしたね(笑)。
――クウェート特有のことはしましたか
島崎 ほとんどホテルに軟禁状態だったので(笑)。でもラマダンがあって、日中は飲み食いが全部禁止されていました。国民じゃなくても適用されるみたいで、もしかしたら罰金も科されるところだったかもしれないみたいです。
松原 ホテルの中は特例ということで何とか大丈夫だったのですが、ショッピングモールに出掛けたときは食べ物を売っている店は全部閉まっていました。買うことができなくて、文化の違いを感じました。
――クウェートで良かったことはありましたか
松原 当初プールや豪華なウエイトルームが使えるという話で楽しいイメージを持っていたんですが、話の行き違いで使えませんでした。なので基本は部屋にいたんですが、他校の選手と話ができて楽しかったです。
島崎 単純に他校の選手といろいろな話ができたことですね。あと、僕らは年上だったんですけど、みんながフレンドリーに接してくれて楽しかったです。
――その中で他校とのギャップを感じたことはありましたか
松原 僕的にはポジションのコーチが日大のコーチだったんですけど、根本的には変わらないんですがどこまで理想を求めるかという指導の方法が違って少しギャップを感じました。
島崎 同じポジションで違った指導法や考え方ではあったので良い経験になりましたね。
――食べ物に違いはありましたか
島崎 最初はビュッフェ形式だったので期待してました(笑)。途中からはね。
松原 お米があるのかなと最初は思っていたんですが、あるにはあったんですけどタイ米で、食べづらかったです。
島崎 細切れにしたそうめんみたいな感じでしたね。何か変な味がしましたよ(笑)。
感じたトップクラスとの距離
出場機会が少なかったことを悔しがる島崎
――予選が始まるにあたり、チームで確認したことを教えてください
松原 出発前に、いままでは育成キャンプだったから何も言わなかったけど、これからは選ばれたメンバーで戦っていくからミスしたら怒ることもあるし、ミスしたら次に切り替えてじゃなくて心にとどめておいて次に生かせというお話がありました。世界一になることを胸に絶対に勝つという意識でした。
島崎 選出されてからは一気に雰囲気が変わって、もちろん厳しい声もありました。ここからジャパンに選ばれたことが実感として生まれましたね。
――最初のドイツ戦を振り返ってください
松原 ドイツとは第1回の大会で対戦したこともあってビデオをみたんですけど、初戦ということもあって、相手がどういうことをやってくるか分からなかったです。実際の試合では予測していたのとは違ったディフェンスで、準備が追いついてなかったんですけど、サイドラインに戻ったときに確認したりして徐々にアジャストできたかなというイメージでした。
島崎 初戦だったので相手のことも分からないままでした。ミーティングで、いつどこで対応していくという話をたくさんしました。そのおかげですぐアジャストできて良かったのかなと思います。このおかげで次のメキシコ戦、アメリカ戦につながることはあったと思います。
――ドイツの特徴を教えてください
松原 ビデオを見た限りだと1人能力が高い人がいて、その人の個人技で止めているという感じでした。
島崎 確か昨年あたりにNFLのドラフトに選ばれた人です。
松原 その人を止められれば全体的にはレベルは高くないという話だったんですけど、実際には平均的に能力が高いチームだったというのが印象として残りました。
――世界大会は初の経験だと思いますが緊張はありましたか
松原 僕らに限らずみんなが世界大会で戦うことが初めてで、ロッカールームで全員がそわそわしていました。入場のときに並んでいたんですが、僕は頭が真っ白でした(笑)。
島崎 僕自身もそうなんですけど、みんなを見ていて緊張しているなと思いました。その中でキャプテンの山岸(明生、関西学院大)が気持ちを上げてくれたので、切り替えられたと思います。
――2戦目のメキシコ戦は引き分けとなりましたが、振り返ってみてください
松原 ドイツ戦と同じ日にメキシコ対アメリカがあって、コーチ陣がその日のうちに分析をしてくれて次の日にはメキシコがどういうプレーをしてくるのかというミーティングがありました。前半はドイツ戦で日本がやらなかったプレーがうまくいって点差をつけることができましたが、後半は僕らが浮き足立ったことも含めてメキシコにアジャストされてしまったという印象です。
島崎 メキシコ戦はあまり試合に出られなかったんですけど、外から見た感じだと前半はすごいみんなが集中していたと思います。もちろん油断はしていなかったと思いますけど、心の中に少し隙ができたのかなと感じました。それでも僕的には後半に日本が浮き足立ったという印象はなくて、むしろアジャストしてきたメキシコがすごかったと思います。
――予選最後は目標のアメリカ戦でしたがこの試合についてはいかがでしょうか
松原 ビデオを見た段階でアメリカのキャプテンが少し飛びぬけていました。かといってその選手に特別なことをするということはなかったんですが、総合能力的にアメリカのほうが高くて、スペシャルプレーを展開するしかないということでした。最初は意外とオフェンスで進めることができたんですけど、勝負どころのプレーで相手に上回られました。
島崎 監督に言われたのは、試合前で申し訳ないけど1パーセントで勝てるか、99パーセントで負けるかということでした。これで諦めるということではなくてその1パーセントに懸けて、僅差で勝つか大差で負けるかという感じで、スペシャルプレーがしっかり出せることができればということでした。試合後にスペシャルプレーもいいんですけど、基本のプレー勝負できるレベルまでこれから仕上げていきたいという話もありました。
――本場のアメリカとの対戦ということで相手のレベルは高かったですか
島崎 さっき言ったキャプテンはもうすごかったです(笑)。
松原 他にもQBやRBにもすごい人はいました。それでもアメリカのトップではないみたいだったので、個人技では太刀打ちできない人がそろっていました。
島崎 みんなすごかったです(笑)。
松原 その体の大きさでそのプレーができるのかが不思議でした。
島崎 ホテルにチェックインした次の日にアメリカ代表とすれ違うことができたんですけど、もちろん他の国の代表もデカいんですけど、オーラというかこの人すごいんだろうなという雰囲気が漂っていました。
――次の5位決定戦に向けての切り替えの部分はいかがでしたか
松原 3位決定戦だったらそれまでの中2日というスケジュールのまま戦えたんですけど、中1日になってしまって、毎日していた練習ではなくて休養となりました。その分ホテルの中でミーティングをしました。監督には優勝を目指していた中での5位決定戦になったということだったので、もう切り替えていくしかないという言葉をもらって切り替えられることができました。
島崎 あとは、この5位決定戦で僕ら代でのU-19代表の試合は最後ということだったので、後悔無く全力でということも話がありました。
――ではそのフランス戦を振り返ってみてください
松原 アメリカの試合でも先制できたりしていたのですが、この試合ではいきなりディフェンスがやられてしまって先制されてしまいました。追う展開になったときに僕もミスしてしまって、気持ちが切れてしまっていた部分もあったのかもしれないです。サイドラインに戻って切り替えられて前半をリードできたので良かったです。
島崎 正直に言うとあまり雰囲気は良くなかったです。出だしは良くなかったですね。そこから切り替えられたので良かったと思います。個人的な話になっちゃうんですけど、もう少し試合に出たかったということもありました。この大会は選ばれただけで終わっちゃったのが自分の反省でした。
試合の様子(写真提供 JAFA)
――大会を通して海外選手のフィジカルには対応できましたか
松原 マッチアップする相手は僕よりも大きくて、フィジカル面に関して言えばまだまだ対抗できなかったという感じでした。逆に勝負できたと思うのが低さでした。元から小さい方なので、低さを意識しなくても低くなるということを監督から言われていました。そこは勝負できたんですけど、フィジカルでは負けてしまっていてトータルで勝てなかったと思っているのでまだまだです。
島崎 単純な力の部分では圧倒的に差はあったのかと思います。その中で日本の武器であるスピードやメンタルが勝負できるところはできたと思います。それでもアメリカはパワーも持ちながらスピードもメンタルも備えていたので、あらためてすごいと思いました。
――大会を通して成長できた部分はありましたか
松原 日本でやるにしても自分の小ささということが改めて身に染みた遠征でした。小さくても技術を実に付ければ戦えるという話もあると思いますが、まずはフィジカルや体を大きくしないといけないと思いました。
島崎 単純にあの環境でフットボールができたということが良い経験になったと思います。一生に1度あるかないかのことなので良かったと思います。
――世界にまた行く機会があったら行ってみたいですか
松原 育成キャンプのときにコーチの方が、受かる、受からないにせよまず受けるということで一つ階段を上ってきているから君たちは偉いとう話をされました。確かにそうだなとは思ったので、機会があったら受けてみたいです。
島崎 こちらの3名の偉大なる人たち(隣でやってたOL中村洸介主将、スポ4=東京・日大三、LBコグランケビン、商3=東京・早大学院、LB加藤樹、商=東京・早大学院)が受かった大学世界選手権という大会には自分のレベルをもっともっと上げて、今回試合に出られなかった悔しさをバネにして機会があれば挑戦してみたいです。
――チームに戻ってきてワセダに生かせる部分はありますか
島崎 自己主張やアピールする面ですね。代表の選考会という短い期間ではあったんですけど、チームに戻っても自分をアピールできれば雰囲気だったりを変えられると思うので、自分から発信できるようになっていきたいです。
松原 いろいろなチームの考え方がある中で隣のポジションの人と言い合うこともあって、ワセダではみんなが同じやり方でやっていて共通概念みたいなのがあるんですが、もっと変えたほうが良いということがあれば口に出して発信していきたいです。そういう話をしていくことでもっと高いレベルに行くことができると思うので、主張することが重要になるのかと思います。自分の理解も深まると思うので。
島崎 口に出すことの重要性はあらためてすごく感じました。
――U-19代表で得た個人的な課題を改めて教えてください
松原 体の小ささであったりフィジカルの弱さを強く感じたので、これからウエイトは個人でできることなのでそこを意識してやっていきたいです。
島崎 ことしから秋のリーグ編成が変わって厳しい戦いが予想されるんですけど、選手の層の厚さが大事になると思うので今回学んだことを発信していきたいと思います。
――秋シーズンに向けての意気込みをお願いします
松原 ことしのチームになったときに日本一を目標としてここまでやってきたので、今回の代表やいままでで培ってきたことを少しでも出して、チームの勝利に貢献していきたいと思います。
島崎 春に先輩がケガして僕がオープン戦にスタメンで出場することができたんですけどその先輩も夏合宿から復帰するので、秋も一本目で出られるように今回の悔しさをバネにして一本目として試合に出場していきたいと思います。
――ありがとうございました!
(取材・編集 御船祥平、写真 井上義之、JAFA提供)
◆島崎貴弘(しまざき・ひろし)(※写真左)
1995(平7)年2月22日生まれ。183センチ、107キロ。神奈川・横浜立野高出身。スポーツ科学部2年。クウェートでの食事に欠かせなかったのは日本から持ってきた『みそ汁』だったそう。「あれがあったおかげで何とかなりました」という島崎選手。やはり日本の料理は落ち着くものですね。
◆松原寛志(まつばら・ひろし)(※写真右)
1995(平7)年1月1日生まれ。178センチ、108キロ。東京・早大学院高出身。法学部2年。今回の遠征直後には大学のテスト期間が待ち受けており、勉強との両立が難しかったそうです。それでも「仲間の助けで何とかなりました」と一言。代表活動とテストの連続お疲れ様でした!