ことし5月、大学アメリカンフットボール界に新たな挑戦が始まった。第1回大学世界選手権。大学界の最高峰の選手達が一同に会しチームを結成するのは初の試み。その中に早大BIG BEARSからもOL中村洸介主将(スポ4=東京・日大三)、LBコグランケビン(商3=東京・早大学院)、LB加藤樹(商2=東京・早大学院)の3名が選出。世界2位に輝いた原動力とは何だったのか。第1回は大学日本代表チームに迫る。
※この取材は8月3日に行われたものです。
「通用する部分を見つけたい」
――選出されたときはどのような気持ちでしたか
中村 U-19には憧れがあったのですが、前は3年に1回のタイミングだったのでトライアウトを受ける機会がなくて残念だなと思っていました。それでシニア代表を目指していたんですけど、そこで大学世界選手権というものが新しくできたのでトライアウトを受けました。周りの選手が想像以上にハイレベルな中で、自分が選出されたということについてはすごく光栄に思っています。
加藤 僕はチームを離れてトライアウトに行くという経験自体が初めてのことだったんですけど、コーチに気に入ってもらえたりとラッキーなこともあって、今回選出されたと思っています。選ばれて思ったのは、初めてでわからないことも多い中で、こういう機会に積極的に参加することが大事だということです。選ばれたときには今回の大学世界選手権を頑張ろうとも思いましたけど、これから先もこういう機会があったら参加していきたいと思うことができたので、良い経験になったと思います。
コグラン 前回は自分の代が主体だったんですけど、今回は上の世代がたくさんいて、前よりも現実離れしたレベルの選手がたくさんいて楽しかったですし、前回よりも自分のためになったと思います。
――世界との戦いに臨むにあたって、具体的な目標などはありましたか
中村 さっきも言ったとおり、前回U―19のトライアウトを受けることができなかったので、今回は他大の選手と勝負する機会がすごく大事なものになると思っていました。どこか自分がチームの中で通用する部分を見つけたいと思って遠征に臨みました。
コグラン LBは大学界を代表する選手やシニアでも通用する選手ばかりだったので、その人たちから吸収できるものは全て吸収して帰ろうという気持ちでしたね。
加藤 僕はディフェンスなんですけど、オフェンスで選出されている人たちに対して何が通用するのか試してみたいというのもありましたし、LBでも目標とすべき選手がたくさんいたので、その人たちから一つでも多くのことを学ぼうと思っていました。
――チームの雰囲気はどうでしたか
コグラン 最初の方はオールスターチームという感じで少し緩い雰囲気というか、勝てるチームの雰囲気ではなかったんですけど、スウェーデンに移動してからみんな本気になってきて、そこからチームとしてまとまってきたと思います。
加藤 スウェーデンに入ってから新しい戦術を入れて、すごく難しかったんですけど、それをポジション全員で共有してものにモノにしようという姿勢で全員がまとまることができたのでよかったと思います。
中村 主将が周りを雰囲気に乗せるのがすごく上手い人だったので、みんな明るい雰囲気でやることができましたし、集中すべきところは集中して、中身の濃い遠征をすることができたと思います。
気持ちを高ぶらせる大学日本代表選手 (写真提供 JAFA)
――他大の選手とプレーしてみて感じたことはありますか
加藤 本当に自分たちのレベルが低いことを実感しました。自分が強みだと思っていた部分も他の選手に完全に負けていて、身の程を知らされたというか、まだまだ成長しなければいけないと思いましたね。
中村 二人のいるLBユニットもレベルが高かったんですけど、特にDLユニットが飛び抜けてすごかったです。なにがすごかったというと、フィジカルはもちろんのことテクニックの高さが飛び抜けていましたね。僕たちは基本的に関東のDLと勝負することが多いんですけど、選出された選手はほとんど関西のトップレベルの選手たちばかりで、実際に対峙(たいじ)してみると自分が今までやってきたことを全部出しても簡単にやられてしまったので、全国のレベルの高さを実感しました。
コグラン 周りが全員スター選手でしたね。ディフェンスは周りの選手がハイレベルでやっていてすごく楽しかったです。でもその分アサインメントも普段のものとは全く違っていて、戦術面のレベルもすごく高かったので色々なことを知ることができて良かったです。
――では、通用すると思った部分はありましたか
中村 僕はファンダメンタルですね。うちのチームは全体としてもユニットごとでもファンダメンタルをしっかりと練習しているんですが、そういう部分においては全国レベルでも他の選手に劣ることなく通用したのではないかと思いました。
――具体的に、どのようなシーンでそれを実感しましたか
中村 強い選手と当たるとファンダメンタルが一番に崩れるので、そういうときこそ体の強さが重要になってくるんですけど、練習でどんなときにも崩れないファンダメンタルというのをワセダで身につけることができていたので、今回の遠征でもそれを実感することが多々ありました。
加藤 今回使った戦術は今までと全くタイプが違っていて、それを完全にできたとは言えませんが、期間中になんとか試行錯誤して少しずつモノにしていってプレーの幅が広がったことが収穫でした。順応する能力を、ワセダに帰ってきてからも高めていければいいと思います。
コグラン 通用したと実感する場面はあまりなかったんですけど、試合にも出させてもらいましたし「戦えた」という手応えはあったので、加藤も言っているように、チームの戦術に適応することはできていたと思います。
――改善すべき課題は見つかりましたか
加藤 自分の長所だと思っていた部分が高いレベルの中でくじかれた部分もあったし、反省点ばかり見つかりましたね。自分のこともそうなんですけど、特にワセダのレベルの低さを痛感して、練習から見直さなければいけない部分がたくさんあると思いました。
コグラン 僕はワセダでプレーしている時には自分の力を発揮できるんですけど、レベルの高い選手が集まるとやられてしまうこともたくさんあって、井の中の蛙だったことを痛感しましたね。ワセダの中でできていてもそれに満足せずに練習して、さらに高いレベルを目指したいと思いました。
中村 練習に対する姿勢ですね。周りの選手は遠征の雰囲気を思い切り楽しみながらも、いざ練習となるとすごく集中して質の高い練習を実践していたので、そこが大学世界選手権の選手とワセダの選手との差だと思いました。自分としてもワセダ全体としても、フットボールをまだ楽しめていないというか、メリハリをつけつつ、もっと一人一人が問題意識を明確に持って練習に臨むという意識がまだ甘いかなと感じました。
「力の差を感じた」
――試合について、4チームの印象は
コグラン 最初の3試合は相手のレベルが低くて、最終戦のメキシコだけがダントツでレベルが高いという印象でしたね。ビデオを見ている段階で、最初の3チームは日本の高校生の方が強いという感じだったので、常に最終戦のメキシコを見据えて準備をしていました。
――コグラン選手は中国戦でファンブルリカバーTDをされましたが
コグラン 誰かのファンブルを拾ってちょっと走っただけだったので、あれは棚ぼたという感じでしたね(笑)。
加藤 あれすごかったですね。
――一番印象に残っている試合はどれですか
加藤 メキシコ戦はスカウティング通りの戦い方をしてきて想定内のことも多かったんですけど、それにも関わらずボコボコにやられました。力の差もそうなんですけど体格の差もあって、力でねじ伏せられたという感じでしたね。自分より大きい相手と戦うことはよくあることなんですけど、メキシコは全員が自分より大きくて強くて速い、という感じで、戦術的にはそんなに負けてなかったのにディフェンスとしては相手のプレーを止められずにパワーをスピードでやられてしまったので、力の差をすごく感じました。通用すると思っていたテクニックも、パワーとスピードとフィジカルが互角になることがまず最低条件だと思いました。
コグラン 外国の選手は大きくてもプレーの質が雑だったりするんですけど、メキシコの選手はそんなことなく意外と技術もあって、正直最初はびっくりしました。フィジカルの一対一で負けていることもあったんですけど、こちらにもいい選手がたくさんいたので、ゲームプランに沿って試合を進めることはできていたと思います。その中で負けた原因としてはこちらの一瞬の気の緩みで流れを持って行かれた印象が強くて、全体としてはほとんどプラン通りに進んでいたので、もったいない試合でした。
――中村選手は、試合を振り返っていかがですか
中村 僕は中国戦とスウェーデン戦しか出場機会がありませんでした。最終戦のメキシコ戦に出るためにやっていたんですけど、実力が足りなくてメキシコ戦は見ているだけだったのですが、外から見ていてもメキシコの選手の能力が高いことがわかって、サイズだけではなくテクニックのレベルの高さも日本人の見習うべきところが多くあったと思うので、メキシコ戦が一番印象に残っています。
――OL、DLの海外選手はやはり大きかったですか
中村 そうですね。一回りか二回りぐらい大きかったと思います。
加藤 一人、めちゃくちゃ大きい選手いましたよね?(笑)
コグラン いたいた。岩みたいな。
加藤 ヒットしたら5ヤードぐらい吹っ飛びましたもん。
コグラン 大きさ的にはNFLにいるんじゃないかと思うぐらいの選手だったよね。全体的に荒かったよね。
加藤 怖いっす。痛かったっす(笑)。
コグラン 見えないところで反則まがいのことを平気でやってくるんですよね。
――最終戦での収穫は
コグラン 一対一で負けていたので、もっと自分のフィジカルを上げていかないと日本でも上位校との試合になったら同じような結果になってしまうと思いました。ファンダメンタルの部分を見直したいです。
加藤 僕はディフェンスにプラスしてキッキングでも出ていたんですけど、キッキングは意外と相手に通用して、何ができて何ができないかということがわかったので良かったです。
中村 日本のOLは小さいのでコンビネーションが武器になるんですが、やはり一対一の単純な押し合いだとフィジカルの差で徹底的にやられてしまうということがわかりました。ことしは日大など外国人選手のいるチームとも当たるので、もう一度鍛え直したいと思います。
「日本一に導く」
大学日本代表選手団(写真提供 JAFA)
――ことしの早慶戦、すでに代表チームに合流していたコグラン選手と加藤選手は試合を見ていましたか
コグラン 見ていましたよ。ネットで中継を見ていました。
加藤 ホテルでね。
コグラン でもラスト10秒ぐらいのところでプールに行かなくちゃいけなくて、本当にギリギリまで粘ったんですけど、相手のパスが決まったら同点に追いつけれるというシーンでどうしてプールに行かなくちゃいけなくて…(笑)。
加藤 粘った末のそれなんで(笑)。本当だったら4Qが始まる前に部屋を出なくちゃいけなかったんですよ。気になりながら泳いでいました。
――それを聞いて、中村選手いかがですか
一同 (笑)。
中村 二人の分も背負って戦おうという話だったので、是非見てもらいたかったです。
コグラン・加藤 (笑)。
加藤 プールにWi-Fiがなかったので…残念でした。すいません(笑)。
コグラン 本当に祈っていました。
――チームに帰って、変化を感じた部分はありましたか
加藤 3週間チームを離れていたことによって1本目を(ほかの選手に)取られていたので、それを取り返すための競争がまた一段と激しくなりましたね。その期間は楽しかったです。
――帰国後初めての試合で強豪の立命大に勝利しましたが、代表での経験が生かされた部分はありましたか
コグラン 気持ちの部分が一番だったと思います。遠征で強い相手と戦ってきたので、すこし余裕を持ってプレーできたことも勝てた理由だと思います。
中村 うまいね。
コグラン ありがとうございます。いつも洸介さん(中村)のスピーチ聞いてるんで。
中村 (笑)。これ載っけないでくださいね。バカにされるんで(笑)。
コグラン バカにしてないですよ(笑)。高校生クリニックのスピーチ、褒められてましたよ。完結に要点をまとめている感じが。
中村 絶対嘘じゃん(笑)。
コグラン いや、本当ですって(笑)。
中村 何の話でしたっけ(笑)。
――立命大戦の振り返りをお願いします
中村 そうでしたね(笑)。代表には立命大出身の選手も多かったんですけど、日本に帰ってきて敵として戦ってもサイズやフィジカルのレベルの高さを感じました。その中で勝てたのは代表での経験が生かされた部分もありましたし、ワセダがチームとして戦うことができたからだと思います。
加藤 立命大戦は楽しかったんですけど、自分のプレーとしてはあまり良くなかったです。スウェーデンの生活で痩せてフィジカルが落ちていたので危機感があったんですけど、高いレベルでやっていたことによって周りのスピードが遅く見えたという点は良かったと思います。
――それでは、この経験を生かして秋シーズンに向けてどのような取り組みをしていきたいか、意気込みを聞かせてください
加藤 代表でこれから相手校になる選手のレベルを見て、自分はその選手たちを超えなくてはいけないと思いました。夏の期間、相手も同じように練習していると思うので、それに負けないように頑張っていきたいです。
コグラン きょねんは自分たちの準備不足で油断して立大戦に負けて、その後の法大にもすごい点差をつけられて負けたのが悔しかったです。今回は大学世界選手権にも参加して色々なことを学んだので、かといって油断せずに、一戦一戦課題を見つけながら次につないでいく試合をしないといけないと思っています。全勝できるようにもっと成長していきたいです。
中村 代表で他大の選手と戦って大学界のトップのレベルがどれぐらいにあるかわかったので、今回の経験をBIG BEARSに還元して生かさないといけないと思っています。他の部員に伝えるべきことは積極的に伝えて還元していけば日本一にも近づくと思うので、強豪校と試合をする上で、僕たち3人がチームを引っ張って日本一に導きます。
コグラン・加藤 導きます!
一同 (笑)
――ありがとうございました!
(取材・編集 巖千咲 写真、井上義之、JAFA提供)
◆中村洸介(なかむら・こうすけ)(※写真右)
1992(平4)年7月21日生まれ。185センチ、115キロ。東京・日大三高出身。スポーツ科学部4年。主将。自身をとても「真面目」な性格だと語る中村選手は、加藤選手のエピソードに「お香炊きすぎで喘息、オコ」と一言。真面目な素顔とは裏腹にチャーミングな一面もある中村選手、ラストーシーズン、主将としてチームを引っ張るその勇姿に期待です。
◆コグラン・ケビン(こぐらん・けびん)(※写真左)
1993(平5)年6月7日生まれ。182センチ、90キロ。東京・早大学院出身。商学部3年。掃除が好きだというコグラン選手。今回の遠征中も部屋がとても綺麗だったそうで、取材中、中村選手と加藤選手がコグラン選手に洋服の畳み方を教わる一幕も。LBの核として活躍が期待されるコグラン選手、秋シーズンも目が離せません。
◆加藤樹(かとう・いつき)(※写真左)
1994(平6)年月日生まれ。センチ、キロ。東京・早大学院出身。商学部2年。遠征で同部屋だったコグラン選手曰く「二度と一緒の部屋に住みたくない」と、掃除は少し苦手な様子。そんな加藤選手は、部屋にお香を炊きすぎて喘息になってしまったというエピソードで周囲の笑いを誘っていました。2年生ながら頭角を現しスタメンに定着しつつある加藤選手。秋はどんなプレーを見せてくれるのでしょうか。