【特集】山岳部×ワンダーフォーゲル部‐第1部‐

山岳

 山岳部とワンダーフォーゲル(ワンゲル)部。共に自然に挑み、山を極めるワセダの部活。しかし、大会などの目につく活動が無いためこれまであまり取材する機会がなく、両部の違いや活動の魅力を伝えることができなかった。そこでこの度、山岳部の佐藤貴文主将(文4=東京・早実)、ワンゲル部の佐々木透主将(人3=東京・青陵)、福永孟昭主務(政3=愛知・瑞陵)に集まっていただき対談形式で両部活の紹介、違い、そして山の魅力などを語っていただいた。

※この取材は10月16日に行われたものです。

それぞれの活動

山頂にたどり着くワンゲル部

――初めにお互いの部の紹介から始めさていただきたいと思います。まず単刀直入にお伺いしたいのですが、ワンゲルとはどんな競技なのですか

(ワ)福永 ワンゲル部っていろんな大学にあると思うのですが、山岳部さんよりはいろんなアウトドア活動をやっているというイメージがありますね。山一筋っていう山岳部さんよりはこういう活動もやってみようかというスタンスがワンゲルにはあります。山を本格的にやるのが山岳部さんでアウトドア活動を本気でやっているのがワンゲル部という印象ですね。

――具体的にはどんな活動をしているのですか

(ワ)福永 自転車とか川下りつまりラフティング、沢登り、あとは山スキーも滑りメインでやってます。山岳部さんは山頂へのアプローチでやってますよね?

(山)佐藤 そうですね。

(ワ)福永 僕らはこの斜面を滑るためにというようなスタンスでやっています。

(山)佐藤 滑るのが目的みたいなのはいいですね。

(ワ)福永 でも大学によってはやっていることはバラバラみたいです。ワンゲルというスポーツがこれをやるというのは決まってません。

――ワセダではなぜ先ほどのような種目をやっているのですか

(ワ)福永 いまは65年目ですがいろんなOBの人たちが、他の大学がこういうことをやっているからうちでもやってみようかとか、柔軟に取り入れていまの形になっています。

(山)佐藤 どの活動をいつやろうという計画はいつ立てるのですか?

(ワ)福永 僕ら年に7回合宿をやっているのですが、7回の合宿でどういうことをやりますっていうのを年度の初めに発表します。10月で代替わりなので、こないだ僕らの方針を発表しました。

(山)佐藤 10月なんですか!?

(ワ)福永 そうです。そしてあさってから最初の合宿です。

(山)佐藤 早いですね。

――ちなみにどこに行かれるのですか

(ワ)福永 上越の方です。谷川岳とかを縦走(尾根伝いにいくつかの山頂をきわめ歩くこと)するのが一つと平ガ岳から大水上山まで藪こぎ(登山道がない所や、木とかツタとか生えている所を手でかき分けながら進んで行くもの)するのが一つです。

(山)佐藤 それは何のためですか?ピークハントですか?

(山)佐々木 ピークハントではないですね。藪こぎをやる目的としては積雪期に向けた読図能力の強化と精神面の強化ですね。

(山)佐藤 なるほど。帰りたくなるやつですね(笑)

――ピークハントとは

(山)佐藤 一つの山の頂上に立つことを目的とした合宿ですかね。それだけが全てみたいな感じです。

――頂上に立つことを目的としない登山もあるのですか

(山)佐藤 僕たちはないです。

(ワ)福永 そこも一つ山岳部さんとの違いだと思うのですうが、僕らは縦走で一つの頂上を目指すのではなくここのルートをつないでいくっていう楽しみや魅力を掲げてやっています。

(山)佐藤 でも僕たちもルートをつなげるのはやってますね。

――次に山岳部さんの活動を紹介してください

(山)佐藤 名前の通り山を登っています。でも山登りにもいろいろあるっていうのが山岳部の良さだと思っていて、普通に登山道を登る山登りもあったり、さっき言ったルートをつなげる山登りもあったり、わざわざ険しい所でクライミング、岩登りをしながら頂上を目指したり、あとは沢登りとかをやっています。シーズンはオールシーズンです。夏、秋、冬、春とやっています。

(ワ)佐々木 僕らもオールシーズンですね。

――普段の活動はどういうことをしているのですか

(ワ)福永 週3でトレーニングですね。内容は筋トレとか走り込みとかで、時間は早朝に集まってやったりしてます。場所はトレーニングセンターとかですね。

――その目的は

(ワ)福永 活動における体力作りです。山の筋肉って山を登って作っていくものも多いですけど、山に必要な筋力や体力は僕ら「下界」って呼んでるここでも作っています。

(山)佐藤 「下界」(笑)。気取ってるんじゃないんですよね。

(ワ)福永 口癖ですよね。普段から使っているのでポロって出ちゃいます(笑)。

――具体的なメニューは

(ワ)福永 60分とか走り込みをする日もあれば、階段の上り下りをする日もあります。

――ハードですね

(ワ)福永 そうですね。キツめにはやっているつもりです。

――山岳部さんは

(山)佐藤 僕たちも活動でいうと週3でトレーニングをしています。10キロ走ったり、筋トレで体力面を鍛えています。

命を守るため

山岳部の活動を伝える佐藤主将

――会議などはされているのですか

(ワ)福永 週1でミーティングをやります。他にも山に入るにあたって必要な気象の知識だったり、遭難事例の研究、医療知識ということで心肺蘇生法とかもやってますね。

――ただ登るだけではなく熱心な研究もしているのですね

(ワ)福永 過去の事故事例を見て何がいけなかったんだろうというのを考えて、自分たちは「こういうことをやらなくてはダメだよね」とかを話し合っています。

佐藤 事故って同じことが毎年起こりますしね。

(ワ)福永 そうですよね。

(山)佐藤 僕たちは週2でミーティングをやっていて、内容は勉強会だったり、山に向けての準備会のだったりします。

(ワ)佐々木 ミーティングと言えば僕らは勉強会は月曜日に現役部員だけでやるんですが、火曜日には部の上のOBや監督1名、コーチ3名、学生コーチ2名の6人からなる監督コーチ会、略して「監コー会」があります。これは山に行く時の計画を資料として出して安全対策などを話して審議をする会です。ここで承認をもらえて初めて山に行けます。自分たちだけで考えて山には行けないというのが他大との違いの一つですね。

(山)佐藤 へー。そうなんですか。やっていない大学もあるんですね。

(ワ)佐々木 他大は上級生だけで決めているみたいです。

(山)佐藤 それで事故は起きないんですか?

(ワ)佐々木 いや、起きているみたいですよ。

(山)佐藤 ですよね。

――承認がもらえないこともあるのですか

(ワ)佐々木 自分たちの考えが甘かったときにはありますね。特に代替わりの後などは、経験が浅くて指摘を受けますね。あとは下級生が「ワンダリング」という日帰りとか、一泊の合宿に関して計画を持ってきたときに安全対策とかで指摘は受けますね。

――合宿以外でもよく山に行かれるのですね

(ワ)福永 週末の土日に1泊2日で山に行ったりはしてますね。こないだの連休も行ってきました。

――場所は近場ですか

(ワ)佐々木 近場が多いですが、遠い場所だと上越とかまで行きますね。こないだは群馬県のみなかみまで行ってきました。

(ワ)福永 冬だと日帰りでスキーするために長野県の黒姫とか遠くに行くこともあります。

――山岳部は合宿以外の活動は

(山)佐藤 行ってますよ。合宿というのは基本的に部の活動で年度の最初の4月に決めます。基本的に最後の3月の春山合宿を目標として他の合宿を意味づけていきます。ただ、それとは別に個人の趣味や趣向を優先させる活動は週末にやっています。

――場所は

(山)佐藤 土日で行ける所に行きます。距離は関係ないので北海道に土日で行けるってなったら北海道まで行きます。お金が高いのであんまり行かないですけど(笑)。

――山岳部は監督会議のようなものは

(山)佐藤 ありますが、その前にまず検証作業っていうのがあります。自分たちが行きたい山があって、そこに果たして行けるのか、こういう装備が必要だねとまず話し合って、それをまとめて監督に出します。そして監督と5人くらいのOBの方々で審議して承認されたら行きます。検証作業は重要ですよね?

(ワ)佐々木 一番重要ですね。

(山)佐藤 自分たちの視点からじゃなくて、しっかりとした人たちが審議してくれるおかげで安全が確保できるというのはあります。たまに、嫌なときもありますけど(笑)。

(ワ)福永 「いや、行けるだろう」ってなりますよね。

佐藤(山) まあでも従いますよね。

(ワ)福永 はい。やっぱり上の人の方が経験もあって分かることも多いですから。

(ワ)佐々木 あとは「こっち行った方が面白くない?」っていうアドバイスもありますね。その人たちが行ったことある場所で「こっちの方が楽しかったよ」って言われると、「じゃあそちらで考えてみます」ってなります。なのでいいこともありますよ。

――部員は何人いるのですか

(ワ)福永 9人です。

(山)佐藤 僕らは11人ですが、4年生含めていませんよね?

(ワ)佐々木 引退した4年生を含めたら14人です。

――ワンゲル部さんは女子の部員さんがいらっしゃいますよね

(ワ)福永 4年生に1人と、新人に1人ですね。

(山)佐藤 うちはいないですね。魅力がないんですかね(笑)。

――体力的に大丈夫なのですか

(ワ)佐々木 そこに関しては、山に行くときに装備の量に差をつけたりしていますが、歩く距離は同じなので強い人じゃないと難しいですね。

(山)佐藤 やっぱり、そうですよね。実際、無理だったことってあるんですか?

(ワ)佐々木 なんだかんだ大丈夫ですね。

(山)佐藤 女の人は強いですもんね。

――装備はどのくらいの量なのですか

(ワ)福永 夏の合宿だったら30(キロ)いかないくらいですけど、冬だとスキー用具とかもあるので35(キロ)くらいですんかね。

佐藤 同じですね。

(ワ)福永 山岳部さんけっこう多いですよね?

(山)佐藤 夏は縦走とクライミングを重視した合宿と二つやるんですけど、クライミングの方はその用具とかもあるので35(キロ)くらいで縦走だと25(キロ)とかですかね。

(ワ)福永 4、50(キロ)持つって聞いたことあるんですが?

(山)佐藤 それは30年前です(笑)。重すぎて膝をケガする人が多っかったので少なくなりました。でも昔は石を持って行ってたらしいですよ。

――石ですか

(山)佐藤 重い荷物を持つことがいいみたいな感じがあったみたいです。

(ワ)福永 うちも毎年、6月に南アルプスで強化合宿をやるんですが、昔はその合宿でテント丸めてしまうときに石を一緒に入れて新人に渡して、一日動いてテント出すときに広げると石がごろごろ出て新人がびっくりするっていう恒例行事はあったみたいです。

舞台は海外へ

ワンゲルの難しさを話す佐々木主将、福永主務

――次に部の目標とかスローガンみたいのを教えてください

(ワ)福永 僕らはちょうど10月に代が変わりました。なので9月の間に年7回の合宿の予定を決めましたね。最後の合宿が夏なのでそこで何をやりたいかとか、7回の合宿をやったときに部がその後に目指す理想系って何かとか、そもそも自分たちが何をやりたいのかとか、いまの部には何が必要なのかとかを全部9月の間に話して考えて結論を出しました。他の競技だと勝ち負けとか分かりやすい価値があると思うのでが、山登りの価値は自分たちで見つけなくてはいけません。それは自由に決められるんですが、自由な分難しいですね。

(山)佐藤 確かにワンゲル部さんはいろんな活動をやっているので目標を定めづらい印象がありますね。

(ワ)福永(ワ) 山岳部さんの目標は「海外登山をしてこの山に登る」とかですよね?

(山)佐藤 それだけでいいんです。そのために何やれるかって感じですね。やっぱり全然、質が違いますね。ワンゲル部さんは合宿ごとに目標があるんですか?

(ワ)佐々木 細かくはありますが、最終的に年間方針の達成が目標です。年間方針は毎年、キャッチコピーみたいな感じですね。ことしだと『雲外蒼天』です。

(山)佐藤 どういう意味ですか?

(ワ)佐々木 困難を乗り越えた先には快い青空が広がっているという意味です。

(山)佐藤 おー。

(ワ)佐々木 自分たちはそういうことが感じられる活動をしていきたいなというのがあります。なのでそれぞれの合宿では難しい行程があっても「この先には蒼天がある」と信じてやっています。

――いままでは他にどんな目標があったのですか

(ワ)佐々木 きょねんは『探求』という目標を掲げて、一つの山域のいろんなルートに行きました。いかにオリジナリティを出して、かつ部の流れに乗った上での年間方針を出すというのが代替わり後の最初の課題ですね。他にも『飛躍』とか、部でまとまっていこうという意味の『キャラバン』とかがありました。

(山)佐藤 僕たちはそれと逆ですね。ここの山に登るみたいな感じでとりあえず具体的な目標を出します。「最後の春にここの山に登る」って決めたら「そのためにどうする?」ってなります。目標は春に集大成として春山に登るということです。

――ことしはどこに行かれるのですか

(山)佐藤 剱岳を早月尾根ってところから登ります。

――剱岳の魅力は

(山)佐藤 剱岳は魅力しかないです。歴史もありますけど。季節風の関係でものすごい雪が降るんですよ、日本で一番多いんじゃないですかね。世界でも有数の豪雪地帯です。そういった雪にまみれるっていうのが魅力的です。ただ危険で人もけっこう亡くなっていますね。

(ワ)福永 昨年も雪崩があって一人亡くなっいてますよね。

(山)佐藤 はい、西のほうですね。そこを求めているわけではないですが、そういった危険があるっていうのも一つの魅力ですね。達成した時の満足感はすごいです。

――海外遠征もやってらっしゃいますよね。どういった経緯で行くことになるのですか

(山)佐藤 行きたいからですね。誰かが、「行こうよ」って言ってそれでしっかり人数が集まったのでそこからまた計画を出してって感じです。僕たちの『より魅力的な難しい山に挑む』っていうテーマというか暗黙の了解に合っていたっていうのもありました。

――アコンカグアに行かれましたよね。選んだ理由は

(山)佐藤 実はアコンカグアに行く前に中国に行く予定だったんですよ。ただ、中国が政治上の問題で登山許可が下りなくて、「じゃあ、どうする?」ってなった時に話し合いでアコンカグアに決まりました。

――登山許可はどこから下りるのですか

(山)佐藤 国ですね。上から下に流れる感じです。

――もう2年前になりますが行った感想は

(山)佐藤 アコンカグアは7000メートルあるんですよ。富士山の2倍ですね。大きさとか空気の薄さは未知の体験でした。

――ワンゲル部さんは海外などは

(ワ)佐々木 テーマを達成する方法として海外に行く年もあります。

(ワ)福永 海外ってなると全員が行けるわけではないです。みんないろいろな活動をやっているので。海外の計画は2年越しくらいです。

――ことしや来年に行く予定はありますか

(ワ)福永 いまのところはないですね。僕らの代の最後の夏は北海道を考えていますけど、僕が新人だった時はラフティングでロシアのアルタイ共和国っていう辺境の地に行きました。

――やはり、得られるものは大きかったですか

(ワ)福永 波が高くて日本の川とレベルが違い衝撃でした。

――その経緯は

(ワ)福永 ワンゲルの中でもボートって特殊な立ち位置で当時は大会に出ていました。ロシアに行ったのも『ロシアの大会に出よう』っていうのが合宿のテーマだったので行きました。最近は人数も減っていて大会には出てないです。

――ワンゲル部さんはやっている種目が個人で違うみたいですが、例えば自転車はやるけどラフティングはやらないといったような人は多いのですか

(ワ)福永 夏の縦走登山と冬のスキーは全員でやります。ただ、例えば3年前では夏の活動がラフティングと自転車と沢登りと3つあって好きなところに分かれてやりました。佐々木はずっと沢登りをやって、僕はラフティングをやっていました。活動のレベルをあげてスペシャリストを養成しようとすると一人の人がずっとやらないといけないのでしょうがないですが、分かれてやるっていうのは問題点の一つです。

――一つ伺いたいのですがニュースで富士山に登山税を導入するというものがありますが、山に関わる者としてどう考えていますか

(山)佐藤 世界遺産になったので観光客は増えますよね。それはいいと思います。ただ、それによってゴミの問題が発生して、浄化にお金が必要ならお金は取ってもいいと思います。入場制限をするのはあまり賛成できないです。

(ワ)福永 いろんな人が登ってくれるならその方がいいですよね。

(山)佐藤 でも僕たちは夏に富士山は登りません。登りますか?

(ワ)福永 基本的には登らないです。5月とか12月にアイゼン(氷や雪の上を歩くときに滑らないようにするため靴底につける金属の爪)、ピッケル(主に雪山で使用するつるはしの形をした杖)の練習で登るくらいです。あとは滑落停止訓練をするくらいです。

――滑落停止訓練とは

(ワ)福永 冬山でアイゼンやピッケルを使って滑ったときにそれを止める訓練です。

(山)佐藤 本番で滑る経験はしたくないですからね。

(取材・編集 石丸諒、井上義之、丸山美帆)

第2部へ続きます