連載の最終回を飾るのは、早大競走部を率いる大前祐介監督(平17人卒=東京・本郷)。「選手に考える余白を持たせる」という指導方針の下、主将不在の危機をも下級生の自覚と成長に変えてきた。主力陣の復帰と戦力の充実により、万全の体制で臨む大一番。トラック3連覇の先に見据える男子総合優勝、そして女子総合3位へ。頂点を射程に捉える指揮官が、チームの歩みと大舞台にかける熱き決意を語る。
※この取材は8月19日に行われたものです。
非常に良い3本の柱

対談中の大前監督
――今年のチームの特徴を教えてください
関口裕太主将(スポ4=東京学館新潟)、上島周子女子主将(スポ4=東京・富士)、森田陽樹(創理4=埼玉・早大本庄)の3人がバランス良く、チームをまとめ上げていると思います。特に前半シーズンは関口、上島の両主将が故障で試合に出られない状況でしたので、(両主将が)試合に出られないながら(チームを)まとめつつ、試合に出ている森田が大会で(チームを)引っ張っていたので、非常に良い3本の柱ができていたのではないかと思っています。
――関口、上島両主将は大前監督から見て、どのような主将と感じていますか
関口に関して言えば、実は私が監督になって選手勧誘をした第1号の選手です。その世代の選手たちの集まりですので、一番思い入れがある世代です。その中でも関口主将に関しては、彼の母校である東京学芸新潟高校の田村(和宏、平13人卒)先生も(早大)競走部OBですので、(田村先生から育成を)バトンパスされた非常に思い入れのある選手です。上島に関しても、彼女との出会いは高校生の時で、その時からコミュニケーションを取っている選手です。彼女はいろいろと波の激しい競技人生を送ってきたと思いますが、競技結果を着実に上げていて、彼女も非常に思い入れのある選手です。
――今年は特にハードルブロックに強力な新入生が入部しましたが、その新入生に対してどのような印象を持っていますか
(選手勧誘に)戦略的なところがありました。昨年まではハードル種目にすごく強い選手が多かったので、そのハードル種目が戦力ダウンにならないようにするどころか、抜けた先輩たち(の戦力)をカバーしてお釣りが来るくらいの選手たちを勧誘しようと思って、声掛けをしました。そのような経緯で来てくれたメンバーですので、早大に対する思い入れも非常に強い選手たちだと思っていますし、男女ともに本当に期待できる選手たちだと思います。
――実際に、新入生の対校戦や日本選手権での活躍を見て、どのようにご覧になっていましたか
「あまり無理しないでね」というのが率直なところです。パフォーマンスは出せるときに出した方が良いですが、成長過程の途中で良いパフォーマンスを出すことは、裏返して言えば、ケガのリスクがあります。ですから、選手たちに無理をさせすぎないようにと考えていました。そのような中で、特に男子では酒井(大輔、スポ1=四学香川西)、女子ならレイチェル(ガードナ・レイチェル麻由、スポ1=神奈川・法政二)の2人に関しては、予想以上のパフォーマンスを発揮してくれている選手だと思っています。
自分にも厳しく、他人にも厳しくという模範的な選手

日本選手権に出場した水野
――今シーズンで特に成長したと感じる選手はいらっしゃいますか
水野琉之介(スポ3=北海道・立命館慶祥)です。前主将の井上主将(井上直紀前主将、令8スポ卒=群馬・高崎)が抜けた後、自分がエースになってやるという思いがすごく強かった選手です。練習のときも誰よりも徹底してやっていますし、自分にも厳しく、他人にも厳しくという模範的な選手だと思います。その結果として、今年良いかたちで自己記録を更新しているので、彼が今シーズン一番急成長したという表現にふさわしいと思います。
――水野選手の練習の組み立て方などは、大前監督とどのようにお話しされていますか
基本的には100メートルを中心とした短短ブロックに関しては、欠畑(岳男子ヘッドコーチ、平27スポ卒=岩手・盛岡第一)コーチが見ている状況です。技術的な部分は欠畑ヘッドコーチがコミュニケーションを取っていますが、大舞台でパフォーマンスを発揮するために必要なことや、ラウンドの上がり方などの戦略的な部分は、コミュニケーションを取って話をしています。例えば準決勝で「(他の選手に、)こいつにはもう勝てないな」と思わせられるかどうかが鍵だという話をしています。
――今シーズンで特に印象に残った試合は、チーム全体としてはどの試合になりますか
関東インカレ(関東学生対校選手権)です。テーピングをぐるぐるに巻いている選手が多かったという印象です。それが反省点ではありますが、今シーズンが終わってみなければ(ケガが多かった原因を)振り返れないと思います。そうした中でも、男子ではトラック優勝の連覇をキープして4連覇まで来ましたし、女子も総合3位まで上り詰めたので、今後に期待ができるような状態になったと思います。いずれにしても、このような手負いの状態でも戦えたことがすごく印象に残りましたし、足を痛めている中でもしっかりと走ってくれた選手たちには感謝しています。
――5月、6月と苦しい時期が続きましたが、両主将を欠く中で3年生の活躍が目立った点についてはいかがですか
リーダー不在というのがプラスに働くかもしれないと思っていたので、「自分が頑張らないといけない」という自覚が(3年生たちに)芽生えたのは思い通りではありました。主将不在の中、みんなが競走部という屋根を支えてくれたと思います。3年生が競走部やエンジのことを意識して取り組んでくれたからこそ(活躍してくれたの)だと思います。
――リレーに関しては、どのようにご覧になっていましたか
万全な状態ではなく、特に男子に関してはどうしても1人足りない状況でどこまで戦えるかという不安はありました。4継(4×100メートルリレー)、マイル(4×400メートルリレー)で勝ち切れなかったのは、ケガ人がいたからだと感じました。ですから、秋に準備をしておかなければいけなかったことは反省点だと思います。逆に女子マイルに関しては、昨年の秋からずっと「このチームは勝てると思う」ということを私の方から話して、優勝するためにオフシーズンから練習していこうという話をしてきた結果、勝ち切れたので良かったです。私としても(優勝できる)自信があったので、優勝してくれたのは狙い通りです。
目標は総合優勝

関東インカレにて集合写真に納まる競走部一同
――今年度のチームを指導する中で、特に大切にしたことなどはありますか
今年に限らずですが、選手に余白を持たせておくことです。余白というのは考える余白です。(指導者が)1から10まで指導していくことも良いとは思いますが、それをしてしまうと、どこかで(選手が)パンクしてしまいます。(大学)4年間はかなり長いですので、余白がなければやっていけないだろうという思いもあります。自分でその余白に対してどう描いていくか、どう考えを落とし込んでいくかを考えさせるのが早大らしさだと思っているので、今年に限らず、ブレずに教えていくことが我々の指導方針です。
――夏合宿を終えて、今のチーム状況に関してはいかがですか
ようやく(メンバーが)そろってきたという感じです。合宿に入る1週間前を少し強度の高い強化練習期間としていました。(合宿の)翌週には、試合が3つ(トワイライト・ゲームス、富士北麓ワールドトライアル、早慶対抗陸上競技会が)ありましたが、「疲労を抜き切れないな」と想定していたので、思っていた通りの試合結果ではありました。ただ、大きなケガ人が出ることもなかったので、そのような意味では関東インカレよりも万全な状態で日本インカレを迎えられると思います。
――日本インカレまで残りわずかですが、特に期待している選手や注目して欲しい選手はいらっしゃいますか
個人的には、女子400メートルハードルでワンツー(フィニッシュ)を目標にしています。千葉(史織、スポ3=宮城・仙台一)とレイチェルの2人に関しては、きっちりと表彰台に上がってきてほしいと思います。あとは男子の4継です。男子の4継は今年(関東インカレで)負けていますので、しっかりともう一度勝ち切り、学生記録も視野に入れながらチャレンジして欲しいです。
――日本インカレや日本選手権リレーに向けて、良いアプローチで来ている実感はありますか
チームとして、男子は(日本インカレの)トラックで連覇をしているので、3連覇を目標にしています。それが達成できれば、我々は総合優勝できるとも思います。その勢いに乗れば、日本選手権リレーもおのずと勝てると思っています。
――最後に、改めて日本インカレに向けての意気込みをお願いします
日本インカレに関しては、目標は総合優勝です。ここが一番の(総合優勝する)チャンスだと思っています。すでに1万メートルでポイントが入っている状態からスタートするのは、大きなアドバンテージだと思っています。チーム一丸となって男子は総合優勝に向けて、まい進して欲しいです。女子に関しても、優勝を狙える選手が非常に多いので、優勝種目を可能な限り増やしたいです。400メートルハードル、マイル、走高跳の矢野(夏希、スポ4=愛知・時習館)など、かなり強力な選手たちが多いですし、競歩も出場しますので、多くの種目で優勝が見えてきます。女子は総合3位を目標に頑張って欲しいです。
――ありがとうございました!
(取材 石本遥希、永尾早渡、中部百合子、吉田真悠、編集 永尾早渡)

◆大前祐介(おおまえ・ゆうすけ)監督
1982(昭57)年4月6日生まれ。平17年人間科学部卒。200メートル20秒29(U20日本記録)。令4年2月より現職。