今年度、早大スケート部フィギュア部門には10人の新入生が入部した。そこで一人一人にインタビューを行い、競技歴やスケートへの想いだけでなく、大学生活や今後についても話を聞かせてもらった。今後10回にわたり連載する。第7回は、マラクリジェシカ(国教D1=アメリカ・Glencoe High School)。
※この取材は9月11日に行われたものです。

競技について
――スケートを始めた時期ときっかけを教えてください
私は2021年12月に、アメリカ・オレゴン州ポートランドでフィギュアスケートを始めました。もともとテレビでフィギュアスケートを見るのが大好きで、2018年の平昌オリンピックにも実際に観戦に行ったほどです。ただ、大人でもフィギュアスケートのレッスンを受けられるとは知らず、高校時代の友人が大人になってから本格的に習い始めたと聞き、「自分にもできるのではないか」と気づきました。同世代の友人と一緒に練習できたことは、とても良い思い出です。私は常に「楽しく続けたい」という気持ちを大切にし、過度なプレッシャーをかけないようにして練習に取り組んでいました。 ちょうど大学を卒業したばかりで、新しい目標を探していた時期でもありました。また、コロナ禍を経て、多くの同世代が「これまで挑戦できなかった夢を追いかけてみよう」と真剣に考えている姿がさらに私のフィギュアスケートに挑戦したい。という気持ちを後押ししてくれました。 続けていくうちに、思っていた以上に自分のレベルでもできることが多いと気づき、次第にフィギュアスケートに対して真剣な気持ちが強くなっていきました。技術はまだシンプルですが、大会に挑戦したり、振付を考えたり、音楽や衣装を選ぶ等の創作過程も楽しんでいます。遅いスタートではありましたが、フィギュアスケートの世界に飛び込んで本当に良かったと感じています。
――アメリカ出身とのことですが、日本に来られたのはいつ頃ですか。また、日本でスケートをしてみて、何か今までと違いはありましたか
韓国の延世大学で学部課程を履修していた際、2019年に交換留学生として初めて日本を訪れ、慶應義塾大学で比較文学を学びました。その後も何度か日本に滞在し、これまでの合計で約2年間、日本で生活してきました。今後はさらに長く日本に滞在し、最終的にはこちらで就職できればと考えています。 日本とアメリカではスケートに対する取り組み方が大きく異なります。日本には優れたスケーターが多く、全体的に組織的で真剣な雰囲気があり、それが演技の質の高さにつながっているのだと思います。一方、アメリカの私のホームリンクは趣味で取り組む人も多く、和やかな雰囲気で、地域の規模も小さいため、誰とでも気軽に話すことができました。アメリカ人はフレンドリーで知られており、新しく始めた人がいれば、すぐに声をかけて仲良くなる文化があります。ただ、その分気が散りやすい環境でもあるので、日本の真剣な雰囲気をありがたく感じています。
――競技の魅力は何だと思いますか
フィギュアスケートが私自身、そして多くの人々を惹きつけるのは、音楽、美しさ、身体能力、そして衣装が一体となって一つの演技を作り上げる点にあると思います。スケートの物理的な特性によって、高速で氷の上を滑る姿はまるで「空を飛んでいる」ように見え、とてもダイナミックな光景になります。他のスポーツでは再現できない独自の魅力を持つ競技だと感じています。
――ご自身の強みと、逆に強化したいところを教えてください
私は大人になってからスケートを始めてまだ3年のため、子どもの頃から始めた選手に比べると技術はまだ未熟です。特ににジャンプは最も難しく、以前は「自分にはできないのでは」と思ったこともありましたが、少しずつ挑戦を続けています。反対にスピンは得意な要素だと感じているので回転する感覚そのものを楽しんでいます。 正直に言うと、私の一番の強みは「諦めずに少しずつ着実に成長していけること」だと思います。大人になってからスケートを始めた方の中には、壁にぶつかって辞めてしまう人も少なくありませんが、私は情熱を活かして小さな目標を一つひとつ積み重ねるのが得意です。練習でたとえ一つの技でも少し上達できれば、それだけで「今日は成功した日だった」と感じられます。
――どんな選手になりたいか、選手としての理想はありますか
自分が大人になってフィギュアスケートを始めたこともあり、フィギュアスケートをやってみたいと思っているけれども中々一歩を踏み出せない人たちをインスパイアできる選手になりたいと思っています。レベルは高くなくても、曲やプログラム、衣装においてもセンスがいいと思ってもらえるような選手になりたいです。沢山の人の心を動かせるようにこれからも精進していきます。
――早稲田大学のスケート部に入部した理由、経緯を教えてください
早稲田大学が著名なフィギュアスケーターを数多く輩出していることはよく知られています。私も入学した際に、「せっかくならフィギュアスケートのチームに参加できるのではないか」と思い、部活動を探してみました。ただ、当初は自分の技術レベルで入部できるのか不安があり、少し躊躇していました。しかし調べてみると、クラブにはさまざまなレベルの学生が所属していることが分かり、私も挑戦してみようと決心しました。 日本でスケート仲間と出会い、日本ならではのフィギュアスケートの雰囲気を体験してみたいという思いもありました。実際に入部してみて、日本のフィギュアスケート部の一員になれたことをとても嬉しく感じていますし、ここでの活動は自分にとって非常に価値のある経験になっていると思います。
――早稲田の先輩や同期ともう交流しましたか
先日、軽井沢での合宿や、フィギュアスケート部とアイスホッケー部との合同バーベキューに参加する機会がありました。練習以外で部員の皆さんとゆっくり話すことができ、「ようやく距離が縮まった」と感じています。皆さんがとても親切で、本当に安心しました。先輩方は競技の実績もリーダーシップも素晴らしく尊敬していますし、1年生たちはとても気さくで、これから数年間一緒に過ごせることを楽しみにしています。
――早稲田大学フィギュア部門への印象は
他の部員の技術の高さには本当に驚いています。アメリカで所属していたフィギュアスケートクラブにも上級レベルのスケーターはいましたが、多くは子どもで、大人の上級者はほんの数人しかいませんでした。これほど多くの大人の上級スケーターに囲まれるのは初めての経験です。また、部員の人数の多さからも、日本におけるフィギュアスケートの真剣さを感じました。技術レベルはさまざまですが、誰もが上達を目指して真剣に取り組んでおり、とても良い雰囲気だと思います。
大学生活について
――趣味は何ですか
時間があるときにはガッシュで風景画を描いたり、イラストを制作したりして楽しんでいます。また、旅行が好きで、特にロードトリップを楽しんでいます。ここ数年は「オーロラ追い」とオーロラ撮影を趣味にするようになりました。条件が良ければオレゴン州でも見られることがありますが、やはりアラスカが一番きれいです。今年はすでに二度アラスカへオーロラを見に行き、12月にもまた訪れる予定です。
――日本に来られてから、どこか旅行には行かれましたか。おすすめの場所があれば教えてください
以前、長崎に1年間住んでいたことがあり、その経験から九州がとても好きになりました。中でも熊本県は日本で一番好きな場所かもしれません。車を持っていたので、県内のいろいろな場所を運転して回りました。特に阿蘇山周辺や人吉のエリアが大好きです。九州全体として、温泉や紅葉がすばらしく、人も多すぎないので、自然の中でゆったりとリラックスできるところが魅力だと思います。
――大学院では何を勉強しているのですか
早稲田大学大学院 国際コミュニケーション研究科に所属しており、カルチャー&コミュニケーションのトラックで学んでいます。国際学の視点から、マンガやアニメ、そしてもちろんフィギュアスケートなど、日本のポップカルチャーに関するさまざまなテーマを研究しています。
――面白かった授業などはありますか
どの授業もとても楽しんでいます。今学期は、マンガやアニメを学術的な視点から扱う授業を履修し、『東京喰種』のさまざまな画風が物語の展開にどのような影響を与えているのかについて発表する機会がありました。分析の過程がとても楽しかったです。また、ゼミでは映画や映像文化に関する興味深い理論を多く学びました。最終課題としては、テレビ放送されるフィギュアスケートについて映画理論を応用し、12ページの論文を書き上げました。とても挑戦的でしたが、楽しみながら取り組むことができ、理論を予想外の形で活用する方法を学ぶことができました。
――学業とスケートの両立は大変ですか
学期中はそれほど大変には感じませんでしたが、期末試験の時期だけはとても忙しく、約3週間まったくスケートをする時間がありませんでした。その分、夏休み中に少しでも取り戻そうと頑張っています。
――スケート以外で、大学院の間にやってみたいことはありますか
早稲田での滞在は修士課程の2年間と短いですが、その間にできるだけ多くの経験をしたいと思っています。2019年には交換留学生として早慶戦を観戦し、慶應側で応援しましたが、今回は早稲田の学生としてぜひ観戦したいです。もちろん、早稲田の勝利を応援できることを楽しみにしています!
今後について
――今シーズンの目標を教えてください
正直なところ、外国で公式の大会に出場するのは初めてなので、少し緊張しています。しかし、今シーズンの目標として、出場して全力を尽くし、スムーズに大会を経験できれば、それだけで満足ですし、貴重な経験になると思っています。
――今シーズンのプログラムを教えてください。また、どんなところに注目してほしいですか
今シーズンは、以前使用したプログラムを改良し、RADWIMPSの「Sparkle」に合わせて滑ることに決めました。この曲は非常に私に合っていると思います。というのも、映画の中の主人公が東京に来て楽しむように、私自身も東京での時間を楽しんでいるからです。 昨年このプログラムで競技に出場した際は、愛犬が亡くなった直後で十分に練習することができませんでした。そのため、このプログラムには私にとって大きな可能性と深い個人的な意味があります。前回よりも成長できたと感じており、観客の皆さんにその思いをしっかりと伝えられるよう努めたいと思っています。
――大学4年間の目標、ビジョンを教えてください
私たちのクラブが、結果の良さだけでなく、人としての魅力やフェアプレーの精神でも皆に尊敬される存在になれることを願っています。
――ありがとうございました!
(取材・編集 荘司紗奈)
◆マラクリ・ジェシカ
アメリカ・グレンコー高校出身。大学院国債コミュニケーション研究科1年。所持級はLTSフリースケーティング4級。