【連載】野球部 春季早慶戦直前特集『臙脂の誇り』 第13回 小宮山悟監督

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 ここまでリーグ2位につけている早大野球部。早慶戦で2連勝すれば、再び明大との優勝決定戦を迎えることになる。その野球部の指揮官である小宮山悟監督(平2教卒=千葉・芝浦工大柏)にお話を伺った。

※この取材は5月25日にオンラインで行われたものです。

チームのレベルが上がっている

――ここまでリーグ2位につけていますが、振り返ってみていかがですか
 負けてはいけない試合を立教戦で2つ落としてるので、そこの部分が大いに反省をしないといけないところかなという風に思ってますけどね。

――カードごとに振り返ります。開幕カードの東大戦を振り返っていかがですか
 東大に関して言うと、もうもちろん負けてはいけない相手なんですけど、渡辺向輝(東大4年)に関しては早稲田に限らず他の大学も苦戦してる投手で、相当なレベルのピッチャーですから、ある程度苦戦を強いられるというのは想定内でした。ただ、ミスをしなければ負ける相手ではないので、我々のペースで試合ができたということでいいんじゃないでしょうか。

――続く法大戦では、1敗を喫するも勝ち点を獲得しました。振り返っていかがですか
 2戦目、リード守れずに負ける試合というところで、なんとなく嫌な兆しは見えてはいたんですけど、それでも樹(伊藤樹、スポ4=宮城・仙台育英)がね、しっかりしてくれてましたので、普通にやれば負けることはないという風に選手たちには言っていました。勝ち点を奪うというところが最低限という風に考えていて、そこはクリアしたので、まずまずかなと思っています。

――立大戦で今回初めてカードを落とす形になりました。振り返っていかがですか
 予想外のアクシデントなので、これはもうしょうがないと思っているんですけれども。伊藤樹が登板途中で指のマメをつぶして、ひょっとしたら5イニング持たないかもしれないという状況で、3回に乱れましたが、なんとか持ち直して7回までしのいでくれたので、8、9回は逃げ切れるはずでした。越井(颯一郎、スポ3=千葉・木更津総合)と田和(廉、教4=東京・早実)と2人が法政戦で負けた時の不甲斐ないピッチングのままだったので、負けてやむを得ずということはないんだけど、彼らにかなり厳しめに、野球をなめるなということと、早稲田のユニホームを着てリーグ戦に戦う準備ができていないということで、ベンチから外しました。勝てる試合だったなという風に反省はしています。

ーー3回戦は延長12回までもつれました
 2戦目、実はマメをつぶしながら樹が「負けられない試合なのでベンチに入ります」と言って、ブルペンで待機していたんですね。ひょっとして投入せざるを得ないような状況になったらしんどいなとは思っていたんですが、誇南(宮城誇南、スポ3=埼玉・浦和学院)が完封してくれたので、樹を休ませることができました。3戦目、とりあえずなんとかという思いで、指先の不安はありましたが、今度は試合の途中で、初戦は中指、3戦目は人差し指の血マメを(つぶして)。こっちの方が重傷だったので、指先なのでもう激痛ですから。思うようにならずに、ああいう形で降板ということになりました。普段なら考えられないアクシデントで、やむを得ずということですけれど、その後、6点差をなんとか跳ね返して、12回の表に勝ち越すところまでたどり着いたので、負けはしたけど選手たちはチーム力で言うとかなりレベルが上がったかなという風には思っています。

――明大戦では初戦を落としましたが、その後連勝して勝ち点を守りました
 これはこれで、初戦に樹を登板させることができず。まさかの前日に38度の発熱ということで、登板そのものも危ぶまれたんですが、雨のおかげで休養が取れて、体調は万全ではないけれども登板にこぎつけたというところでした。初戦、打てずに負けて嫌な雰囲気でしたけど、2戦目に点をやらずに粘って粘って、最後はサヨナラで、しかもノーヒットノーランのおまけ付きですから、チーム力で言うと、全員がきゅっとまとまった試合になったと思います。3戦目は、本来だったらすんなり勝ち逃げしないといけないところを、まさかの同点スリーランということで、これも、安田(虎汰郎、スポ2=東京・日大三)も相当反省してるでしょうし、樹を本当は使える状態じゃなかったですが、キャッチャーの吉田瑞樹(副将、スポ4=埼玉・浦和学院)がここでやられるんだったら悔いがないので、樹でいきましょうと進言してきたので、無理をして投げてもらいました。それで勝つことによって、またチームのグレードが1つ上がったのかなと思います。

(伊藤樹は)こちらの考えるレベルになりつつある

――伊藤樹選手はこれで通算18勝、ノーヒットノーランも達成されましたが、投球をどのようにご覧になっていますか
 立教戦のアクシデントがなければ、ほぼほぼ完璧に投球をしてるので、こちらの考えてるレベルにたどり着きつつあるのかなと思います。

――第二先発の宮城選手については
 非常にいい投球をしてくれてるとは思います。明治戦も、守備に引っ張られて失点をしてるので、実質ホームランの1点だけですから、やられた感じがあるのは。最後、立教戦のサヨナラ2ランに関しても、連投でしんどい中我慢して、しのいでしのいでというところで、決して悪いボールじゃないけど、気持ち甘いところに行ったっていうだけの話なので、責められませんから。ピッチングそのものに関して言うと、非常にレベルが上がったかなという気がしますね。

――安田選手が立大3回戦でご自身で最長の5回を投げられましたが安田選手のここまでの投球については
 完璧に抑えるということはできませんけど、丁寧に投げることでなんとか点をやらずにというピッチングができていますので。小島(大河、明大4年)に打たれた同点スリーランだけ反省をしなければいけない点かなという感じはしますけど、いい形でレベルが上がってきてくれてるなと思います。

――投手陣全体でここまで打率が4割5分ありますが、投手の打撃については
 打てないと思ってるやつが打ってるから目立ってる感じじゃないですかね。投げる側も決して気を抜いてるわけではないだろうけど、でも甘い球をしっかりとコンタクトするということができてるということを考えると、日頃の練習の成果が出てるのかなという風に思っています。

――少し気が早いかもしれませんが、来年から六大学に導入されるDH制については
 本来、野球は9人でやるもので始まってますので、DH制がない形が自然だとは思っています。ピッチャーが打席に立つことによって、いろんなドラマがあったものを放棄するというところがちょっと残念だなという風に思いますね。ただ、逆に投げるのがおぼつかない人がいて、とにかくバット振りまくって、打つことだけに全てをかけてっていう、そういう選手が生きる場所を与えることができると考えると、それはそれで良いのかなという風に思います。ただ、長い長い歴史があって、それを紡いできた中で、DH制にシフトするということが本当にいいのかなという気はしています。ただ、100周年の区切りでということであれば、101年目からDHで行きましょうっていう6校の統一見解なので、これはもうやむを得ないかなと思ってます。

小澤は立派な宣誓をした

――ここからは打撃陣についても伺います。小澤周平主将(スポ4=群馬・健大高崎)はリーグ戦途中から魚雷バットを使っていますが、打撃についてはどのようにご覧になっていますか
 そもそも思い切りの良さのある選手でしたので、そんな中、春季キャンプ、オープン戦と色々試行錯誤しながら、いい形でシーズンに入ったはずなんですが、唯一違うことが、キャプテンとして選手宣誓があったので。選手宣誓をした開幕戦、あの宣誓でもう全ての仕事を終えたみたいな、そんな感じになっていました。もちろん立派な宣誓で、他大学の部長先生からも見事な宣誓でしたという風に言ってもらえるような、そんな思いの詰まったことを成し遂げたので、こちらとしても、今日は選手宣誓でお前の仕事は終わりだと、よくやったということで、試合前に今日タコでもいいよと言ったら、本当にタコりやがって(笑)。そこからちょっとおかしな感じになっちゃったので。起死回生じゃないけど、あのトルピード(魚雷バット)が手元に届いて、テストして、悪くないのでちょっと試しに使いますということでした。結果、あえいでいたものがバットを変えたことで息を吹き返したとなると、小澤にとっては非常にいいものになったのかなと思います。他に誰も使ってないので、あんまりトルピード型のバットの良さみたいなものはさほどないのかなという気がしないではないですね。

――チームの中でも、皆さん魚雷バットを試されたのでしょうか
 はい。チームで用意して練習で使ってますけど、Bチームの選手たちが一生懸命打ってよく折ってますけど、今までの形状のバットと違って、なんかしっくりこないんじゃないかな、やっぱり急に変わると。野手の金森さん(栄治助監督、昭54教卒=大阪・PL学園)も含めてだけど、良いって思う人もいれば、使いづらいっていう人もいるので。よくよく考えると、1990年代に金属バットであの形状のものが市販されてたものが、今この時代に誰も使ってなかったということは、良くないんだと思うんですよ。おそらくシーズンが終わる頃には使わなくなると思います。

――今季から4番の寺尾拳聖選手(人3=長野・佐久長聖)もここまで好調です
 いろんな人から抜てきだと言われてるんですが、打つ能力、スイングのスピード、力を考えたところ適任だということで4番に置いています。打てなくても経験を積めば来年4年生になった時にその経験は絶対生きると思ってるので、4番に置くことに迷いはありませんでした。ただ、仮に結果が出なかった場合、途中で吉田瑞樹を4番に置くということも考えて始まった寺尾4番なので、まあまあいい方に結果が出ているので、ほっとしています。

――今季途中から石郷岡大成選手(社4=東京・早実)の打順を2番にあげています
 本来は渋谷(泰生、スポ4=静岡)がそこにいるはずなんですけども。そこを大内(碧真、スポ3=埼玉・浦和学院)で埋めるとなった時に、初めてスタメンで出る選手を重要な打順に置くのはしんどいだろうということで、大内を下に置くので、石郷岡を上げたというところです。能力で言うともう少し自由にのびのびと打たせてあげた方が石郷岡にとってはいいのかなという風には思っています。制約がかなりある打順ですから。そこに置くことで良さを殺すことになってる気がするので。

――チーム全体の盗塁については
 野球は点取りゲームで、ベースボールっていうぐらいですから、ベースが基本になって、そのベースをどれだけ取れるかっていうのが勝負なので、塁に出たら1つでも先の塁に進むっていうことで、1つの塁よりも2つ取る、3つ取ると、そういうことでやらないとなかなか思うようにならないだろうと。それで、小澤主将の掛け声で、走塁を重点的にっていうことで始まったチームなので、飛び抜けた盗塁数ですが盗塁死も飛び抜けてますので、一か八かの勝負に出て、成功すればいいけど、失敗して痛い目にあってることの方が多いと思います。ただ、まだ戦術面での齟齬(そご)があるので、そこは秋の早慶戦で最終形になるまでの間にチームとしてすり合わせを終えないといけないなと思っています。

――1週間後に早慶戦を控える中で、チームの状態についてはいかがでしょうか
 樹の指の状態、高熱が出た影響、これは多分回避できるのでなんとかなるでしょう。他のピッチングスタッフに関して言うと、越井と田和にはカミナリを落としましたから、そこから目の色を変えて練習もしていますし、早慶戦ではいい形で投げてくれるだろうという期待もしています。ブルペンのサウスポーが欠けている状況なので、そこの部分をどう解消するかということですかね。打つ方は渋谷が戻ってくるので、最初の2カードの打線のつながりみたいなものがもう一度戻ってくると思っていますので、楽しみにはしてます。

――慶大の今季の印象はいかがですか
 強さみたいなことで言うと、強力な感じだった数年前と比べるとだいぶ落ちるとは思いますが、ところどころで見せるしぶとさや積極性、執着心みたいなもの、これは毎年変わらず宿敵だという風に思ってますので、我々も負けずに彼らに食らいついて戦いたいと思っています。

――早稲田も優勝の可能性を残しています。早慶戦に向けて意気込みをお願いします
 明治が勝って優勝がもしなくなってしまったとしても、我々としたらリーグ戦の最後に慶応と戦う、その意義をよく考えて、宿敵を打ちのめすという、そういう野球をしないといけないと思ってます。対抗戦の集合体ですから。我々はアクシデントがあって立教戦で星を落としたけれども、他の大学に対しては全てしっかりとした野球で勝ち点を取ったんだと、そういうシーズンにして秋につながるようにしないといけないと思っています。

ーーありがとうございました!

(取材、編集 西本和宏)

◆小宮山悟(こみやま・さとる)
1965(昭40)年9月15日生まれ。千葉・芝浦工大柏高出身。1990(平成2)年教育学部卒業。現早大野球部監督。