第9回に登場するのは中継ぎの要としてチームを支えている安田虎汰郎(スポ2=東京・日大三)。独特なフォームからくりだされる魔球チェンジアップを武器に神宮を沸かせてきた。昨年のリベンジとなる今季、迫る早慶戦への覚悟とは。
※この取材は5月23日にオンラインで行われたものです。
(明大3回戦は)忘れてはいけない試合

――シーズンを振り返って
今季は開幕前にケガをしたということもあって、東大戦も(ベンチに)入っていなかったですし、良い滑り出しではありませんでした。その状況でも法政、立教とある程度抑えることはできていたのですが、先日の明治戦ではあまり良い投球ができなかったので、残すは早慶戦のみになってしまったので、明治戦の反省どうのというよりも、まずは早慶戦に向かってどういう風に合わせていくかなっていうことを意識して今やってます。
――立教3回戦を振り返って
あの試合はもう後先考えずに、後ろは宮城誇南(スポ3=埼玉・浦和学院)さんだとか、他にも髙橋煌稀(スポ2=宮城・仙台育英)だったり佐宗翼(スポ1=石川・星稜)だったり、いっぱいピッチャーが控えてくれていたので、その中で監督に自分を先にマウンドに上げていただいたというところで、後先考えず1人1人アウト取っていって、行けるところまでっていう意識でした。その結果として5イニング投げられたのかなって思ってます。
――去年のシーズンから比べて成長したなと思っているポイントは
ストレートの球速は昨年よりも平均、マックスともに上がっていますし。トラックマンのデータに関しても、まっすぐの質っていう面では数字的にも向上しているので、ここから順調に数字が数字と現実抑えれなきゃ意味ないと思うんですけど、まずは数字の上で成長していったら、自ずと結果もついてくるのかなと思います。
――今シーズンで特に印象に残っている試合は
良い投球をしたのは立教3回戦ですけど、この間、小島選手(大河、明大4年)にホームランを打たれた試合は、印象に残るというよりも、忘れてはいけない試合だと思います。野球をやってれば、誰しもああいう経験はあると声はかけていただけるんですけど、リリーフピッチャーが1番やっちゃいけないことだったので。せっかくピッチャーが耐えしのいでつないできたのに、最後に防波堤が決壊するようなことっていうのは、1番やっちゃいけないことだと思うので、印象に残るというよりも、やっぱ忘れてはいけないのは、明治の3回戦だと思います。
――昨年と比べますと、印出太一選手(令7スポ卒=現三菱重工East)から吉田瑞樹副将(スポ4=埼玉・浦和学院)に捕手が変わりましたが、投げる際に何か変化はありますか
自分の長所短所を見抜いて、自分の良さを引き出してくれるような配球をしてくれるので、本当に投げやすくリードしてもらってます。
――ご自身の1番のストロングポイントは
真っすぐは良くはなってきてるんですけど、やっぱり割合的にそんなにポンポン投げ込めるかって言われると、そういうところにまでは至ってないので、やっぱりチェンジアップになっちゃいますかね。
――笑顔が印象的な安田選手ですが、試合前であったり、試合中に意識されていることは
いや、もう楽しいからですよ、野球が。ああいう満員のお客さんが入った神宮球場で試合ができるっていうことは、もう何のプレッシャーでもなく、本当に幸せなことなので。それをね、プレッシャーとかっていうふうにとらえずに、それを喜びに変えて神宮に行っているので、そういう顔になるのかなって思います。
――野球を見ることが1番休息になると、お話いただいていた安田選手ですが、安田選手をそこまで魅了する野球の魅力というのはどのような部分ですか
明大3回戦は、6-3から自分が小島選手に同点3ランを打たれて、延長で吉田さんがホームランを打って、エースの樹さん(伊藤樹(スポ4=宮城・仙台育英)が締めるっていう。打たれた自分はすごい辛い思いでしたけど、もし観客として試合を見ていたら、あれほど面白いゲームはないんじゃないかなと思います。尾形樹人(スポ2=宮城・仙台育英)とも話したんですけど、野球は9回の最後まで何があるかわからないっていうのが、肌身に感じた試合でしたね。清水エスパルスの秋葉監督が良い試合をした後に「This is Football」とおっしゃっていたと思うんですけど、あの試合はまさに「This is baseball」だったんじゃないかと思います。野球は弱者が強者に勝てるスポーツだと思うので、自分はよく試合を見に行きますけど、東京大学さんとかは確かに六大学では勝ち星は少ないかもしれないですけど、やっぱ試合を見ると注目ポイントもたくさんあって、尊敬の念を持って戦わなきゃいけない相手ですし、チームごとに色々な魅力があるので、(魅了されて)しまいますよね。
0に抑えるピッチャーが一番いい

――事前のアンケートでは自分のストロングポイントについての質問に「変化球は何種類あるでしょう?」と返されていました
六大学では、トラックマンの打ち込みの作業が各大学で日によって分担されているんですけど、各大学によって自分の入力が違うんですよ。投げてもないはずの変化球の名前が入っていたり、いや、これ自分的にはこういう風に投げたんだけどっていうのばっかりで。去年明治の選手に「チェンジアップ何種類あんの」みたいな感じで聞かれたこともあったので、じゃあ何種類あるか数えてみてくださいっていうのは、冗談めかしてですけど言うようにしてます。ただ、チェンジアップみたいな回答だとなんか面白くないっていう自分もいるんで。ひねくれてますかね(笑)。
――早いチェンジアップが相手に効果的な印象がありますが、ご自身の手応えは
相手が、ボールを何だと思って打っているのかってまだ全然わからないんですけど、ただ、そういうバッターの反応を見た上で投げ込んでるポールなので。 はい。その中でうまくこう、抜き方だったり、負け方だったり、調整をしながら放っていくっていうところでは、去年よりはバッターを見れてるのかなとは思います
――フォームは昨年から変えられましたか
出力っていう面で、もう少しスピードを上げたいと思っていたので、足を高く上げるフォームに変えました。まだ試行錯誤の段階なので、ここからまたまとまっていくかもしれないし、もっとダイナミックになるかもしれないし、ちょっと自分でもまだ手探りの状況なので。 またどんどん投げ方は変わっていくかなと思います。
――参考にされている選手は
あの投げ方を思いついたのが、サンディエゴ・パドレスのディラン・シース投手のモノマネをしていたら、この投げ方いいかもしれないって思って。そのシース投手の足の上げ方がすごい自分に合ってるというか、これだったら出力出しやすいなって思ったので、モノマネしてたのがちょうどハマっちゃったみたいな感じですかね。
――今後目標とする投手像は
もう樹さんのようなピッチャーですよね。あれ以上のピッチャーは今のアマチュア球界にはいないと思うので。自分の成績よりも、チームの勝ち負け、チームが勝つために投げるっていう。「エースとして」って皆よく言いますけど、樹さんの場合は「エースとして」以前に、自分が守ってる9人、ベンチにいる25人、スタンドにいる部員全員の人生を握った1人のピッチャーだということ、みんなの人生をつぶすも生かすも、樹さんにかかってるっていうのを誰よりも理解して、責任を持って投げているピッチャーだと思うので、そういうピッチャーになりたいです。
――安田選手の目指す最高のパフォーマンスとは
何本ヒット打たれようと、何個フォアボール出そうと、0に抑えればいいと思ってるんですよ、ある意味。だからこの間の明治戦は自分のポリシーの中でというか、自分自身としても一番やっちゃいけないし、チームとしても一番やっちゃいけないことだったので、そこはぶらしちゃいけないなとは思いますよね。先発だろうがリリーフだろうが、自分はどうでもいいと思ってて、任されたマウンドでいくらヒット打たれようが、0に抑えたピッチャーが1番いいピッチャーなので、自分はそう思ってます。
――自分自身にキャッチコピーをつけるとしたら
投げるアマチュア野球オタクとかですかね。聞くところによると、Xなんかでそう呼ばれてると耳にしたので。
――今年も試合を見に行かれてますか
昨年は50試合ぐらい見に行きまして。東都とかにも結構行ってるんで。今年もそれぐらいの数見れるようにしたいですね。でも、この間みたいに打たれちゃったりすると、ぬけぬけと神宮に行くこともできなくなってしまうので。抑えて見に行きたいなと思います。
――安田選手が今年1番注目しているアマチュアの選手は
自分はやっぱり高校野球も大好きですし、色々雑誌とかも読んでいるので、絞り切れないですけど。亜細亜大の山城投手(京平、4年)は、すごいピッチャーだなと思いますね。去年から見ていて1番好きなのは国学院大の飯田投手(真渚斗、4年)。去年から素晴らしいピッチングをされていますし。いっぱいいますよね。名前を出したらもうきりがないですね。
去年の秋のリベンジを

――早慶戦は安田選手にとってどのようなものですか
早慶戦は去年秋に敗戦投手になった苦い思い出があるので、その雪辱を果たしたいという気持ちが強いですね。渡辺憩(2年)にだけは絶対に打たれたくないと思っています。
――渡辺憩選手が対峙したい選手
中学からの友人なので、ちょっと打たれたくないですね。1番打たれたくない相手ですよね。あとは丸田(湊斗、2年)とかも仲が良いので。まだ対戦1回もないので、対戦したいなっていう気持ちもあります。
――早大の中での注目の選手は
伊藤樹さんでしょう。この間の試合はもう、樹さんに助けられた試合だったので。そもそも、今、全国のアマチュア野球で最も注目すべき選手は伊藤樹であると僕は思いますね。
――早慶戦への意気込みを
去年の秋のリベンジなので、任されたところで、自分のできる最高のパフォーマンスができるような準備を今からしていきたいなと思います。
ーーありがとうございました!
(取材、編集 富澤奈央、林田怜空)
◆安田虎汰郎(やすだ・こたろう)
2005(平17)年5月27日生まれ。176センチ。東京・日大三高出身。スポーツ科学部2年。自身の注目ポイントを「変化球何種類あるでしょう」と語る安田選手。新フォームから生み出される変化球にも注目です!