【連載】野球部 春季早慶戦直前特集『臙脂の誇り』 第10回 田和廉

特集中面

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 今季初先発初勝利を挙げながらも、序盤戦はやや不安定な登板が続いていた田和廉(教4=東京・早実)。それでも、チームが崖っぷちに立たされた明大3回戦では、リリーフエースとしての実力を発揮。相手を圧倒する本来の投球を取り戻した。伝統の一戦を前に、今季の投球、復活の要因、早慶戦への思いなどについて伺った。

※この取材は5月22日にオンラインで行われたものです。

まだまだスライダーにのびしろがある

――自己紹介をお願いいたします
 早稲田大学4年の田和廉です。出身校は早稲田実業です。

――ご自身の持ち味を教えてください
 力強い真っすぐと変化球を組み合わせた投球スタイルで、真っすぐでも変化球でも、両方で三振が奪えるところです。

――野球部で仲の良い選手はいらっしゃいますか
 投手陣は全体的に仲が良いんですけど、最近は越井颯一郎(スポ3=千葉・木更津総合)と一緒にいます。

――アンケートで黒﨑将太選手(文3=東京・国学院久我山)を推していらっしゃいましたが、黒﨑選手とはどのような関係性ですか
 寮に入ってからは寮生と関わることが増えたんですけど、黒﨑とは通いの時期、東伏見以外に住んでいる時期もあったので、その時に行き帰りの電車とかで一緒に帰ってましたね。

――黒﨑選手はどんな選手ですか
 高校時代、自分(早実)が春、夏と国学院久我山に負けたんですけど、その時のキャプテンで、その時から黒﨑の事は知っていました。大学入ってから1番初めに話したのも黒﨑ですし、高校時代からつながりがあったっていう意味では、ずっと西東京の時から切磋琢磨してきた選手です。

――以前参考にされていると話されていたマッカラーズjr.(アストロズ)が復帰しましたが、登板はご覧になりましたか
 見ました。厳しかったですね。フォームだったりアングルが似ているので参考にしているんですけど、この冬のブルペン映像を見る限りはすごくいいフォームでした。ただ、昔のような勢いがボールにないとも思いましたし、全盛期と比べるとやっぱり球の勢いは感じられなかったのが正直な感想です。ただ、復帰戦でもスライダーは流石でした。僕も似たようなアングルから投げていると思いますが、自分よりも勢いがあって曲がっていますし、まだまだ自分の中でもスライダーの伸びしろがあると思えた登板でしたね。

明大戦で本来のピッチングを取り戻せた

――ここからは今シーズンについて伺います。今季ここまでの投球を振り返っていかがですか
 まず東大戦では初先発して、自分の思い通りの投球ができなかった、2巡目、3巡目に自分から崩れてしまったっていうのがまず1つ。そこからリリーフに切り替わったんですけど、回の途中であったり、9回を任される場面で点を取られることが増えてしまいました。去年のようにはいかないことは分かっていましたが、その中でも結果を残さないといけませんでした。法政、立教戦での登板は不甲斐ないピッチング内容だったと思いますし、チームに迷惑をかけてしまったと思っています。立教1回戦が終わってから自分はベンチを外れたんですけど、監督に「もう1度リーグ戦で復活できるように頑張れ」と声をかけて頂いて、自分でも頑張らなければいけないと思っていました。明治戦は自分本来のピッチングが取り戻せたかなっていうふうに思っています。

――先ほどお話にもありましたが、東大戦では初先発初勝利を飾りました。内容はともかく、結果についてはどのように感じていらっしゃいますか
 内容はさっき話した通りとても悔しいものだったんですけど、六大学で1勝できた、先発として1勝できたっていうのは、自分の中での経験値としては良かったかなっていう風に思っています。

――立大戦では、かなりコントロールに苦労していた印象がありました。何か要因などはあったのでしょうか
 先頭打者を自分のエラーで出してしまったっていうことと、前の回もピンチの場面で登板してタイムリーを打たれて、自分の気持ちの面で焦りがあったのかなっていう風に思っています。投球フォームであったり、そういうところには不安はなかったので、もう心の、メンタルの問題でした。そこを立教戦が終わってから、ベンチから外れて取り戻すというか、自分にもう1度自信をつけるための練習を積んできたという感じですかね。

――その中で明大戦では1回戦、3回戦共にゼロで明大を抑え切りました
 吹っ切れたという感じも自分の中ではあったのかもしれないですけど、どちらかといえば、もうやらなきゃダメだなと。もう後がない状態だったので、これ以上チームに迷惑かけるわけにはいかない、そういう気持ちが強かったです。

――3回戦は佐宗翼選手(スポ1=石川・星稜)をピンチでリリーフする形となりました。登板時に考えていたことは
 先発の誇南(宮城誇南、スポ3=埼玉・浦和学院)が長い回を投げる展開になれば良かったんですけど、立教3回戦のように、投手をつないでつないでという展開は想定していました。なので、自分が後ろの方で待機するという考えはなくて、もう4回、5回から行ける準備をして、試合前からそういう気持ちでガンガンアップをしていました。佐宗はオープン戦でもしっかり左は抑えていたので、小宮山悟監督(平2教卒=千葉・芝浦工大柏)に信頼されて送り出された中で彼なりに一生懸命投げていましたし、その姿もモチベーションになりました。右バッターになったところで自分が行くっていうのも分かっていたというか、監督もそう考えていらっしゃったと思いますし、打順の巡りを見ながら準備をしていました。

――7回には満塁機を作られましたが、抑え切りました
 先頭が1番の田上選手(夏衣、明大2年)でしたが、田上選手は、昨年の全早明戦で大学入って初めてホームラン打たれた相手でした。その時以来で、対戦が2回目ということで、前回の悪いイメージを払拭するために絶対抑えようとは思っていたんですけど、とても良いバッターで、追い込んでから少し浮いたシンカーを1発で捉えられてしまいました。ただ、その時点では自分には立教戦のような焦りはなくて、しっかり1人1人抑えていこうという感じでしたね。もちろん展開が2点差で勝っていたっていうこともあると思うんですけど、守備のミスというか、野選が起きたり、レフトフライが落ちてしまっても落ち着いて投げることは出来ていましたね。幸運なことにも(打者走者が一塁走者を)追い越してアウトになってくれたので、明治の中でも多分焦りはあると思っていました。自分が本来の投球をすれば絶対に点を取られないっていう風にも思っていますし、野手の方々にも「今日調子いいからガンガン行け」っていう風に、6回終わってから7回始まる前にも言っていただいたので、抑える自信しかなかったです。

――これまで気迫を前面に出しながら投げる場面は少なかったかと思いますが、7回のピンチを抑えられた後は雄叫びをあげながらガッツポーズも見せました
 明治までの2週間も自分的には死ぬほど頑張ってきましたし、もうこれ以上点をやれないっていう、もうそこだけですね。チームを負けさせてるんで、これ以上そのチームメイトからの信頼を失うわけにはいかないと思っていましたし、同期に迷惑をかけていられないっていう思いがずっと強くて。そういう意味では、微力ながら明治戦でチームに貢献できたっていうところでガッツポーズが生まれたのかなっていう風に思います。

――試合の内容とは外れますが、田和選手の中でフライを上げさせることは狙っていらっしゃいますか
 明治打線をどう抑えるかっていうのはずっと考えていたんですけど、弱い外野フライを打たせたいとは考えていました。元々速いボールにも慣れていると思いますし、大きな変化球を投げるピッチャーも明治にはたくさんいるので、難しいタスクではありましたね。自分はシンカーの球速帯を下げて、打者のミートポイントを前にずらして、強くスイングしてもらった中で外野フライをもらいたいと思っていたので、結果的には落ちてしまいましたが、榊原選手(七斗、明大3年)の外野フライなんかは理想的でしたね。

――明大戦では、アウトハイへのストレートが少なかった印象があります
 去年からですけど、右にも左にも、あまりインコースに真っすぐを投げていませんでした。多分相手のデータの中でも外中心に攻めてくるだろうっていう分析をされているものだと思って、この冬、右バッター、左バッターともにインコースに攻める練習をして、インコースにもいけるっていうことが自分の強みにもなってきたので。打線で左が続く中で、外、外、になると張られてしまうので、もうほとんどインコースを攻めた感じですかね。カウント追い込む、追い込まない関係なく、ずっとインコース勝負っていうのは考えていました。

――打者の反応からは手応えを感じられましたか
 見逃しはあまり取れなかったんですけど、小島大河(明大4年)のサードフライであったりは、インコースまっすぐで押し切れたというか、良いバッターを自分のまっすぐで押し切れたことは1つ自信になりました。

自分のストレートは他とは違う

――ストレートで押し切れる要因は
 まずは自分のアングルがスリークオーターからサイド寄りで少し特殊なこと。あとはラプソードであったり、トラックマンみたいな機械で測る限りは、順回転の真っすぐ、回転効率でも100パーセントに近い真っすぐを投げることができているので、ボールの中心を捉えて弾けていると思っています。そこが100に近い状態でシュートしたり、伸びたり沈んだりする分には変化量も出ますし、自分の中ではOKです。ストレート自体が他の選手とは違うストレートですし、そこからスライダーであったり、シンカーも他に投げている人がいないボールだと思います。そこら辺の組み合わせも含めての武器だと思っています。

――東大戦以降、リリーフに移ってからも球速がついてこない状態が続いていました。先発から後ろに移ったことも含めて、調整の難しさはありましたか
 球速自体は、、、自分が思っているよりは出ていませんでしたね。立教戦では裏では多分出ていたので、その辺りから自分の中でストレートに、スピードという意味では自信は持つことができるようになりました。ただ、ストレートのコース、質の部分ではやっぱまだまだ本調子ではなかったので、そういう意味では、早明戦は自分が思ったようなまっすぐは結構投げられていましたね。

――出力、質ともに上がってきた
 沖縄であったり関西(遠征)で、越井や誇南が球速を2~3㌔更新しているのを見ていて、自分は全然出力が上がらず、140㌔中盤で止まっていた時期があったので、少し焦りはあったのかもしれません。ただ、自分の中でリーグ戦に入れば戻っていくだろうという自信はありました。リーグ戦の序盤戦に間に合わなかったと言えば間に合いませんでしたが、中盤あたりから出力の出し方っていうのはある程度思い出してきたと思います。

――明大戦では151㌔を球場表示で計測しました
 裏でも多分151だったと思います。早明戦は意外と球場表示と裏で測っていたのは大体一緒の数値でした。

――ここまでのベストボールを教えてください
 さっき挙げた小島を詰まらせたインコースのまっすぐと、(法大2回戦の)香西(一希、スポ3=福岡・九州国際大付)をリリーフして、松下歩叶(法大4年)に投げた初球のインコースまっすぐです。両方まっすぐなんですけど、左右の打者に理想の真っすぐが投げられたというか。冬に積んできたと言うのもありますけど。あともう1つ挙げるなら、明治戦の木本圭一(明大4年)のセンターフライですかね。

――今季はストレートに手応えを感じている
 変化球でカウントを整えることができていることが、勝負球でまっすぐを選べる、その選択肢につながってるのは大きいと思います。元々は真っすぐでファウルを取って、変化で仕留める打席が多かったんですけど、そこは両方できないとダメだとも思っていたので。

2連勝、それしかない

――ここからは早慶戦に向けて話を伺います。田和選手にとって早慶戦はどのような試合ですか
 一言で言うと何が起こるかわからない、今までのリーグ戦で起きなかったことが起きるのが早慶戦だと思っています。1年秋は慶応がリーグ戦で強くて、下馬評で見たら慶応が勝つと思われていたと思うんですけど、サヨナラ勝ち含めて2連勝でカードを取ったり、去年も自分たちが1勝すれば優勝という場面で2連敗してしまったカードもありました。そういう意味でも、実力以上のものを出せる事もありますし、逆もありますし。今までリーグ戦を通して見てきた試合では語れない何かがあると思っています。もちろん慶応さんも優勝がなくなったとしても、早稲田には負けられない、という思いでやってくると思いますし、自分たちもそういう気持ちで戦いに行きます。何が起こるか分からないからこそ、いつも以上に普段通りでいなければならない試合ですね。

――早慶戦で注目している選手は
 まずは広池浩成投手(慶大3年)。特に仲が良いとかではないんですけど、冬場、彼のインスタを見ていたので、そういう意味で期待というか楽しみです。明治戦では、広池投手が試合終わりで、自分たちが試合前アップしてるときに「田和さん期待してます」と声をかけていただいたので、法政とのカードではベンチを外れているんですけど、ケガでないことを祈るばかりですね。あとは上田太陽(慶大4年)。また高校時代の話なんですけど、多分打たれたと思うんですよ。久我山にはボコボコにされたので、そういう意味でもリベンジというか、久我山の選手には打たれたくないっていう気持ちが強いですね。

――早大の投手陣でこの選手に期待してほしいという選手がいらっしゃいましたらお願いいたします
 越井ですね。もともと一緒にできる時は一緒に練習していたんですけど、立教戦で外れてから、一緒に練習する機会は特になかったというか。時間別練習なので、授業の兼ね合いで自分と向き合って各自で練習する感じでしたし、その中でも彼が一生懸命やってる姿は見てきました。自分もまだ乗り越えてはいないと思っているんですけど、明治戦でいい結果がついてきたので、彼にも神宮で結果を出して、復活したと本人が結果で思えるようになると自分も嬉しいです。

――越井選手は今季、出力が上がっていた印象がありました。どのような点を意識して一緒に練習されていましたか
 元々フィジカル的には150㌔以上投げるポテンシャルは持っていたと思うので、本人が出力の出し方であったり、投げ方を模索していく中で、自分に合ったフォームを少しずつ見つけていったと思っています。特にプライオボールを投げる時の体のキレとかは上がってたのかなっていう印象があります。コントロールは本人も悩んでいる最中だとは思いますが、多分彼の1番の持ち味であるストレートが速くなったことは自信になっていると思います。制球が悪くなった印象も無かったですし、本人もそうなるとは思っていなかったと思うので、ここからどう調整していくか、早慶戦で投げてほしいですね。

――野手陣では
 期待してるのは清宮福太郎(社4=東京・早実)です。もちろん高校時代から(の同期)っていうのもありますし。リーグ戦で打席数がもらえてないっていうのも事実ですが、やっぱり1本打ってほしいですね。どうせ打つんだったらホームラン。早慶戦でホームランを打ってほしいですね。右の代打として期待されている部分は長打が打てるところだと思いますし、純粋なパワーとしてはチームでもトップクラスだと思います。

――早慶戦に向けて投手陣の陣容は
 今まで先発している樹(伊藤樹、スポ4=宮城・仙台育英)と誇南はチームの大黒柱です。このリーグ戦を通じて、リリーフで勝った試合はまだ無いですし、勝ちを潰した試合が何度かあったので、それを取り返すことはできないですけど、リリーフ陣がとにかく抑える試合にしたいです。樹と誇南に無理をさせないためにも、リリーフが抑えられるところを見せたいと思っているので、自分が引っ張っていきたいです。

――早慶戦での目標は
 チームとしてはもう2連勝です。それしかないですね。あとはまっすぐに手ごたえがあるので、マックス更新、153㌔を出したいですね。勝ちにこだわってこだわって、自分の球は後からついてくると思うので、とにかく勝てるようなピッチングをするのが目標です。

――法明戦の結果次第になりますが、早慶戦で優勝の可能性も残っています。意気込みをお願いいたします
 ピッチャー陣で勝つことがこのチーム始まった当初の目標でもあるんで、この春の集大成をピッチャー陣として見せれるように。もちろん先発が行けるとこまで行くっていうのが早稲田のスタイルなんで、樹と誇南が降りないことが早稲田のチームとしては1番良いと思うんですけど、もし降りた時にはリリーフからは点取れないなって思われるくらい慶応を圧倒できるように頑張ります。

ーーありがとうございました!

(取材、編集 林田怜空)

◆田和廉(たわ・れん)
2003(平15)年5月3日生まれ。183㌢、88㌔。東京都・早実高出身。教育学部4年。徐々に調子を取り戻してきた早稲田の守護神。全球種が決め球になり得る、圧倒的なボールの強度に注目です!