早慶戦前特集、第1回に登場するのは早大が誇る大黒柱・伊藤樹。昨季の躍進により周囲からの期待値も大きく上がった今秋だが、持ち前の能力の高さで結果を残し続けている。現時点で6勝、防御率1・19は共に東京六大学リーグ戦(リーグ戦)でトップの数字。早大のエースから東京六大学のエースへ駆け上がる右腕の境地に迫った。
※この取材は10月25日にオンラインで行われたものです。
どの変化球でもストライクが取れる
――ここまでのリーグ戦を振り返って率直にいかがですか
チームの状態も、僕の状態や結果も本当にいい感じについてきて、優勝目前まで来たのでいいかたちで来れているなと思います。
――立大1回戦では惜しくも完封を逃しましたが、悔しさなどありましたか
僕自身も苦しいところを耐えながら、完封の流れだったのでいけるかなと思ってたのですが。少し悔しかったです。
――初回に制球を乱す試合もありますが、立ち上がりの難しさは感じていますか
レベルが上がれば上がるほど立ち上がりが難しいという、野球界のセオリーみたいなのがあるんですけど、そこは今になってすごく難しさを感じているところではあります。
――試合の中で修正をしながら投げる感じでしょうか
もちろん最大限の準備をして初回に入っているのでそこに怠りとかはありませんが、やはり試合が始まって打者と対戦するとなると、難しさというのもあるので、修正しながらずっと投げているという感じです。
――明大戦は立ち上がりから好調でしたが、天王山ということで気持ちも一段と入っていましたか
先頭打者を出しているので完璧かというと、完璧とは言えないですけど、でも初回を0点に抑えられたというのはすごい大きいなという風に思います。
――春季に続いて明大から2勝を挙げたことは自信にもつながりましたか
本当に成長したなと思う部分の一つでもありますし、そういう一つの指標にしてもいいのではないかと思うくらいです。(明大は)やはりいい相手ですし1、2年生の時に苦い思いをしたチームでもあるので、この3年目になってドラフト1位で行く選手とかもいる中で勝ち切れたというのは、チームとしても個人としても本当にいい結果だと思います。
――法大3回戦では球数少なく打ち取っていましたが、球数を抑える工夫などされていましたか
あえて少なくするということはしていませんが、とにかくストライクゾーンでカウントをつくりながらという意識の中で、打者がどう合わせてくるかで球数の多い少ないは決まってくるかなと。でも少なくいけたということは選んでいるボールも良かったですし、相手もそれに反応してくれたことがそういう結果につながったのかなと思います。
――その中で奪三振は自己最多となっていますが、要因はどこだと思いますか
カウント運びをうまくできていることかなと思います。今季はどの変化球でもストライクが取れているような状態なので、そこが一番いいのではないかと思います。
――変化球に関しては夏にツーシームに挑戦していると伺いましたが、今のところはいかがですか
全く使ってないです。チェンジアップをその代わりにというか、もともと投げていましたが、その比率を高めて投げてホームランを打たれてはいますが、チェンジアップがあってこそのスプリットだったりとかもするのでそこは重宝しています。
――チェンジアップに関してはどのような経緯で使い始めましたか
今年投げてはいたのですが、使えるほどの球種ではないなという感じで。夏ぐらいからツーシームとチェンジアップとかを練習していく中で、チェンジアップの方がいいかなというのがありました。
――球数はすでに春の早慶戦前よりも多くなっていますが疲労などはいかがですか
思っているより投げれてしまっているので(笑)、逆に体力ついたのか。正直ここまで投げられると思っていない中で一試合一試合頑張ろうみたいなメンタルでいたので、いい結果も出ていますし、肩、肘に故障なく来れているのが一番いいかなと思います。
――球速アップのためにトレーニングを行っていますが、体重や体つきに変化はありますか
体つきが変わったなって感じです。写真とか見ても後ろ姿とかかなり違います。体重は増えてはいますが、それよりも筋力が上がったという感じです。
――リーグ断然トップの6勝という数字についてはいかがですか
春は3勝に終わって、7回とかまで投げて勝てずみたいな、勝ちを自分では取れずみたいなところがありましたが、今季8回までいけているので1イニングでも多く投げれていることは大事なんだなと思います。あと単純に野手の方が打ってくれるからこそ勝利もつくので、そこは本当に感謝したいですね。(通算)20勝という目標を掲げている中でこれだけ勝ちをつけられることは本当にありがたいことなので。
常にプレッシャーはあった
――順調に来ているように見えますが苦労などはありましたか
2年生の間はずっとおかしかったですし、3年生の夏も疲労感とケガをするのではないかという危惧してる部分もありました。練習量をちゃんと取りながら質を高めて、今季の開幕にギリギリ間に合ったなという感じです。開幕前はめっちゃ不安でしたね。求められる部分もより高くなりますし、当たり前の基準が高くなってしまったので。常にプレッシャーは感じています。僕がちゃんと投げられないと負けてしまう可能性が高いので、ケガとかも含めて絶対に離脱してはいけないし、自分のタイトルどうこうより、しっかりとゲームをつくっていかなきゃいけないという気持ちがすごく強かったです。
――小宮山悟監督(平2教卒=千葉・芝浦工大柏)からリーグ戦中に何か言葉をかけられましたか
そんなに声はかけられてないですけど、明大戦の時には「いいピッチングだった」という風に言っていただけて、素直にうれしかったです。他はあまり心配してないんだろうなという感じで、継投のタイミングも「まだいけるのか」みたいに言われて自分や、(捕手の)印出さん(印出太一主将、スポ4=愛知・中京大中京)で判断しているので、本当に選手を信じてやってくれてるなというのは感じます。
――早大に入り早くも約3年が経ちチームの大黒柱に成長しましたが、この3年間を振り返っていかがですか
よくここまで来たなというのは感じますね。1年生の頃のピッチングとか見ても、よくここからゲームをつくれるようなピッチャーになったなと感心しています。ここまで来れて安心というのもかなりあるので、秋終わってラスト1年間どれだけレベルを上げていけるかなというのが楽しみです。
――先日はプロ野球ドラフト会議にて二人の先輩が指名を受けましたが、どういったお気持ちでしたか
もうめちゃくちゃうれしかったですね。ここまで3年間一緒にやってきた人たちが、「プロの世界に行きたい」とずっとおっしゃられていて、行くことができてすごくうれしかったです。個人的には印出さんが指名されなかったのが、もどかしいというか悔しいなって。3年間バッテリーを組んできて何回も勝たせてもらいましたし、いろいろ勉強させてもらったので、なんとか行ってほしかった気持ちはあります。でも(印出さんは)大人な方なので、しっかりとやって2年後行くのではないかと思います。
――来年は指名される可能性がありますが、プロ野球に対する思いはありますか。
もういよいよだなという風に思いました。絶対行くぞと決めてきてるので、頑張って行きたいなと思います。
――何位で指名されたいとかありますか
それは1位で行きたいです。
みんなで日本一になりたい
――ここから早慶戦に関する質問になります。今の調子についてお聞かせください
体はかなり疲れているので、しっかりと疲労を取って早慶戦に向けて準備したいなと思っているところです。調子はそんなに悪くないので、この調子でいければいいですけど、この疲労感と2週間空くっていうところでちゃんとシビアに調整しなければなと思っています。
――最優秀防御率争いをしている慶大・渡辺和大投手(2年)との投げ合いが予想されますが
負けてられないですね。最優秀防御率を取りたいと思ってますし、取れると思ってやってきたので。加藤さん(加藤孝太郎、令6人卒=現JFE東日本)も3年の秋に取ってるので、加藤さんに負けてられないなと思っています。なんとか野手陣に打ってもらって取りたいですね。
――もし優勝となれば9年ぶりの秋春連覇で、それをエースとして達成することになりますが
もうめちゃくちゃうれしいですね。自分が大学に来た時は明大がずっと勝っているような状態だったので、そういう構図なんだなと思いながらだったのですが、3年目にして春秋連覇が目の前というところに来てすごくうれしいです。そこに深く関われているというのも、本当に誇らしく思えるなと感じます。
――印出選手とリーグ戦でバッテリーを組むのはこれが最後になります
もう3年目のバッテリーで、これは高校生でもなかなかないことだと思います。数々のピンチを切り抜けてきましたし、ああでもないこうでもないと言いながら練習してきたので、そういう人がいなくなってしまうのはすごく悲しいですが、最後楽しんで、優勝して終わりたいなという気持ちはみんなあると思います。なんとか勝って(明治)神宮大会に行きたいです。
――他にも4年生とは最後のリーグ戦となります
スタメンに出ている選手とかはあまり少ない方なのかなと思いますが、それでも3年間関わってきた方々なので、4年生と一緒に優勝したいという気持ちはありますし、できる限り長く野球をして日本一にみんなでなりたいなという風に思います。
――最後に早慶戦に向けて意気込みをお願いします
完全優勝というのを目標に掲げていますし、一戦必勝でしっかりと勝って神宮大会に行きたいなと思います。
――ありがとうございました!
(取材・編集 廣野一眞)
◆伊藤樹(いとう・たつき)
2003(平15)年8月24日生まれ。176センチ、82キロ。宮城・仙台育英高出身。スポーツ科学部3年。大学デビュー以来、ずっと印出選手とコンビを組んできた伊藤樹投手。二人の思い出で印象に残っているのは、1年の春季リーグ戦後に安部寮に入ったころのこと。寮で唯一の1年生だった伊藤樹投手を、印出選手が食事に連れて行ってくれたり、一緒にドライブに行ったりして面倒を見てくれたことだそうです!