【連載】秋季早慶戦直前特集『掉尾』【第8回】加藤孝太郎

特集中面

 2020年の東京六大学秋季リーグ戦(リーグ戦)以来、6季ぶりの優勝も見えてきた早大。優勝の鍵を握るのは、早大エースの加藤孝太郎(人4=茨城・下妻一)だ。今季は2勝にとどまるも、防御率は2.25でリーグ5位につけている。早慶戦での自身初勝利で、賜杯奪還なるか。ラストシーズンに向けた加藤の胸中に迫る。

※この取材は10月20日に行われたものです。

「自分のやれることを丁寧にやっていくことで結果が出ている」

明大1回戦でピンチを抑えガッツポーズをする加藤

――久々の優勝が見えてきましたが、現在の心境はいかがですか

 とにかく優勝が見えているので、早慶戦に向けて、しっかり状態を上げていこうと思っています。

――チームとして、今季のこれまでの試合を振り返ってみていかがですか

 明大戦で勝ち点を落として、優勝するためにはもう一敗もできないという状態からチームもよりまとまってきて、その中でしっかり2連勝で勝ち点を取れているので、状態はすごくいいなと思います。

――選手同士の雰囲気も良いですか

 そうですね。本当にチーム全員、一人一人に優勝したいという思いが相当あるので、 すごくいい雰囲気だと思います。

――明大戦の前は気合いを入れてやっていたというニュースもありました。今回も優勝の懸かった早慶戦ということで、普段と違った練習などはされているのでしょうか

 あまりないとは思いますが、やはり早慶戦2連勝すると優勝なので、そこに向けての準備や、やるべきことをもう一度丁寧にやっていこうという話は練習中からも出ています。

――今季のチームとしてのベストゲームはどの試合ですか

 立大1回戦です。自分が先発したのですが4失点して、最終回で1点差で負けていて。本当にもう負けられないというところで走者をためて、4年生の篠原(優、社4=東京・早大学院)の同点打、そして梅村(大和、教3=東京・早実)の適時打でサヨナラ勝ちできました。あの試合はチームの結束力が高まった試合だと思います。

――サヨナラ勝ちできた要因は何でしょうか

 本当に一人一人が最後まで諦めずにやっていった結果だと思います。

――試合後、篠原選手や梅村選手に声掛けされましたか

 もう本当にありがとうという風に言いました。

――ここから加藤選手ご自身について伺います。今季のご自身の投球に点数をつけるなら、何点になりますか

 50点ですね。

――理由を教えてください

 毎試合7回くらいまで投げて、ぱっとしない投球が自分の中ですごく多くて。自分の中で物足りなさというか、もう少し抑えられたんじゃないかという部分が今季はあるので、そのあたりが50点の理由です。

――そうした物足りなさはどういった点から生まれるのでしょうか

 一番大きいのは、今シーズンは序盤が不安定な試合が多い点です。そこが準備の部分なのか気持ちの部分なのかはまだ分からないのですが、自分の中では「初回だからちゃんと行こう」という気持ちが空回りしているような感覚はありますね。

――その点は試合を重ねるにつれて、改善していますか

 リーグ戦の最初の方は「初回だから打者に圧をかけていこう」というような思いが強かったです。ただ(直近の)法大戦では、圧はかけるのですがかけすぎないようなイメージで投げられているので、徐々に良くなっていると思います。

――今季はここまで5試合投げて、全試合でクオリティースタートを記録しているものの、2勝にとどまっています。この点についてはいかがですか

 1戦目に投げている以上、相手先発にもそのチームのエースが来るので、やはり簡単に点は取れません。ただこのリーグ戦を振り返ってみると、自分が相手に先制点を与えて、味方が同点に追い付いてくれて、といった試合が多いです。客観的に見たら援護点は少ないかもしれませんが、味方というよりは自分自身の問題なのかなと考えています。

――東大1回戦後のインタビューでは、球速を落としてコントロールを重視しているというお話がありました。この間の法大戦ではさらに球速を落としているように見えたのですが、よりコントロールを意識されたのでしょうか

 法大戦の前週の立大戦で左腕に打球が当たっていたので、法大戦では左腕がうまく使えない状態でした。 痛みの出ない範囲で左腕を使っていたので、自分の中ではそういった影響も少しあるのかなと思っています。

――打球が当たった後は一度ベンチに下がったものの、すぐにマウンドに戻っていた姿が印象的でした。実際はどういった状況だったのでしょうか

 初めてああいった形でライナーを食らったので痛かったですが、当たったのが確か3回とかだったので、ここで自分が折れると中継ぎだったり、明日の試合の継投だったりにすごく影響が出ると思いました。最低でも7回くらいまでは自分が頑張って投げて、次の日の試合を戦いやすくすることは意識していたので、当たった直後もマウンドを降りる考えはなかったです。

――試合後には齋藤正貴選手(商4=千葉・佐倉)にリュックを持ってもらう場面もありましたが、試合後も痛みは続いていましたか

 痛かったですね。

――どれくらいで痛みは回復されましたか

 法大戦の週は基本治療メインで、ずっとやれることをやっていました。今もまだ上げる箇所によっては痛みが出るので、そのあたりを早く直したいなと思います。

――どのような診断になっているのでしょうか

 自分の勝手なイメージですが、診断名をもらうとメンタル的に弱くなるような気がしていて。病院の方は行っていなくて、電気等で治療しています。

――今季ご自身の中で一番成長した、もしくは変わったと思うところはありますか

 今までは自分のことに精一杯で、まずは自分という感じでした。ただ最後のシーズンになって、特に投手に何か残したいという思いはすごくあります。

――その何かというのは、具体的にどういったものですか

 野球の技術的なもので何か伝えられるかと言うと、自分はそれほどの実力はないので、伝えられることは少ないのかもしれません。ただそれ以外の取り組みや考え方で伝えられることはすごくあると思うので、そういった部分を今季は意識しています。

「自分たちのやってきたことを信じて練習してきた成果が、このリーグ戦に全員出ている」

――今季の投球に関して伺います。今季特にうまく使えている球種はありますか

 今季はチェンジアップとカーブです。特にカーブがすごく良くなったと思います。

――良くなった点を具体的に教えてください

 今までカーブは緩くカウントを取る球だったのですが、 今季は三振を狙いに行って、三振が取れています。 投げた球の回転数や球速が分かるトラックマンというものがあるのですが、カーブだけ回転数が上がっているので、その点でもツーストライクに追い込んでから、決め球として使えるなと思っています。 実際、試合でも使えているので、カーブはすごく良くなったと思います。チェンジアップは今まで精度があまり良くなかったのですが、今シーズンはすごく簡単にカウントを取れています。

――その二つの球種をうまく使えた、今季印象的だった打席はありますか

 誰か忘れてしまったのですが、立大戦で左打者に対して、カーブで真ん中低めに三振を取った打席です。その時に「 あ、やっぱり今シーズンカーブいいんだな」と思って、法大戦でも追い込んでからカーブというような配球が増えました。

――配球の組み立ての最終的なゴールとしては三振を取ることなのか、それとも確実にアウトを取ることなのかなど、どういった方向を目指されていますか

 三振を取れるのがリスク的にもベストだと思いますが、バッターの特徴もあるので、個人的にはしっかりアウトを取る方を意識しています。

――立大1回戦では印出太一選手(スポ3=愛知・中京大中京)ではなく、栗田勇雅選手(スポ3=山梨学院)とバッテリーを組まれていました。印出選手と栗田選手とで、リードの印象は異なりますか

 そうですね。どちらもすごくいい部分があるのですが、やはり印出と栗田で違うかなと思います。栗田はその日の打者の反応を見て、その打者が待っていないような球種であれば続けることもあって、配球が上手な捕手だと思います。

――加藤選手は今季の2勝も合わせて、神宮球場での通算10勝まであと1勝としています。10勝は意識されてますか

 そこは意識していますね。やっぱり9勝と10勝だと何か違うなと思うので、何としても達成したいと思います。

――今季の投手陣には全体的に安定感がありますが、加藤選手から見て、投手陣の好調の要因は何ですか

 やっぱり春は投手陣が大量失点して負ける試合が多かったです。実際、夏のオープン戦でも何試合かそういった試合がありました。投手コーチの藤原(藤原尚哉学生コーチ、政経4=埼玉・早大本庄)を中心に、周りに何を言われようが自分たちのやってきたことを信じて練習してきた成果が、このリーグ戦に全員出ているのかなと思います。

――今季は1年生から4年生まで幅広い学年の投手が活躍されています。加藤選手から見て、特に成長した選手はいらっしゃいますか

 どの投手もすごく成長していると思うのですが、個人的には今4年生で、今シーズンから投げてる前田(前田浩太郎、スポ4=福岡工業)と澤村(澤村栄太郎、スポ4=早稲田佐賀)の二人かなと思っています。やっぱりあの二人の頑張りは下級生の頃からずっと見てきたので、そういった中で最後のシーズンに4年生の同期のあの二人が、ああいったかたちで神宮で投げて抑えている姿を見ると、自分のことのようにうれしいです。

――ここからは打線について伺います。今現在の打線の調子はいかがですか

 劣勢の状況でも同点に持ち込んで、最後逆転までいける打線だと思うので、状態もすごくいいのではないかなと思います。

――今現在、この打者が打席に立ったら安心できるような選手はいらっしゃいますか

 熊田(任洋副将、スポ4=愛知・東邦)ですかね。下級生の頃からずっと一緒にやってきて、お互い最後のシーズンを迎えて。やっぱり頼もしいですし、熊田だったら何かしてくれるんだろうなという雰囲気は今シーズンもすごく感じています。

――ここまでチームの7勝のうち、4勝が逆転勝利です。この勝負強さの理由はどこにあるのでしょうか

 練習から一球をおろそかにしないところですね。逆転する試合を見ていると、秋の早稲田はやっぱりこうでなければいけないなと思います。

――選手の中でも、秋の早大は違うぞという思いがあるのでしょうか

 そんな簡単には負けないというか。やっぱり最後は何としても天皇杯奪還をしたいので、劣勢の状況でも、このまま負ける感じではないなという雰囲気は試合中も感じていますね。

――加藤選手から見た同期、今の4年生はどういった代ですか

 自分たちの代はスポーツ推薦で入ってきたメンバーだけではなくて、付属や一般入試、指定校で来たいろいろな選手たちが下級生の頃から頑張ってきて、今試合に出ています。そういった面ではすごく個性の強い代なのではないかなと思います。

――そんな個性の強いチームメートと過ごした4年間はどういったものでしたか

 改めてこの早稲田大学の野球部に入ってすごく良かったなと思います。今後の人生でもこういった経験はなかなかできないと思うので、とにかく濃い4年間でした。

――4年間を通して印象に残っている試合はありますか

 やっぱり1年生の秋の、優勝したあの早慶戦ですね。入学前から早慶戦は特別だと聞いていましたが、実際グラウンドで早慶戦での優勝を体験して、これが本当の早慶戦なんだというのを知って、そこから自分の早稲田大学野球部人生はスタートしています。あの試合がなかったら今ほど優勝に対しての気持ちはなかったと思いますし、 そういった面でも、あの試合は自分にとってすごく印象的な試合です。

――先ほど副将の熊田選手について伺ったので、森田朝陽主将(社4=富山・高岡商)について教えてください。主将としての森田選手はどういった方ですか

 森田は本当に頼もしいキャプテンです。春は森田自身体調もすぐれない中で、グラウンド上では苦しい姿を周りには一切見せずに、チームのために声を出して頑張ってくれていました。その時期はチームとしてもやっぱり森田のためにという思いはありましたね。森田の存在はチームにおいてすごく大きいです。

――では小宮山悟監督(平2教卒=千葉・芝浦工大柏)は加藤選手にとってどういった指導者ですか

 もし監督が小宮山監督でなければ1年生の秋からベンチに入れさせてもらえなかったり、今1戦目に投げてますが、 こういった立場にもなれなかったんじゃないかと思っているので、自分にとってはすごく貴重な出会いです。早稲田大学野球部の話になった時、絶対に一番感謝をすべき人かなと思いますね。

――同じ投手の目線からアドバイスをいただくことはありましたか

 要所要所でアドバイスをいただいています。

――小宮山監督の教え方はいかがですか

 自分にはすごく合っていると思います。言われていることはすごく正しいことなので、教えていただいたことを自分の中で取り入れながらやっています。

――ドラフトが近づいてきましたが、やはり意識はされるものですか

 多少の意識はしてしまいますが、指名どうこうは自分にはもうどうすることもできないものだと思うので、リーグ戦でチームが優勝するための投球をしようというところを最近は意識しています。結局それがドラフト等につながってくると思います。

――今年は阪神に現役ドラフトで移籍した大竹耕太郎選手(平30スポ卒=現阪神)が活躍されましたが、どのようにご覧になっていましたか

 直接的な関わりはないですがやっぱり早稲田の先輩ということで、今年1年すごく見ていました。育成からああいったかたちではい上がられて、最高勝率のタイトルも最後まで争っていたので、本当にすごいなと思いました。

「みんなと一緒に優勝の瞬間を分かち合いたい」

東大1回戦で力投する加藤

――最後に、早慶戦に向けてお話を伺っていきたいと思います。
現時点での加藤選手自身の調子はいかがでしょうか

 今週はそんなにボールを投げていないのですが、コンディション的にはすごくいいです。

――コンディションがいいというのは、球速やコントロールの具合でしょうか

 そうですね。加えて体の張り具合も程良くて、 いい具合に早慶戦に向けて調整できているので、問題ないと思います。

――優勝の懸かった早慶戦を戦うにあたって、どういったところが鍵になると思いますか

 自分があの慶応打線を抑えて、1戦目を取ることが優勝の鍵だと思っています。

――1戦目の慶大先発には外丸東眞投手が予想されますが、どういった投手だと分析されていますか

 コントロールが良くて、テンポ良くどんな球種でもカウントが取れる投手だなと思います。

――事前アンケートの「慶大選手へ一言」では栗林泰三選手を指名されていました

 春の早慶1回戦で、初回に2点本塁打を初球で打たれているのでそのリベンジということと、栗林泰選手は三冠王もかかっていて、慶応打線のキーマンだと思っているので、そういった面で栗林泰選手を挙げさせていただきました。

――加藤選手にとっては今回が最後の早慶戦となりますが、その点についてはいかがですか

 1年生の秋、初めての早慶戦があの優勝した瞬間でした。そこから早いなという思いと、自分自身まだ早慶戦での勝利がなくて。早慶戦を投げるからにはやっぱり絶対に勝利したいので、何としても1戦目を抑えたいなと思います。

――加藤選手にとって早慶戦はどういったものですか

 早慶以外の大学では味わえない、特別な試合だと思います。プロも使う神宮球場で、 外野席がいっぱいになるほどお客さんが入った中での試合を学生でできるというのは、本当に限られた人しか経験することのできないものだと思います。

――最後に早慶戦の意気込みをお願いします

 4年間やってきたことが出る試合だと思いますし、この代で優勝したい思いは誰よりも強いです。自分たちの代のマネジャーである柴垣(柴垣敬太朗 マネジャー、法4=三国丘)、緑川(緑川悠希マネジャー、教4=東京・早大学院)で、あとは学生コーチの肥田(肥田尚弥学生コーチ、スポ4=大阪・早稲田摂陵)、そして投手コーチの藤原、その他の4年生…みんなと一緒に優勝の瞬間を分かち合いたいので、何としても2連勝で天皇杯を獲得したいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 荒井結月)

◆加藤孝太郎(かとう・こうたろう)

2001(平13)年11月20日生まれ。179センチ、77キロ。茨城県・下妻一高出身。人間科学部4年。投手。右投右打。週末にリーグ戦を控える週の木曜には、行きつけの定食屋さんで投手会をするという早大投手陣。最後に行われる一発芸の流れでは、締めを担当する澤村選手が、他の人が思いつかないような一発芸を披露してくださるそうです!