今季は先発投手として登板し、立大2回戦ではリーグ戦初の完投勝利を収めるなど、次期エース候補としての素質を見せている伊藤樹(スポ2=宮城・仙台育英)。現時点までの振り返りや春からの躍進の要因を伺った。
※この取材は10月20日にオンラインで行われたものです。
「自分のやれることを丁寧にやっていくことで結果が出ている」
立大1回戦で完投勝利を挙げた伊藤樹
――今季のチーム全体の戦いぶりを振り返っていかがですか
助け合ってここまで勝てているのかなと思っています。もちろん野手の調子が悪い時もありますし、投手陣が打たれてしまう時もあったのですが、最終的には明大戦の2敗だけで、それ以降は連勝していますし、野手、投手両方がかみ合った時は大差で勝っていますし、優勝争いに加われてきています。かみ合わなくても勝てるというのは野球の醍醐味(だいごみ)だと思っているので、そういう試合ができているということは良い状態なのかなと思います。
――春と比べて1、2年生が増えていると思いますが、どのように感じていますか
4学年でチームを編成しているので、明大や法大のように一学年で能力の高い選手が集まるわけではないので、1年生が出てきてさらに層が厚くなったと思います。2年生にもっと出てきてほしいという気持ちはありますが、石郷岡(石郷岡大成、社2=東京・早実)がベンチに入ったりもしていますし、下級生の力で4年生と一緒にという雰囲気がチームとしてあると思います。
――今季のご自身の投球に点数を付けるとしたら何点になりますか
80点くらいあげていいんじゃないかなと思います。理由としては1完投できたことと、3勝を挙げられたことは良い結果だと思います。足りない部分は、立教戦では完封できましたし、法大戦で2死から点を取られたり明大戦にリリーフで上がって点を取られたり、ちょっとしたところの詰めの甘さがあるところです。慶大戦ではそこが痛手にならないようにしたいと思っています。
――リーグ戦での先発登板は昨年秋の明大2回戦以来だったと思いますが、昨秋のリーグ戦を振り返るといかがですか
「勝ちたい」が先行してしまった試合かなと思っています。明大に勝たないと優勝はないですし、僕自身も初先発だったので、その中で長いイニングを投げて抑えて勝つという気持ちの面が先行してしまいました。気持ちと自分自身の力量やコントロールが足りなかったかなというところを感じていたので、それ以降先発する時の経験に生かせましたし、すごくいい経験だったと思います。
――当時と今では技術面やメンタル面でどのように違いますか
スキル面では変化球もコントロールももちろん今の方が良いです。「まっすぐの球速が落ちているよ」と周りからは言われるのですが、抑えられているのでそんなことは全然気にしていなくて、冬にかけてスケールアップしていければ良いと思っています。単純に投げ慣れてきたというのが個人的には大きなところです。夏の期間、先発として5回なら5回投げてゲームを作ったり、ブルペンで100球超練習してきたり、そういうところが一つ一つ試合の中で出てきています。9回130球投げてもそんなに疲れずに投げ切れたのはすごく自信になりました。スキルというよりもそういう慣れとか自信というところが良かったと思います。
――メンタルの成長が大きかったということですね
そうですね。すごく整理できているというか。僕自身、勝ちにすごく執着する人なので、勝ちたい気持ちが先行して自分の力量に合わないことをしようとしてしまうので、そうではなくて自分のやれることを丁寧にやっていくことで結果が出ていると思います。
――春の後半はロングリリーフもあったと思います
当時は肩が痛くて後ろを任せてもらえる力がなかったので、途中で使ってもらって、良い感じで抑えたからロングになっただけなんですよね。僕の状態が悪かっただけなので。仙台育英高がそういうところだったので、ロングリリーフには慣れていましたし、別に苦ではなく意外と投げられたので良かったです。
――最後抑えは厳しいが、いけるところまでいくというかたちですか
そうですね。田和(廉、教2=東京・早実)とかもいましたし、その時135キロくらいしか出なかったので。
――今季初登板は東大2回戦でしたが、先発登板を告げられたのはいつでしたか
1週間前くらいですかね。確定ではなくて2戦目に自分か越井(颯一朗、スポ1=千葉・木更津総合)がいくという状況で、もう少し近くなってから自分に決まったという感じです。
――だれから言われたのですか
学生コーチの藤原さん(藤原尚哉投手コーチ、政経4=埼玉・早大本庄)です。
――結果は5回2失点でしたが、振り返っていかがですか
全然良くなかったです。代打が出なかったら6回も投げていたので6回2失点と考えても正直物足りないです。納得のいく1勝ではなかったですが、チームが勝つことに意味があるので、勝って良かったなというのと、春は2戦目に大量失点して3戦目になるということが多くて2戦目が課題だったので、状態が悪くてもそうならなかっただけ良かったとは思います。
――明大戦は1回戦と3回戦でリリーフとして登板しました
1戦目はしっかり取りにいこうという話をしていた中で抑えられて、3戦目は負けている展開で出て1点取られて0対2で負けました。リリーフのできることは、3人でテンポよく抑えて攻撃に流れを持ってくることだと思うので、そこができなかったというのが悔しい部分です。0対1のままいっていたらもしかしたら、というのを考えるともったいない1点だったと思います。
――2戦目で先発しなかったのはなぜですか
素直に投げたかった気持ちはあるのですが、2戦目は継投で目線を変えながらいくというのはずっと決まっていたらしいです。
――もしリードしていたら伊藤選手が登板していたのでしょうか
そうですね。そういう展開を望んでいたのだと思いますが、なかなかそうならず、リードされたままだったので。
――立大戦では無四球で完投しましたが、無四球で投げ切れた要因はどういったところですか
無四球でいけたというところに関しては、すごい成長だと思います。もちろんいろいろなことがかみ合っての無四球だったのですごくうれしいです。できた要因としては、自分のコントロール、その日の状態が良かったというのと、印出さん(印出太一、スポ3=愛知・中京大中京)との配球がすごくかみ合っていました。入念にデータも入れましたし、「こうやって攻めよう」「こうなったらこうしよう」というふうにしっかりとミーティングをして臨んで、思い通りに進みました。1点は取られましたが、あれは理想でしかないので、あの投球がいつでもできれば良いのですが、その理想的なかたちを一度作れたという点で深い試合だったと思います。
――三振も10個奪いましたが、そこに関してはいかがですか
三振10個はたまたまじゃないですかね。三振取ろうと思って投げていないですし、「こういうふうに打ち取ろう」と思って投げる中で良いところにボールが決まって空振りした、というだけだと思います。
――法大戦では5四球ながらも7回125球を投げました
基本、四球が出るのは仕方ないと割り切って、ランナー出た後にどうするかを考えながら投げたことが7回1失点につながったと思います。
――法大戦は打撃でも活躍していましたが、いかがですか
振ったら当たったという感じですけどね(笑)。自分が振ったら当たりそうなコースとボールを待って、そこに向かったバットを出したらヒットゾーンに飛んだのが2打席目。レフト横に飛んだのは、センスですかね(笑)。変化球だけを待ってさばこうと思っていたら、ちょうど良いところにいきました。
「ドラフト1位になるために大学に来た」
――夏に練習したことに生きたなと思うところはありますか
とにかくブルペンで投げたことだと思います。繰り返し繰り返し、球速を気にせずコントロールの精度を確かめながら投げたことが(結果に)つながったと思います。
――昨年と比べると球速は落ちている印象はある一方で、後半になってからの球速の落ちはない印象があります。ストレートに関してどういった意識を持っているのですか
賛否両論あると思うのですが、昨年みたいに球速をガツンと出していこうと思えばたぶん150キロくらいは出ると思います。球速を出すために体を作ったりフォームを変えたりすれば、投げられることは投げられると思います。「それを持って先発をして長いイニングを投げることが大事なんじゃないのか、プロに進む時に大事なんじゃないのか」と言われるかもしれないのですが、コントロールだと思ったので。コントロールを意識して長い回を投げることを考えた時に、長く投げるということは失点が限りなく少ない。球数も限りなく少ない状態だからこそ、長く投げられると考えた時に、1回出し切って150キロで抑えましたとなると、三振も増えると思うので、その分球数も増えるので、150キロ近い球を続けて投げていくことで、ボールの(質の)波が下がっていくのが80球くらいの時。だいたい6回、7回で捉えられるというケースが今の状態では目に見えていました。なので、9回投げ切ることを考えた時に、スピードを落としてコントロールを高められる最大出力くらいで投げ込んでいって、そのくらいの体力を付けていくことをこの秋は第一優先にしたので、成功したと思います。
――2段モーションをやめたという点に関しても、コントロールを磨くためのフォーム変更だったのでしょうか
コントロールを良くするということは再現性を高めるということなので。フォームの再現性をとにかく高めるために動きを最小限にすることが大事だったので、こだわりを持っていたワインドアップを無くして、こだわりを捨てて、秋に挑みました。結構強い気持ちを持って投げているので、3勝できて良かったなと安心しています。
――変化球についてですが、ウイニングショットとしてスライダーと、空振りを取っているボールでシンカー方向に沈むボールがあると思います。少し沈むツーシーム系のボール、左の外に逃げていくボールなど何種類かあると思うのですが、あれは何ですか
スライダーは全然投げていなくて、全部カットボールをなげているんですよね。映像だとスライダーっぽく見えているので、スプリット投げているのにスライダーと言われたり、カットボールを投げているのにスライダーと言われたりしていますが、スライダーの割合はたぶん5パーセントもないと思います。今季から右打者の内側にスプリットを投げていて、それは多少シンカー気味に落としたりとかまっすぐ落としたりして投げています。縫い目をちょっと深くしたり浅くしたり変えています少し動きや高さ、球速を変えたりしていますが、一種類のボールです。
――球速やワインドアップを捨てた時期やきっかけを教えてください
夏に青学大と試合があって、僕が先発して5回無失点だったのですが、その1、2週間前くらいに登板が決まって絶対に成績を残したいなと思ったんですよ。現状のままワインドアップをしながら投げるのと、秋に向けて一発勝負を懸けて結果を残すことを考えて、チャレンジしたいなと思いました。春までやってきたことを捨てて、チャレンジして結果が出たらそのまま進んでいこうと思って、全部こだわりを捨てました。その1週間弱でできるところまで仕上げて、青学大に挑んで、良かったので、そのまま継続しました。
――それ以前から侍ジャパンの合宿に呼ばれるなどの成績は出ていましたが、さらにもう一段階伸ばしたいという思いがあったということですか
「この時めっちゃ良かったよな」というような全盛期みたいなものを作りたくなくて。僕、高校生の時からずっとフォームを変えているんですよ。自分の活躍したいところはプロなので、プロで活躍する時にベストが出せるように。「ここでもう最終形態です」と思って、これをやり切っていきましょうというところを、高校大学で見つけたい。球速が出るとかコントロールが良いとか、何が抑えられる要因なのか分からないので、自分に本当に合うフォームで一番抑えられるものを見つけたい。それをとことん実験しながらでも結果を出せるくらいの力量がないと、プロで活躍できないと思っているので、ずっと変化を求めているという感じです。
――この秋先発で勝負したいという思いは強かったのでしょうか
監督からも「この秋からがスタート」と言われたので。監督とは3年生の時に成績を残してプロに目をつけてもらうというシナリオを描いていて、その前の弾みをつけるためにこの秋が大事だと言われました。自分もそうだと思っていましたし、監督から言われたらやるしかないと思ってやっています。
――大学4年間で描いているキャリアプランの中で、第一の目標はドラフト1位なのでしょうか
そうですね。ドラフト1位になるために大学に来たので、そこを曲げてはいけないですし、競合するレベルにならないといけないと思っています。もちろんドラフト1位で入って、活躍することが目標で、そのための下積みだと思っているので、一つ一つ変化を加えながら、結果を出しながら4年間やりたいと思っています。
――リーグ戦を戦う中で、立大の田中祥都選手、吉野蓮選手、法大の古川翼選手など、仙台育英高でチームメートだった選手と戦うことが多かったと思いますが、振り返っていかがですか
同じ高校の選手がいるというのはすごく刺激になりますし、うれしいです。特に絶対に打たれたくないなと思って投げたとか、そういうことはないです。一打者として、一投手として見ただけなので、特に強い関心はないです。
――最優秀防御率を目標にしていましたが、現在リーグ3位につけています。どのように捉えていますか
全部無駄な失点なので、余裕で1位いけたなと思っているのですが、いい位置につけていて、早慶戦で外丸(外丸東眞)を打ってもらって、(自分が)抑えて、優勝しながら最優秀防御率を取るという道は見えているので、自分が頑張れればいいと思います。
――先発した試合ではいずれも勝ち投手になっていますが、どのように受け止めていますか
僕が投げた試合で野手が打ってくれているので、それのおかげで勝ちもついています。ファインプレーが出たりそういったところでも助けてもらっているので、すごく野手の方々に感謝しています。夏からやってきたことが出ているということは、すごくやってきて良かったなと思います。
「2試合とも投げてぶっちぎりで勝ってやりたい」
東大2回戦で力投する伊藤樹
――今の調子はいかがですか
あと1週間あるので調整します。
――練習の消化具合はいかがですか
今までやってきたものと、今やった方がいいものを組み合わせながらできているので、問題はないかなと思います。
――今までのリーグ戦とはイニング数や球数が違うと思うのですが、疲れはありますか
リリーフとは全然違う体と精神面の疲れがあるので、2年秋で投げられて良かったなというのは思います。すごく疲れますし、体も痛くなるので。ケガにつながるほどの痛さがあるわけでないので、いい感じで投げられていると思います。
――今のところ、手応えは感じていますか
順風満帆とはいかないですが、今のところは自分の立てたルートの通りに来られていて、それ以上もそれ以下もいっていないので、ちょうど良いペースかなと思います。
――早慶戦まではどのような練習に取り組んでいきますか
慶大打線がすごくのっているので、それに合わせた投球ができるようにトレーニングとコンディションを合わせることを大事にしていきたいです。
――慶大では外丸東眞投手が大黒柱になっています。同学年で仲も良いとのことですが、外丸選手の今季の活躍をどのように見ていますか
いやあ、いいピッチャーですよね、やっぱり。明大に96球で完投したのを見ていましたが、コントロールもそうですし、間合いが上手です。勝てるピッチャーは投げるタイミングやボールの選択の間が良くて。本人も言っていますがピンチで球速が上がったりするピッチャーではなくて、9回を淡々と投げていますが、僕はピンチになっても淡々と、というのができないので、外丸はいいスタイルを持っていますし、いい投手だなと思います。
――慶大打線の印象はいかがですか
みんなちゃんと仕事をしてくるなという印象です。パワーやスイングスピードや点差を見ると派手なものはありますが、取れるところでバットを短く持って点を取ってきたり、ダメ押しで三塁打が出たりとか、役割が徹底されている感じが好調の要因なのかなと踏んでいます。それをくみ取ることができれば、あらかじめ対策はできるので、怖いですが、しっかりと対策すれば大丈夫かなと思います。
――入学後初めて、優勝の懸かった早慶戦だと思います。意気込みをお願いします。
楽しみな部分と、本当に優勝したいなと。負けることが本当に嫌いですし、勝つことに本当に執着しているので、2試合とも投げてぶっちぎりで勝ってやりたいなという気持ちでいます。どういう起用になるかは分からないですが、とにかく2勝して勝ち点を取れば文句なしの優勝なので、楽しみだなと思いながら、絶対に勝ってやろうと思っています。
――ありがとうございました!
(取材・編集 星野有哉)
◆伊藤樹(いとう・たつき)
2003(平15)年8月24日生まれ。177センチ、83キロ。宮城・仙台育英高出身。スポーツ科学部2年。投手。右投右打。最優秀防御率を争う慶大・外丸東眞選手に「ちょっとは打たれろよ」とLINEしたという伊藤樹選手。直後の明大戦で外丸選手は2戦合計18回2失点の投球を見せ、逆に差が開く結果に。仲の良いライバルへの対抗心に燃える、伊藤樹選手の早慶戦での逆転に期待です!