主将としての覚悟と勝利への執念
2024年度東京六大学春季リーグ戦(春季リーグ戦)「完全優勝」を成し遂げた準硬式野球部。そのチームを率いていたのが、主将の久保嶋真也(社4=神奈川・桐蔭学園)だ。幼少期から高校まで軟式野球を経験し、時には強豪校で厳しい練習を積みながら競技を続けてきた。そんな久保嶋が大学進学とともに準硬式野球に出会い、そして、今年度主将としてチームを率いるまでに至った道のりを振り返る。
幼少期から父の影響を受け、野球に親しんできた久保嶋。地元のソフトボールチームに小学校入学前から所属し、以来中学進学まで、同じチームで競技を続けた。中学は桐蔭学園中等部に進学し、軟式野球部に所属。3学年で100人近くの部員が在籍する強豪チームで、「練習試合で不甲斐ない試合をすると1時間ぶっ続けのインターバル走があったり、春の大会に負けると120本以上の短ダッシュトレーニングがありました」と当時を振り返り、久保嶋はハードな練習を積んでいた。その練習の成果もあり、横浜市大会優勝や神奈川県大会3位、関東近県大会入賞などの好成績を収める。高等部へ進学後も、同じく軟式野球を続け、中高6年間を通して軟式野球に打ち込んだ。
浪人を経て早大に進学した久保嶋。準硬式野球との出会いは、浪人時代に中高の同期が慶大の準硬式野球部でプレーしていることを知ったことだった。話を聞くうちに自らもプレーしたいという気持ちが芽生え、「大学でも野球を続けたい」、「やるからには体育会として真剣に競技に向き合いたい」という思いから、それまでプレーしていた軟式野球を離れ、全国制覇を目標に掲げる準硬式野球部への入部を決めた。

引退試合で打席に立つ久保嶋
部活動が始まり、1年生でも少しずつ出場機会を得ていた久保嶋だったが、戦力として試合に出場し始めたのは2年生の春だった。同じポジションであるサードの先輩がケガで欠場したことをきっかけに、出場機会を増やす。当時については「いつ替えられるか分からないという危機感があった。ずっとがむしゃらにプレーしていました」と振り返る。そんな中、見事に活躍を示した久保嶋は、スタメン獲得のチャンスを逃さずその座を掴み取った。特に印象に残っていると話したのは、2年生春の立大戦。途中出場での4打席目に右越え本塁打を放ち、存在感を示した。
「それまで練習ではホームラン性の打球をかなり打っていたのですが、練習試合や公式戦以外では全く打てず、実力を発揮できていませんでした。そういう中でのこの1本だったので、努力が報われたと実感しました」。
この試合での本塁打が久保嶋にとっての転機となり、以降の出場機会や成績にも自信が現れるようになった。
一方で、2年生の夏以降はケガの影響で試合に出られなかったり、テーピングをまきながらのギリギリでの出場が続いたりと、万全な状態でプレーができない状況が続く。そんな中、3年生の春も調子を落として打順が下がり、十分な結果を残せないこともあった。調子を取り戻していったのは3年生の秋季リーグ戦。「きれいなヒットではないけれど、詰まったあたりがギリギリ落ちて、ヒットになってくれました」。この1打が出たことで肩の荷がおり、徐々に調子を取り戻していった。

春季リーグ戦立大戦で二打席連続本塁打を放った久保嶋
打撃不信を乗り越え、4年生になった久保嶋は、自ら主将に立候補する。その理由は「とにかく勝ちたい」という自分の熱い思いを周りに伝播させていきたかったから。そして久保嶋は最終的に仲間からの信頼を受け、主将に選出された。就任後は「野球に費やす時間と努力は誰よりも自分が出せる状態になっていた」と自負し、主将として部員一人ひとりに丁寧な声かけや指導を実践した。守備のミスをなくし、どんな局面でも1点を取れる自立力を目指す組織作りを意識し、チーム全体で結果を残すため、細かい部分の積み重ねに注力した。
その努力が実を結んだと言える春季リーグ戦での完全優勝。その瞬間は、久保嶋にとって大きな達成感と自信をもたらした。新チーム発足後初の公式戦であった関東大会では悔しい敗戦を喫したが、その経験があったからこそチーム全体の士気が高まったと振り返る。完全優勝を決めた立大戦は、9回表に久保嶋の2点本塁打で、逆転に成功。しかしその裏、勝利目前で立大に同点を許し、延長戦にもつれ込む大接戦だった。そして延長10回表、またも試合を決めたのは久保嶋の本塁打だった。フルカウントから低めの球を力強く打って打球がライトスタンドに入り、3点を追加。この3点が決勝点となり、早大は試合を制した。9回、10回の自らの本塁打で勝利を手繰り寄せ、手にした完全優勝という冠は「ひたむきに努力すれば結果に反映される」という信念を確かなものにした。

春季リーグ戦完全優勝を決め、マウンドに集まる選手たち
引退を迎えた久保嶋は、「自らの代で達成できなかった全国制覇という大きな目標を、後輩たちには成し遂げてほしい」と熱く語る。自身が主将を務めてチームを率いた1年間が、後輩たちの未来への糧となることを願い、また、卒業後は自らもコーチやOBとして準硬式野球部に関わり続けたいという意向を示した。「自分自身が成長できた環境であったこの部活動への感謝の気持ちを後輩たちに返し、彼らがさらなる高みを目指せるようサポートしていきたい」と今後について語った。
久保嶋にとって準硬式野球とは、単なる競技ではなく、仲間との絆や努力の大切さを学んだ成長の場。新たなステージに踏み出す今、そこで得た全ての経験を糧に、人としての成長を続ける決意を新たにする。
(記事 濵嶋彩加 写真 濵嶋彩加、権藤彩乃)