勝利を超える、己との戦い
2024年度合気道部主将を務めた原野剛成(政経4=東京・国際)。原野の早大での4年間は、単に試合に勝つことだけを目指すのではなく、己との戦いに挑む日々であった。厳しい学業や多忙な活動の中で、どのように彼自身の内面が磨かれ、真の成長を遂げたのか。「勝利を超える、己との戦い」というタイトルのもと、原野主将が歩んできた挑戦と、そこで得た熱い思いを紐解いていく。
原野が合気道に出会ったのは小学生の頃のことだった。長年合気道を続けていた父の影響で、一緒に道場に通い始めた。しかしその後、野球を始めると、一度は道場を辞めて野球に専念する。そして再び、大学入学を機に合気道と向き合うことになった。大学入学以前からサークルではなく「日本の武道に関わることを体育会でやりたい」、「やるからには学生チャンピオンになりたい」という思いがあった原野。その中で合気道部と出会い、先輩たちが真面目に稽古に取り組む姿を見て「ここでなら自分の大学生活を充実させられる」と感じ、合気道部の入部を決意した。

全国大会で乱取りを行う原野
幕が開けた原野の大学生活は、合気道での活動だけではなく、法学部の学業、模擬裁判サークルでの活動、さらには公務員試験の対策といった多方面の両立に挑戦した毎日だった。「部活は毎日、午後から夜遅くまで稽古があり、模擬裁判やゼミ、サークル活動との両立は本当に大変でした」と当時を振り返る。それでも厳しい日々の中で、時間の使い方や気持ちの切り替えを意識し、自分と向き合い続けた原野。自己管理を徹底し、その挑戦を投げ出さずやり遂げる姿には、原野のストイックさが伺えた。
部員のうち、初心者が9割ほどという合気道部。試合に出られるようになるのは2、3年生になってから。入部した1年生は、最初の半年はひたすら受け身だけを練習を積み、平均すると演武であれば2年生、乱取りであれば3年生になってから試合出場がかなうという。昨年末に行われた引退試合の早慶戦では、圧倒的な強さを見せていた原野も、「入部当初は全く戦力にならなかった」と振り返る。原野が初めて乱取りの試合に出場したのは2年生の秋、当時の4年生が引退してからだった。原野が活動を続ける中で、特に影響を受けたと話したのが、主将も務めた原野の2つ上の先輩。2人1組で行う演武で一緒に組んでいた先輩だった。早大合気道部は1つの演武を1年かけて完成させるため、その先輩とは1対1で練習を積んだ。多くの技術をその先輩から受け継いだだけではなく、主将として人一倍稽古をして背中で引っ張っていく先輩の姿は、一つ、原野にとっても目標になった。

早慶戦で演武を行う原野
迎えたラストイヤー。原野は主将に就任する。3年時にも副将を務めていたものの、11月の全国大会には前の大会でのケガの影響で自らは出場出来ず、早大は乱取り団体戦で優勝を逃した。しかしその負けが、ラストイヤーで主将を務めるにあたっては、勝利への強い執念につながったとも振り返る。そして、リベンジを胸に迎えた4年生の全国大会。結果はこれ以上ないものになった。団体、個人の部、それぞれ男女ともに優勝を飾り、演武でも原野のペアが優勝を飾った。さらに12月の引退試合、早慶戦でも連覇を達成。4年間の厳しい練習、そして何度も迎えた試合や大会。ラストイヤーの結果は、原野の努力が身を結ぶものであり、大きな喜びとなった。
しかし、原野にとって印象深かったのは、単なる結果ではなかった。部員全員が一つの目標に向かい、互いに切磋琢磨した日々こそが、本当の価値だと彼は語る。合気道の魅力は、「自分より大きな相手を倒す」という技術面だけでなく、その根底にある精神性にある。「合気道が教えてくれたのは、相手の力にただ逆らうのではなく、無心無構えで自然体でいること。これは単なる勝敗を超え、人として真に成長するための大切な教えだ」と原野は力強く語った。
「合気道部はライバル校が多く存在するわけではなく、稽古の目的を単に試合に勝つことだけに定めると、どうしても途中で妥協してしまう構造がある」。
だからこそ、原野は今年のテーマの1つとして、試合の勝敗以外にも稽古の意義を置き、後輩たちに伝えてきた。技術向上のみならず、稽古を通じて「自分に妥協しない」「臆病にならず、弱い自分を少しでも変えられるように」といった自己鍛錬の精神を養ってほしいと願っている。勝つことだけが目的ではなく、己との戦いに打ち勝ち、真の成長を遂げてほしいというメッセージを残した。

早慶戦優勝カップを受け取る原野
「早慶戦が終わった瞬間、肩にかかっていた重荷が一気に降りたような解放感を覚えました。結果だけではなく、仲間と共に味わった苦楽の日々こそが、これからの人生の大きな糧になると実感しています」。
社会人としての新たなステージに踏み出すにあたり、原野は「自然体であり続ける」こと、そして「自分の芯を持ちながらも、飾らずに生きる」ことを目標に挙げ、さらに「これからは新しく社会人生活が始まり、将来は海外にもチャレンジします。合気道で培った努力と精神は、必ず自分の未来に活かせるはずです」と、新たな挑戦に向けた決意も続けた。今、卒業を迎えた原野の歩みは、多忙な日々の中で己と向き合い、努力し、成長してきた証そのものである。原野が新たな一歩を踏み出すその姿は、後輩たちにとっても大きな励みとなるだろう。
(記事・写真 濵嶋彩加)