チームを支える仕事
どの大学スポーツにも、選手やチームを支える役割は欠かせない。早大ヨット部の吉本優紀(スポ4=東京・西)は、練習中のアクシデントをきっかけに選手からマネジャーに転身した。昨秋には日本一に輝いたチームを献身的に支えた日々を追う。

早慶戦後に集合写真に納まる吉本(写真左から1番目)と4年生
「優勝した時は、ほっとしたのが一番。
昨年11月、江ノ島ヨットハーバーで行われた全日本大学選手権(全日本インカレ)。吉本は、レースの行方を応援艇から見守った。「努力が報われてほしいという思いだけだった」と、史上初の5年連続日本一に挑んだ1年。「支える仕事」を全うした日々は、最高のかたちで結実した。
高校時代は剣道部。大学では新しい環境を求め、「4年間で何か一つのことを成し遂げたい」と早大体育会の門を叩いた。その前年、ヨット部は2年ぶりに日本一を奪還。部員の半数は大学から競技を始めていたと知り、「自分も強いチームでやりたい」と思い切った。
ただ、毎年のように日本一を目指すチームの練習は甘くない。「雨でも風でも船を出すのか」と、初めはその練習量に圧倒された。それでも必死についていくと、その成果は少しずつ結果に。2年次の関東個人選手権では、1学年上の石川和歩氏(令5スポ卒)と組んで6位に入賞。団体戦のメンバーに入ることが目標だった。
ところが3年の春、あるアクシデントがきっかけでヨットに乗れなくなった。練習中に転覆し、海中で浮いたロープが身体に掛かったという。身動きが取れず、「海に引きずられる感覚」がこびり付いた。当時はどうしても、海に向かおうとは思えなかった。
それでも、「やるからには4年間、絶対にこの部活動を続ける」と入部の際に決めていた。海を離れてより実感したのは、毎週のようにヨットに乗れる環境の貴重さ。自身を気に掛け、仕事を代わってくれる同期もいた。恵まれた縁を手放そうとは思わず、「このチームで日本一を目指す」とマネジャーへの転身を決めた。
マネジャーの主な役割は、「水上で選手の情報をキャッチし、課題を陸に持ち帰ること」。試合では応援艇でレースの点数を計算し、陸にいる部員に状況を知らせる。選手のサポートも重要な仕事で、特にケアしようと心掛けたのは精神面。「見守る側が暗いムードではいけない」と、常に前向きな言葉を掛け続けた。ペットボトルを渡すタイミングひとつにも不快感がないよう気を配り、選手として試合に臨んだ経験を最大限に生かした。
やりがい、支えがいも見つけた。練習やミーティングの充足感から、感謝を直接伝えてくれる選手がいた。4年次には、全日本インカレを運営する学連の委員長に。大会のスポンサー募集や記念品作りはOBに相談しながら試行錯誤を重ね、最後の1ヶ月は休む暇がなかった。
「チームのために思考し、実行し、努力することの大切さ」。本気で日本一を目指した4年間で学んだことだ。「支える仕事」に出会い、自分に何ができるか考え続けた日々が「自分もまだまだ成長できる」と気づかせてくれた。
今後は社会人として踏み出す。「いつかまた、ヨットにも関わることができたら」。凪のような心柄と強い意志で、これからも自分の道を切り開く。
(記事・写真 太田さくら)