「このチームが好きだから」
2024年度男子ホッケー部主将を務めた保坂航希(政経4=東京・早大学院)。引退試合となった早慶戦、最後のホイッスルが鳴った瞬間に崩れ落ちた主将は、誰よりもチームを信じて戦い抜いた男だった。「自分にとっての1番は、仲間を信頼すること」。そう語る保坂にとって、仲間とともに戦い続けた早大での4年間、そして主将として見たラストイヤーの景色とはーー。
保坂がホッケーに出会ったのは高校生の時。中学までやっていたサッカーを辞めて心機一転、「新しいスポーツを始めよう」と思い、ホッケー部の扉を叩いた。だからこそ、入部の時点で全員が初心者だったというのは、保坂にとって大きな魅力の1つ。また、偶然にも、ホッケーとサッカーには多くの共通点があり、11人で戦う点や各ポジションの役割など、サッカー経験が生かされることも多かった。
高校でホッケーを始めた当初、大学入学後も競技を続けることは一切考えていなかったという保坂。しかし、その考えが変わったのは新型コロナウイルスが蔓延した高校3年生からだったと振り返る。当時は自らが通っていた早大学院から入部する選手が多いわけではなく、小さい頃からホッケー経験を積んできた強豪校出身の選手が多かったため、大学のホッケー部は高レベルであるという印象が強かった。それでも「高校ではやりきれなかったことがたくさんある」。そう判断した保坂は、悩みながらも大学でのホッケー部入部を決断する。

ボールを運ぶ保坂
いざ入部してみると、保坂の想像通り、大学ホッケーの世界は厳しかった。部員1人1人の熱量が高く、1回1回の練習に懸ける思い、取り組み方、全てのレベルが高次元に存在した。
「入部した時は部員数が多くて、試合に出るというのがまず自分の中で大きな目標でした。でもそれ以前にベンチに入ることもできてなかったので、まずはベンチに入ろうという思いでいました」。
「まずはベンチ入りを」。そう目指していた当時の保坂にとって、ターニングポイントになったと振り返るのは2年生に進級するタイミング。4年生が引退して新体制へ移行する中で、「試合に出るためには何をすべきか」ーー保坂は真剣に考え、練習に打ち込んだ。そしてその努力の末、少しずつ試合の出場機会を増やし、気がつけばチームの中心選手になっていった。
そして迎えた4年生。保坂は主将就任が決まった。「入部した時は主将をすることになるなんて思いもしなかった」。最初は戸惑いがありながらも、掲げた目標は春リーグ上位進出、インカレでのベスト更新、早慶戦の単独優勝ーーいずれも、ここ数年の保坂の先輩たちが達成できなかった高みだった。一方、その思いとは裏腹に、今季のチームは、昨年の主力の多くが卒業し、戦力的に苦しい状況。初心者もスタメンで出場しなければならないほど、厳しい状況だった。様々なバックグラウンドの選手が集まる男子ホッケー部だからこそ、考え方の違いや試合に懸ける思いに温度差が生じることもあった。それでも、「誰かが取り残されることは絶対にないように」。保坂は主将として選手一人一人と毎日丁寧なコミュニケーションを取りながら、チームの成長を促してきた。
保坂に今季の早大を一言で表してもらうと「成長し続けたチーム」と振り返った。実際、その努力は結果に結びつかないことが多かった。公式戦の結果は決してベストなものとは言えず、インカレでもターゲットとしていた試合で勝ち切れず、苦しい時間も長かった。それでも「このチームが好きだから」。様々な困難にぶつかっても、自分が率いてきたチームへの愛、このチームで勝ちたいという思い、それがずっと、一番の原動力になっていたと話す。

チームに指示を出す保坂
迎えた引退試合、大井ホッケー場での早慶戦。保坂は試合前に、チームに対してこんな話をしていた。
「チームの中で、皆がそれぞれ自分の『1番』を意識し、こだわりを持って試合に臨もうと話してきた。じゃあ、自分にとっての『1番』は何なのか。自分は特別ホッケーが上手いわけではない。それでも主将として、みんなに色々と指示を出してきた。でも、それは全て、みんなを信頼していたから。みんなならできると信じていたから。だからずっとそう言い続けてきた。つまり、自分の『1番』は、チームを信頼する気持ちそのものだと思う。この最後の試合でも、みんなを『1番』信頼し続けます」。
チームが全力で挑んだ引退試合の早慶戦。しかし結果は、惜しくも敗戦。試合終了のホイッスルが鳴った瞬間、保坂はその場に崩れ落ちた。誰よりも最後まで立ち上がれなかった。コートに佇むその姿からは、チームへの思いが溢れ出ていた。「負けた悔しさが一番強かった。でも、その次には、やっぱりまだこのチームでホッケーやりたいなって、そういう気持ちでした」。引退したその瞬間を、そう振り返った。

早慶戦終了後、その場に崩れ落ちた保坂
チームが良い時も悪い時も、一番にチームを思い続けた保坂主将。引退を迎えた今、後輩たちに託したのは、悔しさを乗り越える力だ。「僕たちは最後の試合で負けて、涙を流した。でも、それを見て同じように涙を流し、悔しさを共有してくれる後輩がいた。だからこそ、彼らには同じ思いをしてほしくない。1年後、2年後、3年後ーー彼らが引退するときまでこのチームがもう負けないように、強くなってほしい」。そう後輩に向けて力強いメッセージを残した。

ボールを運ぶ保坂
最後に、4年間の思い出を尋ねると、保坂は「何気ない日常」だとはにかみながら話す。
「僕の同期は、練習後もずっとグラウンドに残るのが当たり前だったんです。練習が終わるのは7時半だけれど、グラウンドの電気が消える9時までいるのが普通でした。ホッケーと関係ない話をしたり、ただ一緒に過ごしたり。先輩や後輩がいるからというわけではなく、それが何気ない当たり前の日常だったんですけど、振り返ってみると大切な思い出だなと思います」。
「このチームが好きだから」ーーその言葉の端々にチームへの愛が滲む保坂の4年間は、確かに仲間とともに駆け抜けた日々だった。トライアンドエラーを繰り返しながらも、決して諦めない。ホッケー部で培ったその経験を忘れず、4月からは社会人として新たな舞台へ踏み出す。
(記事・写真 濵嶋彩加)