勝ちへのこだわり
「もっとチームを勝たせられる主将になりたかった」。ユニフォームを着られなかったことはほとんどない、そんな白築琢磨主将(文構4=東京・早実)のハンドボール人生。順風満帆に見えたその裏には、チームの勝利にこだわり続ける姿勢とそれに伴う苦悩があった。『得点王』と『主将』という肩書きを背負って戦った白築の大学競技生活を辿る。
小学6年生に上がる頃だった。野球をしながら「何か新しいスポーツもしたいな」と考えていた白築は、姉と兄の試合を見にいく機会が多く身近に感じていたハンドボールを始める。ハンドボールに魅せられた白築は、中学でも競技を継続。強豪・東久留米西中で「きついのが当たり前」の練習をこなし、春中ではベスト7に選出、全中出場、JOCで都代表入りなど、めきめきと頭角を現した。その実力が買われてスポーツ推薦で進学した早実では、高3次に早実ハンドボール部史上初の都制覇を成し遂げ、春の選抜出場権を獲得する。コロナ禍で大会は中止になったものの、腐ることなく着実に力を伸ばし続けた。

秋季リーグ東海大戦で果敢にゴールを狙う白築
「やめる理由もなかった」。白築は早大でも“当たり前に”ハンドボール部に入部。1年生の頃からエンジのユニフォームに袖を通し、ペナルティースロー専門で複数の公式戦を経験した。2年生に上がると左サイドを中心にセンターでの起用も増え、着々とプレータイムを伸ばす。そしてその年の11月、白築が「人生で一番悔しかった」と語る試合が、22年度の全日本学生選手権(インカレ)。「先輩が好きだったし、この代なら絶対勝てる」と意気込んで臨んだが、結果は無念の初戦敗退だった。自身も思うようなパフォーマンスが発揮できず、普段はあまりへこまないという白築もその日はなぜか涙が止まらなかった。下級生ながら当時から、チームが勝つことに強いこだわりがあった。
インカレを終えるといよいよ上級生の仲間入り、3年生は躍動の1年になった。まずは「ハンド人生で一番楽しかった」と振り返るフランスでの研修(WAP国際交流プログラムの一環)。体の大きな海外選手に、小柄な自分のどんなプレーが通用するのか、実際に見て、やって学んだ。そしてその学びが生かされたのが関東学生春季・秋季リーグ、2季連続でつかんだ得点王の称号。圧倒的な得点力でその名を轟かし、「期待してもらえるような選手の仲間入り」ができたことにうれしさを感じた。しかし一方でそのうれしさよりも、秋季リーグ中にチームがなかなか勝てなかったことの方が心に引っかかっていた。「どうしたら勝てるんだろう」。白築個人の出来がどうであれチームが勝てないと意味がないと、勝ちへのこだわりはより一層強くなっていた。

練習中、指示を出す白築
そしてついに主将として率いる側に立った24年度。4年次を振り返ってもらうと、白築は「この1年はあまり思い出したくない」と笑いながら「もっとチームを勝たせられる主将になりたかった」と思いを語った。「1年生も含めてみんながのびのびプレーできるチームづくり」を心がけた新体制のスタートは、まさかの開幕4連敗。新チームとしてこれまでやってきたことが間違っていたのか、今のチーム状況をみんなはどう感じているのか。確認のため後輩に相談したこともあった。そんなチームづくりへの不安は、自身のプレーの迷いにもつながっていた。これまでは自分が攻め込むことをまず1番に考えていたが、「自分でいくべきか、周りに捌くべきか」迷いが出始める。「去年までと同じようなプレーはできていない」と春季リーグ中には弱音も漏らした。不安や迷いを抱えながら、とにかく目の前の一試合一試合を戦う毎日。そんな日々が少しだけ報われたと感じさせてくれたのは、秋季リーグ、1年生の堂々たる活躍ぶりと、春より『1』増えた勝ち数だった。

インカレの試合後にコートをあとにする白築
少しだけチームづくりに自信を持てた秋季リーグが終わり、いよいよ学生生活の集大成・インカレを迎える。鬼門の1回戦、早大の前に立ちはだかったのは、人生一悔しかった2年前のインカレで対戦した大同大。リベンジを誓って挑んだ一戦のラスト7分、ディフェンス中に相手と接触した白築に言い渡されたのは退場の指示だった。「何してるんだろう俺」。チームの日本一を目指していた白築は、「不甲斐ない、申し訳ない」と涙で早大ハンドボール部での現役生活に幕を下ろした。
これまでは“なんとなく”で続けてきたという競技生活。しかし今回の節目はそうもいかなかった。「あんな終わり方で引退したけど、引退した後ハンドしたいと思わなくて。後悔もなかったし」。プロチームからの声もかかる中、ハンドボールをやめるという選択肢を取ることを何度も考えた。

早慶戦の得点後、笑顔でチームメイトの元へ向かう白築
それでも、悩んだ末白築が選んだのは競技を続ける道だった。その理由は「誰にでも与えられる選択肢ではないし、あんな大きな舞台でプレーしてみたいと思ったから」。また現在プロリーグで活躍する姉の「プロ、楽しいよ」という言葉も白築の背中を押した。ハンドボールを続ける選択をした白築は、その決断が「どうなるかわからない」と語るが、年末にプロデビューを果たすと、これまで既に複数得点を挙げるなど憧れた舞台で彼らしい活躍を見せている。
早大ハンドボール部での競技生活について回った『2季連続得点王』というタイトルと『主将』という肩書き。チームの勝ちにこだわりそれらを一人で背負い戦ってきた白築は、今ようやく重い荷物を下ろして、軽やかに新たなスタートを切ったのだろう。「今すごい楽しいんだよね」そう語る白築の表情はとても明るかった。
(記事 片山和香、写真 丸山勝央、大村谷芳)