【連載】『令和6年度卒業記念特集』第15回 伊藤大志/競走

卒業記念特集記事2025

頂点への道しるべ

 今年の第101回東京箱根間往復大学駅伝(箱根)で躍進を見せ、4位に入った早大。『山の名探偵』工藤慎作(スポ2=千葉・八千代松陰)の5区での快走や、ルーキー・山口竣平(スポ1=長野・佐久長聖)の6人抜きの箱根デビューなど、次回大会につながる明るい話題が多く生まれた。その裏には駅伝主将として「強い早稲田」を取り戻すべく、チームづくりに奔走(ほんそう)した伊藤大志(スポ4=長野・佐久長聖)の存在があった。1年時から主力として、ラストイヤーは駅伝主将の立場で、臙脂(エンジ)のために駆け抜けた4年間の軌跡を辿る。

 高校駅伝の強豪・佐久長聖高で高校歴代2位(当時)の5000メートル13分36秒57をマークし、即戦力ルーキーとして早大へと進学した伊藤大。入学当初から頭角を現すと、1年生ながら学生3大駅伝に全て出場し、箱根では最難関区間の山上り・5区を任された。「タスキをトップに押し上げたい」と意気込んで臨んだ大舞台だったが、区間11位に終わり、チームも総合13位でまさかのシード落ちを経験した。多くの大学が強化を図り、群雄割拠の時代を迎えた近年の大学駅伝。総合優勝13回を誇る早大も苦戦を強いられており、2019年に続いて3年ぶりのシード落ちを味わった。かつての「強い早稲田」に翳(かげ)りが見えつつあったチームは名門復活に向けて花田勝彦氏(平6人卒=滋賀・彦根東)が駅伝監督に就任して新しいスタートを切ることに。入学して1年で早大は転換期を迎えることとなった。そして迎えた2年時の箱根駅伝。同じ5区でエントリーされると、順位を一つ上げる区間6位の好走で、前年の雪辱を果たしシード権奪還に貢献した。トラックでも高校時代の自己ベストを更新。充実した2年目のシーズンとなった。

 チームと共に順調に成長していった伊藤大だが、上級生となった3年時は主戦場とする5000メートルで思うようにタイムが伸びず、「足踏みしたシーズンだった」と振り返る。駅伝でも全日本大学駅伝対校選手権(全日本)で区間6位と奮闘するも、チームはシード落ち。箱根は体調不良の影響で無念の欠場と、これまでと比べて物足りない一年間となってしまった。

 再起を図る最終4年目、伊藤大は駅伝主将に就任した。高校でも名門の佐久長聖高で主将を務めていた伊藤大。その際「伝統校のキャプテンというプレッシャーや、自分で全部やろうとしてあまりうまく動けなかった」経験を踏まえて、自分でできることと人にお願いしてやってもらうことを明確に分けることを意識したという。また、長距離ブロックは他大学に比べて人数が少ないことを生かして、一人一人に目を向けて、各々の考えや個性を引き出すチームビルディングに徹した。自身は4月に5000メートルで2年ぶりの自己ベスト更新を果たす。早大歴代4位の好タイムを出し、幸先の良いスタートを切った。駅伝では6月の全日本予選を危なげなく突破すると、出雲全日本大学選抜駅伝を6位で終え、迎えた全日本本選。シード圏内へタスキを押し上げる走りを見せ、チームは2年ぶりのシード権獲得を果たした。個人、チーム共に着実に結果を残して、伊藤大も確かな手応えを感じていた。

 残るは年明けの箱根。例年、長距離の選手は感染症予防のため、年末になると寮の門限を早めるが、今季は短距離など他ブロックの選手にも門限の足並みをそろえてもらった。この背景には伊藤大が模索した競走部全体での協力関係があった。早大競走部はさまざまな種目の選手が所属しており「種目ごとにシーズンが異なるので、夏や秋を境に、部内で方向性の違いや乖離(かいり)が起きてしまう」状況だった。駅伝主将を務めるに当たり、このことを解決したかったという伊藤大は、長距離と他ブロックの橋渡しとなって部内での関係の強化に努めた。短距離の主力選手と連携を図りながら、長距離ブロックの選手には一つ一つ理由づけをして、全員が意図を理解して行動に移すことを意識して接し、キャプテンとしてチームの統率にいそしんだ。自らも9月の日本学生対校選手権に出場して得点を稼ぎ、他ブロックの選手と共にトラック優勝に貢献した。こうした努力の甲斐もあり、競走部内で一丸となって箱根に向かう準備を進めることができたのだ。

 迎えた正月の大一番。往路で3位と大健闘を見せたチームは、復路でも伊藤大ら4年生が粘りの走りを見せて4位でゴール。目標に掲げてきたベスト3は、あと一歩という差で逃したが、「僕らの学年は負けに慣れてしまった部分もあるが、これからは強い早稲田しか知らない学年が増えていくと思うので、僕らの学年が転換期のタイミングだった。強いチームの基礎をつくれたのは良かった」と、この一年間が名門復活への足がかりとなるのは間違いないだろう。

 14年間遠ざかっている箱根総合優勝の夢を山口智規駅伝主将(スポ3=福島・学法石川)率いる新チームに託し、伊藤大は早大競走部から実業団・NTT西日本へと歩みを進める。「世界を目指すために、まずは日本で勝ち切らないといけない」。早大で磨き上げた速さと強さで、伊藤大は栄光への道を自らの足で切り開いていく。

(記事 廣野一眞、写真 青山隼之介氏、廣野一眞、飯田諒、近藤翔太)