【連載】『令和7年度卒業記念特集』第1回 小澤周平/野球 

卒業記念特集記事2026

「信じられなかった」主将就任

 2024年、9年ぶりの春秋連覇を成し遂げた早大。しかし、日本一を目指し臨んだ明治神宮大会では、無念の敗退を喫した。印出太一前主将(令7スポ卒)の力強いリーダーシップの下で一つにまとまっていたチームも、これからは新体制で一からのスタートとなる。「誰がキャプテンになるんだろう」。不安の中、監督室に呼ばれた小澤周平(スポ4=群馬・健大高崎)が告げられたのは、「冗談だと思った」という主将就任の知らせだった――。

 強豪・健大高崎の主将として甲子園に出場し、高校通算52本塁打の実績を誇った小澤。高校から直接、プロ野球の世界を目指していたが、周囲の勧めもあり進路は大学進学へと傾いた。「六大学野球はどうだ」。当時の監督からそう切り出され、勧めを前向きに受け止めて早大への進学を決めた。

 そうして飛び込んだ早大野球部の環境は、「精神的にも体力的にもえぐられる」ものだった。思うように結果が出せず、野球の練習すらままならないまま、補助に徹する日々が続く。遅れてチームに合流した同期とともに走りながら、「野球をしている同期」からの出遅れを痛感する。現実は、小澤がこれまで築いてきたプライドを打ち砕いた。

 転機は2年次に訪れる。辛い練習の中でも「脱落したら情けない」と食らいついていた小澤は、早大に復帰した金森栄治助監督(昭54教卒=大阪・PL学園)と出会った。木製バットへの適応に苦しんでいたが、指導の成果もあり、打球が次第に前へ飛ぶようになる。春のシーズン直前にはスタメンに抜てき。「どうしたらいいのか」分からず頭が真っ白になりながらも、神宮のグラウンドで結果を残し、レギュラーとしての立場を確固たるものにしていった。

3年春の早慶戦で本塁打を放った小澤

 3年次には春秋連覇を達成。自身も初の打率3割を記録するなど、責任感が芽生えつつ「4年間で一番楽しく野球ができた」と振り返る1年になった。しかし、完成度が高く結果を残したチームだったからこそ、翌年への不安もあった。新チームでは、誰が主将としてチームをまとめていくのか。吉田瑞樹(スポ4=埼玉・浦和学院)や伊藤樹(スポ4=宮城・仙台育英)の名が挙がる中で、小宮山悟監督(平2教卒=千葉・芝浦工大柏)は「小澤でいく」と腹をくくった。「信じられなかった」と語る予想外の指名。ここから、濃くて長い、小澤の大学ラストイヤーが幕を開けた。

 高校時代にも主将を務めてきた小澤だが、大学野球には大学野球ならではの難しさがあった。チームメイトの野球に対する熱量はさまざまで、全員を同じ方向に向かせることは容易ではない。さらに、東京六大学野球連盟結成100周年という節目の年でもあり、注目度は例年以上に高かった。

選手宣誓を務めた小澤

 そうした状況の中でチームをまとめるため、小澤は4年生の力を結集させる道を選んだ。圧倒的なリーダーシップを持つ理想の主将にはなれない。しかし、周囲には頼れる仲間がいた。毎週日曜日に行われるスタッフミーティングでは、監督やコーチ陣、副将を交え、何時間にもわたって話し合いを重ねた。時には言い合いになることもあり、「精神的には結構つらかった」と振り返る。それでも自らに与えられた役割と向き合い、チーム全体の意識を底上げすることに力を注いだ。

 自分の野球に集中できず、難しい舵取りを強いられる日々。その中でも、チームは着実に力をつけていった。掲げていた走塁改革も功を奏し、手堅く勝利を積み重ねる。「怒涛(どとう)の5連勝」で逆転優勝を果たした春季リーグ戦の優勝決定戦。小澤は、喜びからあふれ出る涙を隠せなかった。「自分たちがつくり上げたチームで優勝した達成感というか。もう一生忘れないと思います」。これまでの苦労が、報われた瞬間だった。

3連覇を果たし、スタンドに挨拶をする小澤

 早大野球部での4年間に点数をつけるとしたら。そう問いかけると、「100点じゃないですかね」と自信を持って答えてくれた。うれしい思いも、悔しい思いも数多く味わう中で、一生モノの友人にも出会った。務めるとは思っていなかった主将としてのラストイヤーでは、人間として大きく成長できたという。「この4年間は、今後の人生においても必要なものになっていく予感がします」。その言葉には、数々の苦難を耐え抜いてきた確かな手応えがにじんでいた。

 現在は、1学年上の印出太一とともに、社会人野球・三菱重工Eastで練習に励んでいる。2024年の都市対抗野球大会を制した強豪であり、レギュラーをつかめばプロへの道も見えてくる。「目標は高く持って、息の長い選手を目指したいと思います」。「人生の分岐点」になった早大での経験と、「一球入魂の精神」を胸に、小澤はこれからも、ひたむきに歩み続けていく。

(記事 西村侑也 写真 田島凛星、長屋咲希、西本和宏)