早稲田大学ア式蹴球部で監督を務める外池大亮(平9社卒=東京・早実)を、当時所属していた湘南ベルマーレへと導いたほか、畑尾大翔(平25スポ卒=現ザスパクサツ群馬)をヴァンフォーレ甲府へと導くなど、早大との関わりの深い森淳スカウト。未来の代表選手を発掘する『敏腕スカウト』に、外池監督の湘南ベルマーレ時代のエピソードや大卒選手の価値、さらには要注目の早大選手を伺った。
※この取材は4月23日に行われたものです。
ストライカーというのは数字が全て
早慶サッカー定期戦で決勝ゴールを決めた加藤拓己と抱き合う外池監督
――では、まだお聞きできていませんでした。外池さん(外池大亮監督、平9社卒=東京・早実)のことを聞かせてください。はじめに97年当時、どんな印象であったのですか
外池はね、なんかわかんないんだけど点数を取るんですよ。外池はセンターフォワードでめちゃくちゃ下手なんですよ。あ、下手と言ってはいけないな(笑)。上手くないなって感じです(笑)。
――それは足元の技術がということですか
そう。足元が(笑)。だけど、独特のものがあって、遠くからでも左足で点数決めちゃうんです。その時に、僕の師匠みたいな古前田(古前田充、元フジタ工業)さんという方がいらっしゃるんだけど古前田さんと見てて、「古前田さん、これやめたほうがいいですかね?」って。そしたら、「淳、違うぞ。ストライカーというのは数字が全てなんだよ」と。「どんなに上手くても点数取れない奴は取れないし、どんなに下手くそでも取れちゃうやつは取れちゃうんだ、と。これハマるかもしれないぞ」と。左足のキックは強烈でしたから。じゃあ獲っちゃいましょうと。
ベルマーレにはヘディングが強い選手がいなかったので外池が来て、途中交代で出場してて。コツコツと点数を重ねていった。ヘディングシュートを結構入れてくれるんだよね。中田英寿が先に入ってベルマーレにいて、ヒデも色々あった時期だったので、外池は「ヒデにガツンと言ってやりますよ!」みたいなことを言っていて、「そうか、頑張れよ」と言ってたんだけど、最終的に「トノ!」ってヒデにめちゃくちゃ怒られてたね。それで「はいー!」みたいな(笑)。
――外池さん威勢が良かったんですね(笑)
あれは面白かったね(笑)。
――外池さんは本当に面白い方ですよね
でもね、すごいんだよ。マリノスから良いオファーが来て移籍をしたんだけど、外池は途中交代とかで、マリノスで8得点取ったの。その時には中村俊輔(現横浜FC)がマリノスにいて。外池の頭を目掛けて蹴って、外池はそこで待っていればってくらいの精度だったから。8点取って。それでマリノスがJリーグで初優勝。外池さんの活躍、マリノスにとって8得点は大きかったでしょうね。日本人選手が、1人でシーズンで8点取ったわけだから。外池さんはなんか恵まれてるよね(笑)。
――なんだか運を持っている感じがします(笑)
早稲田に行ったら優勝しちゃうしさ(笑)。次の年はガクンときたけどまた上がってきてさ。周りのスタッフも優秀なんだなと勝手に思ってるよ(笑)。
――今回森さんへインタビューを行うと、外池さんにも伝えたんです。その時には「森さんは入団後や引退後の方が交流あるな」ともおっしゃっていました
外池はスカパーに勤めてたからさ。テレビ出てくれって言われて。でも俺、言葉の力がないからさ。何言っちゃうかわからないから辞めてって。その時はベルマーレのスカウトの牛島(真諭)にした方がいいよと言いました(笑)。
――例えば外池さんと飲まれた時には選手のお話もするんですか
全然しないね、昔話が多くなっちゃうね、飲んだら。第一、外池外池って言ってるくせに、早稲田の選手が欲しい時には「外池さん!」って言っちゃいそうだね(笑)。敬語使わなきゃ。
――外池監督ですからね(笑)
でも外池は甲府でも愛されていたみたいだし、色々なチームに行ったけどみんなそれぞれ良いというか…不思議だ。あいつやっぱりツイてるんだよね(笑)。
上手いだけではダメなんです。凄い、じゃないと
今季加入した長崎ですでに11試合出場の鍬先。甲府戦ではアシストも記録した
――森さんから見て、早稲田や明治の選手のカラーはありますか
あるある。言葉で表せないですけど、やはり皆さんは自分を持っているから、実際に対面で話をしても、受け入れるところは受け入れるけど、受け入れないところは受け入れない、というところがしっかりしているかな。やはり早稲田の子たちは考えが整理ができている。でも早稲田も明治も、最後は戦いでしょ、という。最後はハートでしょ、っていう。そういう結論になっていく流れが多いと感じます。
――例えば昨年の山田晃士(令3社卒=現ザスパクサツ群馬)さんは、すごく頭の中を整理して、自分の考えを順序立てて話してくださる感じがありました。
鍬先(祐弥、令3スポ卒=現Vファーレン長崎)みたいな選手も欲しかったなと思います。地味なんだけど、あそこにいてくれると助かる。
――鍬先選手の良さはどこにありましたか
90点とか、80点を取れる選手です。どんな試合でも。100点と言ったら点数を取って、誰よりも目立ってという感じだけど、どちらかというと黒子。だけど、ミスは無い。ポジショニングのミスも無い。そして、相手が強かろうが弱かろうが戦う。いつも脇役だけど。ミスをしないし、ちゃんと抑えて考えているなと。ちょっと欲しかった。ただ、その前に中村亮太朗(ヴァンフォーレ甲府)を取っているから、そこに被せたくは無かった。1年開けたいんですよね。1年目で引き抜かれてしまう場合はまた別ですが。
――本当に選手獲得は難しいですね
あとは新卒選手に対し、クラブがお金をかけられるのかという全体でのバランスの話もあります。
――早稲田の相馬(勇紀、平31スポ卒、現名古屋グランパス所属)選手は4年生の時には名古屋で多くの試合に出場しました。
あれは別格だったからね。相馬は凄いんです。テクニックでかわしてかわしてパスができる選手は実は沢山いる。でも、あのキックとあのパワフルさ。そこがついてくるから彼は凄いんです。どこかの要素に『凄い』が入らないと。外池さんも、ヘディングが凄い。左足が凄い。上手くはない。だけど凄いんです。上手いだけではダメなんです。凄い、じゃないと。凄い動き回るでも、凄い頑張る、でも良い。凄いは上手い選手の上を行きます。そして、上手いは沢山いるんです。
僕が彼の人生を失敗させてしまったのではないか
左足のキック精度が武器の山下。小倉とのドイスボランチは早大の要だ
――ではここで、そうした森さんの観点から見た、楽しみ・要注目のア式の選手を教えてください!
4番。
――小倉(陽太、スポ2=横浜FCユース)選手ですね。
小倉くんか。横浜FCの。映像を見ながら、楽しいなと思いました(笑)。あとは7番。
――山下(雄大、スポ3=柏レイソルU18)選手です。
山下くんか。柏レイソルの。ボールの動きはやはり良い。もう少し力強さをつけたら、多分違う世界に行くような選手。その力強さは運動量でもいいし、対敵に対してのぶつかり合いやパワー、圧でもいいし。凄いになりかけている選手かな。
――小倉・山下のダブルボランチには安定感があります
筑波大との映像を見て、小倉くんは時間を作れるの上手だな、上手くポジションに入ってこれるから、味方は心配なくボールを当てられているし、また違う角度に入ってボールを受けて展開してくれると感じました。次にボールを触るセンターバックは楽ですね。ダイナミックにやるのに目がいってしまいがちですが、そういう細かいところまでしっかりとやりながらロングボールが蹴れる。あとはヘディングとか、どこかのパーツで強いというものが出てくればもっと良いと思います。
――彼らはまだ2年生、3年生ですね
これから、早稲田が「戦い」という部分を植え付けてくれるでしょう。そういうのが大学の凄さだから。上手い選手の鼻をへし折って、これをやらなきゃ試合に出られない、これがサッカーなんだ、と教えてくれるのが大学だと思います。Jクラブのユースからトップに上げた時に足りないものは、心技体のうち技はあるのに、心と体が不足しがちです。心が大学では鍛えられますね。心を鍛えるのが難しいのは、高卒で入ってくるような選手は、お金を貰っていることが評価になるんです。お金のために戦う、いい選手になればお金を稼げると。一方で、大学の選手はお金のためにやっているわけではない。試合に出ないやつのために頑張るとか。彼らはここ(胸元を叩く)に誇りがあるから頑張れる。自分の大学やエンブレムのために頑張るんです。心の中でそれを作り上げてしまう。大学はお金を払って、チームのために戦っているわけですからね。
――そういった部分、メンタリティーが大学選手の価値なんですね
彼らはその心、戦うメンタリティーを持ってきてくれるから。決して上手だけでサッカーをやっているんじゃない。うちの長谷川元希なんて、大学を経由しつつ、自分のために楽しんでサッカーをして戦って、そこにお金がついてきている感覚じゃないかと思います。
――森さんが活動をしてきて、獲得に至るまでで最も印象的だったのはどの選手なのでしょうか
やはり中田英寿と中町公祐。ただ、中町は代表に値する選手だと僕が1番思っています。中町は選ばれるべき選手。だけど、僕が(高卒で)プロの世界に来させちゃって、結果的に僕は仙台に行き、中町は志半ばで湘南を離れたんです。もしも僕が中町を見つけないで、彼が大学に進学していたと仮定したら、彼はスターになって、引く手数多の選手になったと思うんです。そしたら日本代表があったでしょうと。遠回りさせてしまった感覚があるんです。それをすごく残念に思っているんです。僕が彼の人生を失敗させてしまったのではないかと。間違いなく彼はサッカー選手として成功はしているんです。ただもっと凄くなれたんじゃないかなと。もっと上の世界にいったのではないかと思うんです。会わなければ良かったのではないか、と思ってしまうことがあるんです。中町は僕にとってそういう特別な選手です。
――こうして森さんとお話しさせていただいて、森さんはその選手の人生を考えていらっしゃるんだなというのが凄く印象的です。
だって自分が生きていくのが大変なんだもん(笑)。
――その子の運命、という話を何度もしていただきました
サッカー選手を、自分は続けたかったのに辞めなきゃいけないという時が必ず来るんです。僕も代表に選ばれて、27、8まで人生が上手くいっているつもりでしたが、当時はフジタ工業で、上の世代はどんどん引退して、下の世代に変わっていくものだったんです。今のJリーグで育った監督たちはベテランを大切にする傾向がありますが、一方で柳下(正明、ツエーゲン金沢監督)さんとかは社会人を経験してるから若い選手を積極的に使うんですよね。次の時代の選手を作る。そこに着目しているんだと思います。
今は若いスカウトが凄いよ。1日に、高校生見てから大学生を見たり。中学生を見てきたり。それからJリーグをナイターで見ていたり。みんな凄いスケジュールだよ。俺は1日2試合見たらヘトヘトなのに、彼らは3試合とか4試合見てたりする。(関東大学リーグ)2部にもいっぱい来るようになったし。2部は自分の漁場だと言っていたんだけどな(笑)。でも、それで選手がプロになるチャンスが増えているから。どんどん色々な子にチャレンジしてもらいたいし、やりたいのならチャレンジしてみて欲しいな。誰が成長をするのか分からないのだから。
――ありがとうございました!
(取材、編集 橋口遼太郎 写真 堤春嘉氏)
一筆お願いしたところ、早大ア式蹴球部のスローガン『DRIVE』をお書きいただきました!
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この度の連載にあたり取材をお受けいただきました森淳スカウト、ご尽力いただきましたヴァンフォーレ甲府広報担当者様、そしてご協力いただきました明大スポーツ新聞部・スポーツ法政新聞会に心より御礼申し上げます。
◆森淳(もり・あつし)
1964(昭39)年4月5日生まれ。現役時代にはフジタ工業サッカー部(現湘南ベルマーレ)でプレー。引退後にはスカウトの道へと進み、2010年よりヴァンフォーレ甲府のスカウトを担当。湘南ベルマーレでは中田英寿や外池大亮の獲得に携わったほか、ヴァンフォーレ甲府でも佐々木翔(現サンフレッチェ広島)や伊東純也(現KRCヘンク)などを獲得している。