第3回 加藤希主将×桝田花蓮副将×山下夏季主務(5/3)

ア式蹴球特集

 ア式蹴球部女子(ア女)が今季掲げるスローガンは『挑越』と『四冠』だ。女王の座を奪還し『頂』を目指した昨年は、監督交代やコロナ禍で環境が一変。確かな実力を持ちながらもタイトルはわずかひとつに留まり、決して納得のいくシーズンではなかった。悔しさを乗り越え、自らの立場を「挑戦者」と位置づける彼女たちは、現在どんな決意を抱いているのか。『不変を徹底し、可変を厭(いと)わない』ア女の魅力にも迫る。

※この取材は4月9日に行われたものです。

ア女の中心として

和やかな雰囲気で対談を行う加藤(中央)、桝田(左)、山下

――まず、加藤選手の他己紹介をお願いします

桝田 のんちゃんは、すごくいい意味ではっきりしてるから、考えていることとかも変にオブラートに包んだりというまどろっこしさがなく、いつもストレートに伝えてくれます。それは誰にでもできることじゃないので、そこが一番魅力的なところだと思います。

山下 たしかにストレートなんですが、私が機嫌悪いときとかも他の人は何も言ってこないのに、のんちゃんだけは「何があったの?」と聞いてきます(笑)。個人的には去年からもそうでしたけどすごく気にかけてくれることが多くて、ダメなときはダメだとちゃんと言ってくれるので、すごく助かってます。

――ご自身はどんな主将像を思い描いていますか

加藤 こんな主将がいいというのは特になくて、自分でいればいいかなと思っています。さっき花蓮とか夏季とかが言ってくれたように、自分の芯を持ってチームメイトに伝えられるのが自分の強みだと思うので、そういう言動で引っ張れるような主将になりたいと思います。

――桝田選手についてはいかがですか

加藤 花蓮は、めちゃくちゃサッカーというコンテンツが好きなのが伝わってきて。オフの時とか自分は結構サッカーから離れたいと思うんですが、花蓮はそういう時こそ海外のサッカーの試合を何本も見て、さらに自分が出た試合も見て、サッカーしか見てないみたいな。めちゃくちゃサッカー好きだなというのが伝わってくるという感じです。

山下 花蓮は一見したら全然サッカーやってるようには見えない雰囲気だと私は思っています(笑)。これはよくスタッフでも話すんですが、花蓮は練習中はすごく声も出すし、そういう意味ではサッカー愛は強いんですが、帰る時にぱっと見ると普通の女の子に戻っているので(笑)。ギャップはあるけど、サッカーやア女に対する思いというのは、ちゃんと自分の中に持っている子だなと思います。

――副将として、どのように主将を支えようと思っていますか

桝田 自分は副将というポジションが初めてなので、何をするんだろうというのは今でも思っています。でもそういう役職にかかわらずのんちゃんとの関係性だけで考えると、のんちゃんはそんなに周りの人が支えないと引っ張れないタイプではないから、とにかくのんちゃんを自分が一番信じて、一番ついていきたいです。それから、チームのみんなが、ついていきたいけどうまく行動できてない子とか、思いがあるのに今悩んでるんだろうなというところを拾っていきたいなと思っています。

――山下さんについてはいかがですか

加藤 夏季はめちゃめちゃ熱い人で。ア女の中では選手よりも勝利に対する思いが強いなと感じています。別にそれを出しているわけではないというか、内でもメラメラ燃えている感じというのは伝わってきます。

桝田 熱いのはみんな本当にそう思ってると思います。すごく人間味があるというか、喜怒哀楽がはっきりしていて。でもそれだけア女での仕事や役割のどれに対しても、抜かりなく全力で向き合っているからこそ、感情もいっぱい湧いているんだろうなというのがあって。すごく応援したくなる人です。

――主務としてマネジメントは大変ですよね

山下 今までみんなに熱いと言われ続けてきたんですが、自分の中では今まで思っているだけで行動できていないと3年間感じていました。そういう意味で今年は、主務として裏方の仕事を頑張るのはもちろんですが、練習中でも試合中でも率先して雰囲気をつくれるような主務やマネジャーになりたいなと思います。

――どのような経緯でそれぞれの役職についたか教えてください

加藤 周りからの推薦もあって、最後は自分の意思というところですね。最後は花蓮と話し合って決めました。

桝田 私もそうですね。自分は最終的にはのんちゃんに主将をやってほしいという思いがあって。その思いと、その時は私が副将になるよというのをのんちゃんに伝えました。

山下 歴代の4年生のマネージャーが主務になるというかたちで、その流れでなりました。

「自分たちに何ができるかというのを考えて行動できた」(桝田)

ポジティブな一面を披露する桝田

――チームの話に移ります。昨シーズン、監督交代やコロナ禍があり、またタイトル面では物足りない1年だったかと思います。振り返ってみていかがですか

加藤 去年タイトルは取れなかったんですが、関カレ(関東大学女子リーグ戦)を取れたというのは、自分自身もその試合に出て勝利に関われたということもあって、結構印象に残っています。自分たちが入る2年前くらいから関カレを取れていなくて、その中で久しぶりに取れたというのは結構自信にはなったかなと思っています。12月は最後大事なところで勝ちが取れなかったというのは、悔しい部分だったかなというシーズンでした。

桝田 結果というところで見ると、確かに満足いくところまではいけなかった部分もありました。でもそうではないところに目を向けるとしたら、コロナがあって、ア女自体も私も経験したことのないような、みんなと練習できない、グラウンドにも来られない日々があった中で、学べたことは多かったです。結果は勝負事なので相手もあるし、自分たちで全部はコントロールできない部分ではあるから、結果次第で終わってしまうんですが、そうじゃない中で自分たちに何ができるかというのを考えて行動できました。そういう経験はなかなかできないし、ア女としての成果はすごく大きかったと思います。そこで自分自身も大きく成長できた部分があったからこそ、今年できることがたくさんあると思うので、すごくプラスに感じています。

山下 去年は1年間がすごくあっという間でした。6月からア女の新体制が正式にスタートしたんですが、すぐにリーグが始まるわけでもなく、どこに向かって頑張ればいいんだろうと模索していた状態から突然リーグが始まって。本当に目まぐるしく半年間が過ぎていった中で、最終的に結果がついてこなかったというのはチームとして何か原因があったのかなとは感じています。でも監督が変わったことでア女の雰囲気がいい意味で良くなったというか、練習に活気が出たのかなとも感じています。今年もその雰囲気は保ちつつ、新しい4年生の代で練習や試合にいい雰囲気を持ち込むことができたらなと思います。

「挑戦者という気持ちは忘れたくないよね」(山下)

『挑越』の生みの親のひとりである山下

――今季は目標として『挑越(ちょうえつ)』『四冠』を掲げていますが、どのような思いでそれをスローガンに定めたのでしょうか

加藤 それは夏季が。

山下 最初はいつも通り『頂』にしようと思っていたんですが、(タイトルをかけた一戦で)負けてるし、ちょっとあまり良くないのではないかという話になっていました。私と千夏(並木千夏、スポ4=静岡・藤枝順心)が『挑越』にこだわった2人なんですが、監督が練習中に手をたたきながらいろいろ叫ぶときに「挑むんでしょ!」「越えるんでしょ!」というのが一番想像つくよね、というのをまず千夏がフィーリングで言ったのが最初で。今年は昨年の結果もあったし、挑戦者という気持ちは忘れたくないよねということで、『挑越』に決まりました。

加藤 『四冠』は、早稲田だから取りにいかなければいけないという、ア式蹴球部の『WASEDA the 1st』という理念がまずあって。そこを体現するためにはインカレ(全日本大学女子選手権)日本一、関東リーグ(関東女子リーグ戦)、関カレ、皇后杯(皇后杯全日本女子選手権)を取りにいかないといけないというところで、4冠を掲げました。今年は関カレが通年になって、関東リーグと並行して行うのでかなり難しい目標ではあると思います。でもだからこそ、この目標を掲げる意味があると思っていますし、そこに向かってやるのがア女だなと、みんなと話していてそういう結論になったので、4冠を掲げています。

――桝田選手には過密日程について伺います。調整の仕方が難しいと思いますが、連戦に対してどういう気持ちで臨んでいきますか

桝田 特にア女は大人数のチームではないので、週末2試合はメンバーも正直ギリギリな部分はあって、選手の中でも不安に感じている人もいると思います。でも私は結構ポジティブに捉えています。なぜかというと、過去を振り返ると試合ができるというのは、選手にとって毎週目標とする場ができるということでもあるので。やっぱりサッカーがいくら好きでも、ずっと練習ばかりしているわけにはいかなくて、試合があるからこそ練習をもっと向上させようというのが出てくるので、厳しいかもしれないけど試合ができるということにすごくポジティブに捉えています。また、コロナで観客が入れないという問題はあるんですが、やっぱりア女が大学女子サッカー界、日本の女子サッカー界をけん引していくうえで「ア女の試合は面白い」と思ってもらうことを目指しているので、純粋にその機会を増やせるのが良いかなとは思っています。とにかくケガに気をつけて頑張りたいなと思います。

「日本一を目指せる環境がすごく魅力的」(加藤)

ア女の魅力を語る加藤

――新体制特集ということで、皆さんが思うア女の魅力やチームカラーとはどのようなものか教えてください

加藤 ア女は、日本一を目指せる環境がすごく魅力的だなと思っています。それは選手としてもそうですし、学生スタッフとしてもそうですね。早稲田は他にもそういう部活が多いとは思うんですが、ア女は日本一を取った経験もあって、そこを目指して行ける環境があるのはすごく面白いと思うし、自分自身も成長できる環境なのかなと思いますね。今年のチームカラーというわけではないですが、ずっと学年を越えて仲がいいので、そこも魅力かなと思います。

桝田 まず環境が本当にいいと思います。これだけきれいなグラウンドがあるし、運営やチーム内の役職も学生が主体となって活動できるので、自分次第でいくらでも成長できる環境があるのがすごく魅力的だと思っています。今年はまだやっと3月終わりに1年生がそろったところで、これからどうなるのか分からない部分が大きいのでチームカラーは言えないのですが、これからが楽しみです。

山下 スタッフ寄りになってしまうのですが、やりたいことを何でもやらせてもらえる環境があるというのが、ア女の大きな魅力の一つです。監督が変わってSNSもすごく活発に動かしてくださるので、その中でア女としての存在意義というか、女子サッカー界でこういう活動をしているというのが、結構他のチームからしたらいろんな印象があると聞いたことがあって。しかもそれを選手がやっているというのもすごく私は魅力だなと思っているので、サッカーだけじゃなくてそれ以外のことにも取り組めるのがいいなと思っています。今年の色は、相変わらず元気は元気、パワフルですね。結構下級生はエネルギッシュです。

――注目選手を挙げるとしたらどなたでしょうか

加藤 2人いるんですが、花蓮と、1年生の育(築地育、スポ1=静岡・常葉大橘)が注目選手だと思いますね。今年の関東リーグの位置づけ的に、もちろん優勝は取りに行くんですが、育成として出場機会、試合のチャンスというところがあって。花蓮はそういった選手とプレーすることもあって、その中で日々の練習からの声や、みんなを鼓舞する声がすごく活発に出ています。試合でも絶対90分間の中できつい部分はあると思うんですが、そういった中でチームを鼓舞してくれる場面があるところに注目しています。あと花蓮のロングフィードに注目してほしいです。2人目の育は、1年生で3月後半くらいから遅れて入ってきたんですが、みんなと積極的にコミュニケーションを取って、チームで1年生ながら勢いをもたらしてくれるというのが特長なので、そういったプレーに期待したいです。

桝田 1年のGKの丸山(翔子、スポ1=スフィーダ世田谷FCユース)ですね。今本当は3人のGKがいるんですがケガでリハビリ中なので、ずっと練習試合も1年生が出ていて。4年までいるチームの中でGKとして1年生で出るのは、実際はすごくプレッシャーで、公式戦だとなおさらプレッシャーがかかると思います。今年の1年生はプレーヤーとしてすごく技術的に頼りになる選手ばかりだし、そういった選手が公式戦でどうなるんだろうなというのがすごく楽しみです。自分も一緒にやる上でサポートしていくというのは考えているんですが、そうでなくても楽しみだなと思います。

山下 2人いて、吉野真央(スポ3=宮城・聖和学園)と浦部美月(スポ2=スフィーダ世田谷)です。真央は昨年もケガしていてなかなかプレーもできない中で、何とか乗り越えて開幕まで来られました。もちろんああいうキャラなのでわいわいするタイプなんですが、練習中も声は誰よりも出すし、真央が入るだけで、声でもプレーでもチームを盛り上げて、勝利に近づけてくれるのかなと思っています。美月は去年からずっと悩んでいるのを見てきました。その中で今年も彼女なりに答えを出せていない部分はあると思うんですが、関東リーグという位置づけの中でしっかりやって、来年は上級生になるので、この1年頑張ってほしいなと思います。

――ここまでやってきたチームの手応えと課題をお願いします

加藤 手応えはないですね。積み上がっている部分は確実にありますが。特にプレー面において、今年は攻撃に重きを置いて練習しているんですが、その中でやろうとしている戦術やチャレンジしようとする姿勢は感じています。

桝田 手応えがないのが手応えというか。勝つことで自分たちができるようになったことが目に見えるのはあるんですが、個人的にもチームとしても満足できていない、自分たちはもっとできるというのは全体的にすごく感じています。そこはこれからやっていく上でモチベーションも継続できるし、いい部分だなと思っています。課題はざっくり言うと主体性というか。一人一人がどこか他人任せというか、ア女というのはうまい人も多くいるし、その分やっぱりその分試合となったときにどこか人任せのところがあったりして。自分が勝たせるという思いだったり、自分の力で問題を解決するという意識がまだ少し足りていないです。そこが付けばア女はもっと強く、チームとして完成してくるのかなと思うので、この1年通してにはなりますが、そこが伸びしろかなと思います。

加藤 本当にそうです。

山下 ここまでやってきて、春休みの練習や試合が、選手もそうですがとてもハードだったと思っていて。でもそれは関東リーグと関カレを掛け持ちするための予行演習期間と監督が組んでくれたんですが、3月はこれだけ頑張ったから4月からは頼んだよというか。人数もギリギリですし、これからの課題というか信じるしかないんですが、そんな感じです。

――最後に、個人とチームの目標をお聞かせください

加藤 チームとしてはやはり4冠を目指していて、そこを取りに行きます。個人的には特にインカレを、最後の集大成となる大会なので、取りに行きたいです。去年自分たちは初戦で負けてしまっていて、絶対にもうあんな思いはしたくないので、早稲田だから取りにいかないといけないというところが強く出るかなと思います。実際に自分がそこに出て貢献するというのを目標にしています。

桝田 チームとしての目標は、結果がついてこればいいかなと思うんですが、ア女がそういうサッカーを自分たちもやってて楽しいし、観客が来ていただければ見ている人たちにも見に来てよかったと思ってもらえるような試合をしたいです。そのためにチームのために日々練習していきたいというのが一番で、自分としても自分のプレーを見て楽しんでもらいたいというのがあります。目に見える結果でいうなら、最後にインカレという舞台で自分もピッチに出て優勝をするというのが目標です。

山下 チームとしてはもちろんインカレに重きを置いているので、日本一というのはもちろん目標ですが、その中でチーム全員が本当に悔いなく1年間やったと思えるチームにしたいなと思っています。個人としては何の心配もなく全ての試合に臨んで、少し来年の話をするとチームにマネジャーが1人しかいないので、そこに完全に引き継いで引退ができるようにしたいと思っています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 朝岡里奈、手代木慶)

2021シーズンの抱負を書いていただきました!

◆加藤希(かとう・のぞみ)(※写真中央)

アンジュヴィオレ広島出身。スポーツ科学部4年。人一倍責任感があって、背中で引っ張るタイプの加藤選手。今季はどんな活躍を見せてくれるか楽しみです!

◆桝田花蓮(ますだ・かれん)(※写真左)

ちふれASエルフェン埼玉マリ出身。スポーツ科学部4年。勉強熱心でオフもサッカーの動画を見て研究を重ねる桝田選手。秘めた情熱がピッチで爆発します!

◆山下夏季(やました・なつき)

静岡・浜松北高出身。スポーツ科学部4年。誰に聞いても『熱い』と評判の山下主務。縁の下の力持ちとして、聖母のような優しさでア女全体を包み込みます!