【連載】第70回早慶サッカー定期戦直前特集 第1回 外池大亮監督

ア式蹴球特集

 昨季は関東大学リーグ戦(リーグ戦)でア式を優勝に導いた外池大亮監督(平9社卒=東京・早実)。新チームになってからの振り返りと早慶定期戦(早慶戦)に向けての意気込みをうかがった。

※この取材は6月21日に行われたものです。

試合中にピッチを見つめる外池監督

――リーグ戦第8節までの試合を振り返っていかがでしたか

 昨年リーグ優勝をした中で、今年は新体制、新4年生(の代)になりました。(今年は)大きな枠組みは変えずに、昨年やってきた『変化し続ける』ということを一つの大きなテーマとしてやってきました。その中で、社会人リーグの参入、学生コーチの取り入れなど、様々な新しい取り組みを行ってきました。そうした色々な新しい取り組みを『変化』としてやっていく中で、非常に雰囲気も良くスタートしました。ですが、やはり自分たちが『変化をする』ということの前に、昨年なぜあのようなかたちになれたのかを考えなければいけませんでした。(昨年と違い、)『変化』を生み出す基盤のようなものがおろそかになってしまったかな、というのが前期の一番の印象ですね。ですが、それは別にネガティブな話ではなくて。(今年は)やはり、(昨年王者として)自分たちはある程度できるのではないか、というのがベースにありました。やはりそこを、謙虚に、足元を見つめるだとか、サッカーの本質とは何なのか、ということを考えなければいけませんでした。そういったことをなくして上積みだったり、そこに変化を求めることはなかなか難しい。変わる上積みのところをみんなが少し意識しすぎていました。特にそれが開幕戦(での敗北)であったり、翌週の運営の不備だったりというところに象徴されていたかな、と思います。それに気づいてから、そういったところへの対処というのをみんなでテーマとして取り組んだものの、(気づいた時は)なかなかまだまだやり切れるかたちではなくて。少し足りなかったことに気づいて、そこから苦しんだ上で(現在は)改善の兆しというか、復活の兆しがあります。今は状態としては良くないですが、(それでも)それを乗り越えていくだけのパワーがあるので、改善や復活の兆しがあるという意味では、非常にいいのではないかなと思います。

――確実に少しずつ上がってきているということでしょうか

 そうですね。ただ、今年は総じてけが人が多かったりするので。ちょっとその辺は気になるところでもありますが、ただそれ(けが)というのは、突き詰めれば個人の問題だと思うので。チーム全体としては、パワーだったり、チームの個性というものを、やはりもっとしっかりと示していくことが大切です。今はそれが少しずつできてきているのかな、と思います。

――第8節まで終わって9位という順位については、いかがですか

 うーん、非常に妥当というか。今の我々の状態を示している順位だと思うので。(順位は悪いですが)これからの我々の戦い方、取り組み方次第では、いい方にも悪い方にもどちらにも転ぶ順位だと思います。9位という順位に身を置いているという現状を受け止めた上で、これまでの試合の反省を生かし、今は課題に向かって取り組んでいます。そういう意味では、(現状を)しっかりと受け止めて、着実に日々を過ごせているかな、と思います。

――今年のチームの特徴は何だとお考えでしょうか

 昨年から出ていたメンバーも多いのですが、(そこに今年から)学生コーチが入って、より戦術的に、自分たちの姿をしっかりと捉えられています。ただ、どうしても頭でっかちになってしまっているというところもあって。そこに、我々が元々持っている戦う姿勢だとか、シンプルにサイドからゴールを目指すだとか、やはりそういった、本来あるべきテーマというか、我々が持っているコンセプトというか、そういったものを組み込んでいくことが必要です。『Drive』というスローガンも含めて、そういったところをより落とし込み、これからよりうまくマッチングしていければ、さらに成長していけるチームになるだろうと思っています。そういう意味では、技術とか能力の非常に高い選手が多いな、という印象を受けています。

――頭でっかちということですが、具体的なエピソードはありますか

 どうしても、緻密にやろうと、サッカーだったら立ち位置とか、ポジショニングだったり、あるいはボールの運び方だったり、そういった利点の部分に特化したトレーニングを結構行っていました。ですが、やはりサッカーというのはそこだけで終わってしまうと、駄目です。その先に勝負があったりだとか、相手がいたりするので、そこに駆け引きだとか、そういったものがあるのです。(これまで)一対一だったり、勝敗みたいなものにこだわるような、そういう行動だったり自分たちのシステムややり方だったりを理解する、ということが自分たちの達成感として生まれることを推し進めてきました。自分たちの完成度を高めるだけではなく、常に相手があって、その相手を上回るには、実際どのようにすれば良いのかを考えることが大切だと思います。頭だけではなくて、我々が本来持っている情熱だったり、自分たちがサッカーをやるために持っているパッションだったりをもう一度呼び起こさないと、なかなか頭だけでは体は動きません。どうやって自分の心や体に点火して、体を動かすのか。この辺のバランスに修正の必要があると思っているので、ここをきちんとうまく回すことができれば、より有効なサッカー、早稲田らしいサッカーのスタイルになっていくと思います。人のバランスも含めてだと思いますが。

――そういったことも含めて、今は新戦力、新しいメンバーが試合に少しずつ絡んできていると思います

 1年生にも有望な人は多いと思います。また、本当に2年生、3年生、特に3年生が調子が良くて。本当にチームを引っ張っていこうだとか、チームを変えていこうだとか、自分たちがそこに変化を加えていこうという強い気概を感じます。そういう空気感の中で出てくるパワーを、評価してあげたいです。それがまさに我々早稲田としての存在意義というか、示すことのできるサッカーとして示す姿というか。そういう像だと思うので、そういったところもしっかりと意識をして、チームに必要なパワーというのは何なのかということをしっかりと考えていきたいと思います。

――第5節の時から、『競争』というのをテーマに掲げていたと思いますが、そこで大きくチームの中で雰囲気が変わりましたか

 そうですね。ただあの時は、希望として『競争』をつくりたいと思っていました。本当にけが人が多くて、20人の中から18人を選ぶというかたちになってしまっていたので。そうなればいいという希望的観測で発していた言葉でした。今はそれが30人40人という枠組みでAチームに絡めるようになってきています。サッカーの質を高めるためには『競争』が大事だと思うので、そこに対しては、よりこだわっていきたいというか、選手の力をより引き出していきたいですね。

――特に印象に残っている試合などはありますか

 もうやはり、東洋大の試合は…。ちょうど(前節で)駒沢に負けた日の翌日に4年生みんなと焼き肉に行き、本当に腹を割って話しました。ほんとうにこれでいいのかと、大桃キャプテン(大桃海斗主将、スポ4=新潟・帝京長岡)も含めたメンバー全員に対して問いかけました。そこで、我々が今できることは何なのかということを、それぞれが自問自答して、東洋大戦を迎えました。そういうこともあり、最初は殺伐としていたのですが、3年生たちが、「俺らがやろうよ」といったようなことを言い出して。学年に縛られず、下の学年のやつらがチームを引っ張るぞ、という姿勢を見せてくれたということが、本当にうれしかったですし、それによってキャプテンをはじめとした4年生たちが奮起してくれました。やはり自分たちで自分たちを奮起させる方法を身に付けたということがうれしかったですし、それ(チームの問題)に対して、みんながパワーを出して戦えたということが良かったな、と思います。

――昨年は岡田優希選手(平31スポ卒=現J2FC町田ゼルビア)や相馬勇紀選手(平31スポ卒=現J1名古屋グランパス)のように、毎試合数字で結果を残す選手がいました。今年は、誰かが、というよりは、全員で、ということなのでしょうか

 そうですね…。結果的にはそうなってしまいますね。ただ、それは(今年の)チームのスタイルだと思うので。今年は、中々勝つことができない中で、チームのスタイルを見つけにくかったのですが、今は例えば(FW)加藤(拓己、スポ2=山梨学院)が一つポイントになっていたりしますし。チームのスタイルかな、と思いますね。

――前期のMVPを選ぶのであれば、どなたでしょうか

 うーん(長考)。(MF)金田(拓海、社4=ヴィッセル神戸U18)かな。

――その理由は何でしょうか

 昨年から試合に出ていますが、より試行錯誤(するようになった)というか。自分は何ができて何ができないのかということを考える中で、自分に足りないものというのをやっと理解してきましたし、その中で、個の、自分のパフォーマンスをいかに上げていくのかということを、不器用ながらチャレンジしていることは、その姿を見ていてとても感じます。多分プロに入れるまでは、もう少しだと思うのですが、今のプロセスを経ていくことが、人間としての魅力というか、人に影響を与えられるだけの選手、そういう表現をされるレベルまで持っていくことにつながると思います。なので、今のチャレンジを進める中で、(大切な何かを)見つけ出していってほしいな、と思っています。

早慶戦で胴上げされる外池監督

――今年で監督就任2年目になります。監督として一番大事にしていることは何ですか

 あまり結果に左右されず、自分のやるべきことを(やる)。チームをしっかり運営するだとか、大学サッカーや大学スポーツの中で、自分たちの存在意義をしっかりと見つけ出すということですね。そういうものを明らかにして表現していくということを、自分個人としてはすごくテーマとしてやっています。いろんなしがらみだとか、課題だとか、壁にぶつかることがあるのですが、ただそんなときも『潔く爽やかに』というか、常に自分のスタンスを崩さないというか。監督になってすごく感じることは、学生たちの素直さや、明るさです。あとは、真っすぐさというのはすごくまぶしく感じられることもありますし。そういったものに、自分の腰が引けないように。そのパワーと向き合うためには、やはり自分が常にあまり考えに固執せずに、オープンマインドで、彼らのパワーをいかにして引き出せるかということに主眼に置いて動くことが大切です。それが、『日本をリードする存在』になるということだと思います。(それを)自分が目指すことのできる、学生たちも目指すことのできる環境、土壌をつくっていく上で、一つの重要な立場を担っていると思います。そのために、やはり今言った、『潔く爽やかに』いるということが、結構重要なのかな、とあらためて思っています。

――2年目になりましたが、1年目から変えたこと、変わったことはありますか

 変えたことはあまりないですね…。それでも、結果が違うので(笑)。結果が違うと、周りの反応が違ったり。結果が違うということで、当然うまくいったことも、うまくいかなかったことも経験ました。自分としては本当に濃密な時間を過ごさせてもらっていますし、この経験というか、ここで培っているものは、自分の人生にとっても非常に大きなものなのではないかな、と思います。

――前年と特に変わらず、同じことを目標にして、ということでしょうか

 (1年目があることで)良くも悪くもですが、ちょっとした経験したが、判断に影響することもあります。良くも悪くも、サンプルがあるので、それに頼りすぎてしまったり。「そうなのではないか」と思い込んでしまう節があって。そこを常に、(昨年の経験を)新しいものとは切り離していきたいと思います。我々は常に新しいチャレンジをしています。去年あったことと、今年全く同じ状況であったとしても、これから起こることは全く違うものであると捉えていくことが、大切です。当然、試合に出るメンバーや、(それが起きている)時期も変わってきます。なので、(たとえ昨年と同じ状況であっても)常に新しいものにトライしているのだと自分の中で思っています。時間が経てば経つほど(経験することが増えるほど)支配されがちになってしまうので、そこをうまく切り離せるようにしたいな、とは考えています。

――この考えにたどり着いたきっかけなどはありましたか

 監督をするのは初めてですし、もちろん優勝した翌年の監督というのも初めてです。そういう意味では、今までやってきた仕事とは、違います。ただ、自分が見えている引き出しは、自分の今までの経験がもたらしてくれたものだと思います。とにかく名一杯やるということ。監督という仕事は、どうしても自分の考えが固まってきてしまいますし、これは僕にとってすごくリスクだと思います。なので、今の僕が持っている引き出しからアウトプットするだけではなくて、いかにインプットできるような環境にするのか、ということをすごく意識しているような気がします。例えば(そのために)、野球の早慶戦を見に行ったりだとか、きのうはベイスターズ(プロ野球・横浜DeNAベイスターズ)の試合を見に行ったりしました。何か自分の中で、今やっていることが正解だとか、これはいいのではないかと思えるようにすることが、一番の目標です。そういう新しい空気に触れることや、自分が思い込んでいたことが実は全く違っていたというようなことに気づくことが、自分の頭の中を新しくしていくと思います。なので、そこは自分が意識していかないといけないな、と思っています。

――就任前と就任後では、監督というものへのイメージは変わりましたか

 例えば大学では学校というくくりになってしまうのですが、別に僕は教育者ではないし、当然政治家ではないし、経営者でもない。そういう意味では、自分で新たな制度を作りたいという思いでやって来たし、それが今のサッカー界には必要な一つの基準というか、そういうものだと思っています。なので、そこのチャレンジはしていきたいし、自分が今までやらせてもらってきたキャリアというのは、そのためにあると思っています。考えが凝り固まらないように、新たな情報を取り入れながら過ごしています。同時に、学生たちが今何を感じているのか、どうしていきたいのかということも考えています。(それを取り入れるだけではなく)ここは大事にしなければいけないとか、伝統と歴史とこれからの核心のバランスのようなものを、僕自身も常に自問自答しています。学生たちに責任を持たせ、自主的にアイディアをつくらせながら、それに対して自分はその基準をしっかりと提示できるように心掛けています。やればやるほど、この重さについては痛感していますね。

――選手との距離感が近いように感じられますが、関わり方で注意していることなどはありますか

 近いと思っているのは自分だけかもしれないし(笑)。かといって僕は、近いな、とも思っていないので。やはり、関わりにくさというのは、こちらの受け止め方とか、つながり方で変わってくるわけです。指導者と学生には当然大きな、交わることのできないというか、そういう一つの線があります。しかし、それがあることは僕は大事なことだと思うので。そこを一つの関係性の重要なポイントとしてお互いが捉えられるようになれば、それぞれが自立していけると思いますし、それぞれが大人になっていくというか、高いステージというか、そういういい関係性をお互いつくれるようになっていくと思うので、そこは意識してやっていきたいと思います。

――大学時代はア式蹴球部(ア式)に所属していらっしゃいました。同じ『ア式』に戻ってきたわけですが、当時と今で違いは感じられていますか

 全然違いますね。本当に。当時は、監督に何かを言うということはなかったですし、自分たちでやっているようで、すごく守られていたし…。当時のことはあまり思い出せないのですが、僕は結構好き勝手やっていましたね。何の役職にもついていなかったので。キャプテンでもなければ新人監督でもない、フリーマンだったので、いつも後輩たちと仲良くわいわいやっていて、同学年からは、「お前好き勝手やって(笑)」みたいに言われていました(笑)。下の学年からも「外池さん自由でいいっすね(笑)」みたいに言われていました(笑)。僕は早稲田に憧れて高校に入った(※早実高出身)のですが、大学に入ってからは、早稲田はこんな感じでは駄目だな、と思うようになりました。当時は、結構屈折していたので。屈折というか、早く早稲田を出ていって、卒業後に自分は何ができるのか、ということに対しての意識が強かったですね。そんな中で自由にやらせてもらっていたという意味では、すごく恵まれた環境だったと思いますし、仲間がいたから、監督だったりコーチは、そういうやり方をリスペクトしてくれた(容認してくれた)のかもしれないです。その時もリーグ優勝というかたちで結果が出ましたし、安心安全な関係の中に僕は身を置かせてもらって、卒業後の時間につながったと思います。重要なことは、早稲田はなかなかやるな、というか、いかにそういう空気をつくり出せるか、ということだと思います。この先自分たちがどう生きていくのかということを見つけ出したいと思えるような関係性をいかにつくっていくか。それが『日本をリードする』という姿だと思うので。「早稲田最高だぜ」「俺ら一番だぜ」という風に思って卒業していっても、何もいいことはないと思います。いかにして優勝とか、そんなことではなくて、自分の生きる道はここで、とか、こういうことにチャレンジしたいんだとか、こんなのではまだ駄目なのだとか、そういうマインドセットにさせてくれるのが、早稲田の本来あるべき姿だと思います。進取の精神だったり、在野の精神だったり、そういうところは、OBだったり、そこ(ア式)に関わる人たちがつくりあげてきたものだと思うので、やはり今の学生にも、少しでもそういうものへの理解だったり、感謝だったり、そういうことをしてほしいと思いますけどね。

――『日本をリードする存在』になってほしい、というお話がありましたが、具体的な選手像、人間像というものがあればお聞かせください

 シンプルに、日本代表のキャプテンはア式の出身であってほしいと思います。やはり高い視座というか、色んな人を捉える力。きのう、ベイスターズの試合を見に行って、筒香(嘉智、横浜DeNAベイスターズ)がホームランを打ったんですよ。筒香も打ったし、清宮君(幸太郎、北海道日本ハムファイターズ)も打って、早稲田の出身だったら、石井君(一成、平29スポ卒=現日本ハムファイターズ)という日ハムにいた子も打って、すごくいい試合だったんですよ。それはさておき、筒香の応援ってすごいんですよ。筒香って4番なんですけど、出てくると、ベイスターズが筒香、筒香って。スタジアムの空気が変わって、応援のコールとかがワントーン下がってから一気に上がって、というか。例えばスタジアムにいて、結構遠いところでやっているじゃないですか。それでも、この人が何を背負って、何を目指しているのかを感じることができる選手なのです。些細なことですが、回の合間とかに子どもたちが来てなにかやったりする時に、声を掛けたり握手したりだとか何かそういうものの、ちょっとした立ち振る舞いなどに、すごく深みがあって。そうするとやはりそういう愛される選手は、他人に愛されるよりは自分から愛しに行くというか。それは例えば野球を愛する気持ちだったりそういうものですよね。先日、たまたま筒香選手の本を見る機会があって、「今の野球界は駄目で、野球少年を増やさなければいけない。そのためには勝利至上主義をやめていかなければいけないし、それが今の野球界の問題だ」と、そんなことが書かれていました。やはり、自分を育ててくれた野球への愛をしっかりと発信できたり、表現できたりするところが愛される理由だと思います。それが選手として必要な、どこをもって応援されるだとか、自分がこれだけこのスポーツが好きなのだということを、技術とかうまさも必要ですが、それを超越するようなものをつくり上げていくということ。それができて初めて『リードしていく』というか、他人にパワーを与えたり、影響を与えるということができる。そしてそれをまた自分の力に変える。こういう循環を生み出すことのできる人が、『日本をリードしていく』存在になると思いますね。当然サッカーにも同じことがあると思いますし、そういうところに意識を持っていけることが重要です。自分が良ければいい、自分が活躍すればいい。それも当然だと思いますが、常に仲間だったり、相手もそうですし、審判もそうですし、ファンやサポーターもそうですし、広くサッカー界に、自分がどう考えているのかということをしっかり言葉にできる、それが日本代表のキャプテンにふさわしい姿だと思います。そういう姿を見せられるように、今から過ごしてほしい。去年の相馬とかは、みんなからいろいろと言われたこともありましたね。しかし、僕は、彼のそういうオープンマインドなところに、ちょっときっかけさえあれば、考えを伝える力だったり、それに対しての意識を持っていけると思います。インタビューなどを聞いていても、すごくいいことを答えています。それがベストイレブンに選ばれたり、日本代表に選ばれたりという一つ一つに絶対につながっているのだと僕は思うんです。そういう、ロジックをア式のみんなが、理解していけば、絶対そこに近づきます。早稲田はそういう人材を輩出していけるような組織になっていけると思っています。そこには本当に、こだわっていきたいところです。ここではできないかもしれませんが、僕はここでもできると思っています。早稲田にしたって、5万2千人ほどの学生がいる中で考えると、ア式の人たちが早稲田の体育会の象徴だったりだとか、早稲田の学生の一つの象徴のようになっていければ。そう思っています。これから、スポーツでなくとも、社会とか企業とかでもいいですし、かつアスリートとしてしっかりと結果を残せるみたいな。それが、5年後、10年後には当たり前になっていると思いますし、なんかそういうことを、早稲田の人たちが胸を張って示していけるようなかたちになっていけると思っているので、そこに少しでも貢献できればな、と思いますけどね。

――卒業後、プロになる人もいれば、サッカー以外の道に進む人もいます。今のお話しは、サッカー以外の道に進んでも、そういう人間になってほしいということですね

 もちろんそうです。早稲田のア式でサッカーをやっていたことが、社会に出てこんなに役に立っているんだ、これだけ他の事業にプラスになっているんだ、という風になればいいと思います。今、ア式のピッチ内だけではなく、ピッチ外であっても、いろんな社会貢献とか、ボランティアとか、本当にいろんなチャレンジをしています。そういうことしている人が、実はピッチ外での活動にも結びついていますし、全て紐解けば、同じロジックというか、仕組としては一緒だと思います。そこのスイッチというか、そこにさえ気づけば、今サッカーに使っている情熱を色んなかたちで還元できますし、それは僕がやってきて実感していることです。
そこは本当にみんなに伝えたいし、そういう環境がア式蹴球部としてあるべき姿だと思うので、そこにチャレンジしていきたいです。

――早慶戦についてお伺いしていきたいと思います。選手時代の早慶戦の思い出などはありますか

 選手時代は、1学年上に上野さん(良治氏、早大中退、元横浜Fマリノス)というスーパースターがいて。僕は1年生の時に、その人に代わって出ました。僕は早実高出身だったので、4年生の時に最後10分くらい、「お前頑張っていたから出してやるよ」という感じで出場させてもらうことを目指していました。ですが、本当に運良く、1年生の時に、後半から出場させていただけて。ゼッケンは張り番といって、白い布に28番とマジックで書いた番号で出たのですが(笑)。結果、その試合は負けてしまったのですが、そこから本当に人生が変わったというか、それくらいの大舞台でした。早実の時も全国大会に出たことがなかったので、本当に大舞台を経験したのはそこが最初で。その後は大学生活を通じて試合に出続けてこられたので、本当に夢のような舞台だったな、と思います。4年生の時はゴールも決められましたし、それで勝てたということもあったので。当時は、(たくさんある内の)一つの試合としか捉えていませんでした。しかし、こうして今、自分もいろんな経験をしてきた上で関わると、特別なものだと思います。まず、大学サッカーで一番お客さんの入る試合です。また、早慶のブランドだったり、早慶戦というものが、どれだけ世の中が変わっても生き続けてきた、長く続けられてきたかということです。だからこそ、常にチャレンジをし続けていかなければいけないと思います。今学生たちはいろんなかたちで取り組んでいます。それが、いいのか悪いのかは別ですが、いろんなことをして、いろんなことを早慶戦に結び付けようとしているといます。そういう意味では、僕は基本的に何でもあり、といっていますが、本当に何でもありでいいと思います。そうやって学生たち自身が楽しめるものにしていくことが一番大事だと思います。周りはそれに乗っけてもらうというだけのものでしかないと思います。早慶だけではなく、学生スポーツの象徴となるような一つの舞台によりなっていくことを本当に期待したいですし、今年もそういう試合を勝って終わりたいと思います。

――早慶戦を見て、『早稲田に行きたい』『慶応に行きたい』と感じる高校生、サッカーをしている少年少女もいると思います。そういう意味でも、早慶戦というのは、多大な影響力のある試合であると思いますが

 本当にそうですね。やはり、当然プロも同じですが、ピッチ上でやっている選手の頑張りに加えて、いかに周りの人が自分事にしていくかだったり、そのものを楽しもうとするかみたいなそういう一つの空気の集合体をつくり上げられるか。それは、選手だけでもつくり上げられないですし、部だけでもつくり上げられません。もしかしたら、両大学だけでもつくり上げられないような影響力を持っていると思います。なので、いかにそういう視座に立って、そういう場に対しての感謝だったり、しっかりリスペクトを持つことがとにかく大切ですね。去年はちょうど西日本の豪雨があった時に試合がありました。試合前にはその話をしました。「きょう我々が豪雨にあわずに試合ができていることは本当に奇跡なんだ」と。日本を広く見渡せば、被災されている人もいる。そういったことへの配慮などを忘れてはいけないと指示しました。(そういうことも考えなければいけないような)それくらいの大舞台というか。それくらい(世間に)影響を及ぼしている。たしか広島にいた、高岡(大翼氏、平31社卒)のお母さんが見に来ようとしていたけれど、来られなかったみたいなことを言っていました。なので、(スタジアムに来られなくても、息子の姿を)スカパーで見られるというような話もして。そういうことも含めて、そういう大舞台でやれるのだ、ということをみんなが意識するには、いかにものを広くとらえられるかということ。それが、まずはスタート地点だと思って。そういうことは常々みんなに伝えているのですが、時間はあっという間に過ぎてしまうと思うので。そういうことを感じられるのは、年に1回、早慶の学生しかないということを考えれば、逆に言うと責任があるのかな、とも感じますね。

――大きい試合だからといってアプローチの仕方が変わったりはしないのでしょうか

 基本的には変わりませんが、登録20人で5人変えられるだとか。そういう一つのレギュレーションがゲーム運びに重要だったりします。去年もあの20分くらいで杉田(将宏、スポ2=名古屋グランパスU18)を変えたりしましたが、やはりあのような、いろんな場面をつくることができるという意味では、ひとついいチャレンジの場だと思います。一つのゲームではありますが、やはり選手のいろんな要素を引き出してあげられるような、いろんな気づき、一つの気づきでも大きな気づきになると思うので、そういったところを意識して、やりたいな、と思いますけど。

――選手の選考基準というのはリーグ戦と変わらなのでしょうか

 うーん…。内緒です(笑)。ははははは。

――当日のお楽しみということですね

 そうですね(笑)。はい。愛です、愛。愛が深いやつが。僕は、敢えて早稲田愛だけではなくて、サッカー愛だったり、そういったところに目を向けていきたいし、いろんな愛のかたちを体現できるかを選考基準にしたいですけど。

――では、選ばれた選手には愛があるということですね

 そこに関してはもうすごく。はい。『愛が強えー』というやつが、最後に何かを成し遂げる時に、大きなパワーだったり、闘志になりますし。多分愛があるということは、先程の筒香選手のあれではないですが、(愛を)受けていると思うんですね。応援される子は、パワーを引き出してもらえるような環境にあると思います。なのでより、(早慶戦は注目度も高く、応援されることによる)付加価値というか、そういうのが出やすい試合だと思うので、そこはちょっと考えていきたいな、と思います。

――今年は8連覇の懸かる一戦となります。最後に意気込みをお願いします

 8連覇とか、そういうことは全く考えていません。ですが、当然慶応さんも並々ならぬ覚悟で来ると思いますし、2部で今好調なので、そういう意味ではお互いいい試合ができると思います。うちもいい状態で、いい試合ができるような、準備をしたいと思いますし、何よりも大学サッカーで一番注目される、一番お客さんの入る試合である早慶戦の名に恥じない、そういう試合に関わることのできる責任と誇りを持って臨みたいな、と思います。

――ありがとうございました!

(取材 大山遼佳、編集 金澤麻由)

対談後、「本物になる」と色紙に書いてくださった外池監督

◆外池大亮(とのいけ・だいすけ)
1975(昭50)年1月29日生まれ。東京・早実高出身。97(平9)年社会科学部卒業。Jリーグ計6チームを渡り、現在はスカパー!の社員とア式の監督を二足の草鞋でこなす。SNSにも力を入れ、ア式だけでなく大学サッカーの魅力を発信している。