【連載】パリ2024大会事後特集 第1回 フェンシング・加納虹輝×松山恭助

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 日本勢のメダルラッシュが続いたパリ五輪で、特に大躍進を遂げたのがフェンシングだ。個人・団体合わせて5つのメダルを獲得しており、これはフランスに次いで2番目に多い数字となった。早大OBでは、松山恭助(令2スポ卒=現JTB)が男子フルーレ団体で金メダルを獲得。キャプテンとして最高の結果を手繰り寄せた。また男子エペの加納虹輝(令2スポ卒=現日本航空)は、日本勢初となる個人種目での優勝を果たした。東京五輪で金メダルに輝いた団体戦は惜しくも決勝で敗れたが、それでも二大会連続となるメダル獲得となった。

メダルを手に笑顔を見せる松山(左)と加納

男子フルーレ・松山恭助

 個人戦では調子を上げられず10位という結果に終わった松山は、団体戦を迎えるにあたって相当なプレッシャーを感じていた。男子フルーレ団体は世界ランク1位の肩書を持っていることに加え、男子エペ、女子フルーレも下馬評通りに表彰台に上がっていた。さらに前日には女子サーブルが「番狂わせ」で銅メダルを獲得している。この時の状況を松山はこう語る。「よく覚えているのが…3位決定戦だけ誰かがスマホで試合を見られるようにしてくれたんですよ。そこで初めて(他種目の試合を)見たんですけど、(女子サーブルが)最後1点取ったときに、全員が何も言わずに部屋にすっと消えて。本当にすっと。もう、勝たないとやばい!って」。キャプテンを務める松山の心は、「メダルを取れなかったら日本に帰れない」という焦りでいっぱいだった。

 そんなメダルをかけた準決勝では、地元フランスと対戦。完全アウェー状態の中、序盤は日本が優位に立ったものの第5試合に同点とされ、続く第6試合で松山にバトンが渡る。「ここで勝たないと負けると思った。一番集中した」という松山は再びリードを奪い返し、勢いに乗った日本は徐々に点差を広げ45-37で勝利。松山はこの時の心境を「高層ビルの間を命綱なしで綱渡りしている感覚だった」と振り返る。「今までで一番緊張したかもしれない。嬉しさより、よかったっていう(気持ち)。とりあえず日本に帰れる!みたいな(笑)」。

 最大の山場である準決勝を乗り越え、決勝ではイタリアと対戦。第7試合まできっ抗した展開が続くが、第8試合でリザーブの永野雄大(NEXUS)が流れをつかみ、世界選手権で何度もタイトルを獲得している相手を封じ込める。最後は最年少の飯村一輝(慶大)がリードを守り切り、男子フルーレは悲願の金メダルを手にした。松山はこの快挙に対して「いろんなものが1つ報われた瞬間。新しい歴史をつくった中に自分がいたのはすごく嬉しい」と話したうえで、「またあの感覚を味わいたい、次を目指したいという気持ち」と早くも前を見据えている。

 

男子エペ・加納虹輝

 日本人選手で初となる個人金メダルをかけた戦いで、最も苦戦を強いられたのは準決勝だった。それまで加納は順当に勝ち上がってきたものの、準決勝ではなかなか相手をリードすることができない。最終ピリオドで逆転に成功するが、残り5秒で同点に追いつかれ、試合は一本勝負に持ち込まれる。ここで加納は、「結構行ける気もしていて、気持ちで突きにいった」と決勝ポイントを決めた。迎えた決勝では、試合開始から2分近くポイントが入らない展開に。「(アタックを)仕掛けた方が失点する可能性が高い」状況で、加納は慎重に相手の出方を待つ。そして相手が先に動いたところを加納が先制し、2本連続で得点。「その感覚がよかったので、そのまま行けるなと」と、最後は余裕を持って個人チャンピオンの座を手にした。五輪前から金メダル獲得を公言していた加納は、「若干不安はあった。でもとりあえず(金メダルを獲ると)言うことで、自分を追い込むわけじゃないですけど、言っておけばそれに向かって頑張るので」と、目標を口にする大切さも語った。

 東京五輪からの2連覇を狙う男子エペ団体は、1人が得点を重ねるのではなく、全員で1点1点積み重ねていくというスタイルで決勝まで勝ち上がる。互いに譲らない展開が続き、アンカーを務める加納が再び一本勝負に。その直前、残り7秒のところで追いついていた加納は「自信はあってやることも決まっていた」ものの、相手の強いプレッシャーに押され、決勝ポイントは取れず惜敗した。今大会の結果について加納は「うれしさ半分、悔しさ半分」だと振り返りつつ、「絶対みんなでメダルを持って帰りたかったので、金ではなかったが一安心」という安堵の気持ちも口にした。2大会連続で快挙を達成した加納は、早大アスリートに向けて「オリンピックは意外と近いところにあったりする。もし目指すのであれば、ちょっと大きな目標くらいに思って練習に励んでほしい」とエールを送った。

 

◆松山恭助(まつやま・きょうすけ)。1996年(平8)12月19日生まれ。180㌢。東亜学園高出身。スポーツ科学部卒業。現JTB。趣味はサーフィンやスポーツ観戦。9月には、長年応援している西武ライオンズの始球式で登板しました!

◆加納虹輝(かのう・こうき)。1997年(平9)12月19日生まれ。173㌢。岩国工業高出身。スポーツ科学部卒業。現日本航空。ゲームと車が大好きで、家にシミュレーターがあるほど。プロレーシングドライバーの運転に同乗したいそうです!

フェンシング団体戦の実況を担当した土井敏之アナウンサーと対談する松山・加納

 

特別編

◆自分はチーム内でどんなキャラ?

松山「立場的にはチームのキャプテンで、しっかりしていると言ってもらえることも多いんですけど、自分としてはずっとスイッチオンの状態ではなくて。後輩に自分から話しに行きますし、いじられることも全然あります。それでいいと思っていて、それくらいみんなとは接しやすい立ち位置にはいるかな」

加納「自由奔放にやっています。チームにはいろんなポジションの人がいますけど、僕はどこにも属さず。自由気ままにやっています」

~ここで松山選手から加納選手へツッコミが!~

松山「サイコパスキャラでしょ(笑)こうやって、あはははは~って笑いながらめっちゃ相手をフルボッコにするみたいな、そういう系です。一切隙を見せ~ずに、とことん相手をぶっ倒す感じ」

 

◆お互いのこと、どう見える?

加納⇒松山「ストイック。めっちゃ真面目で、メリハリをしっかりつけてやっているイメージがあります。恭助先輩は大学入る前くらいの時から話しかけてくれていました。恭助先輩は小学生の時からその世代のトップで…強い選手は怖いっていうイメージがある中で、先輩はあんまり怖いイメージがなく、話しかけやすい、ラフな人だなという印象でした。当時僕は全然トップとかではなかったので、話しかけてもらえてうれしかったです」

松山⇒加納「ストイックだなって思いますし、やっぱりフェンシングが大好きなんだなっていうのが伝わってきますね。常に練習、筋トレしていますし、すごい真っすぐというか、だからこそ強いんだなっていうのはもう納得です」

 

◆パリでのハプニング

選手村で何箇所もダニに刺され大変な思いをしたのは松山選手。幸いかゆみは1日で収まったそうです!そして加納選手は、試合翌日に車で15分で行ける市内に出掛けたものの、規制がすごく、回り道をして2時間かけて到着したとのこと!しかし着いた頃には誰もいないという…。

 

◆2人の共通点

実は2人は誕生日が同じなんです!会ったらお互いに「おめでとう」と祝い合います。意外にも一緒に遊んだりご飯に行ったりすることはほとんどないそうですが、練習で会えばよく話す仲良しの2人。加納選手は松山選手より1つ年下ですが、「あんまり気を遣わない」とのこと。フランクな関係が素敵です!

(取材・編集 槌田花)