東京六大学春季リーグ戦(春季リーグ戦)で7季ぶりの優勝を果たした早大。東京六大学秋季リーグ戦(秋季リーグ戦)開幕が9月14日に迫るなか、春季リーグ戦で躍動した選手の成績をより詳細なデータから振り返る、「早スポ目線」がスタート。最終回となる第3回は、尾瀬雄大(スポ3=東京・帝京)、小澤周平(スポ3=群馬・健大高崎)らを中心に、来年以降も活躍の期待が懸かる下級生野手陣について扱いたい。
※本企画においては、打撃成績について扱うため、守備力に特色を持つ選手について、その長所を取り上げることができません。ご了承ください。
※ランキングについては30打席以上の選手を対象
※6試合以上に出場した野手を掲載しています
用語解説
- OPS:出塁率と長打率を足したもの。打率よりも得点との相関が強い。六大学における平均は.678
- ISO:打者の純粋な長打力を表す。長打率は単打を計算に含めるため、全打席単打を放つ選手の長打率は10割となるが、この選手は真に長打力がある選手ではない。そこで、ISOは長打率から単打を除外する形で計算し、真に長打力がある選手を示そうとした。六大学における平均は.102
- BABIP:インプレー打球(本塁打を除く打球)がヒットになった割合を示す。多くの選手は、長期的に3割程度に収束する。六大学における平均は.294
- BB%:打席に占める四死球の割合を示す。六大学における平均は10.9%
- K%:打席に占める三振の割合を示す。六大学における平均は17.5%
- wOBA:総合的な打撃力を表す。本記事においてはトム・タンゴのBasic scaleを使用した。六大学における平均は.301
内野手
前田健伸(商3=大阪桐蔭)
夏季オープン戦で絶好調の前田健。秋季リーグ戦での活躍にも期待が懸かる
今季成績(リーグ1位:赤太字 リーグ2位:青太字 リーグ3位:太字)
春季オープン戦から5番として起用され、吉納翼副将(スポ4=愛知・東邦)と印出太一主将(スポ4=愛知・中京大中京)の後を打つ打者として、その打撃力を期待された前田健。しかし、継続的に出場機会を得た初のシーズンとなった今季は、打撃不振に悩まされた。打率.265こそ平均を上回ったものの、OPS.666は平均を下回る数値であり、期待された打棒を発揮することは叶わず。不振の主な要因は長打力不足だろう。一塁手という長打力を期待されるポジションで起用されながら、ISO.059は平均を大きく下回っている。K%は7.89%と三振こそ少なかったものの、コンタクトを意識するあまりに長打を捨ててしまっては持ち味を失ったも同然だ。法大1回戦で篠木健太郎(法大4年)から放った大ファウル、その後のフェンス直撃の適時二塁打を見てもわかるように、ツボにはまったときの長打力はチーム屈指。さらに、前田健には来年以降の打線の核としての期待も懸かる。秋季リーグ戦で本格化の時を迎えることができるか。
小澤周平(スポ3=群馬・健大高崎)
シーズン序盤は苦しむも、スタメン再奪取後は堂々の成績を残した小澤
今季成績(リーグ1位:赤太字 リーグ2位:青太字 リーグ3位:太字)
昨春スタメンに定着し、今季もその打撃力に期待が懸かった小澤。しかし、今季は春季オープン戦からベンチを温める機会が散見され、春季リーグ戦でも全試合スタメンとはならなかった。それでも、出場した際にはリーグ屈指の強打者として、その打棒を遺憾なく発揮。各打撃指標共に平均を大きく上回り、打率.323、OPS.899はリーグ9位と、極めて優秀な成績を残している。さらに、打席でのアプローチも秀逸。BB%18.42%は、第1回で言及した吉納副将、梅村大和(教4=東京・早実)らに次ぐ4位、K%10.53%は上記の2人よりも低い数字となっている。さらに、ISO.129も平均以上を記録しており、優れたアプローチと長打力を両立することに成功。打撃において、小澤以上に総合力が高い打者はリーグにおいても数えるほどしかいない。出場機会を得ればここまでの成績を残すことができる小澤だからこそ、懸かる期待も大きくなる。秋季リーグ戦で小澤が絶対的なスタメンに成長し、中軸としてその打棒を発揮できれば、リーグ戦2連覇、日本一も現実的になるはずだ。
田村康介(商3=東京・早大学院)
早大学院の先輩、山縣秀(商4=東京・早大学院)に続き、レギュラー奪取を目指したい
今季成績(リーグ1位:赤太字 リーグ2位:青太字 リーグ3位:太字)
昨秋ブレークを果たした内部出身の若武者は、今季打撃不振に苦しんだ。特に課題点として挙げられるのは長打力。今季放った長打はゼロで、7安打全てが単打となっている。春季リーグ戦序盤は一時打率0割台に沈むなど大不振に陥ったなかで、最終的に持ち直した事からもわかるように、地力は確かなものがある。秋季リーグ戦では、コンスタントな活躍と、より多くの長打に期待が懸かる。
外野手
尾瀬雄大(スポ3=東京・帝京)
尾瀬の出塁力はアマチュアトップクラス。今後の活躍に期待が懸かる
今季成績(リーグ1位:赤太字 リーグ2位:青太字 リーグ3位:太字)
リーグ首位打者を獲得した今季は、尾瀬にとってキャリアハイのシーズンとなった。打率だけにとどまらず、OPS、出塁率においてもリーグ1位を独占し、早大打線をけん引。K/BB2.25を記録した打席でのアプローチも光った。ただ、今季のBABIP.512はあまりに高い。BABIPはライナー性の打球が多く、俊足の打者であれば高止まりする傾向があることは知られている。尾瀬は上記の特徴と合致する打者ではあるが、BABIP.512は、異常な数値だ。来季以降、今季と同程度の活躍を求めるのはあまりに酷だろう。もちろん、尾瀬のバットコントロール能力はリーグ屈指であり、そのコンタクト能力、打撃能力に疑いの余地はない。尾瀬がリーグトップの1番打者として、今後も継続的な活躍を披露してくれることを期待したい。
石郷岡大成(社3=東京・早実)
抜群の脚力を武器にレギュラーに定着した石郷岡
今季成績(リーグ1位:赤太字 リーグ2位:青太字 リーグ3位:太字)
スタメンに定着した今季は、打率.314を記録。その地位を確固たるものとした。K%8.11%、BB%5.41%からは、その積極的な打撃スタイルが見て取れる。石郷岡の一番のストロングポイントがその脚力であることは疑いようのない事実だが、打撃において注目したいのがその長打力だ。ISO.143は、長打力に定評のある小澤や、清原正吾(慶大4年)を上回り、リーグ12位。もちろん、純粋な「長打力」は小澤らに劣るだろう。それでも、脚力によって増幅される石郷岡の「長打力」に今秋も注目してほしい。
寺尾拳聖(人2=長野・佐久長聖)
苦しいシーズンを経て、秋季リーグ戦での活躍が期待される寺尾
今季成績(リーグ1位:赤太字 リーグ2位:青太字 リーグ3位:太字)
2年生ながら今季対左投手要員として起用された寺尾。2年生野手陣の出世頭として大きな期待を受けたが、デビューシーズンは六大学の壁に阻まれた。打撃成績は、ほとんどの項目で平均を大きく下回り、苦しいシーズンとなったことが見て取れる。課題は変化球への対応力と語るように、今季ヒットにした打球はいずれも直球系のボール。1つずつ課題を解消し、中軸を担うに値する打者へ成長することが求められる。
(記事 林田怜空 写真 梶谷里桜、近藤翔太、沼澤泰平、小島大典)