【連載】春季早慶戦直前特集 『ONE』 第1回 伊藤樹

特集中面

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 初回に登場するのは、今シーズン、エースへと成長を遂げた伊藤樹(スポ3=宮城・仙台育英)。6試合に先発し、白星こそ2つにとどまるが、防御率は1・57と安定感抜群の投球を見せている。登板した全試合で勝利に導き、首位快走の立役者となった。運命の早慶戦でも、チームに栄冠をもたらす投球が期待される伊藤樹。伝統の一戦を前に、ここまでのシーズンの総括と、早慶戦への思いを語ってもらった。

※この取材は5月22日にオンラインで行われたものです。

昨年よりはかなり成長した

――チームとしてここまでのシーズンを振り返っていかがですか

(現在)勝ち点4で、完全優勝まであと一つという状態に持っていけているのは、すごくいい状態なのかなと思います。加えて勝ってきた試合も、後半に逆転をするという内容で、チームとして勝つかたちをこの春に一つつくれたというのは、良かったのではないかなと思います。

――早慶戦を控えたチームの雰囲気はいかがですか

今週末の明大対法大の結果次第で、また状況が変わってくると思うんですけど、もちろん早慶戦に勝つというのは変わらないので、変わらないモチベーションの中でやれているのではないかなと思いました。

――ご自身の投球についてはどのように評価されますか

昨年よりかはかなり成長した部分が大きいのではないかと思ってます。主に制球力の部分と課題にしていた平均球速のところでかなり成長が見られているかなとも思いますし、中1日で投げたりというのもできているので、そこに関してはすごく良くなったと思います。

――第一先発に関して、シーズン前に不安などは感じませんでしたか

特に不安はなかったです。ただ準備はしてましたけど、やはりやってみないと分からないところがかなりありました。投げていく中で、東大戦や法大戦で被安打が重なったり、苦しい投球が続いたりしたので、自分の感覚とずれているところはかなりあるなと思って、それはいい経験になりました。

――印象に残っている登板はありますか

明大3回戦がここまででは一番良かったかなと思います。

――結果は11回完封でしたが、最後まで投げ切りたいという気持ちだったのでしょうか

最後まで投げたいというのと、勝ち星がほしいという気持ちもあったのでこの1試合をしっかりと投げ切りたいという気持ちは自分の中でありました。監督さん(小宮山悟監督、平2教卒=千葉・芝浦工大柏)としても球数とか気にしていただいてましたが、11回に5点取ってもらって一試合投げ切るというのは、自分の中でも大きな部分だったので投げ切れて良かったなと思います。

――法大戦では打球直撃の後も続投されてましたが、あの時はいかがでしたか

痛みをこらえながら投げてました。今は大丈夫です。思っていたよりは痛みは引きました。

――今までの打球直撃の中でも痛かったほうですか

群を抜いて痛かったです(笑)。春季オープン戦でも当たっているので、よける練習をしようかなと思います。

しっかりと1イニング1イニングを投げ切る積み重ね

――投球について昨年から変わったところや成長した部分はどこですか

昨年の秋は小さく動く変化球とかで、カウントを取っていましたが、今年は真っすぐと大きい変化のスプリットやスライダーで、ファールを打たせてカウントをつくれていることに関して、自分の中で違う投球ができていると思います。球速の部分でも、球場(の表示)では147㌔とかですが、チームのトラックマンでは150㌔くらい出ていたので、そこの部分が昨年とは違うところなのではないかと思います。

――先発で投げる際に意識していることはありますか

昨秋の初先発が東大戦で、その時は長いイニングを投げたくて出力を抑えながら入ってしまって、グダグダしてしまったので(今季は)しっかりと1イニング1イニングを投げ切って、その積み重ねを9イニングするというのは印出さん(太一主将、スポ4=愛知・中京大中京)と話し合いながらできているのでそういった部分が大きいかなと思います。

――カーブやスライダーなど変化球の感触はいかがですか

一番大事にしているのがカーブで、客観的に自分を見た時のイメージはスライダーやスプリットみたいなイメージだと思うのですが、そういった印象が大きくなるとカーブとかがすごい有効になります。(打者は)全く振ってこないですし、カウントも取れているので一番有効的なボールになっていると思います。

――法大戦までは四死球も非常に少なかったですが、コントロールの面はいかがですか

法大戦で少し荒れてしまいましたが、そこまでは秋から冬にかけてやってた成果が結果として出たのではないかなと思います。

――ご自身の投球に点数をつけるとしたら何点ですか

ここ2試合良くなかったので、なんとも言えないですけど70点以上はあげてもいいのではと思います。

――クイック投球でも球威が落ちてないように見えますがいかがですか

クイックに対して苦手意識がないので、ランナーが出てから慌てることもないです。むしろクイックの方が良かったりもするので、不安要素なく投げられているのが失点が少なくなっている要因なのかなと思います。

――けん制やフィールディングでも動きがいいように感じますが、実際のところいかがですか

法政が盗塁のイメージがあって、東大や立大も昨年よりも増えた印象で、そこに関してはけん制やフィールディングは自分の中でも意識してやっていました。けん制アウトも2、3個取れているのでうまくできているかなと思います。

――けん制やフィールディングに対して自信はありますか

けん制には自信があります。もともとピッチャーをやり始めた時から苦手意識はなかったです。ランナーの反応を見ながら、基本的には刺すつもりでやっています。

――ここまで第一先発で回ってみていかがですか

やはり加藤さん(孝太郎、令6卒=現JFE東日本)はすごかったんだなと、今とても感じています。後半戦に流れていくにつれて、コントロールが浮ついて法大戦のようになってしまったということが、加藤さんにはなかったと思います。投げるイニング数も加藤さんの方が多かったですし、その点で球数を少なく投げ切ることもできていた加藤さんのすごさを感じて、2年間、加藤さんの先発を見てきていいお手本だったなという風に思います。

――疲労具合はいかがですか

きついです(笑)。

――ここまでの投球を踏まえて修正していきたいところはありますか

左バッターに投げているボールのコントロールの、精度が少し落ちてきてしまっているので、もう一度左バッターに対する考え方と、投げている感覚の修正は2週間の中でしようと思っています。そこだけですね。

――第二先発を務める宮城誇南投手(スポ2=埼玉・浦和学院)についていかがですか

秋からずっと一緒に練習していて、まだ第二先発をやると決まっていなかった中で、第二先発をやれたらいいねという風に二人で話していました。練習の中では、直さなければならないところを意見交換しながら、しっかりとできる子なのでいろんな吸収力が高いです。そこの部分がこの春いきなり先発として回って、ある程度ゲームをつくれていることにつながっている要因だと思います。

――シーズン中に宮城投手に何かアドバイスはされましたか

いろいろなことが器用にできるタイプなので、バッターを見て、今これを狙っているなという感覚がわかってしまうのですが、それにスキルが追いついてこなくて、そこのギャップにずらされている感じがありました。なので、サイン通りにポンポンとストライクを投げながら、バッターを見て要所でずらしていけばある程度大丈夫だという話をしてから、少し良くなったかなと感じます。

――中継ぎ陣でも後輩の選手が活躍されていますが、いかがですか

香西(一希、スポ2=福岡・九州国際大付)に関しては、すごく安心して見ていられます。後ろのエースとして、回跨ぎもこなせますしずっと安定して投げているので、任せられる後輩だなと思います。安田(虎汰郎、スポ1=東京・日大三)に関しては厳しい場面でポンと出されてすごくきつかったと思いますが、自分の武器をしっかり持っていますので、自信持って投げている姿が見えます。春の段階では通用してきていると思います。まだ1カード残っていますけど、秋に向けてはまだやらなければいけないことがあるという感じです。あとは越井(颯一郎、スポ2=千葉・木更津総合)とかが誇南の後に0失点で抑えていて、いい部分が出ていると思うので、全然問題ないと思います。

(慶大・外丸と)やっと同じ舞台で戦える

――ここからは早慶戦の質問に移ります。まず早慶戦の印象などはいかがですか

 早大に入ってくるまでは、特に気にして見たことはなかったですけど、入学してから4季早慶戦をして、OBの方々の熱意とか応援の雰囲気というのは、すごい伝わってきます。やはり絶対に負けられないなと思いますし、いい経験になります。毎年いい試合ができて面白いと思うので、今年の春もしっかりと勝ちたいなという風に思います。

――2季連続で優勝が懸かった早慶戦になりますが、いかがですか

(昨年の)秋、2戦目に先発をして負けてしまったので、その時の借りを返すということはあまり意識しないようにしていますが、絶対勝ちたいなと思います。

――慶大打線の印象や、対戦するに当たって気を付けたいところを教えてください

昨年は主力選手が強力だったので、そこをなんとか(抑える)みたいな感じでした。今年はいろんな選手がいて、昨年よりは若いイメージがあります。その子たちを打たせて乗らせてしまうと面倒になってしまうので、若い戦力の台頭に負けないように投げられれば流れはつかめるかなと思います。

――慶大・外丸投手との投げ合いが予想されますが、外丸投手についてはいかがですか

やっと第一先発で戦える時が来たなと思います。もちろんずっと意識してきた相手ですし、僕の実力不足で2年間第一先発で投げられなくて、ようやく同じ舞台でやって勝てればいいなと思います。

――まだ外丸投手と連絡とかは取られてますか

いや特にはないですけど、たまにナイスピッチングくらいのメッセージは送ります。

――最優秀防御率のタイトルも懸かっていますがいかがですか

めちゃくちゃ意識はしていますが、あとは篠木さん(法大)次第なのでゆっくりと今週(25、26日)は見てようかなと思います。

――最後に早慶戦への意気込みをお願いします

昨年の秋、本当に悔しい思いをしましたし、その中でも先発としても勝てなかったのがすごく自分の中で残っているので、必ず第1戦に勝って第2戦もし負けたとしても、第3戦でしっかりと勝ち切って優勝できるように頑張りたいなと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 廣野一眞)

◆伊藤樹(いとう・たつき)

2003(平15)年8月24日生まれ。176センチ。宮城・仙台育英高出身。スポーツ科学部3年。登板前のルーティンとして、前日の夜に一人で東伏見稲荷神社へ散歩に行くという伊藤樹選手。通い始めてから一度しか負けておらず、今回の早慶戦前にも訪れるそうです。神様も味方につけて、来たる決戦でも、神がかった投球を見せてくれることでしょう!