【連載】『令和7年度卒業記念特集』第3回 尾瀬雄大/野球 

卒業記念特集記事2026

「99点」の大学4年間

 早稲田のリードオフマンとして6季にわたり稲穂打線をけん引した尾瀬雄大(スポ4=東京・帝京)。3年春には首位打者のタイトルを獲得し、リーグ3連覇の立役者となった。しかし最上級生となった尾瀬を待ち構えていたのは、極度の打撃不振。通算安打数は大台まであとわずかの99本に留まり、悔しいラストシーズンとなった。足りなかったその1本に、尾瀬は何を感じるのか。背景にある不屈の野球人生と共に、今抱える思いに迫る。

 尾瀬が早大に憧れを抱いたのは小学4年生の時。神宮球場で観戦した早慶戦の熱気に心を打たれた。この日を境に早大でのプレーを目指すようになり、高校受験では早実高を受験。しかし結果は無情にも不合格となり、最終的には帝京高に進学した。それでも名門・帝京高での経験は、尾瀬にとって貴重な財産となったという。

 「帝京はオフがなくて毎日練習をするんですけど、そこで本気で野球に向き合うとはどういうことかを学びました」

 野球づけの毎日で「魂」を育んだ尾瀬。甲子園出場こそ叶わなかったが、その活躍は関係者の目に止まっていた。持ち前の打撃を評価され、スポーツ推薦で早大に合格。一度は不合格を味わっただけに、その喜びはいっそう大きかった。

 憧れだったエンジのユニフォームに袖を通すと、1年目からベンチ入りを果たす上々のスタート。そして2年春に、ポジション獲得への大チャンスが訪れた。開幕の2週間前に、当時センターのレギュラーを務めていた森田朝陽(令6社卒)が体調を崩すアクシデントが発生。中堅の座は、当時2番手だった尾瀬に急遽回ってきた。

 「絶対レギュラーを奪ってやるという気持ちで準備していたので、突然のチャンスでも自信を持ってやれました。あれは自分の中でターニングポイントでしたね」

 無我夢中のまま安打を重ね、このシーズンで打率3割台を記録する鮮烈なデビュー。蛭間拓哉(令5スポ卒=現西武)の後釜を担い、1番センターとして確固たる地位を築いた。

3年春の早慶2回戦でヒットを喜ぶ尾瀬

 さらなる躍進は3年春。開幕からヒットを重ねた尾瀬は打率4割7分9厘を記録し、自身初タイトルとなる首位打者を獲得。「本気で取り組んだ分、信じられないくらいヒットが出た」と笑顔で当時を振り返る。チームもこの春に7季ぶりの優勝を果たし、まさに最高のシーズンとなった。

 この活躍を契機に、本格的にプロの世界を志すようになった尾瀬。その後もリードオフマンとして早大のリーグ3連覇に貢献し、六大学随一のヒットメーカーとして名を馳せた。当時は現役最多の安打数を誇り、4年秋までに積み上げた安打数は90本。大台の通算100安打達成は、ほぼ確実かに思われた。

リーグ3連覇を喜ぶ尾瀬(背番号1)

 しかし大学最後のシーズン、尾瀬は最大の不振に苦しむ。開幕の東大戦では2試合連続マルチヒットを記録したものの、3カード目の法大3回戦から11打席連続無安打の失速。結局通算安打数は99本に留まり、偉業達成にはあと一歩届かなかった。

 「プロも意識するし、3割打って当たり前って思われるプレッシャーもあって最後の1年はすごく苦しかったです。100安打も絶対達成できると自分は思っていたんですけど…」

 99本という「あと1本」足りなかった現実。ドラフト会議でも指名漏れとなり、悔しい秋となった。

 それでも尾瀬はこのことを前向きに捉え、これからの野球人生を見据えている。

 「この99本で終わったことを、今後の野球人生の糧にしていかないといけないなって思っています。自分の人生は挫折があってそれを乗り越えてきてて。早実に落ちたのもそうだし、明治神宮大会で優勝できなかったのも、ドラフトで指名されなかったのも、なんかこれに似ているような気がしていて。99本で終わったというのは、今後の野球人生に対するメッセージだったと思っています。」

 卒業後はトヨタ自動車で競技を続行。NPB入りに向け、新天地での活躍を誓う。今まで幾多の壁に行く手を阻まれながらも、懸命な努力で道を切り開いてきた尾瀬。足りなかったあと一歩、あと一本を追い求める挑戦が再び始まる。

4年秋の早東2回戦で安打を放つ尾瀬

 最後にこれからの野球人生での目標を尋ねると、返ってきた答えは意外なものだった。

 「ヒットを打つことです」

 数々の実績を積み上げてきた尾瀬が口に出したシンプルな言葉。その理由を尋ねると、このように答えた。

 「最後のシーズンで色々苦しんで思い詰めたりしたんですけど、よくよく考えるとヒットを打つって簡単なことじゃないなって思いました。そんな中で迎えた早慶1回戦の時、ヒットを打てた事が本当に嬉しくて、こんなに嬉しいことはないと感じました。プロ野球選手になりたいとか大きな夢はあるんですけど、1番はヒットを打って、野球は楽しいって思えるようになりたいです。」

 早稲田の安打製造機として数多くの快音を響かせながら、誰よりもヒット1本の重みを味わった尾瀬。「99点」の大学4年間を、「100点」の野球人生に昇華すべく。夢の舞台に向けてこれからもバットを振り続ける。

(記事 石澤直幸 写真 梶谷里桜、田島凛星、西本和宏)