インカレ前対談最終回は、松井泰二監督(平3人卒=千葉・八千代)。『期待している』学年だという今年の代について、選手の人間性、成長についても詳しく伺った。
※この対談は11月6日に行われたものです。
今年1年間を振り返って
――今年はSprout Camp、早慶戦、SP!KE FESなど学生主導で開催される大会が多かった印象です。イベントを通して学生の成長を感じた部分はありましたか
成長というよりは学生というものの可能性をすごく感じました。学連では学生がこういうことをやりたいと言っても、今までの伝統とか習わしとか慣習のようなものに引きずられてダイナミックな改革ができていないですが、今の時代を理解しているのは若者だと思います。そういう意味では学生の可能性を感じられたということと、その可能性を僕たちも信じていいんだなということ、任せたらそれなりに、今の時代に合った彼らの感覚がすごく鋭くて、そういう面ではSprout Campもそうだし大成功したという部分が証明されたのではないかと思います。
――スタッフや試合に出られないメンバーもいたり、人数も多かったりする中で学生とどのようにコミュニケーションを取られていますか
中々コミュニケーションを取ることは難しいです。コミュニケーションを取ろうという場面と、あるいは向こうから取りに来るというのも実は大事なことで、例えば、今2年生の相浦(直人、教2=早大学院)は次期副務に就く予定ですが「先生はこういう時どう考えているのですか」ということを聞いてくる学生もいれば、大坊(心彩人、商2=岩手・不来方)は大人しいのでこちらから話しかけにいかなければいけなかったり、あるいは徳留(巧大、スポ2=長野・松本国際)とか大谷(陸、スポ3=埼玉・川越東)とかはウエイトトレーニングを残ってやり始めているので、そういうところにさりげなく行くこともあります。積極的に自分が何かするというよりは、実際どのようなことをやっているのかなということを見てあげることがすごく大事だと思います。喋るというよりかは、そういうところにいて監督が見てくれているんだなとかそういう部分で何かを感じ取ってもらうことが大事かなと思っています。言葉はすごく強くなってしまうので、言葉ではなくて自分がそこにいてどのように感じてくれているかということも含めて意識しております。
――試合中など選手のコミュニケーションを取っている姿が印象的ですが、学生同士のコミュニケーションについてどのようなことを期待していますか
練習の時と試合の時、あるいは当然時期によっても違うのですが、まず学生の中でも4年生が4年生らしくリーダーとして引っ張るような立ち振る舞い、あとは1、2、3年生の学年の役割があるので、自分の立場を弁えた発言はすごくできてきていると思います。学年という縦のつながりと後はポジションでも分けたり、広報のユニットやストレングス、コンディションやデータだとか全員がユニットに所属していたりするので、そういう部分でのコミュニケーションというのは上手い下手とか学年とかだけではなくて、立場によって自分の役割を認識していると思います。そういう面では今年はだいぶいいコミュニケーションが取れているのではないかなと思います。
――今年度初め、どのようなチームにしようとお考えでしたか
去年前田(凌吾、スポ4=大阪・清風)がキャプテンになって、去年の4年生がどちらかと言うと大人しくて、引っ張りきれないという言い方が正しいかわからないですが、上手く自分たちのことを表現できないという学年でした。前田は2年目のキャプテンでもあるので、そういう意味でチームの作り方とか、あるいは去年負けたという現実を受け止めてどうしたらうまくいかないかが分かっています。今年のチームは前田を中心に、そして主務の板垣(慧、政経4=京都・洛南)は本当に人間的に素晴らしいです。ですからこの2人の役職と梶村(颯汰、スポ4=東京・安田学園)は全体が見えていて細かいところの声かけが下級生にできて、そういう人が幹部にいるのですごく安心して見られた1年だったかなと思います。

対談中の松井監督
――前田選手が2年連続の主将でしたが、前田選手の成長を感じた点はありますか
我慢できるようになったことだと思います。今までは多少自分の調子が悪いとキャプテンとしての役割を忘れてしまうということがありましたが、自分の調子がいい悪いというより自分の役割をきちんと果たせていると思います。チームのプレーの中心はやっぱりセッターなので、キャプテンの役割とセッターの役割という2つの柱で、最近は特に秋のリーグ戦では崩れなくなったなと思います。東日本インカレの時期と秋とを見比べるとすごく安定してきて非常に頼もしいキャプテンだと思います。最近の中では水町(泰杜、令6スポ卒=現ウルフドッグス名古屋)も立派なキャプテンだなと思いましたけど、それに近いようなキャプテンになってきて、この間の秋リーグから比べて今も成長しているのがすごくわかります。すごく楽しみで立派なキャプテンだと思います。
――春から秋にかけて、今年のチーム全体としてはどのように成長したと感じていますか
夏に北九州に行ってケガ人が出たり、その後夏の強化合宿に行ってケガ人が出たり、そしてU21という世界大会に出て合宿に来ていないというメンバーもいたので、ほとんど春とは違うメンバーで合宿をやってきました。そこの不安はあったものの、春と違ったメンバーの板垣とローゼン(マーク有廉ジュニア、スポ2=茨城・土浦日大)がスタートのまま最後までいくというかたちですごく頑張って、チームとしても1段上がったチームになりました。それから小野(駿太、スポ2=静岡・聖隷クリストファー)と川野(琢磨、スポ1=東京・駿台学園)と中上(烈、スポ1=京都・洛南)が合宿を経てないけれども早くチームに馴染みたいということで、陰で練習したりとか全体として自分のためにというよりチームのために関わりたい、チーム力を上げたいという行動が春と秋で大分違ったのかなと思います。結果的にはいずれも優勝でしたが、優勝の中身は大分違って、高い位置に来ているのではないかなという風に考えています。
――今のチームは圧倒的エースがいるチームではないと思います。現在のチーム構成についてはどのようにお考えですか
今までは自分が見てきた中でも、宮浦(健人、令3スポ卒=現ウルフドッグス名古屋)がいたり、大塚(達宣、令5スポ卒=現パワーバレー・ミラノ)がいたり、水町(泰杜、令6スポ卒=現ウルフドッグス名古屋)がいたりという、全日本に入るような選手が当然いたわけですが、今はそういう選手が、麻野堅斗(スポ3=京都・洛南)とかが入ってはいるものの本数をたくさん打つわけではないという中で、個人賞はほとんど誰も取ってない状況でした。でも、1人で耐えるバレーというよりかは、分散して、この場面では誰が最適なのかということをチームでしっかり把握できています。逆に誰かに頼った時に、その選手がうまく調子が乗らない時なんか負けるんですけども、今回混戦を抜けてきている、あるいは競った試合を勝っているという部分でお互いに誰かに頼ることなくできていると思います。自分が常に攻撃に参加していくとかですね。レシーブで言えば、布台(聖、スポ3=東京・駿台学園)が、俺がまずは多くの範囲をとるんだというように、すごく細かい決め事が出来てきているチームなので、その分ではまたガラッと(他の代に比べて)変わっています。僕のバレーはオールオフェンス、オールディフェンス、オールセッティングっていうのを目的にしていて、常に全員で守って、全員で攻めて、全員でトスを上げるというようなことに、すごく理想に近いかたちになってきたので、そういう部分では崩れにくい。そして佐藤(遥斗、スポ3=東京・駿台学園)がうまくいかなければと徳留(巧大、スポ2=長野・松本国際)が出るとか、またミドルも今回違ったメンバーなので、4人は常時使えるようなメンバーもおりますし、オポジットに関しても、徳留をそこに入れるのかどうかっていうことも含めて、層が厚くなってきているのでね、だから今までのある人中心のバレーっていうよりかは、ここで言うと11人、12人とかね、そのぐらいの選手が変わっても変わらない、力が変わらないチームにはなっているのではないかなと思います。
秋季リーグ戦について
――秋季リーグ戦ではどのような目標を立てていらっしゃいました
1つは秋リーグに入る前にケガ人がやっぱり出て、どういうかたちになるかなってのは不安でした。当然1週目もU21のメンバーを使わない中で、次の日体大戦も同じようなかたちだったので、そこで4年生とお互いに本音で話してチームのすべきことを整理しました。ですから、春と違ったところは、4年生と我々スタッフ陣が本音でこれからどう作っていこうかってのがまずできていました。ミドルが変わろうと、U21で疲れようとも、我々は基礎基本で日本一になるんだというようなことも明確になったので、大事なところでのちょっとした失点っていうのはいくつかはありましたが、春や東日本のような失点の仕方は無くなってきたので、その部分では秋の目標はインカレに向けてのきめ細かいチームの約束とか、もう1回基礎基本をやろうっていうことができての優勝であったんじゃないかなと思います。
――秋リーグに点数をつけるとしたら何点をつけますか
前半はU21のメンバーを除いて、やらなければいけないところができてなかったところと、日体大戦も会場に入った瞬間元気がない感じがありました。だから、前半に関しては50点ぐらいです。ところが、後半の国士舘の試合ぐらいからもう85点ぐらいあげてもいいんじゃないかなと思っています。その理由は、自分たちでやってきたことというのが、怖がりもせずでしっかり向かっていけたことがよかったです。小野(駿太、スポ2=静岡・聖隷クリストファー)もずっと、大事な試合でも緊張していたようですけども、それをうまく乗り切ってくれたので、そういう部分では自分たちに勝ったというか自分たちに自信がついたような戦いぶりだったので、そういう点数をつけたいと思います。
――川野選手が春よりも秋に苦戦を強いられていた印象がありますが
彼はいいものがあるんですけど、少しコンディショニングが良くなかったです。実際にU21行った後に休ませたのですが、いざ学校が始まってみると少し遠いところから通ったりだとか、休む時間がなかったりで、疲労がだいぶ溜まった状態で秋リーグは戦っていました。東海大戦の時に数字が良くなかったので、その辺りで疲労を取らせるようなことをやってみたら、その後も良かったので、コンディショニングの面が1つ。相手にしてみれば、さっき言ったように中心となる選手がいないのでその中で川野は、だいぶ厚くマークされました。この間の春も、去年菅原がスパイク賞を取っていたので春は菅原が相当マークされました。そういうように相手がデータを大分捉えていたので、その部分で前田もライトっていうのは当然必要な攻撃ではあったものの相手からのマークが強くなってしまいました。それで川野も少し体の状態も良くないし、相手のプレッシャーも強く来たことで、うまくいかなかったのかなと思います。ただ、大事なところでは得点が欲しい時にはうまく決めてくれたので、1年生としては十分じゃないかなと思ってます。
――スタメンで特に成長したなという思う選手はいらっしゃいますか
1本目を取っている布台が、自信を持ってサーブレシーブはだいぶ安定しました。ディグに関してももちろん成長しているますが、チームをコーディネートする役割をしてくれたっていうのはやっぱり大きいと思います。そういう部分で、今までは自分のプレーのことしかやれなかったわけじゃないけれど、今はリベロというディフェンスで自分以外の選手をどう活かしてチームを作っていくかってことが非常にできるようになったし、それが意外と的確だと思います。その部分がまず成長しました。あとは今まで出てなかった板垣(慧、政経4=京都・洛南)とローゼン(マーク有廉ジュニア、スポ2=茨城・土浦日大)が自分の特徴を活かせていました。板垣は高さがあまりなくても堅実な早いクイックやブロックの手が動かないのが特徴です。(スパイクを)止めに行こうとすると、当然相手はそれが見えたら逆に打つので、待っているのが1番いいんですけども、その基礎基本をやれる選手です。ただ、最後の順天堂の時に菅原に変えたのは板垣のブロックが、特に4セット目は1本も触っていませんでした。なので最後は菅原に交代し、白野にボールが集まってくるのでそこでぶつけて行ってみようと思ったら、上手く3本止めてくれました。そういう部分でも、自分の仕事の立場を理解してやれていました。ローゼンマークは秋リーグでは持ち前の高さを発揮してくれたと思います。春は本当は合宿の翌週からオポジットで出る予定だったのですが合宿の最終日に捻挫をしてしまいました。そういう悔しさを彼は持っていたので夏の合宿から本当にいいパフォーマンスを今も続けてきています。特にこの3人が成長したと思います。

試合中にコートの選手に声をかける松井監督
――日体大に負けてしまってから明治を追いかけるかたちになっていて、選手たちは順位を意識してしまう部分も多かったと思うのですが、その中で明大戦の前に監督が選手たちにどのようなお声がけをされましたか
明治の前は大事な試合だというその試合の意義を話したのですが、これで勝ったから、負けたから引退でもないし、勝ったから優勝でもないといつも言っています。2敗してしまうと優勝できないというプレッシャーのかかった状況で、メンタルを作ってやれるのかという、いわゆる負けてはいけない状況というのはインカレも同じなのでそれに向けたリハーサルだという話はしました。
――前田選手が最終戦の時にインタビューで伺った時に、「なぜ勝てたか分からない」とおっしゃっていたのですが監督なりにどのように解釈されていますか
あのゲームは内容があまり良くなかったです。数字上は負けている結果でした。数値以上に相手がミスをしてくれて、そういうちょっとしたところで勝ったのだと思います。本人としては素晴らしいかたちではあったものの、そういう風に偶然ではないけど混戦になって、向こうもメンバー大分変えてきた中で、自分たちらしいバレーはできたものの、本当に自分たちのバレーができていたかというと、そうではないのではないかという意味だとは僕は思います。だから逆に言えば、我々が練習してきたバレーではなかったんだということを言いたかったのかと思います。
全日本インカレに向けて
――全カレに向けて現在のチームの状況は
非常にいいですね。非常にいいというのは、4年生がまとまって下級性の立場を意識していて、自分たちはこういうかたちで練習を作っているんだっていう目標をしっかりと定められています。集合の中でも今はダメなものはダメだと言うことができてきて、ちょっと緊張感もあります。ですから、そういう中で去年も秋は優勝して第1シードでしたけども、日体大には自分たちのミスで負けてしまって、僕がずっと見ている中でも1番悪い試合でした。そういう思いはやっぱりしたくないというのは言っていました。そういう部分でもう1回そのことを思い出しながらやっているので、非常にいい状況だと思います。
――4年生はどのような代だとお考えですか
4年生は少年のようにおこちゃまみたいな可愛い部分もあって。しっかりしている青年とか、大学生みたいなものもある一方で、もう社会人じゃないのかなというぐらい立派で冷静な判断もできる。いろんな顔を持ってる学年だと思います。特にいいのは、仲がいいっていうところが、一昨年と似ています。あとは、藤中(優斗、令元スポ卒=現東レアローズ静岡)が主将だった時も4冠を取っているのですが、4冠をとっている代は意外と仲がいいんです。藤中の時も9人ぐらいいましたが仲がいいし、水町の時もみんなが仲いいしで、今年はいつも一緒にいるような感じでいます。いろんな顔を持っているし、自分たちの仲間を大事にするような学年でもあるので、そういう学年かなと感じています。
――4年生に向けてメッセージをお願いします
本当に去年は悔しい思いをして、まして自分たちでキャプテンやりますと言って負けてしまったのは、相当責任を感じていていると思います。その責任を感じる必要はないのだけど、その悔しさを今年の春から体現して、かつ東日本(インカレ)では教育実習期間に作り上げた3年生中心のチームで行ってなかなかうまくいかなくて。前田を出してセットは取れたものの、3年生が作ってきたチームなので、それでいくぞと言って負けてしまったという悔しさもありました。色々なことを振り返ってみると、夏の合宿でも色々なメンバーが活躍して、秋も早稲田らしいかたちができてきたと思います。ですから毎年のことですけれども、勝ち負けはいいので、自分たちらしい、前田主将らしいチームっていうものを体現して試合をしてもらいたいと思います。今年は特に、大いに期待しています。
(記事、写真、編集 井口そら、井口瞳)

◆松井泰二監督(まつい・たいじ)
千葉・八千代高出身。1991(平3)年人間科学部卒業。2012年に早大のコーチに就任し、2014年から監督となった。色紙には、「全部出すことを極めろ!!」と今年のスローガンである「異常を極める」に因んだ意気込みを書いていただきました。試合前には試合の動画を見ることが日課とのことでした。