「チーム」とともに歩んだ競技人生
「もう一回、もう二回やってもあれ以上はない」。もう悔いのない競泳人生だった。昨季の早大水泳部競泳部門女子主将を務めた小原天寧(スポ4=東京・目黒日大)。早大の自由形長距離をけん引し、主将として信頼を得るとともに周囲の人の支えも実感した。女子主将としての思いを振り返り、競技を引退する小原の大学4年間を振り返る。
水泳を始めたのは3歳の時。水泳にあこがれを持っていた母の影響で、スイミングクラブに通い始めた。そのころからテレビで世界水泳を見るほど、水泳が好きだったという小原。小学校1年生の時に声を掛けられ、競泳の道を歩み始めた。もともと自由形短距離を泳いでいたが突出するほどではなく、全国大会に出られるほどの選手ではなかった。しかし少しずつ距離を伸ばしていったことで良い結果を残せるようになり、長距離を専門とするようになる。高校1年生の時に出場したジュニアオリンピックでは、400メートル自由形で自己ベストをおよそ7秒更新し、日本選手権標準記録を突破して表彰台に立った。小原の競技生活にとって大きなレースとなった。
競技をするうえで肩を怪我することが多かったという小原。そんな自身の経験をきっかけに興味を持った、スポーツで発生する怪我についての勉強ができる早大へ入学。当初は周囲の選手は競技レベルも競泳に対する意識も高く、自分がここにいてもいいのかという不安もあった。しかし1年生の時の日本学生選手権(インカレ)でリレーメンバーに選ばれ、予想よりも良い銀メダルを取れたことはうれしかったと語る。
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早大の自由形長距離を引っ張ってきた小原
2年生のインカレは、小原にとって苦い思い出だった。1点も点数を取ることができず、メンバーとなったリレーでも自分が足を引っ張ってしまい、決勝に残ることができなかった。悔しかったが、インカレ後に練習環境を変えたことで調子が上がっていく。3年生の時に新しい拠点でコーチに勧められたというオープンウォータースイミング(OWS)の大会では、5キロの部で初出場ながら優勝を果たした。4年生の関東学生選手権の800メートル自由形では銀メダルを獲得。後輩である松﨑りん(スポ2=東京・日大二)、青木虹光(スポ1=群馬・明和県央)とともに、早大で表彰台を独占した。400メートル自由形では自己ベストを更新し、良い流れをつかむことができた。
主将に選ばれたときは、自分に務まるのかという不安がほとんどだった。エースとしてもチームを引っ張っていた歴代の主将ほどの競技力はなく、背中で引っ張るようなタイプではない。その分周りをよく見てコミュニケーションをとり、選手たちの隣に立って共に進めるような主将を目指した。だからこそ、どうしたら自分の意見が伝わるか、言葉の選び方をとても意識した。主将として臨んだ4年生のインカレでは、直前に女子部員に手紙を書いて渡したという。部員たちを当日もそれを持っていてくれており、うれしいと声をかけてくれた。チームメイトにとって、小原は隣に立ってそっと背中を押してくれる主将だったことだろう。小原が描いた自分らしい主将の姿を体現し、チームメイトから大きな信頼を得た証拠だ。最後のインカレでの自身の泳ぎは、100点ではなかったが、「もう何回やってもあれ以上はない」と振り返る。ほかの大学は思っていたより強かったが、チームのみんなもこれ以上ないほどに頑張ってくれた。悔いは残らなかった。
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最後のインカレで仲間の応援に応える小原
小原がこれまで競泳を続けてきたのは、チームという存在が大きかった。チームのために点数を取ることが競泳の一番のモチベーションであり、早大水泳部を引退してチームを卒業するならば、競技として水泳を続ける理由はもはやなかった。小原にとっての競泳の原動力たなっていたのは、尊敬する素敵な同期と、憧れの先輩、頼りになる後輩たち。10月に出場したOWSのインカレを最後に、競技引退を決めた。
現在は、大会で現役で頑張る選手たちのサポートもしているという小原。引退後も現場に出向いて自分にできることを積極的にしていくつもりだ。後輩たちに対しては、思い残すことのないようにできることを最大限やってほしいと語り、そのバトンを受け渡す。大切な仲間に出会い、多くの人の支えを実感した競技生活だった。今度は自分が支える立場として、小原は新たな夢に向かって進んでいく。
(記事 神田夏希、写真 神田夏希、土橋俊介)