【連載】『令和4年度卒業記念特集』第47回 安藤翔/合気道

合気道

背中で見せた主将

 「合気道は一生かかっても満足することのできないもの」今年度合気道部主将を務めた安藤翔(基理4=神奈川・聖光学院)は4年間打ち込んだ合気道をこう表現した。出場した大会では個人戦・団体戦ともに多くの優勝を成し遂げ、その戦績と合気道への真摯な姿勢で早大合気道部を引っ張ってきた。そんな安藤のこれまでを振り返る。

 安藤は中高サッカー部に所属し、合気道に出会ったのは大学に入学してから。理工キャンパスでの新歓をきっかけに道場に足を運び、いくつか技をかけられて合気道の魅力に引き込まれたという。新しいことにチャレンジしたいとの思いから合気道部へ入部することに決めた。早大の富木流合気道はあまり普及しておらず大学で始めることが前提で、大学から初めても全国大会上位入賞を目指すことができる。4年生は新型コロナウイルスの影響を受け大会への出場は遅いスタートとなったが、安藤も早大合気道部で練習を積み、大会へ参加し始めた3年次から次々と大会入賞を果たした。

 輝かしい戦績をあげてきた安藤は、大学4年間の中で一番心に残っている大会はという問いに自身の引退試合となった第53回合気道全日本学生合気道競技大会を挙げた。この大会で安藤は個人戦では男子担当乱取個人戦、男子短刀乱取団体戦、そして演武競技男子の3つの部門で優勝し優秀の美を飾った。しかし安藤は自身の戦績以上に大会終了時に同期が目を潤ませていたことが印象的だったと答えた。「4年間、仲間たちとやり切ったという達成感を味わえた瞬間」だった。

 男子乱取個人戦に出場する安藤

  安藤の率いた4年生を、後輩たちは「(早大合気道部)史上最強」と言った。そう言わしめるまでに数々の大会で圧倒的な成績をおさめ、早大合気道部を引っ張った安藤ら4年生。大会後のインタビューからは上位を争った互いの存在の大きさがうかがえた。特に2022年度の大会では、準決勝・決勝に多くの部員が勝ち残り、優勝を争うことも少なくなかった。多くの部員が勝ち上がることは喜ばしいことであるが、同時に癖や苦手なところなど全てを把握している同期との対戦にはしばしのやりにくさも感じたという。しかしそんな同胞対決も「今思い返せば、日々切磋琢磨している仲間と大会の場で競い合う楽しさはあったかな」と振り返った。

  ところで大会後にインタビューをさせていただくと、部員たちが練習以上の力を発揮できたこと、部員たちが大会で学びを得ていたこと、後輩について、いつも同期や後輩たち合気道部全体を考えた言葉が並び早大合気道部への思いを感じた。圧倒的な成績と部を常に考える言動に主将の風格を感じるが、意外にも安藤は「自分は人を率いるようなタイプの人間ではないと思っていた」という。それでも早稲田大学の体育各部の主将という名誉ある役割を全うする覚悟を決め、1年間早大合気道部を引っ張ってきた。主将として大切にしたことはという問いには「自分は弁が立つ人間ではなく、鼓舞したり指南したりするのは苦手だったので、行動で示すようにしようと意識していました」と答えた。

 引退試合となった全国大会にて表彰状を手に笑顔を見せる(後列中央)

  練習や試合で見せる合気道への姿勢やそれを裏打ちする輝かしい成績の数々、その背中に早大合気道部はいつも引っ張られてきたことだろう。安藤は試合の中で部員たちのリスクを冒しても挑戦する姿勢や試合を楽しもうとしている姿に今年の「早稲田らしさ」を感じていたという。大会後の取材で多くの部員が試合の中での成長を感じていたことが思い起こされた。安藤が背中で見せた合気道へのひたむきな姿勢も後輩たちへ繋がれ合気道早大合気道部の伝統の中に生き続けることだろう。

(記事 三原はるか、写真 堀内まさみ、合気道部提供)