加藤拓214球の熱投も実らず、まさかのサヨナラ負け/明大1回戦

野球慶大
明大1回戦 10 11 12
慶大
明大 1X
(慶)●加藤拓-小笠原
◇(三塁打)横尾(二塁打)佐藤旭2

 最後の最後で、力尽きた――。春秋連覇に向けてもう負けられない慶大は、ここまで勝ち点3と勢いに乗る明大と対戦。3回、佐藤旭主将(4年)の適時二塁打などで、明大のエース山﨑福也から幸先良く3点を奪い先制する。しかし4回に2点を返されると、6回には竹内惇(4年)の悪送球でついに同点に追いつかれてしまう。そこからは両チーム一歩も譲らず、試合は延長戦へ。迎えた12回、2死一、三塁のピンチで慶大は敬遠策を選択するが、その初球を加藤拓也(2年)が暴投。まさかのサヨナラ負けで、大事な初戦を落とした。

 先発のマウンドを託されたのは加藤拓。これまでの6試合中5試合に登板し、エースとしてチームをけん引している。ダイナミックな投法から放たれる直球は常時140キロ台後半を維持。球は高めに浮くものの、テンポのいい投球で2回まで安打を許さない。すると3回、打線が好投に応えた。連続安打で無死一、二塁の好機を演出し、打席には佐藤旭。捉えた7球目は右翼への適時二塁打となり、待望の先制点を奪う。その後2死二、三塁の場面で、横尾俊建(3年)が右翼フェンス直撃の適時三塁打を放ちさらに2点を追加。試合の主導権は慶大が握ったかのように思われた。

適時三塁打で2打点を挙げた横尾

 しかし、明大は3点のリードで屈する相手ではなかった。4回、髙山俊に本塁打を浴びるなど1点差に詰め寄られる。そして6回、2四球で1死一、二塁の窮地を迎えた加藤拓。投じた6球目、相手の放った打球は三塁手の横尾の正面へ。併殺で攻守交代、誰もがその場面を予想したが、横尾からの送球を受けた二塁手・竹内惇の悪送球の間に走者が生還。思わぬかたちで同点に追いつかれる。そこからは両校エースが走者を出しつつも要所を締め粘投。スコアボードには『0』の文字が並び、3-3の同点のまま試合は延長戦に突入した。

 継投か、続投か。明大が継投を選ぶ一方で、慶大は加藤拓に全てを託した。9回を終えすでに165球を投じた右腕は、チームの命運をただ一身に背負い、一球一球魂を込めて投げ続ける。疲労も懸念される中でも必死に腕を振り、10回裏には2つの三振を奪った。何としてでも援護したい打線だったが、2番手の上原健太の前に沈黙。12回の攻撃を終え、勝利の可能性は消えたその裏、四球と内野安打などで2死一、三塁。打席には2打席目で本塁打を許した髙山。ここで慶大バッテリーは勝負を避けるため敬遠策を選択する。加藤拓が投じた214球目。緩やかに放たれた投球は捕手のはるか頭上へ。歓声と悲鳴が入り混じる中、ボールは無情にもバックネット付近を転々とし、その間に三塁走者が生還。この瞬間、慶大のサヨナラ負けが決まった。本塁付近では加藤拓が膝をついてうなだれる。振り続けた右腕は、最後の最後で言うことを聞かなかった。

暴投サヨナラ負けという結末に肩を落とす加藤拓

 この試合での一番の収穫はやはり、加藤拓の熱投だろう。疲れのある中でも空振りを取れる直球は、今後も慶大の武器となるに違いない。しかしこの続投は、救援陣への信頼がまだ厚くないということの裏返しともいえる。また打線がつながりを欠き、3回以外は得点を奪えなかったことも課題だ。春秋連覇への道は、あす以降勝ち続けることでしか開けない。陸の王者が、いよいよ瀬戸際にまで追い込まれた。

(記事 中丸卓己、写真 上田密華、谷田部友香)