第5回はスタッフ編その②をお届けします。選手のフィジカル強化のための指導だけでなく栄養面の指導なども行うSC(ストレングス&コンディショニングコーチ)の松岡綾香(商4=愛知高)とスケジュール管理、OB・OG会やファンクラブなどへの対応、広報活動、経理など仕事内容が多岐に渡るマネジャーの稲葉るい(文4=静岡・清水東)が登場。チームを裏から支えるお二人に具体的な仕事内容や今シーズンへの意気込みを伺った。
※この取材は3月31日に行われたものです。氏名に旧字体を含む場合は、原則として新字体に直して掲載しております。
BIG BEARSに入ったきっかけ
ーーBIG BEARSに入ってマネジャーとSC(ストレングス&コンディショニングトレーナー)という役職についた理由は
稲葉 私は大学生活の4年間で何かに打ち込みたくて部活動を選んだのですが、その中でBIG BEARSのマネジャーに勧誘されて部活動見学に行った際に、マネジャーは部員が約200人いる巨大な組織を裏で支えていて、その運営を学生主体でやっているということに誇りを持っていました。裏方であるマネジャーが日本一という目標に対して大きく貢献している姿に感銘をうけたのでマネジャーを志望いたしました。なんか就活の面接みたいになっちゃった(笑)。
一同 (笑)。
松岡 私は初めてアメリカンフットボールというスポーツを見た時に、迫力があってかっこいいなと感じて、自分も携わりたいと思いました。高校時代、ダンス部にいた時にトレーニングに携わっていたのですが、大学ではダンスよりもトレーニングに興味があったので、せっかくトレーニングに携わるのであれば体づくりが大切なスポーツがいいなと思いました。その中でアメフトの基盤であるトレーニングを1から支えているBIG BEARSのトレーナーさんを見て魅了されたので入部しました。
ーーそれぞれの役職で行う仕事内容は
稲葉 マネジャーは事務仕事がメインで、運営を支えるためにいろんな部門に分かれています。例えば私はOB・OG担当で、OB・OGのみなさまと連携をとって、お金をいただいて部の資金に充てるというのが主な仕事です。会計担当であれば部費やグッズの資金などを管理する役職ですし、他にも関東学生アメリカンフットボール連盟に所属して試合運営を行なったりするという役職もありますし、SNSを動かす役職などもあります。このように枝分かれしている各役職にバックオフィスコーチがついていて、その方と連携して仕事をしていくのがマネジャーの主な仕事になります。マネジャーと聞くとグラウンドで水を持って走り回るみたいなイメージがあるかもしれませんが、そうではなくて、渉外活動や広報などといった裏方の仕事がメインになります。
松岡 大きく分けて3つあります。1つ目はトレーニングの指導です。コーチがいなかった期間は自分達でメニューを考えて部に導入するということをやっていましたが、今はコーチがいらっしゃるので、コーチが考えたメニューをコーチと同等の知識をもとに選手に指導しています。2つ目は選手の栄養管理です。毎日SNSツールなどを使って選手から食事内容を画像で送ってもらって、カロリーの計算を栄養士さんと行なっています。3つ目はコンディションに関することです。部のツールを使ってコンディションレベルや選手の疲労度などを測ってコーチと共有し、練習メニューの調整やケガの予防に努めています。
ーー試合の時はどんなことをされていますか
稲葉 試合の時も担当ごとに仕事が分かれています。スポッターという音声通信機器を管理・調整したり、連盟に所属している人はグラウンドに入る時間や荷物の置き場などを管理したりしています。私のOB・OG担当もいくつかに分かれていて、受付でのチケットのやり取りや、グッズ販売、グラウンドの指示係などに分かれています。試合中はSCさんのお手伝いをしています。
松岡 試合中はボトルワークがメインになるのですが、試合前はそのためのスポーツドリンクや水を準備して選手の水筒に入れたり、コロナ禍では紙コップで配っているのでその準備だったりをしています。試合直前はその日の天候に合わせたアップのメニューを考えて、選手のケガの予防や最大限のパフォーマンスが出せるようなコンディションの調整をしています。試合中はサイドラインで待機している選手に対して少し体を動かせるような働きかけもしています。
――オフシーズンはどのような仕事をされていましたか
稲葉 各方面にお知らせを送るなど、マネジャーの事務仕事は継続してありました。あとは新体制発足に向けて4年生同士でミーティングや個人反省をして今後に生かしていくための時間を過ごしました。
松岡 オフシーズンは体づくりをするための期間なので私たちのなかではこっちがメインになっていて、シーズン中よりも忙しいです。この期間に朝の7時30分から夜の9時までウエイトルームに選手が来るのですが、私たちやコーチがそのトレーニングの指導をしています。食事面では選手から3日間の食事を送ってもらって、来年度にむけてどのように体重を増やしていくかを一人一人に対して詳細にアプローチしています。
――それぞれの役職のやりがいを教えてください
稲葉 社会人になって必要とされるスキルを身につけることができるところです。バックオフィスコーチやOB・OGなど、マネジャーが関わる人は大人の方が多いので基準を大人の方に合わせる必要があります。よく言われる「オン・オフ関係なくメールは24時間以内に返す」ということや、電話やお手紙を書く時も失礼にならないように注意するということをしていくことで、社会に出た時に周りよりも一歩先にいれるかなと思います。あと、部の窓口としていろんな方と関わる機会が多いのですが、その中で応援や激励のメッセージを直接いただけるので、それはモチベーションに繋がっています。
松岡 普段のトレーニングや食事管理から支えていた選手が試合で活躍しているのを見るのが、直接的なやりがいにつながっています。その他にも、下級生やケガ人のトレーニングも見ているのですが、日々体重が少しでも増えると直接報告をくれるので、自分が見てきた選手の成長が具体的な数値として表れてくるとやりがいを感じます。
――その反面、大変なことやプレッシャーを感じることはありますか
稲葉 マネジャーの仕事は表からは見えにくいので、選手からは仕事を理解してもらえないというか、「マネジャーって結局何をしているのか」というような厳しい意見をもらうことも多くて、仕方のないことかもしれませんがそれは少し悔しいです。アピールをするわけではないですが、選手のためにしていることなので、そこは理解してもらいたいですね。
松岡 SCは例年男性の方がやられていて、自分達もトレーニングしながら選手たちに教えるということをしていたのですが、今は女子4人でしていて、トレーニングを長年してきた選手からは「あなたたちはトレーニングしたことがないでしょ」という見方をされてしまうのがよくあります。そういったところは自分達がトレーニングするのもそうですし、知識もたくさん増やしていかなければいけないと思います。
――これまでの3年間で印象に残っている出来事や瞬間はありますか
稲葉 やはり甲子園ボウルに出場した時が一番印象に残っています。日本一を目指しているチームだと分かって入部しましたが、実際に甲子園に行った時に本当にこのチームは甲子園を目指すチームなんだということを再確認しました。観客数は他の試合とは比べものにならないくらい多いですし、観客の半分がエンジに染まっているのを見て、チームの規模の大きさを実感しました。その時に何か自分がチームのために貢献できていたわけではないのですが、この場所をみんなが目指す理由が分かった瞬間でした。
松岡 大学2年生のシーズンはコロナ禍でコーチがおらず、スタッフと選手だけでトレーニングを行なっていて、SCである自分達が考えたメニューを実践しました。結果としては関東5位に終わってしまったのですが、当時の4年生の方から「2年生なのに、4年生と同じ強い気持ちで引っ張ってくれてありがとう」という言葉をいただいた時は、今までの3年間の中で一番大変な時期だったのもあって、特に印象に残っています。
――妥協しないで続けていることなどはありますか
稲葉 誰かとお仕事をした時のアフターケアは特に意識しています。外部の方から何かしていただいた時に、必ずお手紙やメールでお礼をしています。今後の部のためにも良い関係性を維持し続けるということは大切にしています。
松岡 今の業務のなかで、他の部活のトレーナーの方と関わる機会が増えたのですが、アメフト部がトレーニングルームの使い方であまり良い評価をもらえていなかったということがありました。BIG BEARSの選手が他部活の選手とともに、より快適にトレーニングルームを使えるように、自分が部の窓口として他部活のトレーナーに対して積極的にアプローチしていくことは意識しています。
――ご自身のユニット以外のスタッフや選手との関係性については
稲葉 スタッフ間は仲が良くて情報共有もできているのですが、まだ足りていない部分もあると思います。マネジャーはグラウンドとは別の作業場で作業をするので、そこにいるASさんとはよく話しますし、SCの方ともコミュニケーションは取れているのですが、個人的にATと話す機会が少ないと思っているのが課題です。ミーティング等を通してコミュニケーションを積極的に取ることを心がけています。決して仲が悪いわけではないです(笑)。選手とはマネジャーは全然関われていないですね。私の先輩のマネジャーは選手たちと仲が良かったりしたのですが、年々というか私たちの代を筆頭にお互いに歩み寄れていない部分があるかもしれないです(笑)。選手との関係性は今後の課題かなっていう感じですね。
松岡 スタッフに関しては、マネジャーはもちろん、ATさんも同じトレーナー組織として話す機会が多いですし、選手の練習を見るASさんとは、トレーニングを見る私たちとそれぞれの運営に関して話すことが多いです。選手に関しては、トレーニングルームで指導する時に私たちが1人なのに対して30人くらいの選手を相手にするので、コミュニケーションは大事にしています。
新体制の印象
――新体制の印象について
稲葉 スタッフを置いていかないというのが、今年のいいところだと思います。昨年は選手とスタッフという立場の違いがある中で、なかなかお互いに噛み合わず、難しさがあったので、今年はその反省を活かしてスタッフに焦点を当ててくれています。実際に幹部の人がスタッフに打診してくる機会が増えるなど、積極的に関わりを持ってくれるので、今年のスローガンが「一丸」なのですが、体現できているなと感じる部分があります。
松岡 これまではトレーニングの内容がスタッフに任せきりなことが多く、自分たちSCが用意したトレーニングをしてもらうことが多かったのですが、今年度に関しては、トレーニングも練習の一環ということで、選手の方から意見をたくさんくれています。実際の自分達のプレーだけではなく、こういったところにも目を向けてくれている選手が多いのかなと思っています。
――OL亀井理陽(法4=東京・早実)の印象について
稲葉 良くも悪くも「優しい」と思います。みんなの気持ちを汲み取れる主将だと思っていて、今までの主将の多くは、強いからみんなからの尊敬を集めていてガンガン引っ張っていくというタイプだったのですが、亀井くんは強いのはもちろん、自分の意見を押し通すのではなく、いろんな人の意見を聞き入れた上でいいものを見つけて進んでいくという点で優しい人なのかなと思います。逆に言えば強くいうことに関してはかけている部分があるかなと思っていて、その部分を副将の二人がカバーしていていいバランスが取れているのではないかなと思います。
松岡 このあいだ測ったベンチプレスの結果を見ても亀井だけ数値が他の選手の2倍くらいあって(笑)。本当に強いのですが、それでも謙虚なところは謙虚なので、選手やスタッフからの尊敬といったところでは、他に主将に立候補した人はいなかったとはいえ、主将は亀井以外はあり得ないなという感じでした。チームの顔としてふさわしいと思います。
――OL笹隈弘起副将(スポ4=東京・早大学院)とDL金子智哉副将(教4=大阪・豊中)の印象は
稲葉 笹隈君は練習中にすごい声を出していて、みんなを引っ張っていく勢いあります。みんなとちゃんとコミュニケーションをとるので、いい雰囲気を作ってくれています。金子君は意見をちゃんと言えるタイプなので、亀井君が強く言えない分、みんなが言いにくいことも言ってくれる印象があります。状況を動かす力があるなと思います。
松岡 笹隈は、スタッフや下級生にしっかり気を配ってコミュニケーションをとってくれるところが、亀井1人ではカバーしきれない部分なので、欠かせない存在だと思います。金子に関しては、コーチや監督など誰に対しても意見を言うことができるのはもちろん、スタッフにもしっかり意見を伝えてくれるので、私たちとしてもより良くなるよう改善することができるので、とても助かっています。
――髙岡監督やコーチ陣との関係性はいかがですか
稲葉 グラウンドにいる技術面を指導するコーチとは関わる機会はないのですが、バックオフィスコーチとは月に一回ミーティングを行なっていますし、密なコミュニケーションをとっています。学生中心の組織ということで私たちのことを信用して仕事を任せてもらえているのかなと思います。監督もバックオフィスコーチのような一面を持っていて、監督自身がこういった仕事に取り組んでくださるので、マネジャーの仕事も把握してくださっていますし、密な関係を築けていると思います。
松岡 私たちのコーチがいなかった期間は、私たちだけでコーチの役割を果たすのが難しい部分があったのですが、監督自身がトレーニングの知識にアプローチしてくださった部分もありますし、その他にも普段の練習後に出す補食等に関してもコミュニケーションをとることが多いです。ポジション別のコーチに関しても、体が小さいとか動きが悪いといったそれぞれのポジション内の課題を、私たちと私たちのコーチを含めた三者で話し合う機会が多いです。
全員が日本一に向かって努力している
――お二人から見たフットボールの魅力は
稲葉 シンプルに激しいぶつかり合いですかね。ケガも多くて普段アメフトを見ない方からしたら「なんでそんな危ないスポーツを」思われるかもしれないのですが、それでもみんなが臆せずやるところが、究極のスポーツというか、選手たちが本当にこのスポーツを好きでやっているんだなとアメフトは分かるのでいいですね。
松岡 フィジカルが強ければ試合に出られるというのはもちろんなのですが、それ以外にも足が速いことなど、自分の強みを生かせるいろいろなポジションがあって、未経験であっても1年目から試合に出られることもあるので、全員に活躍の場が用意されている競技なのが魅力かなと思います。
――BIG BEARSの魅力は
稲葉 部の運営を学生主体でしているので、部員一人一人がチームをより良くしようという思いをもって活動しているのがいいところだと思います。プレーをするのは選手なので、その選手一人一人が強い気持ちを持っていないと強くなれないなかで、一人一人が勝つために何をしたら良いかということを真剣に考えていて、貪欲な姿勢でいることがいいなと思います。それに対応する形でスタッフも同じ目線で戦うことが求められているので、大変ではありますが同時にいい組織だなと思います。
松岡 私が1年生の時の早慶戦を見に行った時から印象はあまり変わっていなくて、スタッフも選手も含めたみんなで戦っているイメージがあります。その中でもただ楽しくやっているというよりは全員が日本一に向けて努力しているのがいいなと思っていて、オフシーズンに何十回もミーティングをして意識のすり合わせを行ったり、普段の練習から「毎日何か一つずつ変えていこう」と幹部が言ってくれたりと、部員一人一人が向上心を持って取り組めています。
――スタッフのお二人から見て、イチオシの選手は
稲葉 まず一人目は亀井君ですね。OLで体も大きくて絶対的に安心できるというか、いないと不安です(笑)。あとはWRの佐久間君(佐久間優毅、政経4=東京・早実)ですかね。とにかく足が速いです。試合でも佐久間君の活躍は大きくて、いつも観客を沸かせていてすごいなって思っています。スタッフで言うと江川さん(江川祐希、スポ4=埼玉・越谷北)ですね。今年から初めての女性副将に就任したのですが、副将として選手に言いたいことを臆せずに言えるのがすごいと思っています。私だと「スタッフの私が言っていいのかな」となってしまうところ、選手に対して選手と同じ目線で意見を言うことができて、そんなことは自分にはできないというか考えたこともなかったので、今まで誰もやっていなかったことをやっているという点ですごいなって思います。
松岡 私もやっぱり佐久間ですね。ポテンシャルがすごくて、点をどんどん取りにいってくれるので期待しています。
――最後にラストイヤーへの意気込みをお願いします
稲葉 本当に勝ってほしいので、自分にできることならなんでもします。選手のためのスタッフなので、選手が勝つための環境を整えてあげたいというのと、自分がする仕事が選手の勝利に繋がっていると思って一生懸命頑張ります!
松岡 私自身の3年間を振り返ってみると、大変だったことが9割を占める中で、最後は絶対に勝ちたいというのがひとつあって、そのために選手のトレーニング指導はもちろんなのですが、SCの目線から言うと来年以降も勝てるチームを作っていかなければいけないので、次世代の選手の育成というところにも力を入れていきたいです!
――ありがとうございました!
(取材・編集 安齋健、山田彩愛 写真 山田彩愛)
すべては「勝利」のために!
◆稲葉るい(いなば・るい)(※写真右)
静岡・清水東高出身。文学部出身。マネジャー。選手だったらやってみたいポジションはDL(ディフェンスライン)で、多少の恐怖心はあるものの、OLをぶち破ってQBサックを決めたいそうです!
◆松岡綾香(まつおか・あやか)(※写真左)
愛知高出身。商学部出身。SC(ストレングス&コンディショニングコーチ)。走ることが好きな松岡さんは、選手だったらやってみたいポジションはWR(ワイトレシーバー)だそうです!