第4回はスタッフ編その①をお届けします。ケガ発生時やリハビリ中の選手を指導するAT(アスレティックトレーナー)の江川祐希(スポ4=埼玉・越谷北)と対戦校の分析を行い、練習運営の中心となるAS(アナライジングスタッフ)の根石祥太(社4=東京都市大付)が登場。それぞれの具体的な仕事内容や今シーズンの意気込みを伺った。
※この取材は3月30日に行われたものです。氏名に旧字体を含む場合は、原則として新字体に直して掲載しております。
日本一に貢献するために
今年度からASとして日本一を目指す根石
――練習中と試合中の仕事内容を教えてください
根石 ASの普段の仕事は、対戦相手のスカウティングといって、どういう戦術をとってくるのか分析することです。その中で重要なのは、何度もビデオを見直して、一人一人の選手の特徴を捉えて、文字に起こしたり、データにしたりすることです。他にも、そうやって集めたデータをもとに、今年はこうやって戦っていこうという方針を立てることもあります。実際に、試合中は立てた方針に従って選手たちにプレーをしてもらいます。その中で、事前には相手はこうやって戦ってくると思っていたけど、少し違うなという部分をリアルタイムで修正していくのが試合中の流れになります。
江川 ATは選手の安全管理が第一になっています。それに対してどのように対応するのかにこだわって、私たちは日々の練習や試合に取り組んでいます。また、ケガをした選手の復帰までのリハビリテーションなどを、ドクターや社会人スタッフと協力して行っていくのが主な仕事です。
――役職に就いたきっかけはありましたか
根石 もともと高校でアメフトを始めたきっかけが、早稲田大学の甲子園ボウルを見たことで、こんなかっこいいチームがあるなら、大学でも日本一目指してやってみたいと思ってアメフトを始めました。けれど高校時代にケガをしてしまって、大学で治ったかなと思ったら、選手やっている中でも高校時代のケガが痛くて。3年生になって、さらに大きなケガをしてしまった時に、これからリハビリをして選手としてやっていくのと、今までの経験を活かして裏方のASとしてやるのでは、どちらがより日本一に貢献できるのか考えた時に、それは裏方の方だろうと自分の中で区切りをつけて、最終学年はASになることを決めました。
江川 最初のきっかけは、スポーツが好きだったので、(スポーツを)する人に貢献したいなと思って、スタッフという道を目指しました。それで自分がどういう風にスポーツに関わっていくかということを考えた時に、選手のことを近くでサポートできるトレーナーという職業に惹かれていました。スポーツ科学部での大学生活を通じてトレーナーの勉強もしているので、それを実践する場としてもBIG BEARSという環境がとても魅力的だったので所属しています。
――それぞれのユニットの魅力を教えてください
根石 ASの魅力は、やはりアメフトの根幹の部分に関われるのが大きいと思います。アメリカンフットボールで選手をやろうと思うと、体が大きかったり、運動神経が良かったり、ある程度の身体能力が必要になると思うのですが、ASはそういうところが及ばない戦術を司る部門なので、そういう意味で、自分に身体能力的なアドバンテージがなくても戦力として活躍できると思うし、自分にやる気があって勉強さえすれば、1年、2年から主力になれる部門なので、そういったところは魅力だと思います。
江川 BIG BEARSならではと言われると、他の部活動と比べて選手とより近くに居られるのが魅力です。それは社会人の方や多くの人のサポートがあるからだと思っています。また、トレーナーは、一人一人がケガをした選手を見るという担当制なのですが、その選手と必死にリハビリをしたり、試行錯誤をしたりして、いかに早くいい状態で復帰できるか考えます。復帰して、活躍する選手の姿を見るのは一番やりがいを感じる点です。
――それぞれのユニットにプレッシャーはありますか
根石 良くも悪くも責任を伴うユニットなので、責任感ゆえのプレッシャーはあります。けれど、それは自分たちがチームの根幹を担っているということでもあります。
江川 1つは、創部以来重大な事故が起こっていないのがBIG BEARSのトレーナーユニットとして誇れる部分なので、そこに関しては私たちも安全管理という面で継承していかないといけないものと思っていて、責任感を感じています。もう1つは、一緒に日本一を目指していく中で、頑張ったけどリハビリの結果が結びつかなかったとか、うまくいかない時期がどうしても出てくるので、そこは選手と一緒になって考える難しい場面だと思います。どうすることができない場合もあり、もどかしい部分でもあります。
――それぞれのユニットはどのような人が向いていますか
根石 何か好きなことに夢中になれる人はASに向いているのかなと思います。ASはアメフトが好き、選手を支えたいなど、そういう気持ちが一つでもあれば頑張れるポジションです。そういう意味で、チームが好きとか、アメフトが好きとか何か意思を持って頑張れる人は向いているのかなと思います。
江川 これはATだけではないと思いますが、私は今副将というポジションでもあるので、BIG BEARSに所属したい、一緒になって勝ちたいという思いがあれば、スタッフはどんな人も向いていると思います。私も最初はゼロから始めて、いくらでも可能性は広がると思っています。強いて言うなら、どれだけ献身的にできるかです。勉強を頑張れることもそうですし、相手の気持ちを理解してあげられるかというのも大切なので、そういう人が向いているんじゃないかなと思います。
――ASはアメフト未経験者もいるのですか
根石 たくさんいます。むしろ、そういう人たちの方が経験者に負けじと頑張ってくれるので、伸びはすごかったりします。
『同じ思い』が大切
AT初の副将に就任した江川
――これまでにスタッフで副将になることはなかったと思います。役職に就かれた経緯などありますか
江川 最初は副将ではなくて主務をやろうかなと考えていました。そういう役職に就こうと思ったのは、アメフトはプレーするのは男子ですが、チームなので男女関係なく『同じ思い』でいることが大切だと思っているからです。私が1年生の時にBIG BEARSが甲子園ボールに出場しているのですが、その時の4年生が一つにまとまって、チームをつくってくださっていて、その姿を見てそういうチームを続けていかないといけないと思いました。昨シーズンは特に、スタッフと選手の一体感のなさが感じられたので、日本一を目指すチームとしてどうつくりあげていくのか、この先日本一を目指すにあたって改善しないといけないポイントだと思いました。私は得意ではないですが、人に発信することができる側の人間だったので、自分で発信してチームに働きかけたいと思って、副将になりました。
――ATでは、スポーツ科学部の普段の授業が役に立ってくる部分はありますか
江川 その通りだと思います。BIG BEARSでは1年生の頃にテストがあって、そこでも勉強します。けれどスポ科の授業が元になっていて、そこで習ったことを実践するというか、知識がないと活動できないので、そこは直結していると思います。
――アメフトは準備のスポーツという印象をうけますが、ASとして現在どのようなことをされていますか
根石 やはり春はチームの基礎固めをして、自分たちの現在地を知るという意味でも、自分たちの実力がどこまで通用するのか確かめていきたいと思っています。自分にとっても初めてのシーズンなので、挑戦という気持ちもあります。失敗はあるとは思うのですが、自分がASのトップなので、後輩に後ろ向きな印象を持たせないように、自分がしっかりと前を向いて、BIG BEARSをいい方向に持っていけるようにしたいと思っています。
――相手を分析する上で重要な視点はありますか
根石 相手の強みと弱みを明確にすることは大事だと思っています。例えば、このチームはフィジカルエリートが揃っているけど、統制が取れていないとか、このチームは強そうではないけど、連携がすごいとか。そういったところの印象から見えてくるものもあります。それに対して、BIG BEARSがどうやって戦っていけばいいのかを考えて戦術を立てるので、相手をよく知るという意味でも、強み弱みをどれだけ深掘りできるかは大切だと思っています。
――ここまでを振り返って、印象に残っている出来事はありますか
根石 最も印象的なのは、昨年の最終戦で法大に負けた時です。怪我をしていて裏方としての仕事が多かったのですが、負けた瞬間本当に泣きそうになって。何でこんなに悔しいのかと。自分の中でどれだけBIG BEARSが大きい存在なのか改めて認識しましたし、怪我を抱えながら選手として中途半端に関わるのではなくて、主戦力としてBIG BEARSを勝たせたいと思えるようになった、AS転向の1つのきっかけでもあります。
江川 印象に残っているのは、トレーナーとしての私ではなく、BIG BEARSの一員としての私です。日本一は想像し難いものだと思います。1年生の時の甲子園ボールで負けた時に、私はスタッフとして撤収作業などをしていて、負けた後の誰もいない甲子園の景色を見た時に、ここで日本一になりたいと思ったのをずっと忘れずに活動しています。それが今の日本一に対する原動力になっているなと思います。
――活動される中でこだわりはありますか
根石 自分は誰にとっても接しやすく、親しみやすい人でありたいと思っています。特に1年生なんて、入ってきた時は先輩たちはみんな大きいし、実績もあって怖いなと思うでしょうし、僕自身もそうでした。そういう時に笑顔で接してくれる先輩は、とても頼り甲斐がありました。自分も威圧感はない方なので、後輩にとって親しみやすい先輩でありたいと思っています。
江川 私が大切にしていることは、責任感と信頼される人になることです。ATはケガ人の情報をコーチに伝えたり、選手にこうだからこういうふうにしようという話をしたりします。いかに必要とされる情報を的確に素早く伝えるのかは、すごく大切にしてきた点です。監督とお話する際など、コミュニケーションが取りやすくなっているので、これからも大切にしていきたいと思っています。
――別の役職のスタッフや選手と交流はあるのですか
根石 最終的にプレーするのは選手なので、戦術だけをただ突き詰めても、そこに選手の意思がなければ自己満足になってしまいます。普段から選手とコミュニケーションをとると、選手からもいろいろな意見が返ってくるので、それに対してもう一度ブラッシュアップしていきます。自分たちが戦術を作るというより、選手たちと戦術を共に作っていくということは考えています。
江川 ATで言うと、テーピングやコンディショニング、リハビリの中で交わす言葉の数が多いので、そこで他のスタッフより選手との距離感の近さはあるかなと思います。スタッフ間の交流は練習ではあまりないのですが、試合になると運営していくのはスタッフで、いかに選手がいい環境でできるかが大切なので、コミュニケーションを取り合って、連携していっています。
――今のチームの雰囲気はいかがですか
根石 チームスローガンとして「一丸」を掲げているだけあって、それなりにまとまりはあるなと感じています。ただ、日本一を目指す上で、もっともっとレベルの高いまとまりは必要になってくると思っています。4年生だけがいくら一丸となっても、そこに下級生がついてこなければ、チームとしてまとまっていくことはできません。今のチームに必要なのは全学年で日本一という意思をまとめて、そこにどうやって1年生を連れていくかだと感じています。
江川 昨シーズンに比べて下級生の意見を取り込みたいという監督の願いがあるなかで、4年生として下級生の意見を聞く場は増えたのかなと思います。ただ、それが聞くだけになってしまっていて。実際に全員の意思で動いていくことができていないのは課題だと思っているし、どれだけ同じ熱量で日本一を思い描けるかがすごく大事だと思います。いかに早く同じ思いをつくりあげていくかは大切にしないといけないし、そのアプローチをどうするのかを、私は幹部という意味でも考えないといけないと思っています。
――ASの立場から見て、現在のチームの強みや課題を教えてください
根石 本当にざっくり言うと、強みは運動能力です。他の大学と比べて、体が小さいのはよく言われるところですが、その分みんな運動能力が高いですし、チームとしてもそこにフォーカスしたフィールドトレーニングをよく行っています。そこは他の大学と比べても強みと言える部分です。ただ、他の大学はスポーツ推薦がたくさんある中で、うちは毎年1人入るか、入らないかなので、経験値や体の大きさは秋に向けてどれだけ補っていけるかというところです。
――OL亀井理陽主将(法4=東京・早実)の印象は
根石 とにかく強い(笑)。いい意味で人間としても選手としても強くて。人間性の面で言うと、ただ檄(げき)を飛ばすというより、しっかりとチームを見て、その中で自分がどういう風にすればいいのかをよく分かってチームを引っ張ってくれるので、そういうクレバーさと人間としての強さを兼ね備えているのが彼の魅力だと思います。
――エピソードなどありますか
根石 練習中はすごく前向きに引っ張ってくれるのですが、普段は熱い男というよりはフランクで親しみやすい男です。そういった意味で、時と場合に応じてチームメートとの接し方を変えているところに彼の良さを感じます。
江川 1年生の新人戦の主将もやっていて。その時から同学年の中で存在感があると感じていました。幹部として話していく中で、私や金子は意見を言うタイプなのですが、亀井は意見を判断してくれる印象があります。問題があった時、亀井は4年生内のミーティングで最終的な決断力があるのかなと思います。
――他の副将お二人の印象は
根石 OL笹隈弘起(スポ4=東京・早大学院)は3年生まで同じポジションでやってきて、その中で思ったのはムードメーカーなのですが、人のことをよく見ているなということです。自分がケガしたときも、隣に来て話を聞いてくれたり、練習では盛り上げてくれたり、そういったところで元気さも繊細さを兼ね備えているのが彼の魅力だと思います。DL金子智哉(教4=大阪・豊中)は人が少し言いづらいこともしっかり言ってくれて。みんなが確かにと思えるようなことを言ってくれるので、優しい人が多い今年のBIG BEARSにおいて彼のような、しっかり言うべきことを言える存在は大きいと思います。
江川 笹隈は下級生の時からまわりを見ていて、スタッフのこともよく見ているなと思っています。今もモラル面のアプローチをしてくれているのですが、彼なりの優しさや人を元気にさせるような言葉かけができるので、そこも合わせつつ副将という立場で指摘するということをやっているなと思います。金子は言うべきところを言える人間だと思っていますし、ポジション内の練習でも、ポジションに対して自分でアプローチして、体現して、それを相手に伝えることをやってくれているなという印象があります。
――アメフトの魅力を教えてください
根石 アメフトの魅力は選手や裏方のスタッフに関係なく、何か一芸に秀でていれば、それだけで戦力になれることです。選手なら体が大きくなくても、ボールを投げるのがうまいとか、足が速いとか、何か一つ特技があれば、プレイヤーとして十分戦力になります。そういう意味でスペシャリストの集まりでチームが成り立つのがいいところです。裏方としても自分の得意な分野が一つあれば活躍できると思います。
江川 私がアメフトに出会ったのは大学生です。自分が1年生の早慶戦で、初めてアメリカンフットボールの試合を見たのですが、他のスポーツとは違って防具をつけて激しくぶつかり合います。他の競技では見たことがない本気の戦いが見られるのが、アメフトの魅力かなと思います。根石も言っていたように、本当にいろいろな選手がいて、それぞれの特徴を活かせるのはおもしろさだなと思います。
――BIG BEARSの魅力は
根石 スポーツ推薦が来る選手が少ないからこそ、未経験でも活躍できるところです。BIG BEARSは大学生から始めても、早稲田のアメフトを4年間で教え込まれて一流の選手になることができるというのが魅力です。自分たちが1年生の時の甲子園ボウルに出ていた先輩方も未経験者がたくさんいて、それでも全国レベルになれるのは魅力だと思います。
江川 4年生になって、思っていたよりもBIG BEARSが好きだなと思う瞬間が多くて。魅力だと思う点は、(早大BIG BERASは)伝統があってアメフトのルーツ校として存在している中で、すごく多くの人が応援してくださるところです。OB・OGの方も含め、まわりから支援されているのが活動していると伝わってきます。その中でも、達成したことのない日本一に向けて、同じ方向を向いて頑張っているのはBIG BEARSならではというか、その大きさは他の学校に比べて計り知れないと思っています。
――未経験者でも強くなれる秘訣は何ですか
根石 早稲田の文化がしっかりと根付いていて、軽いタックルのやり方1つや相手への当たり方1つでも、早稲田のやり方が確立されています。そこをしっかりと1年生から4年生が実践していくことで、組織として強さがあがっていくので、それが秘訣かなと思っています。
――イチオシの選手はいますか
根石 オフェンスは4年のOL村山(村山浩暉、法4=埼玉・西武文理)です。彼も未経験で入ってきたのですが、今はOLの主任を務めていて、熱いハートを持ってすごく努力するので、笹隈とは別にチームを盛り上げてくれる存在です。ディフェンスは4年の坂本(坂本崇、スポ4=東京・城北)です。普段は温厚なタイプなのですが、試合になるとものすごいパワーを活かしたビッグプレーを何度もしてくれて、そういう意味で普段とのギャップがすごいです。キッキングは4年生の熊谷(熊谷嘉人、教4=東京・戸山)です。普段は自己主張が強い方ではないのですが、試合だとチームが厳しいところですごくいいプレーをしてチームを救ってくれます。目立ちにくいけど絶対に必要なキッカーというポジションを体現していると思います。
――根石さんは改めてということでお聞きしますが、選手ならやりたいポジションはありますか
根石 自分はやっぱりOLです。自分がケガでうまくできなかった分、ケガをしていなかったらこんなプレーできたのかなと思う部分もあるので、もう一度OLに挑戦してみたいです。
江川 自分はLBをやってみたいです。体型はDLとDBの間なのですが、どっちのプレーもできて。兼ね備えていて、器用というか、技術的な素敵さがあると思っているからです。
――ラストイヤーへの意気込みをお願いします
根石 創部初の日本一に向けて全力で努力していきます!
江川 新体制が始まってから、1日1日が本当に短くて。それで、1日を大切にするのはそうなのですが、新体制が始まった時に思った同じ思いやベクトル、熱量をしっかりと体現して、日本一を取りたいと思います。
――ありがとうございました!
(取材・編集 安齋健、落合俊 写真 落合俊)
チームを支えるスタッフの活躍にも注目です!
◆江川祐希(えがわ・ゆうき)(※写真左)
埼玉・越谷北高出身。スポーツ科学部4年。AT。スタッフとしては初めての「副将」に就任した江川さん。色紙には選手やスタッフ関係なく「同じ思い」で日本一に向かっていけるようにという思いが込められています!
◆根石祥太(ねいし・しょうた)(※写真右)
東京都市大付属高。社会科学部4年。AS。ケガに悩まされていた中でチームを日本一にするために今年度からASに転向した根石さん。選手時代の経験を生かし、裏からチームの勝利に貢献します!