2年連続の関東大学秋季リーグ戦(リーグ戦)優勝を決めた中心にはQB柴崎哲平(政経4=東京・早大学院)がいた。リーグ戦MVPにも選ばれた早大オフェンスの司令塔に、最後の甲子園ボウルに向けた意気込みを伺った。
「昨年に比べれば安定したパフォーマンスを毎試合出せたかなと思います」(柴崎)
今シーズンを振り返る柴崎
――改めて、今年1年間を振り返って、オフェンスの成長は感じられていますか
柴崎 成長は感じていますね。スタートした時に経験の少ない選手ばかりだったので、RBも片岡さん(片岡遼也、平31法卒)、元山さん(元山伊織、令元商卒)が引退したところに下級生が出てきて、WRも遠藤さん(遠藤健史、平31法卒=現IBM )、高地さん(高地駿太朗、平31先理卒)、小原さん(小原嶺、平31法卒)であったりがいなくなった中で、1年間を通して特に下級生は成長してきたなと思います。
――特に成長を感じる下級生はいらっしゃいますか
柴崎 小貫(WR小貫哲、教3=東京・戸山)は昨年からポテンシャルを持っていたんですけど、確実にチームを勝利に導ける1人になったなと思います。RBの吉澤(吉澤祥、スポ2=東京・成蹊)は見ていて足が速いなと思います。2年生なのにすごいなと思いますね。
――吉澤選手の足の速さはチームの中でどのくらいでしょう
柴崎 トップレベルなのは間違いないです。1番速いのは1年生のWR佐久間くん(佐久間優毅、政経1=東京・早実)ですね。(吉澤は)トップレベルスピードなのは間違いないんですけど、意外と40ヤードはそんなにみたいな話は聞いたことあります。ただ、プレースピードはトップレベルです。初速の速さであったりは見ていて1人だけレベルが違いますね。>
――関東大学秋季リーグ戦のMVPを獲得されましたが、ご自身のプレーを振り返っていかがですか
柴崎 昨年に比べれば安定したパフォーマンスを毎試合出せたかなと思います。立教戦、法政戦で前半の不調をしっかり立て直せたっていうのは今年の成果かなと思います。ただ、法政戦ではファンブルが2回あったりもしたので、そういうのは甲子園で絶対にボロが出てしまうので直していかないといけないなとは思っています。
――リーグ戦で一番印象に残っている試合はいつですか
柴崎 これは、法政戦ですね。あれは大学の今までの試合の中でもトップくらいに記憶に残るんじゃないですかね。あの試合展開はそうそうないです。
――キックオフで先制点を奪われて、そのあと立て続けにTDを奪われてという展開でしたね
柴崎 そうですね。キックで先制されたあとのシリーズで僕がファンブルしたので、あの時はやばいな、と思っていましたね。序盤の展開は、点差も含めて昨年の甲子園みたいだなと21-7になった時に思って、しんどいなと。ただ、「これを乗り越えられなければ昨年と何も変わらないな」と、その時に思ったので、その気持ちを持てたことが一番大きかったです。
――後半、逆転できた要因はどこにあると考えていますか
柴崎 ちょうど試合の1週間前くらいに、坂本コーディネーター(坂本智信コーチ、平19教卒)から「最悪のケースは2ポゼッションビハインドで折り返しだな」っていうのをたまたま聞いていて、ギリギリだなと思いましたけど、一番最悪のシチュエーションとして想定していなかったわけではない状況だったので、ギリギリメンタルは保てましたね。あれが3ポゼッション差ついてたらまた変わっていたかもしれないんですけど。後半のファーストシリーズでスコアできたこともだいぶモメンタムを持ってこられた要因かなと思います。
――法大戦ではディフェンスの粘りも光りました
柴崎 デフェンスは本当に頑張りましたね。頑張ってくれました。後半は0失点ですし、前半もそんなにしっかりドライブされたシリーズはないので、あの試合はディフェンスに助けられたなと思います。
――副将として1年間チームをけん引されてきていますが、ご自身昨年までと比べて変わったなと思う点はありますか
柴崎 やっぱり前に立っている以上ミスは許されないし、誰よりも一番やらなければいけないというのは前に立つからこそ思います。練習でも、前で発言する身としては常に不甲斐ないプレーはできないですし、私生活でも食事などの管理も発信している身だからこそ一番ストイックにやっていかなくてはいけないなというのは昨年と変わったと思います。
――昨年のチーム以上に今年のチームは仲が良いとよく伺いますが、チームの雰囲気はいかがですか
柴崎 昨年と比べると全然違うと思いますよ。それがいいのか悪いのかはわからないんですけど。今の環境をすごく楽しめている選手が多いんじゃないかなと思います。それがいいのかは分からないんですけど(笑)少しそれが緩い雰囲気になってしまう時は感じるので、しっかりと締めるようにはしているんですけど、そういうところは今年のチームらしいなと思います。
――雰囲気が緩んでしまった時に声をかける選手は他にどの選手がいらっしゃいますか
柴崎 池田(LB池田直人主将、法4=東京・早大学院)はいつも言ってくれます。あとはポジションリーダーを中心にですね。ディフェンスであったら高岡(DB高岡拓稔、商4=東京・早大学院)であったり、渡辺大地(DB渡辺大地、教4=東京・早実)とか野城(LB野城翔也、創理4=東京・西)とかで、オフェンスであったら高瀬(RB高瀬滉平、政経4=東京・早大学院)とかが中心になって言ってくれます。
――下級生で声をかける選手はいらっしゃいますか
柴崎 下級生はあんまりいないんですよね。そういう意味ではスキル面の成長だけじゃなくて、そういう気持ちを出してくれる選手ももっと出てきてほしいなと思います。特にオフェンスの後輩には期待しています。小貫であったり。宅和(QB宅和真人、政経3=東京・早大学院)にはもう少しリーダーシップ頑張って欲しいです。
――いまお話の中にも名前が上がりましたが、宅和選手やQB吉村優(基理3=東京・早実)選手の成長というのは感じられていますか
柴崎 すごい成長していると思います。吉村は自分の成長を突き進んでいて、自分で自分の居場所を今年1年でつかんだなという印象ですね。宅和はそういう意味では僕と同じスタイルのバックアップで、2人とも試合に出ていく中でメンタル面にもしんどい1年だったと思うんですけど、その中でもしっかりやるべきことをちゃんとやりきって、明治戦もチームや試合をコントロールしてくれたのは頼もしいですし、来年も楽しみだなと思います。
「強みがなかったからこそこういうスタイルになった」(柴崎)
自身のプレースタイルを語る柴崎
――ご自身はどの様なQBだと思っていますか
柴崎 みんなが気持ちよくプレーできるQBなんじゃないかなと思います。レシーバーが欲しいところに投げたり、相手のディフェンスを見てパスに変えられたり、ランがおいしいところではランを入れられたり。その場で1番全員に負荷がかからないようなプレーを選択して、それをある程度遂行できるというのが僕の強みですかね。肩がすごく強いとか、すごく走れるとかっていう強みがなかったからこそこういうスタイルになったんですけど、それがある意味今年1年間の安定感であったり、リーグ戦のMVPにもつながったのかなと思います。
――いわゆるポケットパサーと呼ばれるタイプのQBだとも思うのですが、自身で走ることの少ない分ディフェンスからのプレッシャーも強いかと思います。その点はどのように捉えられていますか
柴崎 シーズン13サック、マイナス50ヤードとかでラッシングヤードダントツで最下位なんですけど。(笑)関西に向けてそのラッシュをどうするかは1つの課題かなとは思っています。本当に甲子園ではプレッシャーがかかってくると思うので、どうにかしないと例年のように負けてしまうと思っています。
――迫ってくるラッシュに対する恐怖心などもあると思いますが、どのように感じられていますか
柴崎 それは、、難しいんですよ。恐怖心が入ってしまうと本当にDLしか見れなくなってしまうので難しいです。1番恐れてる状態です。甲子園だと試合時間も長いので、比較的そういう状態にも入りやすいんですよね。なので、どれだけ試合に入り込めるかっていうところですかね。本当に集中している時は全然気にならないので、どれだけ試合に入り込めるメンタルを試合までに作り込めるかかなと思います。
――恐怖心を感じた場面はこれまでの長いアメフト歴の中であったかと思うのですが、どのように対処されてきましたか
柴崎 ありますね。多少割り切ってプレーするようにしています。今年の立教戦がそういう状況で、序盤DLが気になってしまって。後半はある程度割り切って、投げ切ることを意識していったら、結果的にロングパスがある程度通って試合をコントロールしていくことができたので。本当に調子が悪いなと思ったら、ベストのプレーを目指すよりかは割り切ってプレーをやり切ることに集中しています。ベストよりもベターな選択をですね。ブレナン(WRブレナン翼、国教4=米国・ユニバシティラボラトリースクール)を頼りがちになるんですけど、、。(笑)
――関学大のQB奥野耕世選手であったり、立命大のQB荒木優也選手のような走れるQBを目指そうと考えたこともありますか
柴崎 目指せていたら目指してますよ。(笑)チームメイトもみんなそれを求めてますし。分かんないですけど、甲子園はその場でベストな選択をして、自分の持てる力を全部出し切るだけなので。走るべきだったら走るし、投げるべきだったら投げるし。ただ、あの二人のように一人で打開することはできないので、周りを頼りながらになりますね。僕もあんなスタイルになりたかったです、、。(笑)
――その分だけOL陣との信頼関係は大切になってくると思いますが、その点はいかがですか
柴崎 これまでよく頑張ってくれているなと思います。ただ、関西に通用するのかというところでは不安ですね。正直、経験のあまりないメンバーも多くて、シーズンに入る時は不安だったんですけど、シーズン中にプレッシャーがすごいかかった場面っていうのがあまりなくて、やりやすくプレーさせてくれたなというのは感謝しています。ただ、やっぱり個の力が頭抜けているわけじゃないので、関西に向けてもう一皮向けてほしいなと思います。
――40ヤードのタイムはどのくらいですか
柴崎 いや、そんなに遅いわけじゃないんです。5秒1とかで。ただ、フィールドに立つと遅くなるんですよね。ロス超えるとなんでか遅くなるんです、、。
――昨年と比べて、甲子園への気持ちの変化はありますか
柴崎 ラストイヤーで、本当に色々な人の思いを背負っているなと思います。昨年の先輩たちの気持ちはもちろんですし、2年の時も僕が日大戦でチームを勝たせられなくて、当時の坂梨主将(坂梨陽木、平30政経卒=現電通)を始め、甲子園にも行けなかった先輩たちの思いであったり。高校の時もずっとクリボウ(クリスマスボウル)とかで負けていて、高校の時も負けさせてしまっているので、本当に色々な先輩方の思いを背負って最後に勝たないといけないなというのは、今年は特に感じていますね。
――ご自身の代で挑む甲子園になりますが、プレッシャーなどは感じられていますか
柴崎 これまで何度も早稲田に泥を塗ってきたので。プレッシャーというのはあまりないんですけど、最後早稲田に『史上初の日本一』の結果や文化を残さなきゃいけないなという責任は感じています。
――昨年も甲子園でプレーされましたが、普段のリーグ戦と比べて雰囲気の違いは感じられましたか
柴崎 まず、人がすごく多いです。特殊ですね。試合時間も長いですし、前日試合会場で練習してから試合するのも普通じゃないですし。そういう意味では、頂点を決めるのにふさわしい場所だし雰囲気だし、そこでベストなパフォーマンスを出し切るというのは難しいことだなと思いますね。
――試合時間も15分クオーターと普段の12分クオーターより計12分長くなることに加え、甲子園の芝は足への疲労が溜まりやすいというお話を伺いますが、その点はいかがですか
柴崎 レシーバーとかはすごく疲れるらしいです。時間の長さと天然芝というところで。ブレナンもしんどかったって言ってましたし。ただ、僕はそんなに感じなかったですね。
――チームメイトと前泊しての試合というのはなかなかない経験だと思いますが、その点はいかがですか
柴崎 春の立命大との試合の時は前乗りして甲子園想定でやっているんですけど、なかなかないので難しいですよね。なのでどうしてもアウエーの試合だなという感覚ではありますね。
――部屋割りなどはどのように振り分けられるんですか
柴崎 昨年はスターターは一人部屋で、下級生は3人部屋みたいな感じでした。
――一人部屋なんですね
柴崎 そうですね。一人部屋で色々と振り返って気持ちを高めてから試合に臨みます。
――昨年のチームと比べた今年のチームの強みはどこにあると思いますか
柴崎 意外と「安定感」ですかね。安定感。特にオフェンスはミスが少ないんですよね。明治戦では1回あったんですけど、RBのファンブルもほとんどなかったし、レシーバーの落球が異様に少ないんですよね。ほとんどイージーパスを落としていなくて。そこは、昨年の爆発力のあるパスユニットより、安定感で言ったら上かなと思います。ディフェンスもターンオーバーの数とかは昨年の方が多かったと思うんですけど、失点もそれほどされないので、そういう意味ですごく安定感は特徴かなと思います。
――今年の関学大の印象としてはいかがですか
柴崎 まぁ、毎年変わらないんですけど、関学大はやっぱり組織で守ってくる感じですね。分析能力も高いですし、チームの統率もとれているし、すごい苦手ですね僕は。組織で崩しに来られると、僕がどう打開するかになってくるので、難しい相手だし相性は良くないなと思います。
――早大のチームとしても関学大は苦手とされている印象があります
柴崎 う〜ん、苦手ですね。高校大学合わせて何回負けてるんだって話ですからね。
――関学大への思い入れなどはありますか
柴崎 関学大は一生負けてきてますから。思い入れもなにもずっと負けてきているので思い入れしかないですね。最後は勝ちたいなと思います。
――早大のキーマンとなる選手はオフェンス、ディフェンスそれぞれどなたでしょうか
柴崎 オフェンスはもうブレナンです。どうやってもブレナン。最後にあいつが持っていくか持っていかないかなので、僕は彼がビッグプレーを起こせるように最大限サポートしていければと思っています。ディフェンスは、、やっぱり池田じゃないですかね。池田が最後主将として、1年生の頃からずっと出場してきた彼が最後に止めてくれるかどうかじゃないですかね。
――勝てば創部史上初の日本一となりますが、そこに対する思いとしてはいかがですか
柴崎 そうですね、最後に歴史は残したいなと思います。いつかは誰かが史上初を取らなきゃいけないので、取るなら今年かなと思います。今年はブレナンという早稲田の歴史の中でもトップの選手もいますし、(歴史を)変えるなら今かなと思っています。
――個人としても、チームとしてもどのような点に注目して見ていただきたいですか
柴崎 チームとしては1年間『スピードで勝つ』っていうのを掲げてきたので、最後甲子園ボウルという試合時間の長い中でも走り勝つ姿を見てもらえればなと思います。個人としては、何回も言ってるんですけど、7年間早稲田のアメフトを背負ってやってきた全てをぶつけるので、全部見ててほしいなと思いますね。
――ラストイヤーで迎えられる甲子園ボウルですが、意気込みをお願い致します
柴崎 ようやくここまで来れたなと思っています。関東MVPをとっても、最後日本一を取らないとなにも意味がないので、最後日本一を取って、チャック・ミルズ杯をとって、早稲田の歴史を変えます!
――ありがとうございました!
甲子園ボウルへの意気込みを色紙に書いてくださりました!
(取材・編集 涌井統矢 写真 杉原優人)
◆柴崎哲平(しばさき・てっぺい)
1997(平9)年7月18日生まれ。178センチ、77キロ。東京・早大学院出身。政治経済学部4年。QB。小学生の頃からフラッグフットボールをしていた柴崎選手。早稲田一筋でプレーしてきた司令塔が、最後に、早稲田の歴史を変えてみせます!