第3回にお届けするのは、ことし海外での強化キャンプに参加したQB政本悠紀(創理3=東京・早大学院)とK/P佐藤敏基(社3=東京・早大学院)。いわば海外での武者修行を積んだ彼らに、本場アメリカでの教えなどを伺った。
※この取材は8月3日に行われたものです。
海外に出てみて
――どういった経緯で海外のキャンプに参加することになったのでしょうか
政本 僕は早生まれなので、昨年の春に行われたU-19の育成キャンプに参加しました。その中で選抜された14人がことしの春にアメリカで行われた世界の育成キャンプに参加できて、それに自分が選ばれたという形でした。
佐藤敏 僕はキックを専門的に教えてくださるコーチが現在BIGBEARSにいらっしゃらないので、普段は上の年代のNFLにキッカーとしてチャレンジしようとしている方々と仲良くさせてもらっています。その方々からアメリカでキックのキャンプがあるということを聞いて、行きたいなと思っていました。でも当時は金銭的な問題もあったのですが、その後、3月にあった南カリフォルニア大学(USC)研修に志願した際に、「それだったらキッキングキャンプに行って来い」とコーチから許可を頂き、援助も頂いて、プロデェブロップメントキャンプというものに参加することになりました。
――周りの方々というのは
佐藤敏 アメリカの1部校の強豪校のキッカーやパンターが集まっていました。
――参加してみての感想はいかがでしたか
政本 僕のU-19のキャンプは15、6歳の選手もいました。ラインの選手が非常に大きくて圧倒されたりしましたが、実際にフィールドで練習していると、日本人はスキルでは負けていないなと感じました。WRやOLのステップの技術などはあって、現地のコーチからも「日本人はサイズはないけどうまい」と言われたりもしました。様々なチームを渡ってきたアメリカ人のコーチやNFLのコーチをやっていた方々もいて、僕は投げる姿勢やどういった細かい部分を意識して投げるかなど、日本で教わったこととはまた違った投げ方などを教わり、非常に刺激になりました。
佐藤敏 パワーなどキック力に関する部分も印象的に残っているのですが、メンタルの部分では負けていないのかなと感じました。というのも、短い距離から少しずつ離れながらFGを決めていくというコンペティションをやったのですが、僕は一本外してしまいましたが、それでも優勝することができました。でもパワーを本当に持っているので、そういった選手にメンタルの強さがつくとNFLに挑戦するような選手になるのかなと思います。
――印象的だった教えやトレーニングはありましたか
佐藤敏 全く違う蹴り方を教わりました。ただアメリカ人と日本人は体つきが異なり、体の柔らかさだったり、腸腰筋の筋肉が向こうの選手は発達しているので、日本人がその蹴り方で蹴ることができるのかを現在、試行錯誤しています。腹筋と背筋の使い方を変えることで蹴り方が変わってくるらしいので、どこまでは自分にできることなのかということを切り捨てる作業がいま大変かなと思います。
政本 細かいことになるのですが、投げてボールを離すときのテイクバックの話が印象的でした。アメリカではその部分について指摘されて、日本での指導とは違うポイントを非常に重視していて、もう一つは走るときのフォームであったり、体の使い方を教わりました。普段のワセダでのトレーニングとは違った形のメニューをアメリカでは行い、意識する部分は結局同じなのですが、コアトレーニングなども普段とは違って、結構面白かったです。
――政本選手もそういったトレーニングを日本に帰ってからも取り入れている部分などありますか
政本 日本では投げるときに右手のテイクバックをどういう風に意識するかを考えていました。実際にキャンプに行く前と後では、投げ方も変わっていて、球筋も変わりました。
――キャンプ中でのコミュニケーションはいかがでしたか
佐藤敏 僕は向こうに留学しているワセダ生の友達にキャンプの間は通訳として来てもらっていました。彼と合流するまでは一人だったのですが、やはり早くて全く聞き取れず、店員さんとも全くしゃべれませんでした(笑)。練習後のミーティングでその日やったキックのビデオを見て、コーチが結構有名な方なんですが、そのコーチからアドバイスを頂いていたときは友達に通訳を頼んで、彼を通してアドバイスを聞いていました。
政本 ミーティングなどで長く話されたときはよく分からなかったときもありましたが、他の選手と会話するときは、他の選手も基本的に英語を話せますし、そんなに問題なくコミュニケーションをとることができました。
――設備的な面ではいかがでしたか
佐藤敏 使っていたグラウンドがたぶん大学のグラウンドだったのですが、それでも観客席もついていたちゃんとしたスタジアムでアメフトへの情熱を感じました。ロッカールームも一人ワンボックスありました。
政本 僕のキャンプはアリーブジーアカデミーという場所で行ったのですが、そこではアメフトだけでなく、テニスやバスケ、ゴルフなども含め全米や世界全体から有望なスポーツ選手を育成するアカデミーでした。テニスの錦織圭選手もそこで練習していたらしいのですが、施設は非常に大きかったです。グラウンドもアメフトが2つと、テニスが54面あって、バスケットコートも体育館が2つあったりと、施設は本当に充実していました。ちょうど僕がいった時に大学の全米一を決めるチャンピオンシップがやっていて、スーパーとかでもその話になったりなどして、アメリカ全体でアメフトが好きなのだなと感じました。
飛躍の春
時折笑みをこぼしながら語る佐藤敏
――政本選手はキャンプに参加してから春のシーズンを迎えましたが、生かせた部分などありましたか
政本 行く前の2年生の秋の時点では、投げるときの軸が段々とぶれてきてていましたが、シーズン中だったので、修正する時間があまりありませんでした。あのキャンプでしっかりとフォームを見直すことができたので、まだ完ぺきにはできてるとは思いませんが、投げ方が安定してきたかなと思います。
――きょねんよりもショートレンジのパスを多く決められている印象があります
これはキャンプとはあまり関係がないのですが、WRとの練習を多く積んで、投げるタイミングを体で憶えて、リラックスして練習通り投げることができるようになったと思います。
――佐藤敏選手は安定して長い距離のFGを決めていますね
佐藤敏 でも日本記録タイと日本新記録の距離のFGを1回ずつ蹴らせてもらったのですが、どちらも外してしまったので、春だったのでどちらにしろ非公式だったのですが、そういう場面で決めきれないところとか。春もリードしている場面でのFGがほとんどだったのですが、秋は接戦の場面での機会が多くなってくると思うので、土壇場でいつコールされてもきっちりと決めるのが大事かなと思います。ことしの春はロングというよりも立命大戦や関大戦で決められたことが良かったと思うのと、全体的な成功率が高かったのが、収穫です。やはり上級生になると決めただけで喜んでいるのではなく、チームの勝利につながる3点を積み重ねるために、精度をしっかりと高めていければと思います。その上で機会があれば長い距離のFGを決められるようにしていきたいです。
――キックで一番重要視している部分は
佐藤敏 毎回同じルーティンで蹴るのと、メンタルが大事ですね。弱気になると絶対に外れるので。追い込まれて後がなくなったほうが、自分的にはいいですね。自分に甘いので追い込まれていないと外しちゃうかもしれないです(笑)。キャンプでも自分の中での底辺と一番上の差を小さくしろと言われました。毎回優れたパフォーマンスができる選手しかNFLにはいらないと言われて、いかに安定した結果を残すことが大事かということを教えられました。
――佐藤敏選手はキックオフなども担当されていますが
佐藤敏 キックオフは簡単そうに見えて難しいです。周りでキャリアーにタックルに行く選手たちは僕の蹴る方向を信じて走っているので、そこで僕がミスをすると一気に巻き返されてしまいます。結構僕はパントを重要視していまして、均衡した試合でパントでの挽回の差はフィールドポジションの差につながってきます。オフェンスが出ないときとかディフェンスが押されている時はいかにパントで挽回するかが大事になってくると思います。パントはそれこそ決めて当然のポジションなので、ミスが許されないですね。
――春の結果を振り返っていかがですか
政本 早慶アメリカンフットボールでは出場することができましたが、その後の立命大戦では非常に調子が悪く、浮き沈みが激しかったです。他のQBも安定性がなかったので、試合の度に先発QBが変わっている印象でした。逆に争いが激しくなったという面もありますが、自分では安定性を高めていきたいと思っています。スローだけでなくプレーの判断の安定性を上げていって、練習の質を上げていければ、勝利にも繋がってくるかなと思います。
佐藤敏 先ほどと同じように、大事な試合で外さなかったのが大きな収穫で、コーチが長い距離のFGを任せてくれたときに、外してしまったのが自分の中では悔しかったです。秋季リーグでは、入ったらラッキーと思いながら蹴れるシーンはないと思うので、僅差の展開でこれを決めるしかないという場面で日本新記録を出せたら最高です。
「『来年がある』とは思っていない」
政本はQBとしての責任感を時折含ませながら話した
――いま現在取り組んでいる課題はありますか
佐藤敏 教わったフォームを自分のものにするということと、それに柔軟性と下半身の筋力をつけていきたいと思います。いま腰を怪我していて、下半身のウエィトトレーニングが思うようにできていないので、この夏で強化していきたいです。
政本 QBとしてオフェンスを導いていく中で、相手のことを知らなければならないので、相手校のスカウティングに今までよりも力を入れています。ただディフェンスを単純に見て、相手の守備陣形を予想するよりも試合前の時点で相手の傾向を把握していければと思います。また春は、パスの成功率は高かったですが、たまに完全フリーの選手にパスミスをしてしまうことがあったので、そのたまに起こるミスの原因を突き詰められればと思います。
――ことしは主力に3年生が多いですがいかがですか
佐藤敏 ケビン(LBコグランケビン、商3=東京・早大学院)などは「来年がある」とは思っていないので、僕もそういった考えでことしがラストシーズンぐらいの気持ちでやっていきたいと思います。他大にも負けたくない選手がいるので、彼らに勝利して、日本一になりたいです。
政本 僕も同じような感じです。どちらかというとオフェンスよりもディフェンスに3年生の主力が多いので、オフェンスでももっと3年生が引っ張り、4年生を抜かすと言うよりも相手に勝つことが目標にしていこうという意識はあります。
――秋への意気込みをお願いします
政本 秋は相手がどこも手強いので、初戦から気が抜けません。QBとしては自分がミスをすれば、一気に流れが悪くなってしまうので、まずはミスは絶対にしないということと、インターセプトをなるべく避ける事を目標にしていきたいです。例えゲインできなかったとしても、無理に投げたり、危ない選択をするのではなく、着実なオフェンスを心掛けたいと思います。
佐藤敏 秋はチームメイトやコーチから信頼してFGを任せてもらえるように、試合だけでなく練習の精度も高めていきたいです。自分が蹴るときに「あいつなら大丈夫だろう」と安心してみてもらえるキッカーになりたいです。
――ありがとうございました!
(取材・編集 井上義之)
◆政本悠紀(まさもと・ゆうき)(※写真左)
1994年(平6)3月5日生まれ。177センチ、87キロ。東京都市大付高出身。創造理工学部3年。建築学科に所属し、建築を勉強したくてワセダに一般受験で入学したという政本選手。取材当日もその後キャンパスに試験勉強のために戻るとおっしゃっていました。まさに文武両道の鑑です!
◆佐藤敏基(さとう・としき)(※写真右)
1993年(平5)9月30日生まれ。178センチ、76キロ。東京・早大学院高出身。社会科学部3年。正直、あまり走ることが好きではないと語った佐藤敏選手。昔から止まったものを狙い打つのが得意で、佐藤敏選手の両親は「ゴルフをやりなさい」と佐藤敏選手に言っていたそうです。キッカーというポジションは佐藤敏選手にとってまさにうってつけのポジションかもしれませんね!