レギュラー全艇がエース級の実力を持つほどに層が厚い早大ヨット部。秋以降に見せた躍進には3年生の存在が欠かせない。レギュラーとして大活躍の平川竜也(スポ3=神奈川・逗子開成)と永松瀬羅(スポ3=大分・別府青山)、初心者ながら実力をつけ全日本個人選手権(全日本個選)にも出場した中島捷人(スポ3=神奈川・逗子開成)には、2連覇の期待がかかる一方で、来季以降の活躍も見込まれる。今回はそんな3年生セーラーに当たるべく、我々は所沢キャンパスに飛んだ。
※この取材は10月12日に行われたものです。
「春は勝てずにきつかった」(平川)
屈指の実力を持つ平川
――今季の手応えは
平川 春は勝てずきつかったです。ずっと慶大に負け続けていましたが、いまはだいぶ尻上がりに調子を上げてきていると思います。
――どのあたりから調子が上向いてきたと思われますか
平川 全日本個選をきっかけに、自分もチームも上がり調子になりましたね。
――個人の成績について具体的にはいかがでしょうか
平川 個人的には全日本個選が悔しいです。9番だったんですけど、僕は絶対に自分は9番以上だと思っていて、実力に対して結果が出ていない。それがすごく嫌で悔しかったです。そこで、普段から良くしてもらっている社会人の大井祐一さん(辻堂加工)という方に相談して、そのときの話の中で状況を打破するきっかけをつかんで、その後のレースに生かせました。今のところは秋のレースですごく成績が良くて、このまま上り調子でいければいいなと思っています。
――中島さんは
中島 関東個人選手権で軽風域では良い成績が残せたのですが、風が吹いてきてからはあまり良い結果が残せませんでした。風が弱いときの貯金で何とか全日本個選には出られましたが、まだまだ強風で結果を残す自信がありませんでしたね。だから夏は自分たちの課題である強風の練習に意識的に取り組んで、全日本個選では強風域でも成績を上げることができました。それは練習の成果が出たと思います。
――課題を克服されたようでしたが、新たな課題は見つかりましたか
中島 きのうもレースがあって、波が高い中での強風ではまだあまり上手くいかないかなと思っています。残り期間は少ないですし、何日練習できるかは分からないんですけど、改善していきたいです。
――永松さんは
永松 チーム全体としては、春や夏に比べて少し自信が出てきてはいます。ここ最近では安定した順位を取れるようになってきていますが、特にわたしの艇ではなかなか順位を上げられなかったり、何かのミスで順位を大きく落としたりということがあるので、そこを改善できればもっと優勝が近づくと思います。
――課題はどのあたりにあるとお考えですか
永松 夏から秋にかけて他の大学の選手が練習をしてきて、強風で前を走るようになってきました。自分たちはもともと強風が得意なのですが、逆に苦手と思えるくらい順位が上がらなくて、特に全日本個人選手権は最初の2日間は微風で順位も3位だったところを、最終日の強風で大きく順位を落としてしまいました。だから強風が不安要素ではあります。あと1ヶ月しかありませんが、改善していきたいところですね。
――全日本インカレももう間近ということですが、今はどのような練習をしているのですか
永松 今は全日本学生選手権(全日本インカレ)が近いということで、それに向けた練習をしています。夏合宿の2ヶ月間で動作練習からコース練習までやって、その成果が秋の関東インカレに出たと思います。だからあと1ヶ月は、夏合宿で得たものをしっかりとレースに生かす練習をしていきます。
平川 470とスナイプの両級で、チームの雰囲気は若干ではありますが違いますね。スナイプで言うと、実力差がないんです。全員が本当に負けず嫌いなので、練習でも感情を露わにしています。練習のレースからバチバチで、常に本番かのような雰囲気です。本番のレースでも練習とやっていることが変わらなかったりします。だから他の大学と当たっても、ああこれ島本さん(拓哉、スポ4=千葉・磯辺)とやったパターンだ、とか思いますし。常に実践感覚でやれています。
――実力差がないことはどのような点でチームに良い影響があると思いますか
平川 もし自分が走れなくても、残り2艇が走ってくれる。例えば島本さんが崩しても、ぼくと礼(永松、スポ1=大分・別府青山)が走るっていう気持ちですね。安心感がある分、気持ちにゆとりを持てます。
今はレギュラーじゃないスキッパーたちや今後伸びてくる選手も重要ですし、こうやってチーム全体でモチベーションを保ち続けることは良い練習環境だと思います。
「ヨットを続けてくれるなら嬉しいと両親が喜んでくれた」(永松)
楽しそうに話す永松
――中島さんは大学からヨットを始められたそうですが、きっかけは何でしたか
中島 もともと何かの部活に入ろうと思っていて、それと、新しいことがやりたかったんです。そのとき近くに(同じ高校出身の)平川がいて。ぼくも中学校でヨットの授業が受けたことがあるのですが、そのときに楽しかったこともあって。平川に誘われて新歓に行って、やろうと決めました。
――平川さんの影響が強いということですが
平川 ぼくは高校で入った部活がヨット部で、大学より前からやっていました。中島とは高校で同じクラスで、大学で何か部活をやりたい、でも野球を続けたいわけではないと聞いてヨット部に誘ったんです。
中島 めっちゃライン来ました(笑)。
――永松さんと平川さんが競技を始められたきっかけは
永松 父親がもともとクルーザーでヨットをしていて、親がそれを整備しに行ったときにたまたまついて行って、当時小学2年生だったわたしと同じくらいの子たちがクラブで活動しているのをお父さんが見つけて、わたしを誘いました。姉弟も含めて3人同時に始めましたね。
平川 ヨットを始めるまでは剣道をしていました。家が剣道の家系ということで。少しかじっていたんですけど、やはり竹刀で叩かれるのが嫌で。中高一貫の学校だから、どうせやるなら強い部活に入ろうと思っていましたが、もともと水泳をやっていたというのもあり海が好きで、ヨット部に入りました。
――ヨットをワセダで続けようと思った理由は
永松 以前より理学療法士になりたいという夢がありました。高校を出たら地元の専門学校に行って理学療法士になるという道もあったんですけど、大学に行ってヨットを続けるかどうかで迷いました。それで両親に相談したところ、ヨットを続けてくれるなら嬉しいし、ヨットで大学に行けるならすごく良いことなんじゃないかと言ってもらえたんです。それをきっかけにわたしは大学でヨットを続けることを決めました。どこの大学に行こうかなと思ったときに、そのときはワセダが強かったのでワセダにしました。
平川 ぼくは高校でヨットに乗りすぎて、勉強をしていなかったので、大学に入るにはヨットしかありませんでした(笑)。ずっと前からワセダのヨット部には憧れていたのですが、正直無理だと思っていました。というのも、過去にヨットで行かれた方を見ると、現主将の小泉颯作さん(スポ4=山口・光)や、他にもすごい人ばかりで。それでもなんとかヨットでアピールしてワセダのヨット部に入ることができました。
――中島さんはなぜ早大のスポーツ科学部に
中島 ぼくはそんなに頭が良くなくて(笑)、高校時には部活に打ち込んでいて勉強をあまりしていませんでした。それで世界史の成績が芳しくなくて、3科目をやる能力がないなと薄々感じていて(笑)。
一同 (笑)
中島 そこでワセダのスポ科だと2科目で入れるということを知って
永松 (笑)
中島 もともとスポーツが好きで行きたいと思っていましたが、そのときにすごく魅力を感じて、そこで2科目を頑張って。
平川 (笑)
中島 なぜか大学側が間違えたのでしょうけど、ぼくはここに居させていただいています。
――みなさんスポーツ科学部ですが、ヨット以外で得意なスポーツはありますか
永松 わたしは基本的に球技が苦手です(笑)。バスケとかソフトボールとかテニスとか、ボールを使う競技が全然上手くできなくて。逆に小さい頃から家族で市民プールとかに行って泳いでいたので、泳ぐことに関してはそこそこです(笑)
中島 ぼくは高校で野球をやっていたので、人よりはできます。スポーツは全般的に自信があるんですけど、逆にぼくはヨットが苦手で(笑)。
一同 (笑)
平川 ぼくは基本、海ですかね。海が好きでヨットを始めたので。夏休みも週6で練習がありますが、オフの1日はサーフィンをしていることが多かったです。サーフィンはヨットと似ているところもありますが、同じ海にいるのにヨットと全然違いますね。陸の競技もそんなに苦手ではないですけど、やっぱり海。
――やはり海がいちばんだと
平川 逆に海以外でどうなんだろう・・・(笑)。想像できないです(笑)
――ヨット部では練習外でサッカーをされていることが多いらしいですが
中島 サッカーもできます。小学校の時にやっていたので、人よりは動けるかなと思っています。
――スポーツ科学部でも何を専攻されているのですか
永松 わたしは健康系です。単位を取りやすいということもあり、それなりに楽しんでいます。好きな授業はストレッチング実習で、部活で体が疲れている時にストレッチをすればいいんじゃないかって(笑)。
中島 ぼくはスポーツ文化を専攻しています。
平川 ぼくは医科学です。スポーツ選手のメンタルに興味を持っています。
――平川さん、永松さんはルーキー対談から2年が経ちましたが、ご自身の成長をどう感じていらっしゃいますか
永松 当時は女子クルーとしてレギュラーに入りたいということが目標でしたが、今それが実現されています。それでも、まだまだ実力的には低いし、一緒に乗るスキッパーを支えられるレベルにまでなってはいません。でも2年前と比べたら少しは成長できていると思います。
平川 成長を実感というか、やっと数字が出てきたかなと。ここ最近、今までやってきた分が結果に表れて、明らかに成長しています。技術はあれだけ練習していれば誰だって上手くなりますけど、ヨットが上手いことと、ヨットレースをまとめることは違うって小松さん(小松一憲コーチ、元ロンドン五輪470級代表監督)と話したことがあって、他にも神谷さん(航路、平20スポ卒=愛知・碧南工)から「やるべきことをやるのが集中力だ」というお言葉を頂き、それがすごく心に響いたんです。それで、きっかけをつかんで、練習ではできるのに本番では結果が出なかったのが、出始めました。
「大学からでも始めてほしい」(中島)
中島(左)は高校時に平川とクラスメイトだった
――来年は最上級生ですが、どのような4年生になりたいですか
永松 わたしが1年生だった時の4年生です。部活の雰囲気も明るくしてくれて、練習も熱心でした。レギュラーじゃなくても一人一人がチームをまとめる役割を果たしていました。今のわたしだとちゃんとチームを引っ張っていけるのか不安なので、あの4年生たちのようになりたいです。
中島 人数が少ないので、主将や副将など気にせず、一人一人が自覚を持って発言できたらいいと思います。
平川 今までの先輩櫛田さんとか、島本さんに引っ張ってもらっていたんですけど、スナイプ級は 自分は育ててもらう立場でした。これからは育てる立場になるのですが、それで自分の成績が悪くなったら意味がありません。自分もしっかりと結果を出しつつ、部員同士でぶつかっても、最終的に全員が全日本インカレで優勝してやるというベクトルに合わせられるようにしたいです。
――皆さんにとってワセダのヨット部とは
永松 わたしにとってヨット部はもはや『家族』です。長い時間一緒にいますし、特にことしは、例年と違って夏合宿を合宿所で過ごしているので、他の部活に比べてお互いに知りつくしていると思います。
中島 やはり『仲間』という表現がハマるのですが、ただの『仲間』ではなくて、共同生活しているので互いの良いところも悪いところも知り尽くしているので、ただの薄っぺらいつながりではなく、やはり『仲間』ですね。
平川 『泥臭い』ですね。『泥臭い』。家族というのも近い気はしますが、家族に言わないようなことも言うので。家族よりも思ったことを言えますし、感情を露わにします。負けて悔しいだとか、勝って嬉しいというのをみんなむき出しにしていて、こんな環境はやはり『泥臭い』かなと。『泥臭い』集団ですね。
——全日本インカレへの意気込み
永松 全日本インカレにはことしは3番艇として出場します。きょねんも秋の関東インカレまでは3番艇のレギュラーだったんですけど、全日本インカレには出場できず悔しかったので、ことしは出ることができます。ことしも成績が出なかったり足を引っ張っているペアでした。全日本インカレでは今まで足を引っ張ってきた分、成績を出して総合優勝したいと思います。
中島 レギュラーではないにしても試合に出るつもりで、サポートをするにしても試合に出ているように本気で挑もうと思います。
平川 自分の夢が2年時からの全日本インカレ3連覇なので、それを達成するために頑張ります。
――ありがとうございました!
(取材・編集 菖蒲貴司、丸山美帆)
程よいゆるさがありました
◆平川竜也(ひらかわ・たつや)(※写真左)
1994年(平6)8月25日生まれのB型。身長171センチ。体重66キロ。神奈川・逗子開成高出身。スポーツ科学部3年。最近のマイブームはアイマスクと耳栓だという平川選手。その理由は後輩の須賀偉大選手(教2=大阪・高槻)のいびきがひどく、その妨害を避け合宿所での快適な眠りを守るためだとか。とにかく他を『圧倒』したい平川選手ではありますが、敵は案外近くに眠っているのかもしれませんね。
◆中島捷人(なかしま・かつと)(※写真中央)
1994年(平6)5月30日生まれのA型。身長176センチ。体重64キロ。神奈川・逗子開成高出身。スポーツ科学部3年。早大に進学すると決まってから、同じ高校出身の平川選手からの勧誘をかなり受けたのだそう。新たなスポーツへの挑戦に戸惑っていたようですが、初心者から日本一を目指せる環境と慣れ親しんだクラスメイトを頼りに入部を決意。今季はルーキー元津選手を従えて全日本個選にも出場を果たし、存在感をアピールしました。目前の全日本インカレも当然待ち遠しいですが、来季以降の中島選手からも目が離せません。
◆永松瀬羅(ながまつ・せら)(※写真右)
1994年(平6)6月3日生まれのA型。身長167センチ。大分・別府青山高出身。スポーツ科学部3年。大きく『自信』と書いてくださった永松選手。これは自信がないから、あえて大きく書いたのでそうです。今季の出来には納得していない様子でしたが、その実力はホンモノ。全日本インカレでは強い自信を持って臨み、岸辺にも届くほどの大きな笑顔を咲かせてください!