早大と慶大の意地とプライドを賭けた戦い、早慶戦。セーリング競技におけるこの戦いは、ことしで75回目を迎える。多くのOB・OG、また応援部も訪れる中、2日間で4レースが行われた。第3レースで早大が8点の差をつけ優位に立つも、最終レースで慶大にひっくり返され152-136と完敗。今季ここまで好調の慶大に勝つことはできなかった。
第1レース終了時に36-36、第2レースでも72-72と共に譲らぬ戦いを展開する。安定しないコンディションのために、どの艇がトップフィニッシュをしてもおかしくない状況だった。そんな中、ついにエンジの団結力が発揮される。3レース目でスナイプ級の永松礼(スポ2=大分・別府青山)・花岡航副将(創理4=京都・洛南)組、平川竜也(スポ3=神奈川・逗子開成)・服部勇大(基理3=東京・早実)組がワンツーフィニッシュを決め、他艇も粘りの走りで慶大に8点差をつけた。これで大きく勝利に近づく。しかし、最終レースで悪夢が待っていた。「走りたいところまで走りきるということができていなかった」(平川)。3レースでいずれも慶大にまさっていたスナイプ級がまさかの失速。470級もカバーすることができずに総合で逆転されてしまった。「まだまだ慶大の方が上」(平川)。「あらゆるところで慶大には届いていない」(470級スキッパー小泉颯作主将、スポ4=山口・光)。春季の各種関東大会では常に『1位慶大、2位早大』。今度こそはと臨んだが、またしても宿敵相手に敗れ去ってしまった。試合後、小泉主将は「きょねんの4年生の存在は大きかった」と、今大会を振り返った。昨年の全日本学生選手権でエース艇のスキッパーとして『王者・ワセダ』の復活に貢献した小泉主将だったが、そのとき精神的支柱となっていた4年生が抜けた穴を埋められていない現状を前に、ひとり立ち尽くしていた。
綺麗に帆が並ぶ470級
早慶戦ということもあって、多くの観衆が集まる。その観衆をクルーザーに乗せ、現役部員の勇姿を見守るOBがいる。第31期の小坂順孝(昭41商卒=東京・上野)氏だ。小坂氏が早大入学時にふと思い立ったこと。それは、「何でもいいからスポーツ選手になりたい」。高校まで水泳に打ち込んでいた小坂氏だったが、プールの中ではその夢を叶えられないと感じていた。航空部、自動車部とともに見学に回り、ヨット部への入部を決めたという。以降、選手を引退しても、還暦を迎えても、自らの船を出し、部を追いかけている。「互いにシリアスにやっていたが、(最近では)フェアにやっているなと」。その熱戦にももちろんだが、後輩たちがひたむきに戦い、勝利したライバルを讃える姿勢にも感動していた。
波に揺らされるクルーザーに仁王立ちをして、エールを送り続ける。この一戦には応援部もやってくるのである。船に乗りエールを送るのも早慶戦ならではだ。2日間のレースが終わり、応援部の杉山湧一郎(商3=三重)は「(レース展開が)わかりにくい中で応援をするという難しさを感じました」と、静かに語った。海上での応援はヨットでないと体験できない経験だ。きっと杉山にとって過酷なものだったに違いない。それでも、「どこであっても精一杯応援をさせていただくのが応援部の役目」と、航海を終えた杉山は力強く、ゆっくりと語った。
海上からエールを送る応援部
この早慶戦は数多くある中の、たったひとつに過ぎないのかもしれない。それでも、75回目を迎えたセーラーたちの戦いは、見る者を、かつて籍を置いていた者を、そして戦い抜いた者自身をも魅了させたに違いない。試合後の静かなハーバーには、両校の選手にしかわからない感情も込み上げてくる。その胸のうちに残った悔しい思いも、感謝の念も、伝統の誇りも――。それらのメモリーがそれぞれの心の中でまぶしく光り輝き、そして必ずやこれから進む海路を照らし続けることだろう。
(記事、写真 菖蒲貴司)
結果
▽470級
●早大78-66慶大
▽スナイプ級
●早大74-70慶大
▽総合得点
●早大152-136慶大
コメント
470級スキッパー小泉颯作主将(スポ4=山口・光)
――早慶戦の振り返り
結果は負け。春季の大会で慶大に負けて以来、それぞれが課題を持ってやってきましたが、それでも負けてしまったということで、これから逆転できるようにやっていくしかないと捉えています。
――慶大に対して実力の差は感じますか
そうですね。競技的なこともそうですし、チームのまとまりも良いと思うので、そういうところも含めてあらゆるところで慶大には届いていないと思います。
――全日本インカレを制したときの精神的支柱であった当時の4年生が抜けた穴は大きいですか
僕たちが自分たちのことだけに集中できる環境を作ってくださっていたので、当時はプレッシャーを感じずにできていました。チームのまとまりという面でもきょねんの4年生の存在は大きかったと思いますね。
――これからへの意気込み
7月に同志社定期戦があります。同大は2年前と3年前の全日本インカレを制している強豪なので、そこに向けて個人戦で好成績を残して、チームにも弾みをつけられたらなと思います。
スナイプ級スキッパー高橋友海(教4=神奈川・桐蔭学園)
――2日間の振り返りをお願いします
もともと艇の少ない大会が苦手だったので、普段のレースとは違う戦い方をしなければならなかったので改めて難しいなと感じました。
――早慶戦ということで独特の雰囲気があると思いますが
普段とは違い、一艇に勝たないといけない場面があります。また普段と違ってコースを大きく使える時間が少なく近くに他艇がいる状態で走らなければならないので、常に緊張感を持っていました。
――今大会では両親の姿も見られましたが
きょねんは全然走れなかったのですが、ことしは自分たちの走りができたレースもあったので、両親に一年間の成長を見せることはできたと思います。他艇との間に技術の差を感じたので、それはこれからの課題にしようと思います。
――これからに向けて
個人戦では、もちろんレースで勝ちたいとは思ってやっていますが、それ以上にヨットが上手くなりたいという目標を持っているので、自分個人の実力を測る良い機会だと思って臨みたいと思います。団体戦のシーズンからは少し離れますが、ここまでずっと慶大に負けているので、秋まで慶大と戦える機会はないでしょうけど、この結果を受け止めてチームとして自分たちに何が足りなかったのかをこれから話し合って、ひとつひとつ解決していきたいです。
スナイプ級スキッパー平川竜也(スポ3=神奈川・逗子開成)
――2日間のレースを振り返って
春インカレ(関東学生春季選手権)に負けた慶大に対してどこまでできるかというのが早慶戦の位置づけだったと思います。今回の結果ではまだまだ慶大の方が上だと思いました。全日本インカレ以来、ずっと慶大に負け続けているので、やはり劣っているなというのが2日間の感想です。
――1レース目での失速については
苦手なスタートで選択を間違えてしまったことが原因です。その後も艇の操作を誤って順位を上げられなかったです
――最終レースでスナイプ級が乗り切れずに順位を落としましたが、スナイプ級全体の課題などは
スタートですね。それとファーストタックだと僕は思います。自分たちが走りたいところまで走りきるということができていなかったのかなと感じます。
――来年の早慶戦に向けて
来年の早慶戦というよりかは秋の全日本インカレに向けて自分たちがやるべきことっをやるというのが大事かなと。いま現状では慶大に差をつけられている状況で自分たちは完全に追う立場なので、個人戦だろうが団体戦だろうがこつこつと積み重ねてやっていくことがチームの勝利につながると考えています。
早大ヨット部OB小坂順孝氏(昭41商卒=東京・上野)
――ことしの早慶定期戦を振り返って
そうですね、ことしは頑張ってはくれたんだけどね。実力は拮抗してたんだけど、運がなかったところがありましたね。勝っているときに風が止んでしまって、不運なところがところどころあったと思うのですが、最終レースは「慶大が強いな」と、素直に走り負けたなと感じました。これからも練習をして、秋のインカレ(全日本学生選手権)に向けて頑張ってください。
――今季は各大会で慶大に負けていますが、慶大との実力差についてはいかがお考えでしょうか
慶大はすごく実力が上がったと思います。強くなったなというのが正直な感想です。本当に油断できないなと感じています。
――今季の出だしは良いとは言えませんが
きょねんもあまり良いとは言えなかったんだよね。学生のレースってのは、そのときの気持ちの持ち方だとかテンションの上がり方だとか、実力以外の面も大きいと思うのでね、本当に水物だと思うんだけど、まあ(そういう理由で今回の結果には)悲観はしていません。楽観もできないけど。
――長年、早慶定期戦を見られていると思いますが、ことしの早慶定期戦はいかがでしたでしょうか
最近はかなりフェアにやっているなという感じはします、両校ね。僕らの頃はもう少しシリアスに勝っただ負けただというのがありましたけど、そういう意味ではいまの勝負はフェアにやっているなと。しっかり練習してくれれば勝てる実力はあると思うし、全日本(全日本学生選手権)も勝てると信じてるし、頑張って欲しいと思っています。
応援部 杉山湧一郎(商3=三重)
――海上での応援は初めてだとのことですが、いかがでしたか
ヨット部の試合ははじめて見たのですが、なかなか見ていて(レース展開が)わかりにくい中で応援をするという難しさを感じました。OB・OGさんや部員の方にいろいろ教わりながら、次第にヨットのおもしろさに気づくことができました。
――船上での応援は過酷そうでしたが
課題はたくさん見つかりました。もし応援する機会がまたあれば、しっかりと台を作って、ヨット部の方に届く応援がしたいなと思いました。
――納得のいく応援ができた場面はありましたか
第3レースではじめて慶大に勝ち越したときに、「コンバットマーチ」や「早稲田健児」などというみんなで盛り上がるテーマを行うことができたので、自分としては観衆が沸いていたと思いますし、納得の応援だったと思います。
――ヨットの早慶戦をしてみての感想をお願いします
ヨット部の応援は他とは違ってなかなか異質だと思うのですが、頑張っていらっしゃる選手を見ると、どこであっても精一杯応援をさせていただくのが応援部の役目だと改めて感じました。