昨年の雪辱果たし、春の早慶戦を勝利で飾る

アイスホッケー

 昨年、実に41大会ぶりの歴史的敗北を喫した春の早慶戦定期戦(早慶戦)。伝統の一戦で2年連続の敗北を喫するわけにはいかないと意気込んで選手たちは試合に臨んだ。令和最初の早慶戦は、GK谷口嘉鷹(社4=東京・早実)やDF陣の好守で4-0と無失点に抑えを勝利で飾った。しかし、「どちらが勝ってもおかしくない試合だった」(DFハリデー慈英、スポ4=埼玉栄)と試合内容だけを見れば五分五分だったこの日の一戦。思うように早稲田の力を出し切れず、改善の余地が多くあることが目に見えた春シーズンの締めくくりとなった。

  2000人を超える大観衆の中、戦いの火ぶたは切られた。序盤、4月の関東大学選手権でも課題として挙がった試合の入りでこの日も苦戦する。足が動かず、パックをアタッキングゾーンに持ち込めない。アイシングが多かったことが表しているように、パスの乱れも見られ攻撃のかたちを作り出せない。「パックに向かってがめつくハードに行って、それでパックを取って、パックを守って、シュートにつなげる」という早稲田らしいホッケーは体現できないまま試合が進んでいく。第1P(ピリオド)終了後、「もっと試合に集中しなければいけない」と言って、内藤正樹監督(平3二文卒、北海道・釧路湖陵)は選手たちをリンクに送り出した。ギアを上げ、第2Pは果敢に相手ゴールを狙っていく早大。猛攻が実を結んだのは、28分36秒。数的有利なPP(※1)の場面で、パックを持ったFW杉本華唯(スポ2=北海道・駒大苫小牧)がワンテンポ溜めて放ったシュートがネットを突き刺す。どちらに転ぶか分からない拮抗した試合展開だけに、貴重な1点を手にした。

1点目を決めた杉本(左)とアシストのDF務台慎太郎(スポ1=北海道・駒大苫小牧)

 「1点差の時間が長く、キーパーとしても苦しい部分があった」とGK谷口嘉鷹(社4=東京・早実)が語ったように、リードしながらもいつ同点に持ち込まれてもおかしくない試合内容のまま第3Pは残り5分を切る。勝利を確実にするために、さらなる得点がほしかった56分。自陣でFW澤出仁(スポ3=北海道・武修館)がパックを奪うと、そのまま右サイドを駆け上がる。左サイドのFW生江太樹(スポ3=北海道・釧路江南)にアシストパスを出すと、生江が決めきり2-0。慶應がタイムアウトを要求し、6人攻撃を仕掛けてくるが、早大は落ち着いてエンプティゴールで加点。4-0で試合終了のブザーが鳴り響いた。

貴重な追加点を決めた生江

 4月に行われた関東大学選手権では2位の早大に対し、8位の慶大。「もともと持っているポテンシャルはもっとたくさん点数の差に表れてもいい」と監督が語ったように、本来であればもっと慶大を圧倒できたはずだ。しかし、ワセダらしい泥臭いプレーは影を潜め、結果的には辛勝となってしまった。この大会で春シーズンは終わり、選手たちはこれから長い陸トレ期間を迎える。まずは過酷な陸トレで、早稲田らしいアグレッシブなプレーを試合終了まで続けられる体力を身に付ける。そして「自分たちもチームを引っ張っていくというのと、4年生の気持ちに後輩が付いていって全員が切磋琢磨(せっさたくま)できるようなチームづくりができればいい」(生江)と語った力のある3年生、そして最上級生がチームを引っ張り、昨年はあと一歩のところで逃した関東大学リーグ戦の優勝杯を、今年こそ手にしたい。

※1 ペナルティーによる退場で相手チームより人数が多く、数的有利な状態をパワープレーと呼ぶ。

※2 ペナルティーによる退場で相手チームより人数が少なく、数的不利な状態をキルプレーと呼ぶ。

(記事 小林理沙子、写真 細井万里男、林果歩)

★最後の早慶戦となったハリデー

卒業後はプロの道に進むハリデー

 大学2年時に一時休学しアメリカでプレーしていたことにより、今夏早稲田大学を卒業するDFハリデー慈英(スポ4=埼玉栄)。この日の早慶戦が引退試合となった。試合後には、後輩たちから胴上げされ水を掛けられる場面も見られ、最後の早慶戦は非常に思い出深いものとなったようだ。試合後には、「運営してくれているマネジャー、主務、副務、応援団の皆さんなど、そういう周りの支えがあって成り立つものだと思う」と周囲への感謝を口にしたハリデー。「この四年間で忍耐、あるいは人間関係とか、本当に色々なことを学ばせてもらった」という早大での4年間を終え、卒業後は王子イーグルスに進みプロアイスホッケー選手となる。「日本を代表するようなDFになりたいなと思っています」。そう力強く語ったハリデーの活躍が今から楽しみだ。

※( )内はシュート数

結果
早大 ピリオド
0(13) 1st 0(8)
1(25) 2nd 0(9)
3(17) 3rd 0(19)
4(55) 0(36)
得点経過
チーム 時間 ゴール アシスト1 アシスト2 PK/PP
早大 28:36 杉本 務台 PP
早大 56:26 生江 澤出
早大 59:06 小澤田 ハリデー
早大 59:35 ハリデー 河田
※PKはキルプレー、PPはパワープレー、PSはペナルティショットを指す
 なお、PK/PPの表記は早大にとってPKに当たるかPPに当たるかを表記するものとする
早大メンバー
セット FW FW FW DF DF
杉本 木綿 小澤田 ハリデー 務台
澤出 生江 前田 住友 大崎
河田 加賀美 富田 草島 吉野
大石 マッテオ 北村 金井 大塚
GK谷口
コメント

内藤正樹監督(平3二文卒=北海道・釧路潮陵)

――試合内容を振り返って

非常に良くなかったですね。きょうは3月からやってきた成果をとりあえず全部出しましょうといって送り出したんだけれども、何一つできなかったというのがスコアに現れていますよね。結果的に4-0で失点はしてないんだけれども、取られてもおかしくない場面がいくつもあって、3点から4点取られてもおかしくなかったので、そういう意味ではあまり内容は伴いませんでした。もうちょっとちゃんと差をつけなければいけないですね。もともと持っているポテンシャルはもっとたくさん点数の差に表れてもいいんだけど、それを出し切れなかったのが非常に気に入らないかなという感じですね。これから陸トレ期間に入りますけど、しっかりと体力を付けて昨年と同じくらい動ける体を手に入れてほしいなと思います。そうすることによって気持ちも強くなってくると思うので、まずはしっかり体力を付けてほしいなと思います。

――第1Pは硬さもあってパスも通りませんでした

そうですね、もっと試合に集中しなければいけませんね。早慶戦は1日がかりで、OB戦とか高校戦とか普段やっていないことがたくさんあって、少しお祭り気分になったんですかね。やっぱり試合は試合なので、集中しなければいけませんね。

――第2Pからは、改善も見られましたが何か話はされましたか

今言った通りのことを言って送り出して、「一体お客さんは何を見にきているんだ」ということを選手に言って、それを考えてやりなさいと。やっぱりうちのホッケーというのは運動量を多くしてシュートをたくさん打って、ゴール前で頑張ってというホッケーですが、リーグ戦(関東大学リーグ戦)とかに応援に来てくれる方々はそういうのを見に来ていると思うんですね。本当はきょうも最初からそういうプレーをやらなければいけないんだけど、ちょっともたついているところがあったかなと思います。

――早稲田らしいプレーをするためには何が必要だと思いますか

もっと責任感を持ってほしいですね。きょうもアイシングが多かったですね。アイシングが多いということは、パスが通っていないということで出す側も受ける側もしっかりと出す、しっかりと受けるということができていないからそういうことが起こるわけですけど、そういう一つ一つのプレーに責任感を持ってほしいと思います。それが、東洋や明治に一番劣っている部分ですから。それをより高めていかなければ難しいですね。

――ハリデー選手(慈英、スポ4=埼玉栄)はきょうが早大での最後の試合でした

この2か月間、一生懸命頑張ってくれたと思います。彼はこれからトレーニングして、前期の試験が終わったら王子イーグルスに行くわけですけど、ここで4年間頑張ったプライドと自信を持って社会に旅立ってほしいなと思います。

DFハリデー慈英副将(スポ4=埼玉栄)

――早慶戦を勝利で終えた今の気持ちはいかがですか

正直ホッとした気持ちですね。一時はどう転ぶか分からない試合運びでした。どっちが勝ってもおかしくない試合だったというか、太樹(生江、スポ3=北海道・釧路江南)の2点目でひと息できたかなという感じだったので、今はホッとしています。

――序盤は動きの硬さも見られましたが、DF陣の総括をお願いします

早慶戦はやっぱり大歓声の中、朝から移動もあって、確かにそういう色々な面が重なって硬くなっちゃったかなという部分はあったと思うんですけれど、無失点で抑えられたというのは嘉鷹(谷口、社4=東京・早実)中心にディフェンスの部分では良かったと思うところですね。チャンスを無くすことをまずは大前提に、きょうのように無失点で終わることができればディフェンスとしてはいいのかなと思います。

――きょうの試合を通して、早稲田らしいプレーはできましたか

きょうは最後の最後までできなかったというか。早稲田らしいプレーというのは、パックに向かってがめつくハードに行って、それでパックを取って、パックを守って、シュートにつなげるというホッケーだと思うんですけど、きょうはみんな観客の目を気にして、「いつもよりも上手いプレーしようかな」という気持ちが(選手たちの中に)少なからずあったと思うので、早稲田はやっぱりそういう泥臭いプレーをしないと上には進めないというのが分かった試合だったかなと思います。

――ハリデー選手自身にとって最後の早慶戦となりました。特別な思いはありましたか

もちろんありました。何度やっても早慶戦というのは本当に良いもので、これを運営してくれているマネジャー、主務、副務、応援団の皆さんなど、そういう周りの支えがあって成り立つものだと思うので、このような大歓声の中引退試合を迎えられたんですけれど、本当にいいものだったなと思います。最後にチームメイトに水を掛けられたりとか胴上げされたりとかは、本当に一生の思い出になりました。チームメイトにも恵まれ、スタッフにも恵まれ、本当に周りには感謝し切れないくらい、いい思いをさせてもらったので、本当にありがとうございましたと伝えたいです。

――早稲田のスケート部で過ごした4年間を振り返っていかがですか

入学した時から同期、先輩、後輩さまざまないい人たちに恵まれて、人間的にも少しは成長できたのかなという四年間だったと思います。これからプロとして活動することになりますが、この四年間で培った忍耐とか、あるいは人間関係とか、本当に色々なことを学ばせてもらったので、一個ずつ生かしてプロでも活躍したいなという風に思います。

――試合後には胴上げもされていました。胴上げしてくれた後輩たちへ向けて、メッセージはありますか

今の後輩たちは去年、リーグ戦のあと一歩の所で優勝を逃したという悔しい経験をしている選手が多いので、少なからず大舞台に立って試合をすることは経験してきていると思います。今年こそはもう一回気を引き締め直して、優勝に向かって頑張ってくれたらなと思います。

――最後に、ご自身のこれからの目標をお願いします

王子イーグルス、すごく強いチームなので、まずは試合に出れることを目標にして、そのあとは日本を代表するようなDFになりたいなと思っています。

GK谷口嘉鷹(社4=東京・早実)

――勝利で終えられた今の気持ちを教えてください

素直にうれしい気持ちと、また、去年の春に慶応に負けて悔しい思いをしたので、今回の勝ちで去年の悔しさを晴らせたのかなという気持ちです。

――早慶戦に向けた意気込みはどのようなものでしたか

2年連続での負けはあってはならないと思っていたので、心も体も調整して、いいコンディションで臨もうというものでした。

――チームとして今日の試合内容はいかがでしたか

一点差の時間が長く、キーパーとしても苦しい部分がありました。しかし、去年の4年生が抜けて攻撃力が落ちたという状況も理解しているからこそ焦らず落ち着いていつも通り臨めたと思います。

――無失点に抑えた試合でしたが、ご自身のプレーを振り返っていかがですか

少し味方に助けられた部分もありますが、春大会を通してやってきたことを出し切れたかなと思います。それが結果として0に抑えることにつながったと考えています。

――春シーズンはご自身にとってどのようなシーズンでしたか

自分としても最後の春シーズンということで思い入れもあったんですが、結果準優勝という形に終わってしまってチームには申し訳ないと思っています。ですが、得られたものは個人的にもチームとしてもすごく多いように感じています。2位になったのは久しくなかったということなので、そういう点は自信に繋がったと思います。

――秋に向けて強化したいポイントを個人としてとチームとしてで教えてください

個人としては体力はもちろん、今後試合を作る力が大切になると思うので、自分自身がゲームをコントロールしていくプレーヤーを目指していきたいです。チームとしては慈英さん(ハリデー、スポ4=埼玉栄)が抜けてしまうことで、大きな穴ができてしまうと思うんですが、その穴を誰が出ても埋めれるようなそんな全員が強いチームになっていきたいです。

FW生江太樹(スポ3=北海道・釧路江南)

――お疲れ様でした。早慶戦勝利のご感想をお願いします

結果的には勝てましたが、内容があまり良くなくて、特に最初の方はチームとして早稲田らしいホッケーができませんでした。秋リーグ(関東大学リーグ戦)を取るためには改善しなければいけない点が多々あると思うので、そこを改善できるようにまずは夏の陸トレで、各自反省したところを頑張っていけたらと思います。

――中盤まで接戦となった試合展開は振り返っていかがですか

春からピリオドの入りがあまり良くないところを改善し切れず、きょうの試合でも出てしまいました。そこは秋リーグでも改善しなければいけないと思うので、チームで共有していけたらなと思います。

――早慶戦へ向けて特別な思いはありましたか

そうですね。特に今回は去年の春の早慶戦(5月13日、●0-2)で負けているのと、年号が変わり令和一年ということ、あとは慈英さん(ハリデー慈英、スポ4=埼玉栄)がきょう最後の引退試合で本当にお世話になったので、自分たちが勝たせて終わらせてあげたいという気持ちで試合に入りました。

――貴重な2点目を挙げられたと思いますが、自身のプレーを振り返っていかがですか

個人的なプレーも中々満足のいくものではありませんでした。あの得点は澤出君(仁、スポ3=北海道・武修館)が良いパスを出してくれて決めるだけだったのですが、自分ももう上級生なので、その他でももっと自分らしいプレーやチームを引っ張っていけるような活躍ができるように、秋リーグに向けて練習に取り組んでいきたいと思います。

――春シーズン全体を振り返って、チームの戦いぶりはいかがですか

去年の主力だった4年生が抜けてチームもがらりと雰囲気が変わったので、最初は不安なところもありました。あとは今回で慈英さんも抜けてチームがまた変わるというところで、また一から秋リーグに向けて、去年優勝できなかった分今年は優勝する気持ちで、4年生、3年生が中心になってチームを引っ張っていけたらいいなと思います。

――チームの雰囲気はどのような点が変わりましたか

去年は本当に4年生がチームを引っ張ってくれて、少し頼りすぎていた部分がありました。今年は自分たちの学年は4年生に頼りすぎるのではなく、自分たちもチームを引っ張っていくというのと、4年生の気持ちに後輩が付いていって全員が切磋琢磨(せっさたくま)できるようなチームづくりができればいいなと思っています。

――最後に秋シーズンへ向けて意気込みをお願いします

何度も言いますが、自分も上級生で結果を残していかないといけないと思っています。去年も優勝の可能性があった中で負けてしまって2位だったので、今年は同じミスは繰り返せないと思います。本当にチーム一丸となって、今年は必ず優勝で終われるように頑張りたいと思います。