エンジのプライド
その男が見据える先には、いつも『優勝』の二文字があった。厳しさの先には栄光があると信じていた。シーズン最後の公式戦である日本学生氷上競技選手権(インカレ)でベスト8に終わった早大。キャプテンの石川貴大(スポ=埼玉栄)はこの結果を「悔しいの一言に尽きる」と言い切る。勝つことに対し、誰よりも強いこだわりを見せた石川。勝利への欲をかき立てるものは一体何だったのだろうか。
石川が早大と出会ったのは中学生のとき。地元・日光で開催されていたインカレで、エンジのユニフォームを着て貪欲にゴールへ向かう選手たちに自然と心を奪われる。「直観的なものだが、他のチームにない何かを感じた」。将来は早大に入って活躍したい――。その後石川はU―16エリートキャンプを経験。また、名門・埼玉栄高に入学しホッケースキルを磨いていく。漠然とした憧れの気持ちは、少年を成長させる原動力になっていた。
キャプテンとしてチームを率いた石川
やがて石川は思い焦がれていたエンジのユニフォームに袖を通す。いち早く早大選手として活躍したい。その気持ちとは裏腹に、1年生のころは上位セットに比べて試合への出場機会の少ない第3セットの起用がほとんどであった。「どうして3セット目なんだろう」。悔しい気持ちが、石川をさらに強くした。2年生になると上位セット入りを果たし、チームに欠かせない存在となっていく。シーズンの集大成であるインカレでは優勝し、日本一を達成。「この経験があったからこそ、3年生からは優勝に向かってやっていくことができた」。その後チームを率いる立場になる石川にとってこの『優勝』はとても価値あるものであった。
キャプテンとして迎えたラストシーズン。前年は無冠、初戦の関東大学選手権では4位に終わり、『優勝』から遠のく状態が続いていた。この現状を打破するために何をすればいいのか。ベンチに入れない選手を含め、全員が同じ方向を向いていきたい――。そんな中思い出したのは昔の自分だった。「チームを思うが故に自分は第3セットでの起用だったんだな、と。4年生と1年生の思っていることの差がそういうところにあるのだなと気づかされた」。そこで石川は、チームメイトとのコミュニケーションを取る場を増やした。そのかいあってか、関東大学リーグ戦ではチーム力で守り勝つプレースタイルを確立する。最後のタイトルを懸けて臨んだインカレ。準々決勝で敗退するも、強豪・中大を相手にチーム全員が勝ちにこだわった体を動かすプレーを繰り広げた。それでも石川はこう語る。「スポーツが勝敗を分けるものである以上結果を残さなければいけない」。ベスト8という現実に、早大キャプテンは肩を落とした。
見据えた先には、『優勝』は待っていなかった。仲間と目指した栄光への歩みは道半ばで閉ざされた。後輩たちに託した日本一の夢。エンジのプライドを背負ってきたその男は、リンクに勝利の『紺碧の空』が響き渡ることを誰よりも願っている。
(記事 中村ちひろ、写真 又坂美紀子氏)