大会最終日、男子フリースケーティング(FS)が行われた。ショートプログラム(SP)を終え20位で、最初で最後のFS進出を果たした石塚玲雄(スポ4=東京・駒場学園)はほぼノーミスでシーズンベストを更新する会心の演技を披露。常に観客に楽しんでもらうことをを意識した笑顔の滑りで、FSは120・95点の17位、SPとの合計は178・01点。順位を2つ上げ、総合18位となり最後の全日本を最高のかたちで終えた。
第一グループ5番滑走で登場した石塚。ついに迎えた大舞台でのFSは、明るいプログラムでラストイヤーを締め括りたいと選んだ『雨に唄えば』。有観客試合で披露するのはこれが初めてだ。コーチに笑顔で送り出され、晴れ晴れとした表情でリンクの中央へと向かう。
晴れ晴れとした表情で登場する石塚
プログラムの始まりを告げる音とともに映画の主人公になりきり、くるりと回って左手で雨を受けると、傘を差すような動きを見せて滑り出す。最初の要素、3回転フリップ-3回転トーループを美しく降りて笑顔が弾ける。続く3回転ルッツ、天を仰ぎ傘を差す仕草からの2回転アクセルもふわりとエアリーに着氷し、加点を得た。前半最後のジャンプ要素である3回転ループは回転が開きダウングレードの判定を受けるがバランスを崩さず、最小限のミスに抑えた。
傘を差す仕草をする石塚
氷の上で飛び跳ねる印象的な振り付けを合図にアップテンポな曲調へと変化する。石塚自身もアイデアを出したというコレオシークエンスの幕開けだ。リンクの上をすいすいと散歩するような滑らかなスケーティング、細部まで工夫を凝らした動きに観客が手拍子でエールを送る。1・21の出来栄え点は、FS出場選手全体の6番目にあたる高得点。指先の動きまでに表現する気持ちがこもる。
回転速度の落ちることがない安定感抜群のフライングキャメルスピンまで手拍子は続き、演技は後半へ。ポップなメロディーに乗って、2回転アクセル-3回転トーループを成功。セカンドジャンプの高さが光り、リンクサイドで見守るコーチも拍手。観客を指差したり膝を叩いたりとコミカルな動きで会場を巻き込んでいく。ラストジャンプは、イーグルからの3連続。着氷の瞬間、大きな拍手に包まれて会場のボルテージがまた一つ上がった。
最大の見せ場のステップでは、一蹴りでよく伸びるスケーティングでターンを紡いでいく。ツイズルの後『Make ‘Em Laugh』のテンポに合わせて高まる手拍子に応えるように、客席に手を振る動きを見せる。石塚の代名詞でもあるラストの高速スピンを回り切り、フィニッシュ。
ラストポーズでさいたまスーパーアリーナの天井を見上げたまま、感無量の表情。次の瞬間、両腕を何度も天に突き上げ喜びを爆発させた。客席はこの日はじめてのスタンディングオーベーション。惜しみない拍手で健闘を称える観客に両手を回してお辞儀をし、ガッツポーズで喜びを分かち合う。
ガッツポーズをする石塚
演技直後のミックスゾーンで「もうこれ以上幸せなことはないなと思いました」と万感の思いで語った。ずっと目標にしてきた晴れ舞台で、スケート人生で頑張ってきたことが報われた瞬間だった。リンクサイドでは、ともに戦ってきたコーチとグータッチを交わし「よくやった」と声をかけられた。得点はシーズンベストを更新する120・95、SPとの合計178・01で、昨年から順位を10位上げて総合18位となった。
コーチとグータッチする石塚
映画の振り付けを随所に組み込み、楽しさや喜びに満ちたプログラム。常に笑顔で観客を見渡しながら、心を込めて滑り切った。客席と一体となって楽しむ姿勢が、スケーター石塚玲雄の滑りを、見る者の記憶に深く刻み込んだことに違いない。会場の観客だけでなく画面越しに見守る大勢のフィギュアファンの記憶に残る名プログラムでまさに有終の美を飾った石塚。来春からは、「スケートの楽しさを伝える存在になりたい」という思いで指導者を目指す。スケート人生の集大成となる大舞台で全力を出し尽くした経験は、間違いなくこれから歩んでいく新たな道への第一歩を後押ししてくれることだろう。
(記事 中島美穂、写真 及川知世)
結果
▽男子FS
石塚玲雄
FS 17位 120・95点
総合 18位 178・01点
石塚玲雄(スポ4=東京・駒場学園)
――素晴らしい演技でした。ガッツポーズも出ましたが、ラストシーズンの全日本のFS、ご自身で振り返っていかがですか
ラストシーズンの、最後の全日本だったのですがこれまでのスケート人生全てを含めても一番幸せで、一番滑っていて楽しい演技でした。
――昼の公式練習後に、コーチからはどのような言葉をかけられて送り出してもらいましたか
昼間の公式練習は動きが少し悪くて、自分が思っていたよりも全体的に楽しむ気分が足りなかったのですが、練習が終わって上がったときに染谷先生と服部瑛貴先生から「本当にもう最後、ハッピータイム、ハッピーパーティーだね」っていわれて、「ここまでしっかりやってきたから、あとは楽しむだけだよ」っていっていただきました。その言葉が後押しになって、今日の演技はお客さんと一緒に全員で踊ろうみたいな気持ちで楽しくできたと思います。
――SPの後、FSではお客さんに「楽しさや幸せが伝わるような演技」をしたいとおっしゃっていました。手拍子やスタンディングオーベーションもありましたね
このプログラムはずっと無観客だったので、お客さんに入って、応援していただけて、その上で手拍子していただけたというのは本当に初めてでしたし、それがこういう素晴らしいプログラムにつながったと思います。手拍子も最後の観客の皆さんのスタ ンディングオーベーションも本当に目に焼き付いたというか、もうこれ以上幸せなことはないなと思いました。
※以下囲み取材より
――スケート人生最高の演技ができた一番の要因はなんだと考えていらっしゃいますか
スケート人生全部含めて一生懸命ここまで前を向いてやってきたのが、最後のこの演技につながったのかなと思います。また、これまで悔しい思いもたくさんしてきて、僕はどちらかというと結構不器用なので、うまくいかないこともたくさんありました。その度に、いろいろな方々のおかげで立ち直って前を向いてここまで頑張ってくることができました。なので、どれか一つを選ぶのは難しいですが全てのことが、頑張ってきたことがここの演技につながったと思いました。
――将来的にはどのようにスケートに関わっていきたいか、思い描いている将来を教えてください
僕自身がさっきも言ったようにすごく不器用で、なんでも時間のかかるタイプなのですが、スケートの楽しさというのは、不器用でも、不器用でなく器用な人でも楽しめるものだと思うので、スケートの楽しさを一番に伝えていきたいと思っています。それは、小さい子から大人からスケートを始める方まで、スケートの楽しさというのは人それぞれであっても必ずみんな持てるものだと思います。そういう楽しさを発見できる後押しをしていきたい、そういうスケートの楽しさを伝えるというのを一番に、目指しているのは指導者なのですが、その中でもそういう楽しさを伝えていける存在になりたいと思っています。
――石塚選手が考えるスケートの楽しさ、魅力はどういったところですか
スケートって、いろいろな曲に合わせて踊ることができて、今では昔と違ってボーカル入りの曲もOKですし、本当にジャンル問わず、課題曲というのがある意味なくてショート、フリーも自分の好きな曲を選んで、振り付けも自分のアイデアを入れることもできます。いい意味で本当に自由で、素晴らしいスポーツだなと思っています。そういう踊る楽しさ、氷上で滑る気持ち良さを味わいながら踊ることができるという点が本当に素晴らしい競技だと思っているので、そういうのを今日みたいにたくさんのお客さんの前で披露できるというのが楽しいんだよというのをもっともっと伝えていきたいと思っています。
――染谷先生から演技後、どのような言葉をかけられましたか
はっきりと全部は覚えていないのですが、とにかくよくやったといっていただきました。僕の性格とかいろいろ先生が知っているからこそ、その一言、よく頑張ったと、よくできたという風に言っていただいて、シンプルなのですが、その一言が本当にうれしかったです。