6人が90点以上を叩き出すなど、ハイレベルな争いとなった全日本選手権大会(全日本)ショートプログラム(SP)。1日空け、いよいよ五輪代表が決まる男子のフリースケーティング(FS)が26日、行われた。国内での有観客の試合はこの全日本が今季初となった島田高志郎(人通2=岡山・就実)が、日本のファンの前で初めて今季のFS『チャップリン・メドレー』を披露。146・91点のシーズンベストでFS10位となり、総合でも233・67点の10位で6度目の全日本を終えた。
チャップリンを演じる島田
島田は落ち着いた表情でスタートポジションについた。映写機の回る音が聞こえ、悲しげなピアノの音色が流れ始めると、柔らかな動きで滑り出す。「曲に入り込みすぎていた」と冒頭に予定していた4回転からのコンビネーションは単独の2回転に。しかし、そこで「目が覚めた」と次の4回転サルコウは乱れながらもなんとか着氷する。続く3回転アクセルー2回転トウループのコンビネーションは美しく決まり、ジャンプの流れを取り戻した。
曲に入り込みすぎていたという状態から覚めたとはいうものの、『チャップリン・メドレー』の主人公になりきる演技力は光る。眉を上げて驚いたような表情を織り交ぜながら上半身をしなやかに使ってチャップリンを演じていく。細かな踊りの中に組み込まれた3回転ループは、まるで振り付けの一部かのように柔らかく決まった。
演技中盤、曲調が変わり、チャップリンの有名な旋律が流れる部分では、ステッキを振り回すような動きや、襟を正すような動きに合わせておどけた表情を見せる。音楽がまたストリングス基調の曲へと戻ると、長調ながらもどこか物悲しさを感じるようなメロディーに合わせ、切なげな表情を見せながら、曲の一音一音を柔らかく拾っていく。曲の盛り上がりに合わせたコレオシークエンスでは、長い手足を大きく使った動きと、伸びやかなストリングスの音色に合わせた伸びやかなスケーティングで会場を引き込んだ。
体を柔らかく使った演技を見せる島田
終盤の2つのジャンプを決めると、共にレベル4の評価となった2つのスピンで演技を締めくくる。スピンが終盤に差し掛かり、曲に再び映写機の音が混ざり始めると、プログラムが終わりに差し掛かったことを感じ取った会場の客の拍手が徐々に大きくなる。スピンを解くと、「大舞台に立てている喜び」を噛みしめるような表情で胸に手を当てフィニッシュ。しばらく経ってから笑顔を見せ、客席四方に礼をした後、頭上で手を合わせるような仕草を見せてから氷を降りた。
観客に手を合わせて氷を降りる島田
4回転が完璧には決まらず、思い描いていた演技とはならなかったようだが、シーズンベストの点数で10位。試合を重ねるごとに成長を見せ、四大陸選手権の補欠代表にも選ばれた。しかしそれでも、「悔しい部分がたくさん残る演技でもあったので、この大舞台をまた4年後に向けての再出発の地として迎えられたことをうれしく思う」と更に先を見つめた。「もっともっと良い演技ができるまで僕はスケートを続けていくので、その日を迎えられるようこれから更に練習の質を高めていきたい」。いつか訪れるその日に向けて、この全日本を新たなスタートとし、島田は更に島田らしいスケートを追求していく。
(記事、写真 及川知世)
結果
▽男子FS
島田高志郎
FS 10位 146・91点
総合 10位 233・67点
コメント
島田高志郎(人通2=岡山・就実)
※囲み取材より
――FSの演技を振り返っていかがですか
まずはFSの演技前からの話になるのですが、やはり全日本という舞台は、オリンピックシーズンで無くとも、本当に怖くて、怖くて怖くて仕方なかったのですが、6分間練習の頃には、たくさんの方に見ていただけている幸せや、この大舞台に立てている喜びというものをひしひしと感じ、最終的に演技の中でもそれを感じながら滑ることはできました。
――演技直後の笑顔が印象的でした。ご自身で何か思っていたことがあれば教えてください
皆様の拍手や応援が本当に力になっていることを感じました。まだ演技の内容を完全に思い出したりすることはできないのですが、終わってみた頃には幸せだった気持ちの方が大きかったので、その笑顔だったと思います。しかし悔しい部分がたくさん残る演技でもあったので、この大舞台をまた4年後に向けての再出発の地として迎えられたことをうれしく思います。
――ジャンプは冒頭から抜けてしまいましたが、原因としてご自身で思いつくことはありますか
どうなんですかね、集中はすごくしていたし、良い緊張や集中だったと思うのですが、自分の曲に入り込みすぎていたというか、100パーセント強い気持ちで、ということにはなっていなかったと思うので、そこがダブルになってしまった原因であり、そのダブルで少し目が覚めたというか、夢の中から目が覚めたという感覚はありました。
――この経験を今後にどのように活かしていきたいですか
もっともっと良い演技ができるまで僕はスケートを続けていくので、その日を迎えられるようこれから更に練習の質を高めたいです。今回トップの選手たちと一緒に滑る機会を頂いたので、もっともっと練習から自分のできることの最大限、100パーセントをずっと続けていければなと思っています。
――チャップリンメドレーはジュニアの時に初めて全日本に出たときにも滑っていらしたと思うのですが、その時から成長したところと思うことはありましたか
自分の成長を思うというよりも、僕は本当に人とのつながりには世界一恵まれていると思っているので、ステファンコーチや、サポートしてくださっている皆さま、本当に応援に感謝しかないです。成長できているのかわからないですが、成長しているとすればその人たちのおかげだと思っているので、これから応援が、更にもっと応援したい選手だと思ってもらえるように頑張っていきたいなと思っています。
――ステファンコーチとは、体の動きだけでなく、この役はこうやって演じよう、といったディスカッションもするのですか
振付の時に、例えばパントマイムだったらここは火の中に手を入れてしまって「危ない!」って自分でやっているような感じだったり、イメージを持たせてもらうことはあるのですが、なりきる自分というものは全て僕に任せてもらっていますし、僕のする演技が大好きだと、またフリーの後にも(コーチに)言ってもらえたので、それがすごくうれしかったですし、今後ももっとステファンコーチと一緒に歩を進めていけたらなと思っています。
――全日本が怖かったところから楽しみになっていく過程でコーチから何か言われたことはありましたか
あなたの繊細な動きを全員に見せてきてください、と伝えられたので、細かなアドバイスというよりは、自分が曲に入り込むための、意識を作ってもらえたという感じです。