大会2日目、男子ショートプログラム(SP)が行われた。4大会連続4度目の出場となる石塚玲雄(スポ4=東京・駒場学園)は、思い入れのあるプログラムを演じ切り、57・06点の20位で上位24人によるフリースケーティング(FS)初進出を決めた。
自分で振り付けたステップを滑る石塚
「石塚玲雄さん・早稲田大学」名前をコールされると、自分を鼓舞するかのように2度3度と両手を広げてからスタート位置でポーズをとる。静まり返るさいたまスーパーアリーナに始めの一音が鳴り響くと軽やかにホップし、瞬く間に曲の世界へ観客を誘う。
披露するのは、自身の振り付けによる『The Beatles Concerts』。まずは、直前の6分間練習で念入りに確認していた3回転フリップ-3回転トーループ。着氷するものの、フリップはエッジエラー、セカンドジャンプのトーループは4分の1回転不足の判定を受けた。しかし、続く2回転アクセルは抜群の安定感によるシームレスな着氷で加点を得た。ゆったりと流れるような曲調に変わるとそれに合わせて石塚の動きも、よりしなやかさ、優雅さを増す。旋律を体全体で感じとり丁寧に音を拾いながらスケートを紡いでいく。
得意のスピンでは、惜しくもオールレベル4とはならなかったものの3要素全てにおいてジャッジ全員からプラス評価を受けた。特に美しいイーグルから入ったフライングキャメルスピンでは、鮮やかにポジションを変更し、しっかりとした軸が生み出す緩むことのない回転の速さを披露した。転倒した3回転ルッツについては、「跳び方とか入り方は悪くなかった」と振り返り、練習の手応えを掴んだ。
ラストのステップでは、羽ばたくような上半身の動きと伸びやかなスケーティングで、こだわりの「高橋(大輔)選手リスペクトな振り付け」を演じきった。久しぶりの有観客試合、「大勢のお客さんの前で自分がまるでコンサートをやっているかのような気持ち」で石塚の魅力を惜しみなく披露した納得の出来だった。
演技後は健闘を称えるファンによる温かな拍手に包まれ、数回うなずきながら四方に頭を下げた。銀盤を後にする際、リンクサイドで右手を大きく上げてもう一度深々とお辞儀する様子は石塚の全日本へ賭ける熱量の表れだったのだろう。
向かったキスアンドクライで、祈るような仕草に、思い詰めた表情を湛え固唾(かたず)をのんで点数発表を待つ。SPの点数は57・06点。32人中20位で、FSに駒を進めた。過去3年間は、あと一歩のところで届かず涙をのんできた。祈りが届いたのか、いや石塚のたゆまぬ努力が実を結んだのだろう。四度目の正直、ラストイヤーにして悲願のFS進出を勝ち取った。大学4年間ずっと目標に掲げていた全日本でのFS、その幸せを噛み締めつつ「お客さんにも楽しさや幸せが伝わるような演技」を目指す。
(記事 中島美穂、写真 及川知世)
演技を終え、ほっとした表情を見せる石塚
結果
▽男子SP
石塚玲雄 20 位 57・06点
石塚玲雄(スポ 4=東京・駒場学園)
――SPの演技を振り返っていかがですか
素晴らしい練習をしてこられたので、あとはどれだけ自分を信じてどれだけ守りに入らずに楽しくジャンプを跳んでいけるか、そして気持ちを込めて自分の演技をできるかというのがキーポイントでした。ルッツに関しては、転んでしまったのですが、先生にも言っていただいたようにそんなに跳び方とか入り方は悪くはなかったので、本当に少しの差でした。悔しいというよりも全体を通して、大勢のお客さんの前で、自分がまるでコンサートをやっているかのような気持ちで滑ることができたので、まずはそこに感謝しています。幸せな時間だったなと思っています。
――久しぶりの有観客試合でしたが、観客の声援や拍手は力になりましたか
そうですね、すごく力になりました。また、事前にいろんな方から「日本頑張ってね」とか「いつも練習見てるから自信を持って楽しくやってきてね」とかいろいろ言っていただいていました。応援してくださる方がたくさんいて、それがすごく後押しになったなと思っています。
――FSに出場することができた場合の、目標と意気込みをお願いします
※インタビュー後FS出場が決定
まずは、他の人の演技を見守りながら自分は祈るという形になるのですが、もしフリーに出ることができたら初めてのフリーになるので、これ以上幸せなことはないと思っています。練習してきたことをしっかり出すのはもちろんですが、それ以上に自分が楽しく滑って、やはり曲調がミュージカルの曲なのでお客さんにも楽しさや幸せが伝わるような演技がしたいと思っています。
――このさいたまスーパーアリーナという国内最大級の会場で、ラストシーズンにご自身の振り付けたSPを滑られたことについての思いを教えてください
そうやって言っていただければ言っていただくほどすごいことだなと自分でも思っています。巡り合わせってどこでどうつながるか分からないので、このタイミングで自分の振り付けで滑れて、それがさいたまスーパーアリーナで、このコロナ禍にも関わらずこんなにたくさんのお客さんが入ってくれて自分を応援してくださったというのが本当にうれしいなと感じています。高橋大輔選手(関西大学KFSC)が使っていた曲なのですが、高橋選手もこういう大舞台を何度も経験なさって成長されてきた選手なので、自分もそれと同じ曲でこんなにたくさんの方の前で滑れたことが、考えれば考えるほどうれしいことだなと思います。
※以下囲み取材より
――ご自身の振り付けを滑るのと他の方が振り付けた作品を滑るのはどのような違いがありますか
他の方が振り付けてくださる振り付けは、自分が思いもしなかったアイデアとか自分が知らなかった引き出しを引き出してくださるのですごく楽しいです。自分が振り付ける振り付けは、本当に自分の思い通りにできるので、ジャンプの位置だったりとかタイミングだったりとか、ここの音でこの振りを入れたいというのを全て自分の思い通りに入れることができました。高橋大輔選手の2013年NHK杯のビートルズメドレーの 演技がすごく好きなのですが、その動画とかも見て参考にさせていただいて、高橋選手リスペクトな振り付けをたくさん入れさせていただいて、そういうのも楽しみながら振り付けしました。
――大学4年生で臨むラストシーズン、一試合一試合どのような気持ちで戦っていらっしゃいますか
自分がしっかり練習してきたので自信を持って演技をしたいなというのはもちろんあります。また、東伏見のリンクの中で僕が最年長で、同じリンクにちっちゃい子たちがたくさんいますけど、その子たちが僕の練習を見て、こういう練習をしたらいいんだ、とかこういう風にしたら上手くなれるかなとか、そういうヒントを後輩たちに少しでも与えられるような練習や試合をしたいと思ってずっとやってきました。今日は1個転倒がありましたが、後輩たちが僕の演技を見たときにそう感じてくれるような演技がもしできていたとしたらすごくうれしいなと思います。
――大学は3月で卒業ということでよろしいでしょうか
はい、卒業です。
――4月からのご予定で決まっていることがありましたら教えてください
これは本当にまだ決まっていないのですが、小さい頃からずっと夢だったフィギュアスケートの指導者を目指しています。この全日本という舞台が終わってから決まってくる部分もあるかもしれませんが、現役をしっかりやり切って、やり切った後はその次の目標として、こうやって全日本でたくさん活躍されている選手のように素晴らしい選手の育成に携わりたいと思っています。