【連載】新体制特集『Don’t quit!』最終回 山下大悟監督

ラグビー男子

 特集の最終回を飾るのは、監督就任2年目のシーズンを迎えた山下大悟監督(平15人卒=神奈川・桐蔭学園)のインタビュー。昨年、早大は全国大学選手権(大学選手権)準々決勝であっけなく散った。必ず日本一を取り戻す――。並々ならぬ覚悟と信念を持って大きな改革に踏み切った男は、昨年の結果をどうとらえているのか。前半は昨季の振り返り、後半は今季の展望にフォーカスしてお話を伺った。

※この取材は3月1日に行われたものです。

「ふがいない結果だった」

昨季を振り返る山下監督

――昨季はスクラム・ディフェンス・ブレイクダウンの3点を中心に取り組んでこられました。この3点についての評価はいかがですか

 スクラム・ディフェンス・ブレイクダウンの3点を武器として、他大学に勝つことが早大の戦い方だと考えてきました。スクラムについては一定程度の成果が出たと思います。具体的に言うと早明戦の認定トライですね。どの試合でも相手に対してスクラムで優位に立てたことは数値でも出ています。ただ相手を制圧するようなスクラムが組めていません。またゴール前で取りきらないといけない場面、特に帝京大戦や同大戦では組み勝っているのにも関わらずペナルティを取られてしまいました。今季は昨季の土台に加えて相手を制圧することを目標にやっていきたいと思います。チームディフェンスは一番改善しなければならない部分です。昨季から横につながるディフェンスをやってきました。しかし横につながるだけでは強みにならないので、続いて前に出ることを意識しました。そうするとスプリントが下がるため、ディフェンスラインにギャップができてしまいます。何度も挑戦し失敗を繰り返しながら、ディフェンスに取り組んできました。選手たちの意識は高まったものの、外側のスペースに対するチームディフェンスのもろさが見られ、強みになっている状況ではないですね。ただ、何回も試して積み重ねてきた軌跡というのは存在します。昨季の反省を踏まえて、今季はチームディフェンスを強みにしていきたいです。ブレイクダウンについて、アタックの部分ではではボールを取られたことはほとんどなかったので、継続していきたいと思います。ディフェンスの部分では、1人目、2人目の仕事を明確にしてやってきました。ボールを取り切る場面で判断が甘かったり、能動的ではなかった部分がありました。今季のブレイクダウンはボールを奪うことをテーマにしていきます。

――昨季の全国大学選手権(大学選手権)準々決勝敗退という結果をどのように受け止めていらっしゃいますか

 ふがいない結果だったと思います。早大は優勝するか、しないかのチームだと思っています。もちろんプログラムを持って中期、長期のヴィジョンを持っています。けれども、このチームは1年間勝つか負けるかだけだと思っているので、非常にふがいないです。そして応援してくださっているファンの皆様に申し訳なく思っています。

――昨季1年間で見えた課題はありますか

 いろいろとありますね。よくできた部分、できなかった部分、私が想像した以上にできた部分、できなかった部分もあります。

――その中でも特に気になる部分は何ですか

 先ほどの答えと重複しますが、3つの武器を使って戦っていくのが私のやり方で、早大のやり方だと言いました。この3つに関して言うと、チームディフェンスでは脆弱(ぜいじゃく)な部分があると感じています。

――今季もスクラム・ディフェンス・ブレイクダウンの3つに重点的に取り組んでいくのでしょうか

 そうですね。ただ重点的に取り組むだけでなく、武器にしていきます。このことが非常に重要です。

「立ち止まっている暇はない」

――2度目のシーズンを迎えられますが、現在の心境はいかがですか

 今季のチームへの期待感でいっぱいですね。プログラム自体を回しだして2年目ですし、昨季の土台がある中でどの選手が伸びていくのか、その選手がチームにどのような影響を与えていくのか楽しみです。

――先日行われたファーストミーティングではどのようなお話をされましたか

 まずクラブとして掲げているミッションを挙げて、成し遂げていきたいヴィジョンを選手たちに掲げました。そして春シーズンの目標とそのために倒さなければならない相手を提示しました。また、昨季に選手たちに求めたこと、何を武器にしていったのか、そのためのロードマップはどうなっていたのかを振り返りました。さらに自分たちの強みであるスクラム・チームディフェンス・ブレイクダウンおよびS&Cによる体づくりについてもう一度確認し、今季はどのように取り組んでいくのか話しました。以上を踏まえて、2017年に個人としてやるべきこと、チームの強みとそのアップデートの目的を挙げ、ロードマップとしてまとめました。さらに、今季は新たにメンバーとしてのフィロソフィーを付け加えました。選手たちが持つべき精神や姿勢のことです。クラブの人間としてできることをグラウンド内外で実行していくことで最後の勝負や1つのこぼれ球に反応できるようになります。そして選手同士がつながっていき、『BE THE CHAIN』、鎖になって戦っていこうと伝えました。

――選手のフィロソフィーとは具体的にはどのようなことですか

 フィロソフィーは哲学的な要素で選手やスタッフ全員が共有するべきものだと考えています。具体的に言うとハードワークとリスペクトそしてディシプリンの3つになります。ディシプリンは自分を律するということです。

――倒さなければならない相手はやはり帝京大でしょうか

 もちろんそうです。

――選手たちに求めることは何でしょうか

 選手たちに求めていることはトレーニングとリカバリーとニュートリションです。トレーニングしてリカバリーして、栄養を取ることは早大の選手として当たり前のことだと伝えました。またこういった習慣がついたことによって、体も大きくなっています。トップチームになると体重は平均で6.5キロほど増えているので、その数値をさらに追及していこうと話しました。

――フランカー加藤広人選手(スポ4=秋田工)を主将に任命した理由を教えてください

 経験は申し分ないですし、新しいチームを引っ張っていく上で十分な選手だと思い、主将として選びました。

――加藤選手に主将として期待したいことはありますか

 どんどん自分から発信してほしいですね。チームをまとめるというよりも加藤が声を大きくすること自体が大事だと思います。どう転んでも加藤のチームなので、しっかりとチームのやろうとしていることを理解した上で早大を引っ張っていってくれたらと思いますね。

――では、黒木健人選手(教4=宮崎・高鍋)に副将として期待したいことはありますか

 しっかりとBKを引っ張っていってほしいです。黒木はアップダウンの少ない、常に安定している選手だと思います。とはいえまだ21歳ですので、チームを引っ張っていく中で周囲を見る力が増して、BKに視野の広さを加えて欲しいですね。

――鶴川達彦選手(文構4=神奈川・桐蔭学園中教校)、佐藤真吾選手(スポ3=東京・本郷)、WTB/FB桑山聖生選手(スポ3=鹿児島実)、SO岸岡智樹選手(教2=大阪・東海大仰星)が委員に選ばれました。委員に求めるものは何ですか

 鶴川はプロップにコンバートして一定の成果は出してくれたので、それに甘んじることなく新しいことにチャレンジしてスクラムを引っ張っていってほしいです。真吾は昨季からレギュラーとなってチームの欠かせないメンバーとなっていました。ただ昨季のままだと物足りないので、真吾のプレーでFWをもっと引っ張ってほしいです。あとはリーダーシップも発揮してほしいですね。発信することが苦手なので、3年生のうちに克服してもらいたいと思います。桑山聖に関してはあまりチームのことは考えずに、自分のプレーを伸ばしてほしいと思います。岸岡は昨季一皮むければ、もっと成績が良かったと思いますね。同大戦がカギでしたね。岸岡も果敢にやってはいましたけれども、最後に癖づいた部分で成果が出なかったと思うので。ただ同大戦の時よりも現在の時点でより高いレベルにいっていますから、今季はイニシアチブをとってもらいたいです。岸岡に任せることも多くなると思うので、果敢にやっていってほしいですね。

――岸岡選手はSH斎藤直人選手(スポ2=神奈川・桐蔭学園)、CTB中野将伍選手(スポ2=福岡・東筑)と共にジュニア・ジャパンに選出されました

 体づくりのプログラムをスタートさせて、1年生の春からトップチームに出て、チームの中心となって活躍していました。ほとんどケガもしていませんし、3選手のポテンシャルを理解して回したチームの育成プログラムの1つの成果であると思いますし、関東大学対抗戦というタフなゲームを通して成長した成果だと思うので、非常に素晴らしいことだと思いますね。

――現在はどのような練習をしているのですか

 午前中はウエイトトレーニングとストレングストレーニングとユニットをやっています。午後はコンディショニング、つまり大きくなった体に対してコーディネーションを高めるトレーニングや、ランニングフィットネス、コンタクトフィットネス、スピードグリッドなどフィットネストレーニングで大きくなった体を使えるように練習しています。後はチームのトレーニングとしてディフェンス、アタック、ブレイクダウンそしてキックと大きく4つに分けて取り組んでいます。この練習を週5日行っています。

――新チームの印象はどうですか

 体も大きくなったのでのびのびとやっていますね。2月からユニットの練習は行っていたので、昨季よりははるかにいいと思います。体の大きさも全然違いますし、スキルの部分でもハンドリングが良くなりました。いろいろな面でのファンダメンタルなスキルが向上していますね。

――春季はどのような結果を残したいと考えていらっしゃいますか

 春季はチームの武器をやりきることや結果を出すということだと思います。ですから結果にはこだわりますよ。

――春季の展望を聞かせてください

 春季リーグもありますし、招待試合もあるので、4月23日から始まると9連戦となります。8週間のオフシーズンが終わって、プレシーズンということで練習に取り組んでいます。インシーズンに入ってからは、選手のコンディショニングやローテーションが重要ですね。その部分は考えていきたいと思います。後は同じポジションもそうですけど、複数のポジションができるユーティリティがある選手がいるといいので、そういったところも考えています。最初はリーグ戦が3つ、次に同大、天理大の2つ、最後に慶大、帝京大、明大と戦うことになります。

――昨季の結果を踏まえた上で、春季はどのようなチーム作りを行っていきたいと考えていらっしゃいますか

 昨季のチームを春の時点で超えたいと思っていて、チームの強みにしている部分と論理的に落とし込んだ細かい部分を達成できたらいいと思います。アップデートした部分を踏まえた上で昨季の12月のチームを超えます。いずれにしろ大学選手権を8連覇しているチームに勝たないといけないので、プログラムを回していますけれども、これから1年間で勝たなければいけないので立ち止まっている暇はないです。結果を求めますね。そのために武器をアップデートしたわけですから。その考えにひも付いた練習を落とし込んでいきます。また肝心なところでは選手のフィロソフィーにつながっていきますけど、選手の理解を深めるための対話だったり、能動的な取り組みを促すことはミーティングを含めてやっていきたいと思いますね。

――例年と比べて、昨季は1年生の選手がAチームのメンバーとして試合に出場することが多かったと思います。今季も1年生の選手を積極的に起用していくおつもりですか

 もちろん。入部したら最初の10週間くらいでしっかりとした体づくりのプログラムを行い、大学生と戦える土台をつくっています。これをやらないと最初の1年間だけでなく、その後の4年間が決まってしまうので、しっかりやってほしいです。そこから成果を出してほしいですし、習慣を身につけてほしい。体づくりができているとスキル練習の吸収率が速くなると思うので、戦えるレベルに達すれば当然、試合に出ることになりますね。

――4月に入部する新部員に対して期待することはありますか

 この部は勝つか負けるかなので、入ったからには勝って、勝って、勝ちまくってほしい、ただそれだけです。

――新チームで注目している選手はいらっしゃいますか

 みんなです。チーム全員に注目していますね。ただ今季のスクラムを引っ張っていくのは鶴川しかいないと思うので、スクラムに関して言えば、鶴川ですね。

――最後に、今季の意気込みとファンの方々へのメッセージをお願いします

 昨シーズンはふがいない結果に終わってしまって、ファンの皆様のご期待に添えず申し訳なく思っております。ただ土台作りはしっかりできていますし、今季2年目ということで最初から走っていきますので十分期待してください。皆さんのご期待に添えるように日本一を取ります。

――ありがとうございました!

(取材・編集 服平周)

今季もスローガンは『BE THE CHAIN』です!

◆山下大悟(やました・だいご)

1980(昭55)年11月17日生まれ。神奈川・桐蔭学園高出身。2003(平15)年人間科学部卒。早大→サントリー→NTTコム→日野自動車。2016年度より早大ラグビー蹴球部の監督を務める。