見え始めた王者の背中。敗北喫するも、前半は帝京大に肉薄

ラグビー男子

 今季初となった、絶対王者・帝京大との一戦。山下大悟監督(平15人卒=神奈川・桐蔭学園)はこの試合を『8.21』と銘打ち、ターニングポイントとして重視していた試合だ。前半は、こだわり抜いてきたスクラムで先制トライを奪うなど、帝京大に肉薄。10-12でハーフタイムを迎える。しかし、後半開始早々に2トライを立て続けに奪われ、流れを持っていかれてしまった。そこからはじりじりと差を広げられてしまい、22-47で試合終了。最終的には25点差はつけられたものの、前半の戦いぶりは、遠くにあった王者の背中が近づいたといえる内容となった。

 試合前のウォーミングアップから気迫が伝わってくるほどの強い気持ちを持ってキックオフを迎えた早大。勢いそのままに、SH齋藤直人(スポ1=神奈川・桐蔭学園)を中心にテンポ良くボールを動かし、敵陣でプレーを続ける。すると、10分にゴール前5メートルのところで相手がたまらずペナルティー。春シーズンと同様に、強化し続けてきたスクラムにこだわり、最後はゴールラインまで押し切った。その後は相手SHにラック近辺を突かれる場面が目立ち、それを起点に2トライを献上してしまう。しかし、前半終了間際にSO岸岡智樹(教1=大阪・東海大仰星)がゴール正面からのPGを決め、10-12と競った展開で40分を終えた。

スクラムトライを挙げ、喜ぶFW陣

 どちらが先にスコアを動かすかが重要な後半。ここで帝京大の試合巧者ぶりが垣間見えた。ブレイクダウンで先を取ることでテンポを上げ、タテに強く出るシンプルなアタックで着実にゲイン。10分までに2トライを許し、一気に突き放されてしまう。「(帝京大に)もう一回エンジンをかけさせてしまった」とロック桑野詠真主将(スポ4=福岡・筑紫)が振り返ったように、相手に主導権を握られた。14分にオフロードパスを多用したアタックで右サイドを攻め、最後は齋藤がインゴールにボールを運び5点を返す。しかし、その後のアタックは決め手を欠いた。帝京大の強固なディフェンスをなかなか崩すことができず、接点でもプレッシャーを受け何度もターンオーバーを許してしまう。ラストワンプレーで、岸岡の裏へのキックに反応したCTB黒木健人(教3=宮崎・高鍋)がインゴールでボールを押さえ一矢報いるも、ここで長い笛。後半に引き離されてしまい、22-47でノーサイドとなった。

ボールキャリアーとしての働きが目立った桑野主将

 たしかに、スコアだけ見ればただの負けと思われるかもしれない。しかし、前半の早大は『自分たちの強みを出して、相手の強みを出させない』という山下監督の理想とするかたちを体現していた。スクラムで優位に立ち、トライまで奪った。「東海大戦に向けて、ポジティブなフィードバックができる」と、山下監督も一定の手応えをつかんでいる。菅平合宿最後となる試合は24日の東海大戦。来るべき関東大学対抗戦に向けて、勝って山を下りたい。

(記事 進藤翔太、写真 寺脇知佳)

夏季オープン戦
早大 スコア 帝京大
前半 後半 得点 前半 後半
10 12 12 35
22 合計 47
【得点】▽トライ 宮里、齋藤、黒木 ▽ゴール 岸岡(2G、1PG)
※得点者は早大のみ記載
早大登録メンバー
背番号 名前 学部学年 出身校
鶴川 達彦 文構3 神奈川・桐蔭学園中教校
貝塚 隼一郎 政経5 埼玉・早大本庄
千葉 太一 教4 東京・早実
山口 和慶 スポ4 福岡
◎桑野 詠真 スポ4 福岡・筑紫
加藤 広人 スポ3 秋田工
佐藤 真吾 スポ2 東京・本郷
宮里 侑樹 スポ2 沖縄・名護商工
齋藤 直人 スポ1 神奈川・桐蔭学園
10 岸岡 智樹 教1 大阪・東海大仰星
11 桑山 聖生 スポ2 鹿児島実
12 中野 将伍 スポ1 福岡・東筑
13 黒木 健人 教3 宮崎・高鍋
14 本田 宗詩 スポ4 福岡
15 梅津 友喜 スポ1 岩手・黒沢尻北
リザーブ
16 佐田 涼祐 社4 東京・早実
17 鷲野 孝成 基理2 神奈川・桐蔭学園
18 峨家 直也 商2 兵庫・報徳学園
19 柴田 雄基 文3 愛知・千種
20 三浦 駿平 スポ1 秋田中央
21 吉満 慎吾 人3 東京・本郷
22 西田 強平 スポ2 神奈川・桐蔭学園
23 柴田 徹 社1 神奈川・桐蔭学園
24 千野 健斗 人2 東京・成蹊
25 中山 匠 教1 東京・成城学園
26 吉岡 航太郎 スポ3 国学院栃木
27 杉本 頼亮 スポ3 京都・桂
28 横山 陽介 スポ3 神奈川・桐蔭学園
29 船越 明義 社2 東京・早大学院
30 桐ケ谷 稜介 スポ2 群馬・太田
31 野口 祐樹 人3 群馬・太田
32 宇野 明彦 スポ1 神奈川・横須賀
33 緒形 岳 スポ2 新潟・新発田
34 水谷 彰裕 商2 埼玉・早大本庄
※◎は主将、監督は山下大悟(平15人卒=神奈川・桐蔭学園)
コメント

山下大悟監督(平15人卒=神奈川・桐蔭学園)

――前半は拮抗した展開でした。きょうの試合の結果をどう評価されていますか

こだわっている部分を出すこと、相手の強みを出させないこと、新しくやっていることを出すこと、という三つの大きな要件に分けてやっていました。スクラムに関しては、最初にスクラムトライも取れましたし、試合を通じて良いコントロールができたと思います。今は真っ向勝負しかしていないので、今後につながる良い定点観測になりましたね。ブレイクダウンに関しては、頑張れる時間と頑張れない時間があったかなと。帝京大さんの強いフィジカル、ディフェンスに対してはまだまだ足りていないと思いますね。一人一人がレッグドライブできていた場面もあったんですけど、総合的に見ると、まだまだやっていかなければいけないことは多いかなと思います。

――春シーズンからやってきたことが成果として現れている実感はありますか

そうですね。春から体づくりのプログラムをしっかりやっていましたし、夏に入ってからトレーニングのやり方をちょっと変えたのもあって、良くなってきていると思います。それに加えてスキルもやってきましたし、それが表れたのかなと。ベースとなる体づくりの部分はうまくいっていると思います。除脂肪体重だけで、平均5.6キロくらい増えているので。

――秋の試合への見通しも立ってきましたか

まだまだですね。それでも、チーム発足当初に提示したロードマップでは、夏の帝京大戦を機にワセダは右肩上がりで登っていくということで選手たちに話もしていました。最初に言ったように、自分たちの強みを出して相手の強みを出させないことにこだわっていくという部分に関しては、ポジティブなフィードバックができるんじゃないかと思います。

――チーム発足当初のスケジュール通りということですね

そうですね。スケジュール通りです。ただ、春の試合で全部負けなくてもいいとは思いましたけど(笑)。僕はぶれていないですよ。選手たちは結果が出なくていろいろと不安に思うこともあったと思いますけど。春シーズンはアタックもやりませんでしたしね。目先の一過性の結果だけを見てラグビーをしても、中・長期的に考えたら続かないと思っていたので、そういう意味では体づくりのプログラムからスタートさせて、粘り強くやっていくことが大事だと思っていました。それでも、帝京大さんとの差はまだまだあると思います。

ロック桑野詠真主将(スポ4=福岡・筑紫)

――スクラムでは優勢でした。手応えはいかがでしたか

良かったと思います。春からずっとスクラムの土台づくりはしていたので、そこは今シーズンを通してぶらさずやっていくところです。

――きょうの結果が次の試合につながるといった感覚は得られましたか

そうですね。それでも、できたこと以外にもできなかったところはたくさんあるので。この試合の映像をみないとわからないですけど、課題を洗い出して、もう一回練習からですね。次の東海大戦に向けてやっていきたいです。

――前日のC戦では帝京大に勝利を収めていましたが、そこからこの試合につながるものもあったのでしょうか

そうですね。下のチームは網走組とは別で、上井草で練習していたんですけど、そこで下のチームが上井草でハードワークしていたということを聞いていました。そういう結果がきのうの結果につながったと思います。チームを通して同じことを意識して練習していますし、きのうのCの試合はAチームにとってもすごく良い試合だったと思います。

――前半を10-12で折り返しましたが、後半は立ち上がりで立て続けにトライを奪われる展開でした。原因は何だったのでしょうか

後半のファーストコンタクトは意識していたんですけど、そこで帝京大の強いところを出させてしまいました。もう一回エンジンをかけさせてしまったので、もったいなかったと思いますね。

――後半に入ってターンオーバーされる場面が目立っていました

こちらの接点への寄りが遅くなったところでプレッシャーをかけられてしまいました。相手が早いというよりも、自分たちが遅かったというだけの話だと思います。

――この試合は今季のチームにとって一つの指標となる試合だったと思います。この結果をどう捉えていますか

そこは一度ビデオを見て、次の東海大戦に向けて修正して、良い試合をするだけですね。

プロップ千葉太一(教4=東京・早実)

――今日の試合を振り返っていかがでしたか

山下監督が分析してくれていた、やってはいけないことをやってしまってペースをつかめませんでした。

――やってはいけないこととは具体的にどういったことでしょうか

相手の良いバックスリーの選手に、ボールをクリーンに与えてはいけないところでキックで簡単にボールを与えてしまったり、カウンターで切り返されてしまった部分です。

――後半引き離されてしまった理由は何でしょうか

後半最初の10分で(トライを)2本取られてしまったのが痛かったです。そこで頑張って自分たちのペースに持ち込みたかったのですが、受けてしまってできませんでした。

――ラック近辺で相手SHにスペースを与えてしまっていた印象でしたが、いかがでしたか

少しブレイクダウンを受けると相手のSHがどんどん仕掛けてきて、その部分がだめだったのかなと思います。

――スクラムに関してはいかがでしたか

練習通りに組めたのでよかったですが、まだまだ足りないところもあります。ここから皆で押していければいいかなと思います。

――具体的な課題は何でしょうか

まとまりの部分ですかね。もう少し自分たちでしっかり良いスクラムが組めるよう努力していきたいです。

――帝京大戦で自分たちがどの位置にいるのかを知りたいと仰っていましたが、それに関してはいかがでしょうか

超えなくてはいけないカベに少しは近づいたかな、と。でもまだまだ遠いカベだったので、また次やるときに違った姿を見せることができればと思います。

SH齋藤直人(スポ1=神奈川・桐蔭学園)

――最初のトライではFWにも指示を出していましたが、どのような判断をしていたのですか

普通にやってみてゲインしていける感じがあったので、ゴール前は攻めました。最後は強みのスクラムでトライが取れました。

――きょうもハイパントを多用されていましたが、出来はいかがでしたか

きょうはダメでしたね。一本くらいしか良いのがなかったです。帝京大とやるのは初めてだったんですけど、すごいプレッシャーを受けて正直びびってしまった部分もありました。ダイレクトタッチも蹴ってしまったので、そこは自分で対策することと、周りをうまく使ってもう少し正確に蹴れるようにしたいです。

――後半は攻め手に欠けた印象を受けましたが、その改善点などはありますか

それについてはまだわかりません。

――では、相手のディフェンスについてはどうでしたか

80分を通して接点が本当に強くて、球を出すときとか、反則のぎりぎりのプレーをしてきました。そこはしっかり学んでいきたいです。

――帝京大はやはり接点の駆け引きなど他のチームよりレベルは高かったですか

強かったですね。シンプルに強かったです。

――後半にハイパントが少なくなったのは理由がありますか

前半に消極的になってキックを蹴ってしまったので、もう少し攻められたらよかったです。あと、風下だったというのもあります。

――合宿も終盤に差し掛かりましたが、齋藤選手自身が伸ばしていくポイントは何ですか

プレッシャーのある中で良いプレーをできないと良い選手ではないと思うので、日々の練習から一番強い帝京大を意識していきたいと思います。