春季総括&他大情報

ラグビー男子

◆早大春季総括 『結果は出ずも、確かな成長』

 『Innovation』をスローガンに掲げてスタートした岡田組。しかし、春シーズンは全てが順風満帆とはいかなかった。開幕戦こそ流通経大に1点差で勝利を収めたものの、同大にはセットプレーの乱れから悪循環に陥り大敗。その後も帝京大、明大に完敗を喫するなど点差だけを見れば不安を感じざるを得ない結果となった。

 しかし、あくまでもこの結果は折り込み済み。「大事なのは秋、冬に向けたチームづくり」と後藤禎和監督(平2社卒=東京・日比谷)が話すように、今季は春の試合に向けてフォーカスせず、秋以降を見据えてトレーニングを積んでいるからだ。その中でフィットネスに目をつむってまで注力しているのが、帝京大と最も差があるとされるフィジカル。日本代表で指導経験もある村上貴弘S&Cコーチを招へいし、総力を挙げてパワーアップに着手した結果、NO・8佐藤穣司副将(スポ4=山梨・日川)を筆頭に、接点で優位に立つシーンが増えてきた。そんな春の成果が如実に現れたのが春季ラストゲームとなった慶大戦だ。強化ポイントであるブレイクダウンで慶大を制圧。また、6月から力を入れ始めたエリアマネージメントも冴えわたり終始ペースを握ると、48-12と快勝を収める。充実した試合内容で春シーズンを終えることができた。

佐藤穣は強じんなフィジカルで突破を果たした

 メンバーも徐々に固まりつつある。昨季のスタメン9人が卒業した厳しい台所事情のなか、チームを支えたのは昨季もスタメンだった選手たち。パワフルな突破を見せた佐藤穣や、リーダー陣としてチームを鼓舞するロック桑野詠真(スポ3=福岡・筑紫)、攻撃の中心を担うSO横山陽介(スポ2=神奈川・桐蔭学園)はいまや欠かせない存在だ。また、ラストイヤーでの活躍を誓うフランカー仲元寺宏行(社4=広島・尾道)やCTB盛田志(スポ4=広島・尾道)、フッカー貝塚隼一郎(政経4=埼玉・早大本庄)といった選手も獅子奮迅のプレーを見せている。けがで1試合の出場に留まったCTB岡田一平主将(スポ4=大阪・常翔学園)、日本代表の活動のため春は不在であったFB藤田慶和副将(スポ4=東福岡)など主力選手が復帰したときどのようなチームになるのか、注目が集まる。

キックを織り交ぜつつゲームを組み立てた横山

 これから始まる夏シーズン。「まずはフィットネス」(後藤監督)との言葉の通り、春季は力を入れてこなかったスタミナ面の強化は急務だろう。また、同大戦と明大戦では崩壊してしまったセットプレーやチームとしてのディフェンスの整備も求められる。一定の成果を得たフィジカルに加え、これらの課題を克服すれば、チームには大いに伸びしろが残されている。無限の可能性を秘めた赤黒戦士たちは、夏の間に一回りもニ回りも成長してみせる。

(記事 菅原拓人、写真 八木瑛莉佳、副島美沙子)

【早大春シーズンの結果。☆印は関東大学春季大会】

☆5月5日(火) 

○35-34

流通経大

5月17日(日) 

●24-60

同大

☆5月23日(土) 

○45-14

法大

☆5月31日(日) 

●28-36

東海大

☆6月7日(日) 

●12-73

帝京大

6月14日(日) ●34-36高麗大

☆6月21日(日) 

●14-66

明大

6月28日(日) 

○48-12

慶大

★他大学情報

◆帝京大『絶対王者に隙あらず』

 昨季は全国大学選手権(大学選手権)6連覇を達成。そして、日本選手権ではNECに勝利し、大学生として9季ぶりにトップリーグを打破した帝京大。その強さは今季も群を抜いている。関東大学春季大会(春季大会)では、いずれの試合も突き放したスコアでグループA全勝優勝。15人制ではチーム無敗と、層の厚さでも他大の追随を許さなかった。戦力のみならず、試合内容を見ても付け込む余地はない。赤いカベと称される個々の強じんなフィジカルで、相手チームに立ちはだかる。SO松田力也の的確な状況判断や、80分間を通した規律のあるプレーも光る。また、FW陣はセットプレーのみならず、フィジカルと運動量を合わせたディフェンスでもハードワークをこなす。そうした試合展開から、空いたスペースを突くアタックもうまく機能。早大戦で4トライをマークしたルーキーWTB竹山晃暉ら、若手の台頭も著しい。春シーズンU—20日本代表遠征で抜けていたWTB尾崎晟也、故障していたFB森谷圭介らがチームに復帰すれば、レベルアップは確実だ。ライバル校がどのように立ち向かうのか。大学王者に君臨する帝京大に死角はない。

(記事 高畑幸)

◆筑波大『秋での浮上へ、地力は十分』

 昨季は関東大学対抗戦(対抗戦)で5位に沈みながら、大学選手権の決勝へと駒を進めた筑波大。春シーズンはフルメンバーをそろえられないことが多い。今季も例年と同様、多くの主力を欠く中で戦った。それでも春季大会グループBで4勝1敗の好成績。中大に大敗も、慶大、大東大などを退けた。自慢のBK陣は今季も健在だ。CTB亀山雄大、FB竹田祐将を軸に安定したプレーを披露。ここに日本代表屈指のスピードを持つWTB福岡堅樹、未完の大器SO山沢拓也を加えた際の破壊力は絶大だ。一方で昨季の主力が多く抜けたFWには不安が残る。元来セットプレーは得意でないため、プロップ橋本大吾主将を中心に強化を図りたい。その中でFWが光明を見出すならば、ブレイクダウンでの集散の早さか。キーマンはフランカー占部航典だ。FWとしては細身ながら、U—20代表不動のバックローとして世界トップ10入りに貢献した仕事人。占部を中心にスピードで接点を制圧したい。筑波大が秋以降にピークを持ってくるのは明らか。ここ2年の対戦は大接戦の末に早大が勝利を収めているが、ことしも侮れない。

(記事 鈴木泰介)

◆明大『完成度の高さ際立つ』

 昨季は大学選手権セカンドステージ敗退、3年連続で年越しならずという結果に終わった明大。今年は主将にフッカー中村駿太を指名し、スローガンには『責任とリバイブ』を掲げている。セットプレーとディフェンス、特にタックルの精度向上を目標に臨んだ春シーズン。初戦の法大戦では得意のスクラム、ラインアウトで相手を圧倒し76-17で快勝も、続く流通経大、東海大には課題のディフェンスで力負けし、敗戦。続く帝京大には14-47で敗れはしたが、強みのセットプレーでは王者相手にも通用する部分を見せるなど、昨季から残る選手を中心に、レギュラーメンバーの完成度を高めてきた。そして春の集大成である早明戦では後半にやや隙が見られたものの、けがから復帰したSO田村煕を中心に持ち前のアタックでもディフェンスでも強さを発揮。66-14で完勝し春季大会Aグループ4位で締めくくった。秋に向けて、相手陣内に攻め込んだところでのミス、リザーブ選手投入時の明らかな戦力ダウンといったウィークポイントを克服しさえすれば、中身にこだわってきた彼らのラグビーが結果として大きな実を結ぶことは間違いないだろう。

(記事 井上陽介、写真 鈴木泰介)

持ち味の突破を見せる中村主将

◆慶大『ディフェンス面に課題あり』

 新チームのスローガンは昨年と同じ『大学日本一~打倒帝京~』。さらに、今年度より就任した金沢篤ヘッドコーチは優勝にふさわしいチームを作るために、身の回りの清掃などから選手のラグビーへの意識改革を行い、昨年よりも進化したチーム作りを目指している。練習では運動量の底上げを意識し、走り勝つラグビーを磨き上げて春シーズンに挑んだ。攻撃面では、FWの接点への素早い集まりと、昨年からチームを引っ張ってきたSO矢川智基主将を中心にボールを左右に振り、大外からトライを狙う慶大らしい展開を見せる。しかし、大量失点を許す試合も多くディフェンス面では課題が露呈した。結果として、春季大会グループBでは筑波大に敗れただけで4勝1敗とまずまずの成績を収めることができたものの、招待試合では明大、帝京大、早大の上位校に力負け。現時点では対抗戦に向けて不安の残る状態である。ただ、試合経験の少ないフレッシュなメンバーが多いからこそ、チームの成長は未知数だ。伝統の『魂のタックル』と運動量を武器に、16年ぶりの大学日本一を目指す。

(記事 橋爪達生、写真 副島美沙子)

矢川主将は昨季の経験を生かしチームをけん引する