第3回に登場するのは、今季神宮のマウンドに帰ってきた田和廉(教3=東京・早実)。昨年春の鮮烈デビューから1年半。今夏のオープン戦でトミー・ジョン手術(TJ手術)からの復帰登板を果たすと、今季は早くも守護神の座を確保し、ケガの影響を感じさせない好投を続けている。伝統の一戦を前に、ケガからの復帰過程や、今シーズンの手ごたえ、早慶戦への意気込みなどについて伺った。
※この取材は10月25日にオンラインで行われたものです。
好きな投手はポール・スキーンズとマッカラーズjr.
――自己紹介をお願いします
田和廉です。小学校2年生の頃から野球を始めまして、中学までは地元の京都で軟式野球のクラブチームに所属していました。高校進学する時に上京して早稲田実業に入って、そのまま早稲田大学に進学しました。
――ご自身の持ち味は
自分としては、色々な投球の幅があるっていうのが1番の持ち味だと思っています。ストレートで押せる場面は押していきますし、変化球、スライダー、シンカーでかわしていくこともできます。ベースを元々横に大きく使うのが得意だったんですけど、ストレートの強さが出てきて、(ゾーンを)縦にも使えるようになってきたことが最大の持ち味かなと思います。
――好きな選手、参考にしている選手は
自分が好きな選手は、最近だとポール・スキンーズ(MLBパイレーツ)です。それと、今年はあんまり投げていないんですけど、マッカラーズjr.(MLBアストロズ)が自分のフォームと似ている部分があったので、参考にはしています。日本の選手だと、昔の投手になりますが、伊藤智仁選手(現ヤクルト投手コーチ)が一番好きです。フォームや変化球を色々参考にしていて、よく動画を見ています。
――野球部で仲の良い選手は
プライベートでもよく会う選手は4年生の鹿田泰生さん(商4=東京・早実)が、早実の先輩ということもあって、ご一緒することが多いですね。練習とかもよく一緒にキャッチボールしたり、フォームのことを色々聞いたり聞かれたりっていう関係です。
――鹿田選手もMLBを頻繁に見ているが、話題に上ることはあるか
MLBの試合結果とかを話すっていうよりは、MLBのこの選手のフォームを参考にしようとかの話が多いです。フォームだけでもなくて、こんな練習法があるよ、みたいな話もしますね。試合結果っていうよりは、特定のピッチャーにフォーカスを当てて、トレーニング法であったりフォームであったりを話すことが多いです。
復帰は順調に進んだ
――手術してから復帰までのタイムスケジュールを教えてください
まず、5月の頭の法政4回戦で自分はケガをしてしまいました。すぐに手術ができたわけでもなく、6月の頭に自分は手術をしたので、そこから4ヶ月ぐらいはボールも握らず、可動域を戻すところから始めました。それ以降は徐々にキャッチボールを始めましたね。TJ手術は、選手によって復帰までの速さが変わっていくのですが、自分は、緩やかに少しずつステップアップしていったので、特に痛みとかも感じず、ステップを止めることなく、リハビリ計画通りに復帰まで進めて、ブルペンで投げ始めたのが術後10ヶ月でした。実際に実戦に復帰できたのが術後13か月とかだったので、ちょうど全日本が終わったぐらいの時期に打者に対して本格的に投げ始めることが出来た感じですね。そこからは夏のオープン戦等で登板を重ねていった感じです。
――復帰期間中に重点的に取り組んだことは
まずは、肘の可動域が術後にだいぶ狭くなってしまった部分があったので、それを戻すことが初めの6ヶ月ぐらいの間に重点的に取り組んだことです。その他にも下半身の強化であったり、できることは結構あったので、スクワットとかウエートトレーニングも重点的に取り組んできました。その中で体重を増やすことを目標にしていて、術前と比べると多分10キロぐらいは体重を増えていて、 筋肉量も10キロぐらい増やせたので、体を変えるっていうところが自分の中で力を入れて、結果が出たという印象です。
――下半身を強化したという話があったが、ここまでで効果は感じているか
フォーム自体はあまり自分の中では変えてはないんですけど、力を入れなくても、強い球を放れるっていうのは、下半身強化したことの効果として挙げられると思います。他の強化してきた部分の成果でもあるとは思うんですけど、土台がしっかりしたっていう部分が、自分の中で意識的に出力を上げなくても強い球放れる感覚を得ることに繋がった印象です。
――離脱していた間、投手陣の顔ぶれも大きく変わった。伊藤樹選手(スポ3=宮城・仙台育英)も大きく飛躍。チームの変化や、この春の結果をどのように捉えているか
(伊藤)樹が、どんどん成長していくっていうことに関しては、自分はそこまで焦ってはいませんでした。同期として、すごいなっていう感情しかなかったですね。チームが優勝したっていうことに関しては、春のリーグ戦はスタンドで応援する立場だったので、頑張ってくれ、優勝してくれというのがまず一番大きな感情としてありましたが、やっぱり投げたいという気持ちも少なからずあったかなっていう印象です。ちょうどチームが優勝した時期が、自分が結構いい感じで投げ始めることができた時期で、投げたいなっていう思いもありつつ、焦っちゃダメだっていう、葛藤みたいなのはありました。
――今季、ここまでの投球を振り返って
自分の中ではケガなく来ることができていることは第一に良かったと思います。ただ、もうちょっとできた部分もあったとも思っています。点を取られる、取られないに関わらず、甘い球があった登板もありましたし、修正点は多く見つけることができました。実戦を積む中でまだまだ成長できるなっていう感覚は自分の中であるので、上出来ではありますけど、まだまだいけるなっていう感覚を覚えているリーグ戦ですね。
――2年春の登板時と比較して心境などに変化は
やっぱり2年生で初登板の時とはマウンドに上がるときの緊張感はやっぱ変わってきています。初めは印出さん(印出太一主将、スポ4=愛知・中京大中京)のミットしか見ることができないくらい緊張していましたが、最近は周りの内野手の声や、ベンチの声も気にかけられるくらいに周りが見えるようになったかなと思います。
――今季ここまで7試合に登板、回またぎや3連投もこなしてきた。負担は感じているか
負担はあまり感じてないですね。9回のマウンドを任されることが多いので、リードでつないでもらった時に勝ちで締めるのが自分の役割だと思うので、その役割をどう果たそうかということだけを考えています。精神的な負担はほとんどなくて、あとは体の負担はケアをしていけば現状どうにかなってはいるので、自分の中では体のことに関しても大丈夫かなって感じです。
――今季ストレートの球速は、神宮の球場表示で最速148㌔まで。復帰マウンドでは、球速を上げることに怖さがあると話していたが、その点については
投げる事への怖さはもうほぼ無いですね。ストレートに関しても、腕を振ることに怖さはなくなってきました。球場表示の最速が148㌔で、トラックマンでは、神宮だと149㌔まで出ています。なので、早慶戦では150㌔、その目標を立てることができるくらいには戻ってきたかなという感じです。早慶戦では球速にもこだわりたいと今は思っていて、あと2週間頑張ろうって感じです。
ど真ん中でも打たれない
――田和投手のアングルは、同程度の身長の選手と比較した時に高さは無い。先ほど名前を挙げていたMLBの投手もアングルは低い。彼らは高めに吹き上げていくフォーシームを武器としているが、そういったボールはイメージしているか
自分のストレートの特徴は、さっき挙げた投手と同じように左打者の外に吹いていくボールだと思うので、 そのストレートを活かそうと思った時には、低めで勝負するよりも、高めでファウル、空振りを取る方が効果的なボールになると思っています。そこのメリハリというか、甘いとこに行かないように、低めに投げる時は低めにしっかり投げるのと、高めには強いボールっていうのはしっかりイメージして投げ分けています。
――現在試合で投げている球種は
神宮で投げているのはカットボール、スライダーも握りとかで変えてはいるんですけど、スイーパー系の沈まないボールと、スラーブ系の大きく曲げるスライダーの2種類ぐらいを投げ分けています。もう1つはシンカーで、110㌔ぐらいのシンカーと、120㌔後半とかで球速帯と曲がり方を変えています。
――特に効果を感じているボールは
自分はスイーパーだと思います。高めに放ることが多いですけど、先週の明治戦でも詰まらせることができましたし。フライを1球で取れたりしたので、相手には効いていると思います。スイーパー自体が最近出た球種ではあると思いますし、六大学でも投げられるピッチャーが限られていると思うので、初めて見る軌道で入ってくるボールになると思いますし、自信を持って放っていきたいボールだと思います。
――特にこだわりがある、この球種だけは他の選手に負けないというようなボールはありますか
スライダーは中学校の時からずっと自分の代名詞だと思っています。ただ、大学に入ってシンカーを覚えてからは、そのおかげで投球の幅も広がりました。僕のシンカーは、ラプソードでリリースとか回転を見た時に、特殊な回転というか、あまり見ない回転と変化量をしていたので、他のピッチャーが投げれない、誰にも負けないというところだと、シンカーはこだわりを持っている、自信があるボールです。
――回転が特殊というのは、回転数なのか回転軸なのか
回転軸ですね。イメージするなら、右投手ですが左投手のカーブを放っているイメージです。チェンジアップとはまた違うので、説明するのは難しいですけど、左が投げるようなボールを右ピッチャーが投げているっていうのは特殊だと思います。
――ここまでで印象的な登板がありましたら教えてください
明治の2回戦、延長10回のところですね。10回裏で、先頭の飯森大慈(明大4年)選手に、打ち取った当たりではありましたが、ショートとレフトの間に落ちて出塁されたところからピンチを招いてしまいました。飯森選手は一番出したくないバッターでしたし、シチュエーションも1点取られたらサヨナラっていう、色々な要素が重なって、かなり追い込まれた瞬間だったと思います。あれをゼロで抑えられたっていうのは、自分でも上出来だと思える登板でした。特に無死一、二塁で4番杉崎成(明大4年)選手を外のストレートで空振り三振に取れたっていうのは、今季自分の中ではベストボールだったかなと。今振り返るとそんな印象を持っています。
――2年春と比較して与四死球割合が大きく低下しているが、要因は
自分の中で、自信を持ったボールをゾーンに集められていることが一番の要因だと思っています。初登板がそのシーズンで、経験が浅いときは、厳しいコースに投げないといけない、みたいな思考だったのが、今は自分のボールに自信を持てていますし、ど真ん中でも打たれないだろうみたいなメンタリティで放れているので、そういう意味で、カウントを簡単に取れたりすることが増えたと思います。
――三振も多く奪えている
三振に対するこだわりは無いといえば無いですけど、ピッチャーをやっている以上は、三振は1つの見せどころだとは思うので。ツーストライクを取ったからには前に飛ばさない事が大事だと思いますし、三振を取ればそれでアウトが確定するので、取れる場面ではしっかり取りたいとは考えています。特にピンチの場面や、ここで三振が欲しいっていう場面では三振を狙って取れればいいかなと思っています。
――ブルペン陣で期待している投手は
右だったら僕は髙橋煌稀(スポ1=宮城・仙台育英)ですね。投げてほしいですし、やっぱりまっすぐが強いピッチャーなので。髙橋のまっすぐを見て、自分も負けないぞって思いたいです。速い真っすぐを投げるピッチャーは六大学にもたくさんいると思うんですけど、やはりチームトップクラスに強いまっすぐを放りますし、そこに負けないようにという思いも込めて髙橋には投げてほしいですね。左はやっぱり香西(一希、スポ2=福岡・九州国際大付)です。後ろでずっと放っている投手ですけど、あいつの安心感というか安定感はさすがだなと思うので。あとブルペンでの作り方、肩の作り方と、メンタルの作り方も参考にする部分は多いです。焦っているようで焦っていない感じがいいですね。自分は香西のそういうところが好きかな(笑)。
――ブルペンでのルーティンなどは
特にこうとは決めていないですけど、ブルペンでいつも考えていることは、もうとにかく球数少なく(肩を)作りたいということです。TJ手術前と術後で変えたことはブルペンの球数なので。マウンドに上がればどうしても球数を投げないといけない部分が出てくる分、ブルペンでは投げすぎない事を意識しています。リーグ戦は投げない試合もありますし、ブルペンで作って終わりっていう日もあるので、そういう時に次の日に持ち越さないことですとか、肩、肘の負担も考えて、少ない球数で肩を作るっていうのはずっと意識しています。
――何球位を目途にしているか
立ち投げは10球から15球以内って決めています。キャッチャーを座らしては15球以内です。時間が空いたりしたらもう1回放ったりはしますけど、基本的には15球以内です。
――オープン戦では先発も視野に入れた発言があった。やはり先発に対する思いはあるか
先発がしたいっていうこだわりは無いと言えば無いです。チームが勝てるのであれば、自分はどこでも投げたいっていう思いなので、来年先発する機会があれば先発して長いイニング放ってみたいですし、今(伊藤)樹と誇南(宮城誇南、スポ2=埼玉・浦和学院)が2枚看板でやっているので、その後ろをサポートしてくれって言われたら、後ろでもやっていくつもりです。後ろのときは連投が続くとは思いますけど、チームが勝つ確率が高い選択をしていきたいです。
来年のドラフトでは早く呼ばれたい
――ストレートについて
自分のストレートの特徴は、さっき挙げた投手と同じように左打者の外に吹いていくボールだと思うので、 そのストレートを活かそうと思った時には、低めで勝負するよりも、高めでファウル、空振りを取る方が効果的なボールになると思っています。そこのメリハリというか、甘いところに行かないように、低めに投げる時は低めにしっかり投げるのと、高めには強いボールっていうのはしっかりイメージして投げ分けています。
――昨日のドラフトについて
昨日は同級生の大倉啓輔(教3=東京・早実)と授業が一緒だったので、授業を受けながら見ていました。やっぱり、早実の後輩の宇野真仁朗選手が4位で呼ばれた時は本当に嬉しかったですね。やっぱ早実、母校からプロ野球選手が出るっていうのは非常に嬉しいことだなっていうのを1人のOBとして感じました。山縣秀(商4=東京・早大学院)さんと吉納翼副将(スポ4=愛知・東邦)は行くだろうと勝手に思っていたので、そこまで驚きも無かったです。先輩方が指名されたことで来年のドラフトも現実味を帯びてきましたし、来年のことを考えた時に、1個でも早く呼ばれたいっていう思いは強くなりました。
――来年のドラフトを考えるという話があったが、プロ志望は強いか
そうですね。NPBで活躍するっていうところが目標なので、NPB行かないと始まらないなという思いもあるので、NPBに行きたいですね。
――来年のドラフトに向けてご自身の目標を
まずは自分たちの代で4冠を達成するっていうのがチームとしても個人としての目標にもなると思っています。そのために自分に何ができるだろうって考えると、やっぱりまだ球速は自分の中で上げていきたいとは思っていて、目指すのは155㌔以上。そこは個人的に放りたいと思っています。それとは別に変化球のキレもそうですし、それこそ変化球のスピードも意識して取り組んでいきたいです。自分は1、2年であまり投げることができていなかったので、3年秋から本格的に投げ始めたという意味では、実績の部分で全然基準に足りていないと思っています。その分、残りの期間で結果、インパクトを残すっていうことをこだわってやっていきたいです。
早慶戦で150㌔を
――ここからは早慶戦に向けてお話を伺います。田和投手は早稲田実業出身だが、早慶戦という試合は当時から身近なものだったか
毎年、慶應義塾高校さんと引退試合をやっていました。自分たちの代は、日吉の塾高さんの方で試合をさせていただきました。ただ、慶応さんとの関わりはそのくらいですね。早慶戦を見るのは、和泉監督と僕とバッテリーの相方で見に行きました。ちょうど自分たちが3年生になった時に、早川さん(令4スポ卒=現楽天)が秋優勝された代だったので、最後優勝した早慶戦を、3人で最初から最後まで見た思い出があります。
――東京六大学での早慶戦は初体験となる。早慶戦を前にモチベーションは上がっているか
他大学との試合と変わらず行こうと思っています。ただ、観客の数であったり、声援の大きさにびっくりする部分も出てくると思っていますし、自然と気持ちが上がったりすることはあるかもしれませんが、とにかく変わらずというのは自分の中の意識としてあります。相手が慶応だから特別何しようっていうことを思いすぎると空回りする部分も出てくると思うので、いつも通り準備して、いつも通りマウンドで投げることができたらなっていう感じですね。
――田和選手にとって早慶戦はどのような試合か
歴史がある試合ですし、自分が高校の時から見てきた試合でもあるので、負けられないっていう気持ちは強いです。早慶戦では、神宮のマウンドが投げるだけで価値が生まれるマウンドに変わるので、早慶戦でしっかり抑えて、自分という存在をアピールしたいです。早慶戦が特別だからこそ注目もしてもらえますし、その注目を自分が結果を出すことで活かしていければいいかなっていう思いですね。
――早慶戦に向けて投手陣の雰囲気は
多分モチベーションが上がっている選手ももちろんいるとは思いますけど、今日の練習とかでも特に変えてないです。早慶戦だからみたいな感じで何かを変えた選手もいないので。優勝が目の前になった今だからこそ、目の前の1試合1試合を甘えずにやろうという思いが全員持っているのが伝わってきています。
――法明戦の結果次第にはなるが、早慶戦で1つ勝てば優勝が決まる。チームとしての意気込みを
チームとしては全勝優勝っていうのを監督がずっとおっしゃっていた中で、立大2回戦に負けてそれがなくなってしまいました。完全優勝は至上命題だと思うので、しっかり2連勝することを、そこはブレずにやっていきたいです。
――個人としての意気込みを
当然点を取られることはないように。そのうえで、強い真っすぐを放る場面が来たら、150㌔を投げたいっていう勝手な思いがあるっていう感じです。しっかり腕を振って、スピードを出しに行きたいなっていう思いがあります。
――ありがとうございました!
(取材・編集 林田怜空)
◆田和廉(たわ・れん)
2003(平15)年5月2日生まれ。183センチ、85キロ。京都府・早実高出身。教育学部3年。決め球のシンカーは社会人選手も今年一と評価。早大随一のパワーピッチャーが、慶大打線を圧倒します!