【連載】箱根事前特集『燃』 第15回 辻文哉

陸上競技

 全日本大学対校駅伝選手権(全日本)で1区に出走し、従来の区間記録を上回る好走で鮮烈な大学駅伝デビューを果たしてから早3年。「1年の時以上に強くなれている」と辻文哉(政経4=東京・早実)は今年の仕上がりに確かな自信を見せる。1年時から大きな期待を背負いながら、相次ぐ故障に泣き、箱根に出走することはなかった辻。最初で最後の箱根路への現状と意気込みを伺った。

※この取材は12月11日に行われたものです。

当日変更の裏側

箱根駅伝合同取材で撮影に応じる辻

――2年連続でエントリー入りしました。今の率直なお気持ちを教えてください

 これまで直前に故障で外れたり、今年の全日本も直前で体調を崩したりということがあったので、そういうことがなく無事にこの日を迎えられてまずはよかったと思います。

――昨年の箱根は10区でのエントリーとなりましたが振り返っていかがでしたか

 そこに向けて準備はある程度していた中で、力及ばずというか、周りの状態も良かったので走れなかったという感じでした。この一年はよく準備できているので、あと一ヶ月でしっかり仕上げていきたいと思います。

――昨年のコンディションはどのような状態だったのでしょうか

 昨年はトラックシーズンでずっと故障していて、夏も細かいケガがあってスピード面など仕上がっていないなという感じでした。12月に入ってからもアキレス腱の痛みとかも少しあったので、そういったところを不安視されて外されたと思っています。

――ベストコンディションではなかったということでしょうか

 そうですね。

――当日変更はいつ知らされましたか

 聞いたのは往路が終わって夕方の5時くらいです。花田さん(花田勝彦監督、平6人卒=滋賀・彦根東)から電話を頂きました。

――その時の気持ちはいかがでしたか

 正直外れるかなとは思っていて、なんとか気持ちを切らさずにやっていこうとしていましたが、「やっぱり外れるか」という感じでした。もし翌朝菅野(雄太、教3=埼玉・西武学園文理)になにかあれば走ることにはなるので、そこは気持ちを切らさずにしようというのと、また来年に向けて頑張ろうという気持ちでした。

――当日はどのような気持ちでご覧になっていましたか

 当日に関してはそのまま10区に入っていたので、菅野の手伝いをして、やることをやるという感じでした。6位という結果で、「早稲田復活」みたいに言われていたのですが、6位で褒められるのも面白くないし、そのメンバーにすら自分がいないというのはもっと面白くなかったです。

2年ぶりのトラックシーズン

6月の早大競技会では、5000メートルのレースに出場した辻

――最高学年となって心境や意識の変化はありましたか

 あまり変化は感じていないです。1年生の時からやるべきことはやって、言うべきことは言うというのは必要なことだと思ってやってきたので、それは4年になっても変わらないかなと思います。

――トラックシーズンに入り、早大競技会では5000メートルを全て14分台で走っていましたがこの時期を振り返っていかがですか

 3年の時にトラックレースを走れなかったというのもあって、4月、5月はなかなか思うように記録が出せず、練習を積めてる割には記録が出ず苦労したシーズンでした。7月にかけてシーズンを通して改善していけたというのはすごく自分の中でよかったところなのかなと思っています。

――夏の練習はどのようなテーマで練習をしていましたか

 3年の時の夏合宿でほとんど走れなかったので、今年はしっかり練習量を積んで、秋に向けたベースを作れたらと思って取り組んでいました。8月の頭に故障して、チームの練習から離脱する形になってしまったので、また基礎的な筋力の向上や治ってからスムーズに練習に入れるように、取り組んでいた感じです

――ちなみにどちらをケガしたのでしょうか

 大腿骨の骨膜炎です。

――夏の練習の達成度はどれくらいでしたか

 8月、9月はほとんどチームの練習に入れていないので、20〜30%くらいですかね。

一進一退の駅伝シーズン

――9月以降はどのような意識で練習をされていましたか

 全日本、箱根に向けて、焦らず、その中で最大限のスピードでということで取り組んでいました。10月に入ってからはかなり状態が上がっていて、順調に練習が積めていたと思います。

――箱根に向けて練習を重ねる上でチェックポイントにしていたところはどういったところですか

 10月に練習を積めた中で、全日本を走れたらいいなと思っていたのですが、チームの状態的にボーダーライン上にいたので、11月の上尾(シティハーフマラソン)で62分半で走りたいと思っていました。ただ、全日本の直前に胃腸炎にかかってしまい、それが長引いてしまったので、上尾ハーフを回避する形になりました。

――出雲全日本大学選抜駅伝(出雲)のエントリーに入らなかったのはケガによるところが大きいのでしょうか

 そうですね。

――出雲はどのようにご覧になっていましたか

 やはり6位というのは、5位以内を目標にしていた中では悔しいものでありましたし、チームとして自分たちが思うようなレースができなかったという不完全燃焼というのはありました。あそこで出せた力が実力だと思うので、力が及ばなかったかなという感じです。

――東京レガシーハーフマラソンに出走しなかったのは胃腸炎が原因でしょうか

 レガシーハーフは8月に故障した時点でここは回避して、全日本か上尾に向けてやっていこうかという風に花田さんと話していました。ある程度走れてはいたのですが、まだ全力で試合を走る状態ではなかったので回避しました。

――全日本はどのようにご覧になっていましたか

 自分自身直前の状態がよかったので、自分が走れていたら違っただろうなと思いましたし、自分が走れなかったことや他のメンバーのコンディションも含めて、ピーキングとかが上手くいかなかったレースでした。でもさっき言った通り、その日出せた力が全てだと思うので、そこで悔しい思いをしたというのは箱根に向けてつなげていきたいと思います。

――両駅伝とも4年生がほとんど走らない形となりましたが、学年としてどのような雰囲気でしたか

 やはり悔しい思いはしていました。全日本が終わって各学年でミーティングをして、そこで4年生で最後気合い入れて引っ張っていこうという話をしました。全日本が終わってから同期みんな頑張って引っ張ってくれていますし、箱根に向けてまとまれているのかなと思います。

――12月2日の日体大競技会では1万メートルでセカンドベストを出されていましたがご自身ではどのように捉えていますか

 29分10秒から30秒の間でペース走ということで走りました。1万メートルなので後半きつくなるかなと思っていたのですが、走ってみたら案外最後まで楽に走り切れたので、2、3週間前まで全く走れなかったことを考えると、一つ自信になる結果になりました。

ベストコンディションで箱根へ

早実高からの後輩、石塚陽士(教3=東京・早実)とともに写真に収まる辻

――現在のコンディションはいかがですか

 日体大記録会まででスピード感覚も戻ってきましたし、ハーフマラソンに向けた距離の対応というのも、昨年までと比べてかなりできていると思うので、あと3週間問題なく仕上げられれば、十分戦える状態にできるのかなと思っています。

――現在の練習の消化具合はいかがですか

 完璧にできています。

――辻選手と駅伝と言えば1年時の全日本1区での快走を思い浮かべる人が多いと思われます。その時のコンディションと比べてはいかがですか

 1年の時と比べてもいいですね。1年の時は全日本が終わった直後に故障してしまったので、距離の部分は比べられませんが、箱根の距離で考えた時、1年の時以上に強くなれているのかなと思います。

――4年間でベストと言える状態ということでしょうか

 そうですね。

――他メディアで希望区間として1区を挙げられていました。昨年は1区を走るには不安があると話されていましたが、今年はいかがでしょうか

 今年も(1区が)ハイスピードになったらスピード面で不安はあると言えばあります(笑)。現実的には復路での起用が可能性としては高いと思うのですが、往路のメンバーになにかあったら自分が1区だろうが2区だろうが(往路を)走るという気持ちはできています。1区は去年は正直無理だなと思っていたのですが、今年に関してはある程度ちゃんとまとめられるかなと思えるくらいの自信はあります。(1年時の)全日本で走ったというのもありますし、高校の時から1区はたくさん走っています。集団で走る方が自分としては向いているのかなと思っているので、1区と書きました。

――ご自身がチームの中で果たしていきたい役割はありますか

 区間にもよりますが、チーム目標として最低5位、(できれば)3位以内でというものがあるので、3位以内の順位でつなげられるために、順位を押し上げられる走りができたらいいなと思います。

――箱根を走るにあたって今年の辻選手の強みとなる部分はどういったところですか

 強みを聞かれた時に毎回答えていますが、練習通りに100%力を出し切ることができるというのは自分の強みとしてやってきているところなので、初めての箱根駅伝になりますが、ちゃんと自信を持って、100%出し切りたいと思います。

――逆に本番までに改善していきたい点はありますか

 復路なら大丈夫だと思うのですが、1区などになったらまだスピード面はもうちょっと詰めていかないときついかなと思っています。復路を走るにしても、余裕はもう少し欲しいので改善していきたいです。あと3週間で故障することも去年みたいにあるので、そこには気をつけていくのが一番かなと思います。

――ご自身の注目ポイントを教えてください

 最初で最後なので、1秒も妥協なく走り切りたいと思っています。必死に走る姿を見てもらえればと思います。

――エントリーメンバーの発表とともに、応援ハッシュタグの発表もありました。今年の辻選手の応援ハッシュタグは1年時の「実は箱根終われば誕生日なんです」に戻されました。なにか理由はあるのでしょうか

 今年は復活どうこうではなく、純粋に走りを見てもらいたいなと思っています。なので、去年からは変えるとしてなににしようかなと考えた時に1年の時のものに戻せばいいかなという感じです。

――辻選手にとってどのようなものでしょうか

 僕にとっては一つの大事な大会という感じです。3年間あまり楽しい思いができていないので、最後は思う存分楽しめたらなと思います。

――最後に箱根駅伝に向けての意気込みをお願いします

 最後なので、全力を出し切って、箱根に未練なく終わりたいと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 星野有哉)

◆辻文哉(つじ・ふみや)

2002(平14)年1月4日生まれ。167センチ。東京・早実高出身。政治経済学部4年。好きな芸能人に元乃木坂46の鈴木絢音さんを挙げ続けている辻選手。鈴木さんの言葉に対して真摯に向き合っているところを見習いたいそうです!