【連載】箱根事前特集『燃』 第7回 山口智規

陸上競技

  1500メートル、5000メートルともに自己記録を更新、ハーフマラソンでは早大記録を更新するなど目覚ましい活躍を見せた山口智規(スポ2=福島・学法石川)。今季彼の健闘の裏には、二度に渡る海外遠征での経験や、チームの主力としての強い覚悟があった。初出走となる東京箱根間往復大学駅伝(箱根)では、チームに求められた走りを。この一年間の総括とともに箱根に対する意気込みを伺った。

※この取材は12月12日に行われたものです。

「チームを引っ張っていかないといけない」という自覚

写真撮影に応じる山口

――昨年の箱根駅伝は惜しくも未出走となりましたが、チームの結果をご自身でどのように受け止めていましたか

 チームとしては満足いく結果だったのかもしれないですが、僕自身は(走れなかったため)悔しさが強かったので、とにかく出走できないことが決まってすぐ(気持ちを)切り替えることができました。

――今年の一年間はどのような目標を立てて練習していましたか

 トラックに力をいれたいということで、日本選手権で入賞したいと思っていました。ですが、うまくコンディションを合わせられないレースが続いて、出場ができなかったので、そこでは悔しい結果にはなりました。しかし、高いレベルで安定して結果を残せたということは自信につながった一年でした。

――トラックで結果を出すことを主な目標としていたということでしょうか

 チームでやっている分、駅伝で活躍したり貢献したりしたいという気持ちもあるのですが、やはりトラックで活躍したいという気持ちの方が大きかったです。

――1年時と2年時で練習において意識の変化はありましたか

 1年目は苦しんだのですが、土台作りという面では充実した1年間になったと思っています。(2年目は)やはり後輩ができたというのは非常に刺激になっていて、(後輩に)いいところを見せないとという気持ちで、スタートしました。それから力がついて、チームを引っ張っていかないといけないという自覚も芽生えて、その自覚を持ちながら練習をしています。

――今年の部の雰囲気を教えてください

 トラックシーズンは(全体的に)うまくいったと思うのですが、駅伝シーズン入りはその波に乗れなかったので、その点ではチームで反省して、今ちょうど盛り上がってきているのではないかなと思っています。

――山口選手から見て、菖蒲敦司駅伝主将(スポ4=山口・西京)はどんな主将ですか

 菖蒲さんは優しい先輩ですが、多くは語らずに背中で見せる方です。その分チームとして甘えが出てくるところもあったので、そこは(チームの)先頭を走っている僕が(意見を)言わないとなと思っていました。

二度の海外遠征を経験したトラックシーズン

関東学生対校選手権(関カレ)のレースを走る山口

――次に、トラックシーズンの総括をお願いします

 1500メートルから5000メートルまでしっかり自己ベストを出せたのはよかったと思うのですが、コンディションが合わないレースが続いたので、その点は改善しないといけないと思います。しかし、駅伝シーズンのいい結果に繋がっているので、成長を見せられたシーズンだったなと思います。

――3月の香港遠征や、9月のプラハ10キロメートルロードレースの振り返りをそれぞれお願いします

 香港(遠征)はレベルとしては高くないレースだったので、これから海外で勝負をしていくための準備としての位置付けでした。チェコ(プラハ10キロメートルロードレース)は本当に刺激の多い海外遠征で、駅伝シーズンの走りに繋がったなと思います。

――香港とチェコで全く異なる場所に行かれたと思うのですが、環境の変化は走りに影響するところはありましたか

 慣れない海外で、チェコに着いてから蕁麻疹(じんましん)が出てしまうこともあったのですが、僕が世界に行きたいと言っている中での経験だったので、良い経験でした。

――海外遠征で得られた収穫や課題、今後に生かしていきたい点を教えてください

 チェコで優勝した選手と仲良くさせてもらったのですが、エチオピアの環境の中でも非常に強い選手だったので、日本は環境に恵まれている分、甘えたりしてはいけないなという考えになりました。そして、(改めて)もっと世界に視野を広げていきたいなと思いました。

――トラックでのご自身の強みはどこですか

 日本にいる分にはスピードを活かしたレースができるという発言ができるのですが、やはり世界を見たらまだまだなので、今の自分にはまだ満足はしていないです。

――トラックシーズンで、世界のトップ選手がやっているようなメニューにチャレンジしたそうですが、具体的にどのような練習をされたのですか

 ヤコブ・インゲブリクトセンという選手がいるのですが、その選手がやっているような800メートルのレぺテーションを花田さん(勝彦駅伝監督、平6人卒=滋賀・彦根東)が取り入れてくださって、行いました。

――その練習は大体消化できたのでしょうか

 そうですね。しかし、ホクレン(ホクレン・ディスタンスチャレンジ)前に(その練習を)やったのですが、追い込みすぎて、体調を崩してしまったので、まだまだだなと思います。

――夏合宿の方の練習消化率はいかがでしょうか

 海外遠征があったので、量としてはあまりできなかったのですが、去年より余裕を持ってできて成長を感じられる夏の期間になったなと思います。

「今までの自分を変えて箱根を走りたい」

上尾シティハーフマラソン(上尾ハーフ)の表彰式にて、笑顔を見せる山口(写真左)

――次に駅伝シーズンの話に移ります。改めて出雲全日本大学選抜駅伝(出雲)の振り返りをお願いします

 出雲は、2週間くらい前に体調を崩してしまって自分としては不本意な走りになってしまったのですが、ゲームチェンジャーとなるような、エースとなる存在の不足が課題として上げられるような駅伝になりました。そこのところは反省して全日本(全日本大学駅伝対校選手権)に挑みました。

――出雲の時に山口選手がおっしゃっていた「チームに求められていた走り」というのは具体的にどのような走りですか

 ゲームチェンジャーになるような走りだったり、駒澤大学さんをターゲットとして挑んだレースでもあったので、そこで佐藤君(圭汰、駒大)に勝てる走りだったりができなければならなかったなと思っています。

――全日本でのチーム結果をどのように受け止めていますか

 全日本前は個人としては有意義な期間だったのですが、チームにとってみると苦しい期間だったので、前々からシード争いになるだろうなと思っていました。案の定そう(シード争い)なってしまったので、もう一度気合を入れ直さないとなと思いました。

――全日本のご自身の走りはいかがですか

 僕も勝負できず満足はいかないのですが、一つ殻を破ることはできたと思っています。

――先月行われた上尾シティハーフマラソン(上尾ハーフ)では13年ぶりに早大記録を更新されました。率直な感想をお願いします

 13年前の記録だったので、抜かないといけないと思っていたし、抜けるとも思っていたので。その点では(早大記録を)抜けて当たり前という感覚でした。駒澤さんの主力が出ていたような上尾ハーフだったので、勝ち切れてよかったなと思っています。

――早大記録を大幅更新できた要因は何だと思われますか

 年間を通してハーフマラソンの準備はしていたので、ちゃんと計画を持ってトレーニングをしてこれたから、更新できたのではないかなと思っています

――その後の反響はありましたか

 大迫さん(大迫傑、平26スポ卒=現Nike)という偉大な先輩の記録を更新したので、周りから『おめでとう』とは言ってもらいましたが、僕は全然(早大記録を)抜けるものだと思っていたので、現状に満足しているというわけではないです。

――最近の調子はいかがですか

 一回上尾の後休んだのですが、それからまた練習の質も量もしっかりこなせています。箱根に向けて自分がエースだと思って練習しているので、強化期間もあと1週間くらいになりますが、充実した期間になっているなと思っています。

――全日本前後でチームの雰囲気に変化などはありますか

 全日本の前は4年生がまだまだ甘いのではないかというチームの評価だったのですが、『まずは自分の取り組みを変えていこうよ』という話を僕からしました。そして、全日本が終わって、反省ミーティングでは『チームとして盛り上げていこう』というのを、僕個人としても4年生に少し指摘したりなどしたので、今は雰囲気が良くなってきているのではないかなと思っています

――箱根のチームの目標は何ですか

 全日本が終わってミーティングが開かれたときに、5番を目指そうということになりました。

――希望区間はありますか

 任された区間ならどこでもいいのですが、1区と3区が合うのかなと思ったり、2区を走ってエースと勝負した方がいいのかなとも思ったり。ですが、任された区間ならどこでも走ります。

――部内外で意識している選手はいますか

 出雲、全日本では佐藤君と黒田君(朝日、青学大)に2回負けてしまったので、(箱根で)同じ区間になったら絶対に勝ちたいです。そして、5000メートルのタイムを見ても、吉居駿恭(中大)が上にいたりするので、自分より上の選手には勝ちたいと思っています。ですが、あまり人のことを意識しないので、常に自分のことを超えていきたいなと思っています。

――箱根に向けて今年のチームに期待することを教えてください

 4年生が揃っているので、4年生の最後の意地を見たいですし、下級生も勢いがあるので、そういった点ではバランスのいいチームだと思います。今北村さん(光、スポ4=群馬=樹徳)が調子いいので、個人的にはそこに注目してほしいです。

――駅伝でのご自身の走りの強みはどのようなところでしょうか

 今までは粘って区間上位でまとめるような走りだったのですが、求められている走りはゲームチェンジャーだったり、区間賞をとったりアドバンテージが取れるような役割だと思います。今までの自分を変えて箱根を走りたいなと思います。

――最後に初となる箱根駅伝出走に対する意気込みをお願いします

 昨年悔しい結果になって、一年間その悔しさをバネに頑張ってきました。箱根の借りは箱根で返せるように、また、世界へのステップとしてもそこで活躍できるように、応援してくださっている方々に頑張っている姿を見せたいなと思います。

――ありがとうございました!

(取材・編集 草間日陽里)

◆山口智規(やまぐち・とものり)

2003(平15)年4月13日生まれ。172センチ。福島・学法石川高出身。スポーツ科学部2年。上尾シティハーフマラソンでは、力強い走りで見事ニューヨークシティハーフマラソンの出場資格を突破した山口選手。ニューヨークで楽しみにしていることを伺うと、「自由の女神…くらいしか分からない…(笑)」とおっしゃっていました。今回が初めてとなる箱根駅伝でも、果敢な走りで会場を湧かせてくれることでしょう!