【連載】駅伝シーズン直前特集 第1回 相楽豊駅伝監督

陸上競技

 秋シーズンを前に、長距離チームを率いる相楽豊駅伝監督(平15人卒=福島・安積)へのロングインタビューを行った。さまざまな選手の活躍が光った前半シーズンの振り返りから、夏季練習でのAチームの様子、そして3年ぶりに出雲からスタートする駅伝シーズンへの展望を伺った。

※この取材は9月11日にオンラインで行われたものです。

前半シーズンを振り返って

オンライン取材に応じる相楽駅伝監督

――まず前半シーズンについてお伺いします。駅伝3冠を掲げるチームはどのようにスタートしたか、振り返っていただけますか

 特に3年生4年生を中心に、去年あたりから「3冠したい」という話が出ている学年でした。去年も、全日本(全日本大学駅伝対校選手権)の途中まで先頭を走り、優勝レベルまで少しずつ近づいてきていたので、学生たちがこの目標を決めたときには、特に違和感もなかったと思います。年明けのチーム状況は、少し長めにオフ期間を作って体を休めるようにしたのですが、いざスタートしてみると主力選手を中心に故障者が多いスタートとなりました。

――そこから夏合宿が始まるまでのチーム状況を振り返っていただけますか

 3月の日本学生ハーフマラソン選手権には、チーム全員でしっかり臨もうと準備していました。チームとして出遅れていたわりには、当日出走したメンバーはいい準備ができていました。ですが強風が吹いたこともあり、なかなか自分たちが思ったような成果を得られなかったところで、結果に対してはシビアに受け止めました。ただ内容を細かく見ると、下級生を中心に狙っていくようなレースをしていたので、わりと前進しているのではないかと思いました。その後春合宿はコロナの影響で実施できませんでしたが、トレーニングを工夫してトラックシーズンに臨みまして、春先に自己記録を更新した選手も多数出ました。インカレでも新戦力と呼べる選手が何人か出てきたこともあったので、チームとしてはゆっくりと調子を上げられたシーズンになりました。

――好記録が続出した前半シーズンですが、特に活躍した選手はどなたでしょうか

 記録的なところで言うと、井川(井川龍人、スポ3=熊本・九州学院)と千明(千明龍之佑駅伝主将、スポ4=群馬・東農大二)の記録に集約されていると思います。インカレでは千明はもちろん頑張りましたが、佐藤航希(スポ2=宮崎日大)もしっかり上位に入賞しました。柱がしっかり仕事をして、そこに下級生中心の新戦力が台頭してきたところに成長を感じました。

自己記録更新ラッシュでチームに好影響

――シーズン前半から多くの選手が各種大会で結果を残されていますが、そうした結果はチームに影響しているのでしょうか

 昨年あたりから感じていますが、自己記録更新が続くとグラウンドでも活力が出てきて、いい練習ができて、それが試合につながるというサイクルができます。今年の春は、記録を更新した選手と故障等で試合に出られない選手がいましたが、やはりその中でもいい記録が出ると「次は俺たちもやるぞ」という流れがチームに生まれているように感じましたので、すごくいい影響を及ぼしたと思います。

――結果によってチーム全体にいい影響が出ていると思いますが、特に影響力が大きいのは千明駅伝主将でしょうか

 そうですね。春に関しては記録もそうですし、インカレの順位でも。普段の合宿でもやはり私以外で厳しい視点で話をしてくれるのは千明が中心なので、今本当にチームを引っ張ってくれている頼もしい存在だなと思います。

――今季のチームカラーはどのように感じていますか

 個性を大事にしていると考えています。これまでも個性の強いチームだったと思いますが、今年は特にそうした選手が多く。まとまっていないわけではないですが、チームとして行動しているときにも、それぞれの顔が前面に出てきているチームかなと思います。

『3冠』を掲げるからには、チーム分けにも競争の激しさが大事

――ここからは夏合宿に関してお伺いします。Aチームのメンバー構成についてはどう考えていますか

 少ないですね。当初計画していた通りですと、宿のキャパシティなどを考えて16名程度で動いていきたいと学生に話していました。ただ、3冠した年がそうでしたが、何となく過去の実績とか持ちタイムが速いから調子が悪くてもAチームにいるという状態を解消したいと考えていました。Aチームの練習をこなせないメンバーはBチームにするとか、競争の激しさを学生たちに求めて合宿をスタートしました。16名と打ち出したものの、やはり一緒に練習できる状態の選手は12人だったので、少ないなと思いながら、今のチーム状態を表しているなと思いましたし、ここからがスタートだと感じて夏合宿を始めましたので、そういう意味ではいい人数だったと思います。

――人数枠を基準にするのではなく、一定の基準をクリアした選手をメンバーに入れるのですね

 人数枠に対して人を当てはめていくと、例えば箱根の16人(のエントリーメンバー)に入ることが目標で入ったら満足するとか、駅伝も正選手になることが目標で、なれたからそこで落ち着くことが発生しがちです。ですがやはり今年は3冠を掲げているので、出走するメンバーもそうですし、スタートラインに立った時に他大学の選手に対して絶対勝ち抜く、全員がチャンピオンである意識が重要です。ある程度の枠に入ることが目標ではなく、Aチームにいる意味を学生たちに大事にしてほしいと考えています。

――夏合宿は、どのようなプランを考えて開始されましたか

 コロナの影響でスケジュールが変わる可能性をふまえてプランを練りました。昨年の経験からは、夏合宿を実施できずずっと暑い中トレーニングをしていて、練習量がだいぶ少なくなっていたわりには、全日本など10キロほどまでの距離では思っていたより高い成果を得られました。それはなにかと考えた時、暑熱環境下のトレーニングが一つのキーワードとして挙がりましたので、合宿が実施できようができまいが、暑熱環境下での練習は実施しようと考えて一次合宿に充てました。今年は想定よりも7、8月が暑かったので苦しかったですが、それをしっかりと行い、二次合宿では涼しいところで走行距離を稼ぎ、三次で仕上げるプランでした。

――今年も途中から合宿の制限がかかりましたが、遠征で合宿できていた場合を100パーセントとすると、行いたいことをどの程度実現できているのでしょうか

 一昨年とは、一次合宿から狙いもスケジュールも変えているので単純比較はできませんが、二次合宿を終えた時点では、狙っていたことの8割ほどはできていました。それはコロナの影響というよりは、我々自身が6、7月に狙っていたトレーニングをできず、夏合宿が始まった時点ではチームは出遅れてスタートしたので、その影響だと思っています。仕上げの三次合宿ができず苦しいのはもちろんありますが、合宿がスタートしてからは狙っていたことがほぼできています。

――遠征というかたちで最後まで敢行できない懸念点はありますか

 高地と比べると気温や湿度が高く、シーズン前の仕上げとして、質や量を落とさざるを得ないのは苦しい点です。あとはモチベーションの点です。場所が変わることで気分も一新して力を入れられたり、行く先々でみなさんが応援してくださることでエネルギーをもらえることもありましたので、それがないのも痛いところではあります。

――ここまでの練習の消化具合についてはどう評価していますか

 走行距離は狙ったところからすると8割くらいなので少し足りないかなと思いますが、夏のスタート時からは順調にきていますし、不調でBチームにいたメンバーも何人かAチームに戻ってきたり、チームの状態としては上がってきています。消化率が100パーセントとは言えませんが、確実に前進している実感はあります。

「『急成長』の選手はいないが、全体が満遍なくきている」

――合宿を通じて急成長を見せている選手はいらっしゃいますか

 『合宿を通じて急成長』という選手はいないですが、全体が満遍なくきている印象です。3、4年生が合宿開始までけがや不調で遅れていたので、そこが少しずつ戻ってきています。あとは成長でいうと1、2年生中心にかなり練習内容は充実してきています。改めてすごく伸びたという選手はいませんが、1、2年生は練習を完璧にしている選手が多いです。もしかしたら、下級生から想定以上に伸びてくる選手が出てくるのかなというのは楽しみにしています。

――上級生への取材時にも、下級生の走りが刺激になるという声がありました

 例年ですと、1年生は本数を減らしたりするのですが、練習を見ていると石塚(石塚陽士、教1=東京・早実)と伊藤(伊藤大志、スポ1=長野・佐久長聖)はずっと元気なんですよね(笑)。ダメージも見ながらチャレンジさせているのですが、思った以上に二人ともすごく練習ができています。ここまで上級生とほとんど同じように取り組めていて、思ったよりも20キロ、長い距離に対応できるのではないかなと思います。

――夏の練習でチームを引っ張っているのはどなたでしょうか

 前半は4年生が不調だったので、井川が下級生中心のチームを、ポイント練習などで引っ張っていました。二次合宿あたりからは太田(太田直希、スポ4=静岡・浜松日体)とかが引っ張り出して、最後は千明が戻ってきて、4年生が引っ張っています。少ない中でも上級生が引っ張ってくれていたと感じます。

――B、Cチームは、メンバー構成や状態なども含めてどう捉えていらっしゃいますか

 箱根を走ったメンバーやエントリーメンバーだった上級生を中心に、不調なメンバーが多いまま夏合宿をスタートしました。Aチームは走れているメンバーを選んでスタートしたのもあって、序盤はAチームの方が練習量も質も上回っていて、Bチームは走れていない状態から始まりました。ですが一次、二次と経て今はそのメンバーもポイント練習を始めていますので、最近は走れないメンバーがいない状況になってきています。主力選手の再生と、下級生を中心に一般組の育成を考えると、Bチームの機能的にもだいぶ戻ってきていると思います。

――半澤黎斗選手(スポ4=福島・学法石川)、鈴木創士選手(スポ3=静岡・浜松日体)、安田博登選手(スポ3=千葉・市船橋)、伊福陽太選手(政経1=京都・洛南)がAチームに上がりましたが、判断理由を教えていただけますか

 (Bチームを指導している)駒野コーチ(駒野亮太長距離コーチ、平20教卒=東京・早実)の意向で、この4人をチャレンジさせたいという経緯です。

――ルーキーの伊福選手が入られたのですね

 長い距離をすごく走れる選手ですし、トラックよりロードが得意で、夏合宿もかなり順調に練習を消化できていました。今後のことを含めてチャレンジ的な意味合いも含めてAチームに上がっています。

――鈴木選手は長らくレースに出場していませんでしたが、状態はどう感じていらっしゃいますか

 立川(ハーフ)の後は股関節周りの痛みで治療に時間を取られました。その後も足裏の不調がありましたが全く走っていなかったわけではないですし、トレーニングは年間通じてやっているので、戻ってくるのは早かったですね。ただトラックシーズン走れていないので色々出遅れているのは間違いないので、本人にはこの2年間のことも踏まえて箱根駅伝だけの漢にならないでほしいとは伝えています。

――安田選手はいかがですか

 彼も今、大学に入ってから一番練習を継続できています。3月頃から故障なくずっとトレーニングもつながっていて、これは初めてのことです。(Aチームに)満を持して上がってきたと思います。

チーム内での存在は「4年生が『親』だったら3年生が『兄貴』」

――それぞれの学年についてお聞きします。現在の状態やチームへの影響についてお伺いしてもよろしいですか

 4年生は言うまでもなくチームの中心であり柱です。ここ最近の中では最も人数が多くて、かつ最も強い学年だと思います。彼らは入学した時から「駅伝3冠したい」と言い続けてきた学年なので、意識も高くてまとまっています。実績も一番出ていますし、チームへの影響という意味でも合宿を見てもA、Bチームともにミーティングの中心であったりとか、チームの方向性を決める時にも大きな役割を果たしています。

 

 3年生は駅伝でいうと井川、小指(小指卓也、スポ3=福島・学法石川)、鈴木が結果を出していながら、今は安田が力をつけてきたり、あとは白井(白井航平、文構3=愛知・豊橋東)も大学に入って一番練習ができているので、少ない中でも存在感を出そうとして、今急成長している学年ですね。下の学年の面倒見が良いので、いつも1、2年生が一緒に行動していることが多く、4年生が『親』だったら3年生が『兄貴』みたいな感じです。下が親しみやすいんじゃないですかね。面倒見が良いのか、一緒にいて楽なのか、下の学年の子が一緒にいます。

――コミュニケーション面では良い影響がありそうですね

 そうですね。組織でいくと下級生にいろいろな役割が与えられて、不満は当然出てくるのですが、そういったものを特に聞きやすい学年なのかなと思います。

――2年生はいかがですか

 個性が強くて、誰かにふられることが少ない学年です。練習でも上級生と一緒に練習していることが多くて、2年生だけでまとまって走るかというとあんまりないですね。かといって、仲が悪いわけでもなく。ミーティングでもそれぞれが自分の意見を持っています。夏合宿でも上級生が不調で遅れていたり、(メンバーの)出入りが激しい中でも、2年生は安定していてほぼ全員ずっといたので、もしかすると駅伝シーズンでは屋台骨というか、キーパーソンがたくさん出てくる学年かもしれないと感じています。

――特に前半シーズンは、インカレなどでの菖蒲敦司(スポ2=山口・西京)選手の活躍が目立っていたように感じました

 去年は大学の環境に馴染むのに少し苦労しつつ、全日本やインカレを経て成長していたのですが、箱根前に大きな故障をしてしまい、いろいろなものを見直しました。立川ハーフがターニングポイントだったのではないかと思っています。

 

 距離に対してかなりナーバスなところがあったのですが、「(ハーフマラソン)一発目でうまく走ろうとしなくていいから、いけるところまでいけばいいじゃん」と送り出しました。最終結果はそんなに良くなかった(1時間5分18秒、41位)のですが、15キロ付近までずっと先頭集団にいたんですよね。本人と話した中でも、練習の成果はほとんど出せて、失速した部分は練習が足りなかったところだねという確認もできました。そういう意味では苦手意識があったハーフマラソンを走ったことによって、彼の中でいろいろな変革が起こったシーズンだったのかなと感じています。

――1年生についてはいかがですか

 伊藤と石塚、そこに伊福が上がってきましたが、彼らは高校時代から全国大会を経験しているので、チームの中心になっていくであろう3名だと思います。他に一般入試で入った子が思ったよりもたくさんいて、2、3年後、早稲田の一般入試の学生の象徴ではないですが、時間をかけて長い距離に適応する学生が出てきそうなので、楽しみな学年かなと思います。

秋シーズンに向けて

――これからは全体のことを伺います。もうすぐ秋シーズンが始まります。どのようなプランで調整していきたいですか

 まずは合宿の中止という要素と、私たち自身が出遅れてしまっていたという要素を踏まえた上でスケジュールを考えています。インカレ(全カレ)に関しては、標準記録を切っている選手はたくさんいたのですが、万全な選手以外は出さないということを早々に決めました。

 

 駅伝にできるだけ良い状態で合わせる選手を例年より多くしている結果、インカレを省いていますので、インカレに出るメンバーは最低限役割を果たしてほしいです。逆に標準を切っているけれどインカレを回避したメンバーに関しては、インカレを大事にしているチームがそこを回避した意味を重く考え、駅伝に万全の状態で合わせてもらいたいと思います。

 

 出雲(出雲全日本大学選抜駅伝)は今の4年生が1年生の時に経験して以来なので、良い意味でも悪い意味でも初出場だと思って、フレッシュな気持ちで、しっかりチャレンジして、3冠を掲げている以上は1発目から全力でぶつかっていきたいなと考えています。

――駅伝に向けての手応えはどう捉えていますか

 昨年よりは充実した練習が積めているので、そうした手応えはあります。ただ、優勝となると去年は(全日本と箱根で)5位、6位前後を走っていますので、去年のチームを超えるのは当たり前ですし、他大学の戦力も去年と変わっているのは間違いないです。常に相手が自分たちの想像を超えていることも踏まえて、そこを上回る意識を持ち続けていかないといけないと考えています。

――現時点で特に注目しているチームはありますか

 トラックシーズンを見れば、駒沢大学さんが軸の一つになってくることは間違いないので、まずはそこを押さえないといけないと思います。

――秋シーズンの展望や目標を教えてください

 長いことこのシーズンを迎えていますが、今年に関しては、非常にワクワクというかドキドキしているというか。そのような気持ちが強く、日々増していっているような状況です。それくらい今チームが右肩上がりにシーズンへ入ろうとしていて、楽しみな部分でもあり、怖い部分でもあるというところです。ただ一方で「自分たちの全力を出せたらいいよね」というよりかは、『3冠』を掲げている以上、「やらなければいけない」という引き締まった思いもあります。

 

 展望としては、コロナによって各大学トレーニングの環境もバラバラなので、自分たちは自分たちでやりたいレースをすることが優勝するための最低条件だと考えています。そこに向けては粛々と準備を進めていこうと思っています。目標としては『3冠』するとずっと言ってきていて、それに向けて必要な要素や考え方は1年間通して学生に伝え続けているので、彼らがそれをどのように体現してくれるかにかかっていると考えています。

――チームの雰囲気についてはどのように感じていますか

 合宿が始まった当初はチーム状態が悪かったこともあり、緩んでいた部分もあったのですが、合宿期間の2週間を通じて私からも指摘したり、学生同士でも指摘し合ったりして、チームの空気がガラッと変わってきています。それが今後の結果にどのようにつながるかという部分は期待をしています。

――ありがとうございました!

(取材・編集 布村果暖)