多くの有力選手が集い、東京五輪代表の座をかけて争った、日本選手権・長距離種目。早大からは3名の選手が出場した。1万メートルタイムレース1組に出場した中谷雄飛(スポ3=長野・佐久長聖)は、序盤から先頭に立つ積極的な走りを見せ、27分54秒06の自己新記録をマークして組2着でゴール。太田直希(スポ3=静岡・浜松日体)も27分55秒59で中谷に続いた。小指卓也(スポ2=福島・学法石川)は、初めてエンジのユニフォームを身にまとい、5000メートルに出場。13分58秒30のセカンドベストでゴールした。
中谷の走りは、見る者を楽しませる。失速を恐れない積極的な姿勢で、「彼ならやってくれるのではないか」という期待感を抱かせてくれるのだ。初めての大舞台となった日本選手権でも、その走りっぷりは健在だった。スタート直後から先頭に立ち、1キロ2分50秒を切るペースで、3000メートル過ぎまで集団を引っ張る。中盤は27分台の記録を持つ市田孝(旭化成)に食らいついて2番手でレースを進め、8000メートル以降はタイムを意識して度々先頭へ。最後の1キロは2分40秒を切るタイムで駆け上がり、市田に先着を許したものの、ガッツポーズと共に27分54秒06でゴールした。春先から狙い続けた出場権を10月にようやくつかみ、そこで確実に爪痕を残した中谷。果敢な走りで会場を沸かせた上で叩き出した27分台が、彼の真骨頂だ。
27分台をマークし、笑顔でゴールする中谷
中谷と対照的に、太田は残り600メートル過ぎに初めて先頭に立った。終始先頭を狙える4、5番手でレースを進め、8000メートル過ぎには、中谷含む4人で先頭集団を形成。「ラスト1周まで中谷が前にいたらもう勝ち目がないと思っていた」といい、残り1周の鐘を聞く前にスパートした。目標に設定していたものの、「出ないと思っていた」という27分台の記録で、中谷に続いてゴール。無駄に力を使うことなく、終始他の選手の後ろについて冷静に先頭を追ったあたり、レース巧者という言葉がふさわしい走りだった。太田は10月に28分19秒76をマークしたが、この時も「(このタイムを出せる)確証はなかった」といい、相楽豊駅伝監督(平15人卒=福島・安積)も「28分30秒くらいだろうと思っていた」のだという。周囲や自分の想定を上回る結果をレース毎に残す。それもまた、彼の強さの証だろう。
中谷に続く3着でゴールする太田
5000メートルに出場した小指は、ハイペースで進む先頭集団から2000メートル手前で脱落してしまったが、「守るものはないので攻めるレースを貫く」という思いで、ひたすら前を追った。それが裏目に出て、意図せず第二集団を引っ張る形になったり、独走を強いられたりと、レース運びの難しさを痛感する走りに。「歯が立たなかった」と悔しさをあらわにしたが、初めての大舞台を初めてのエンジのユニフォームで駆け抜け、13分台のセカンドベストをマークしたことは、評価に値する。小指は今季長らく怪我に苦しんできたが、10月に独走で14分09秒85をマークし、11月には日本選手権参加標準記録を突破。今回の走りで、確かに力を付けていることを改めて示した。
中盤、一人で前を追う小指
3人の次戦は東京箱根間往復大学駅伝(箱根)。1万メートル27分台の日本人選手を2人擁して挑むのは、2014年に総合優勝を果たした東洋大学以来7年ぶりだ。国内最高峰の舞台を経験した3人はもちろん、彼らの走りに火を付けられたであろう早大の選手たちの走りに、ますます注目が集まる。
(記事 町田華子、写真 高橋優輔、名倉由夏、青山隼之介、布村果暖)
ゴール後、ガッツポーズを繰り返した中谷に太田が歩み寄り握手を交わした
結果
▽男子5000メートル決勝
小指 13分58秒30(17位)
▽男子1万メートルタイムレース
1組
中谷 27分54秒06(2着・総合12位)自己新記録
太田 27分55秒59(3着・総合13位)自己新記録
コメント
太田直希(スポ3=静岡・浜松日体)
――初めての日本選手権でしたが、実際に走ってみていかがでしたか
スタートラインに立ってやっと実感が湧いてきたのですが、あまり気後れせずに走れたかなと思います。緊張はしましたが、それも程よい緊張でした。
――調子はいかがでしたか
すごくいいというわけではなかったのですが、練習はぼちぼちできていたのでいつも通りです。
――今日のレースに点数を付けるとしたら何点ですか
自己ベストは出せたのですが、中谷(雄飛、スポ3=長野・佐久長聖)にも負けましたし、上には上がいるってことを後の組で感じたので80点くらいですかね。
――自己ベスト更新となる27分55秒59をマークしました。この記録についてはいかがですか
目標を27分台に設定していたので、そこは達成できたのは良かったと思います。
――走る前から27分台を出せる感触はありましたか
いや、出ないと思っていました(笑)。高めの目標設定だったので。
――レースプランは
とにかくついていくという、それだけでした。中谷を目標に今日は走っていました。
――レース展開についてはいかがですか
結構冷静にレースを進められたのは良かったと思います。
――逆に、課題点は
やはり勝ち切らないといけないところで勝ち切れないのがずっと続いているので、そこはずっと課題です。一番きついラスト400、300メートルとかで前に行かれたときに、そこで対応しないといけないと思うのですが、対応できなかったのはまだまだかなと思います。
――中盤、中谷選手と3メートルほど間隔が空いたままレースが進みました。そのときの心境は
一度開いたのですが、そのままずるずると置いていかれるのではなく一定の距離で保てていたので、焦りはせず、いつか追いつこうと思って走っていました。
――終盤には中谷選手を追い抜く場面もありました
ラスト一周まで(前の位置で)来られたらもう勝ち目がないと思っていたので、自分が行くしかないというタイミングで行ったのですが、ちょっと足が止まってしまった感じがあって。そこはやはりまだまだ自分の課題かなと思います。
――ラストは笑顔が見られました
狙っていたタイムを出せたというのは、そのときはすごく嬉しかったです。
――東京箱根間往復大学駅伝(箱根)を控えていますが、この経験をどう活かしていきたいですか
日本のトップレベル(のレース)を経験できたのはすごく大きいことだと思いますし、それは箱根でも、自分が引っ張っていけば自ずと結果はついてくると思うので、この経験はやはり大切にしたいなと思います。自信にもなりました。
中谷雄飛(スポ3=長野・佐久長聖)
――全日本大学駅伝が終わってからどのように練習を積んできましたか
全日本が終わって、なかなか疲労が大きくてとれない状況だったので、無理をせずに本練習で距離を踏んでいました。朝は、動ける範囲で動いて、午後の本練習で動かしたという感じです。
――今日の調子は
レース前の動き出しの時はあまり良くないかなと思ったのですが、スタートしてみると良かったので、思ったよりしっかり走れたなという印象です。
――レースプランは
タイムレースとなったので先頭争いをして、組でトップを狙うというプランを立てていました。
――序盤は集団を引っ張りましたがどのような心境でしたか
きょうは僕自身が感じていた身体の感覚よりも実際のペースが速かったので、きょうはいけるなと思い、2分46秒から48秒で走っていこうと考えていました。
――引っ張られるかたちでレースを進めていた時については
ペースの小刻みなアップダウンがあったので、ちょっと離されそうだな思った時は何回かあったのですが、せっかくの日本選手権でしたし、思い切ってチャレンジしていこうと考えていたので、最後は潰れてもいいという思いも持って、突っ込んで走りました。
――余裕がなくなってきたのはどれほどの距離まで進んだ時ですか
本当にいっぱいいっぱいだったのは残り1000メートルを切ってからで、そこまでは何とかなるという感覚で走っていました。
――いい粘りができたと思います
そうですね、現状態で出来る最大限の走りが出来たかなと思いますし、中間でもう少しペースを落とさずに乗り切れば27分40秒台見えていたので、そこはまだまだ伸びしろとして行きたいなと思います。
――ラスト1キロ切ってからのスパートについては
勝負、着順のことも考えていたですが、それよりもタイムの方が頭の中にありました。ラスト2分45秒を切って上がれば27分台いけるという状況で、いい意味で気持ちの余裕は出来ていたなかでの、タイムを狙っていての走りでした。
――ゴールラインを切った時のお気持ちは
ここ最近で一番嬉しかったです。日本選手権という大きな舞台で、トータルの順位で入賞に絡めていないのことはまだまだではありますが、組2番でゴールできたことと、27分台を達成できたことが、とても嬉しくて、頑張ってやってきて報われたなと思いました。
――結果を冷静に振り返ると
途中の5000メートルまで余裕を持って通過できたことがよかったですし、相楽豊駅伝監督(平15人卒=福島・安積)から走りの中の足の接地を教えていただいたのですが、そこを意識しながらレース出来た点も良かったかなと思います。
――今大会で見つかった課題や収穫があればお願いします
ラスト200メートルで負けてしまったので、400メートル単体を走るスピードではなく、そこを切ってから段階的に上がるようなスパートをかけられるスピードが、今後必要になってくるなと思いました。
――東京箱根間往復大学駅伝競走に向けてのトレーニングについては、どのような予定をたてていますか
ここ数日、3日間ぐらいで疲労を落として、それ以降は、これまで量が少なかったので、量と質も増やしながら箱根まで準備していけたらなと思います。
小指卓也(スポ2=福島・学法石川)
――初の日本選手権でのレースとなりましたが 、レース全体を振り返ってみていかがでしたか
最初からハイペースで、ハイペースになることは事前に聞いていて覚悟はしていたのですがやはり速くて、途中から全然つけなくてまったく歯が立たなかったので悔しいです。でも緊張感のある雰囲気が味わえたので、いい経験になったと思います。
――大会前にもどんなレースプランや目標を立てていましたか
もう何も考えずにひたすら集団に着くしかないと思っていたので、特に細かいプランは考えていませんでした。
――レース時の調子はいかがでしたか
良くもなく悪くもなく、普通でした。調子もあまり気にせず、すごくピークを合わせているわけでもなかったので、うまくはまったら行けるかな、という感じで考えていたのですが、あまり振るわず最後も撃沈して終わってしまいました。
――今大会が初のエンジのユニフォームの試合となりましたが、それについて何か感じたことはありましたか
2年の後半になって初めて着ることができて、誇りに思う部分とやっと着られてほっとした部分があります。本当なら関東インカレや全日本インカレで着て周りと戦えるレースで早稲田をしっかり目立たせようと思っていたのですが、今回はオリンピックの日本代表を決めるレースだったので、早稲田のユニフォームにとらわれずに一人の選手としてどう戦っていくか、ひたすら1つでも前にという気持ちで臨みました。
――序盤で集団が分かれた際に第2集団で積極的に引っ張っていましたが、その時の心境やレースの展開はいかがでしたか
途中で列が長くなったところで離れてしまったので、ひたすらその差を何とか詰めようと思って(前を)追っていたのですが 、そしたらいつのまにか集団を引っ張る形になって途中から前の集団も分かれて(自分たちが) 第3集団になって、 第二集団を追ってひたすら走っていました。
――中盤は単独走の時間がかなり長かったと思います。集団を離れてしまった時の心境や、単独走になったことでそれまでと変わったことを教えてください
守るものはないので攻めるレースを貫くということで、 離れたら前を詰めることしか考えていなかったです。 しんどかったですけど、出来る限りのことはやったと思います。
――ラストスパートでは終盤で追いつかれた後続の選手を一気に逆転し、順位を死守しました。ラストのために脚を残しておくことはレースプランとしてあったのでしょうか
いや、もう残してないですね。一人で走っていて本当にきつくて、(身体が)動かなくなったところで後ろに抜かれて、それに意地でついてラストは持ち味のスピードを出してここだけでも勝つしかないという気持ちで頑張って出し切りました。
――このレースで得られた収穫や見つかった課題は何ですか
自分の今の力の差、前で戦えるかということは置いといて、集団に着くか着かないかという所やレースの運び方を工夫すれば何とかなった部分もあったのではないかと思いました。久しぶりのレースだったということでレースの感覚が鈍っていたかもしれませんが、レース中の位置取りについても徹底しないといけないなということを学びました。
――今回のレースを踏まえてこれから取り組みたいこと、そして今後への意気込みをお願いします
途中で(前から)離れて戦えなかったのは分かっていることなので、また来年、再来年と出場して、 できればこのエンジのユニフォームを着ているうちにトップを取れるように頑張っていきたいと思います。